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神の箱庭  作者: 雨月 雪花
第一章アーリッシュ編  全ての始まりの日
9/33

08

 



 結局は、コトネの一件から家に帰るまでの間の時間では大した会話もなく、家へと戻って来る。

 家の中に入るとようやく一息つけたようにアーリッシュがふぅ、と息を吐きだすと椅子に座る。ジーノとミルフローラはソファーに座り、コトネだけは壁に寄り掛かって立ったままだ。

 チビはと言えばミルフローラに抱えられたままであったが、きゅー、と鳴きながらアーリッシュの膝の上まで行くと安心しきったように寝息を立てる。

 やはり一番のお気に入りなのだろう。アーリッシュはふっと小さく笑みを零しながら、そのままコトネへと視線を向けた。


「……で? 詳しく説明……は別にしなくていいけど。何であんな行動したのかぐらいは説明しろよ?」

「……」

「無理に聞きだすことはないんじゃ……」

「そ、そうだよ。コトネだって言い難いことなんだろうし、それに……」

「いえ、いいのですよ、ジン、ミル様。私の身勝手な行動で皆さんを危険な目に遭わせたのは確かなのですから」


 ようやく本題に、と言わんばかりにアーリッシュが切り出すとコトネはそっと目を伏せる。

 共に行動している以上、自分勝手な行動をした理由を話さなければいけないのは事実だ。だが、それをどうやって説明すればいいのかが分からなかったために無言のままで居ると、ジーノとミルフローラがコトネを庇うように言うとアーリッシュは、はぁ、と溜息を吐いた。

 言い難いことまで聞きたい訳じゃない。そう反論しようとする前にコトネはふるふると首を横に振ってから、気持ちを落ち着かせるように息を吐きだす。


「……あの男は、昔、私にとって許し難い罪を犯した相手なのです。……忘れることすら許されないほどのことを」

「……」


 コトネはどう言うべきかと迷いながらも、ぽつりぽつりと簡単にではあるが説明するように呟く。

 顔を俯かせたまま話しているために表情を見ることは出来ないが、彼女の言っていることは間違いなく真実なのだろうと言うことが分かれば言葉を失ってしまう。

 強い憎悪と、隠しきれない殺気。そして何よりも、そこにあった苦しげな表情。

 それが思い出されるために何も言えなかったのだが、アーリッシュは違ったようで「なるほど」と頷く。


「そんな相手なら仕方ねぇか」

「……え?」

「……何だよ」

「それだけ、ですか……? 私の気持ちだけで、皆さんを危険な目に遭わせたというのに……」

「結果として全員無事だったんだから、別にいいだろ。というか危険な目に遭ってないから、気にする必要性は全くない」


 あっさりとした言葉にコトネは、俯かせていた顔を上げてきょとんとした表情を浮かべてしまう。

 その意味が分からなかったアーリッシュは僅かに顔を顰めながらも聞けば、コトネは恐る恐ると言うように言葉を紡ぐが、当然のことのように言い切る。

 アーリッシュの言葉にコトネはただ、目を瞬かせることしか出来ずにいた。

 ――人間は時に感情に突き動かされてしまう時がある存在だ。頭で理解していても、心が納得せずに身体が勝手に動いてしまうことだってあるだろう。

 それが時々起こるからこそ、稀に取り返しのつかないことを起こしてしまうのも否めないがこればかりはそういう存在なのだから仕方ない。という風に割り切ることしか出来ない。

 実際に、割り切ってはいけないことなど多々あるだろうが、アーリッシュは「仕方ない」と考えるに留めておいている。


「あはは、さすがはアッシュ。……うん、そうだなぁ……コトネは悪い事何もしてない!」

「……うん。気にしなくて大丈夫だよ、コトネ」

「っつーか……いつの間に呼び捨てになってんだよ、ジン」

「えー……成り行き? いいじゃん! オレがそう呼びたいからそう呼ぶの!」


 当然のことのように言い切ったアーリッシュを見てしばし誰もが呆気に取られた表情であったが、すぐにジーノはおかしそうに笑いながらも、うんうんと何度も頷きながら肯定をする。

 ミルフローラも表情を緩めて微笑みながらコトネに対して安心させるように紡ぎながらも、アーリッシュは気付いたように聞くとジーノはキッパリと言い切る。

 コトネは目の前で交わされる会話を聞いていると、申し訳なさがまだ湧きあがってくるものの、それでも今言う言葉は違う気がして「ありがとう」と小さな声で言うのだった。

 これで先程の一件については丸く収まったという形になったために、今後について話すことにしたのだ。

 とは言っても出来ることなどさほど多くもない訳なのだが、それでも出来ることがあるはずだと全員が考え始める。その中でアーリッシュだけは″敵″の規模が分からない以上、この四人だけで今後を乗り切っていくのは難しいかも知れないと考えていた。

 自分だけであれば一人であっても全然問題ないと考えるが、目の前の三人のことも考えればそれでは済まされない。

 この提案をするのだけは躊躇われるというか嫌で仕方ないのだが、それでもその選択をせざるを得ない状況だということは分かっている。そのためにアーリッシュは溜息交じりにこう切り出した。


「仲間、増やさねぇか」

「……仲間?」

「相手の人数が分からない以上、戦力的にはどれだけあったって構わねぇだろ? 信頼出来る仲間が居る方がいいと思うんだが」

「へー……アッシュからそんな言葉が出るなんて意外だなぁ。そういうの一番嫌ってそうな気がしたけど?」

「嫌ってるっつーか……、人付き合いが苦手なだけだよ」

「……ですが、アッシュの言うことには一理あります。今後のことを見据えれば、信頼出来る人は多い方がいいかと思いますが」


 アーリッシュから告げられた言葉にミルフローラがきょとんとした表情を浮かべる。そんな彼女を見ながらも自分の意見を述べれば、ジーノはにやにやとおかしそうに笑いながら首を傾げれば、じとっと睨みながら訂正するように言う。

 その会話を聞きながらコトネも考える仕草をしながらも、同意するように頷く。

 力の差は圧倒的に敵が有利と言ってもいいだろう。そしてこれからもこの四人で無事で居られる保証はどこにもありはしない。

 そう思ったために残りの二人もアーリッシュの意見に賛同するように頷くと、アーリッシュは憂鬱そうに息を吐きだしながら上を見上げる。


「じゃ、明日から探すとするか。……あー……分からねぇことばっかだな、本当に」


 上を見上げてからそう結論付けながら、最後は独り言のように呟いた。

 ″敵″が今自分達を殺そうと考えれば、反撃する暇もなく殺されていくのだろうと思った。

 だからと言って全員を生かしたいと考えるのではなく、力ある者を生かそうとする。″敵″の考えていることがさっぱりと分からない。

 分かりたいとも思わないのだが、結局は″種″という一つの存在が今後の鍵を握っているのだろうことは間違えなくて、早めに教えて欲しいと思いながらアーリッシュは疲れたように目を閉じるのだった。


 


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