初めてだから ①
ティーカップを手にして香り豊かな紅茶を一口飲みながらふと考える。
「変かな?・・・う~ん、やっぱり変だよね・・」
独り言をつぶやき、また一口飲んだ。
さっき瑠璃ちゃんと電話で近況を話した内容を思い出して、自分なりに考えてみる。
始まりは瑠璃ちゃんの言葉だった。
「新婚生活幸せに過ごしている?旦那さんはどう?」
みんなに『笑わない新郎』と言われていただけあって、とても興味を持たれていたみたい。
どう伝えていいか分からなくて、「うん!幸せだよ」と答えてみた。
うんそうだよ、凌さんと結婚できたから幸せだもの。
そしたら瑠璃ちゃんは心から喜んでくれた。
「本当によかったね。遥香はずっと凌さん好き好きって言っていたものね。そうやって心から大好きな人と結婚できるってすごく羨ましいよ」
そう言ってくれた瑠璃ちゃんの言葉が心にジーンと沁みてくる。
その反面、罪悪感も湧いてくるけど。
凌さんと結婚することを伝えた時の結婚を承諾してもらえた条件までは教えていないから。
だって凌さんに付き合っている人がいることまで言ったら大変だもの。
絶対に反対されるし、悲しませちゃうから。
私は凌さんと結婚できるならそれでいいって思ったけど、誰にも理解してもらえないって分かるから私だけの秘密にしているし。
だからこそみんなに私達の結婚を祝福してもらえたのだから、これでいいと思っている。
「ありがとう、瑠璃ちゃん」
「それでどうなのよ?旦那さんは優しくしてくれてる?」
その質問に嘘も返せず「えへへ」って笑ってごまかした。
それを瑠璃ちゃんは照れていると取ってくれたみたいで、私はほっとした。
でも凌さんと私が仲良くしていると思った瑠璃ちゃんは、驚くようなことを聞いてきた。
「それじゃあ子供も早めに考えているの?」
「えっ!」
「えっ!じゃないわよ~。遥香は可愛いし、凌さんは美男子だし、2人の赤ちゃんなら絶対に可愛い子が生まれるよ。楽しみじゃない?」
そう言われて頬が緩む。
私も楽しみにしているし、望んでいることだから。
だから瑠璃ちゃんに聞かれて、素直に肯定した。
「うん、楽しみだよ」
「だよね~。それで?どうなのよ」
「何が?」
「何がじゃないわよ。全てが初めての遥香ちゃんが、いろんな経験をしてみて」
それを聞いて心がググッと重くなる。
経験・・・経験って、やっぱりあれだよね。
「え~、よく分からない」
「・・・ん?分からないって何が?」
「・・・全部かな?」
「全部って・・・」
「んーとね、まだ何もしたことないから、よく分からないの」
「・・・・・」
瑠璃ちゃんが黙ってしまった。
話がややこしくなっちゃったかな?
無言に困ってしまって瑠璃ちゃんの名前を呼ぼうとした時、急に瑠璃ちゃんが興奮の声を上げた。
「はぁ?ちょっと!!嘘でしょう?結婚して何か月経っているのよ!何もないの?まったく?」
弾丸のように攻めてくる瑠璃ちゃんに対して、私の声は小さくなる。
「キスはあるよ。結婚式の時」
「何言ってるの!、あれは儀式的に簡単なキスでしょ?その他はないの?噓でしょ・・・」
「う~ん・・・」
言い淀んだ私に瑠璃ちゃんも困ってしまったのか、テンションは落ち着いてきた。
「凌さんて異常に淡泊とか潔癖症?」
「そんなことはないと思うけど・・」
「だって遥香はそれでいいの?」
「う~ん・・やだ」
「そうだよね。大好きな凌さんだものね」
「うん。・・・ねえ、瑠璃ちゃん」
「何?」
「何もないって、やっぱり変かな?」
気になってつい聞いてしまった。
でも凌さんと私の間には婚姻関係以外何もない。
無理やり結婚してもらったから、まだ愛情にはたどり着いてもらっていないし、なによりも凌さんには付き合っている人がいる。
それは瑠璃ちゃんには絶対言えないけど、何となく聞いてみたくなってしまった。
「う~ん・・・そうだね、難しいなぁ。世の中みんながみんな同じではないから私はおかしいって言えないけど、大好きな人と結婚できて何もなかったら、私は寂しいって感じる。一番大好きな人とだけ、そういうことしたいって思うもの」
「うん、そうだよね」
深く深く納得してしまう。
「でもね、夫婦のことだからさ。遥香がどうしたいか、それが私には大切だよ」
「うん、ありがとう」
「ごめんね、ちょっとビックリしちゃってうまく言えなかったね」
「ううん、大丈夫」
そんな会話をしたのだった。
瑠璃ちゃんにはかなり驚かれちゃったし、心配もされちゃった。
結婚しているのに何もない関係・・・・。
キスは1回だけしたけど、瑠璃ちゃんにはカウントには入らないようなことを言われちゃったしなぁ~。
私には一大事な出来事だったけど、違うのかな?う~ん・・よく分からない。
「やっぱり変なのかなぁ~・・・」
同じセリフを何度となくつぶやいてしまう。
だって何度考えても分からない。私一人では解決しない。
うん・・・そうだよ。
「よし!凌さんが帰って来たら聞いてみよう!」
そう決心して凌の帰宅を待つことにした遥香だった。




