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神の箱庭  作者: 雨月 雪花
第一章アーリッシュ編  全ての始まりの日
7/33

06

 



 突然の″敵″の襲撃を何とか凌いだアーリッシュ達は、とりあえずは探索の続きをしようか、というように互いに視線合わせた。

 何の予告もなしに″敵″が現れることをたった今経験した今では、二手に分かれて、という方法は取り難い。

 非効率的ではあるものの、全員で行動するのが一番か、と思いながらもアーリッシュは視線を上を向けて考え込む。


(……″種″……ねぇ……)


 自分の中にもあるだろう、″種″の存在。

 一体何の種だというのか。どうすれば芽吹き、蕾を付けるというのだろうか。

 ここまで考えてからふと思い出す。蕾まで付けるというのに、花開く者は限られた人達のみ、と言ったような言い方だった。

 ――まるで、その″限られた人″を探すためにこんな事をしているかのようにさえも聞こえた。

 もうここに連れて来たのだから、詳しい話をしてくれてもいいような気がするのだが、相手はそこまで優しい相手ではないようで。自分達で、ヒントなどを見付けろ、という事なのか。

 それとも嫌でも気付くことになるのか。どちらか分からない今ではこれ以上の答えは出ないと思うと、疲れたように息を吐く。

 この状況に詳しい人が一人や二人、味方側に居てくれたのであればどれほど助かっただろうか。そう思った時、思い出したのは一人の友人の、顔。


(……ゼクト)


 何か知っているとすれば、自分の知り合いの中では彼以外は存在しないだろう。

 だがここには連れて来られていない彼の存在に縋るのもおかしいような気がしたが、そう言えばあの声の持ち主はゼクトも必要不可欠な存在だと言っていた。

 つまりは、ゼクトは連れて来られなくても自分でここに来る術を持っている、という意味なのか。

 もしもそうであるのならば、ここから出られる手段を得ることが出来るかも知れない。とは言ってもいつ、現れるかは分からないために一つの希望として考えながらも、アーリッシュはしばしの間、考え込んでいたのだがくいっと服の裾を引っ張られたために、不思議に思ってそちらに視線を向ける。


「アッシュ……どうかしたの?」

「……ん、ああ、いや、何でも。……ジン、お前何してんだ?」

「え、小腹が空いたからちょっと果物を貰ってきたの。あ、ミルちゃんもいる?」

「あ、う、うん。貰おう、かな?」

「ほいよー。アッシュは?」

「いらん」


 どこか不安げな表情で見上げてきているミルフローラがそこに居たために、アーリッシュは答えるべきかどうか迷ったが結局は何も言わずに首を横に振ってそのまま、視線を別の方向を向けた時に入った光景に思わず顔を顰めさせる。

 アーリッシュの視界に入ったのは、リンゴを咥えているジーノの姿だ。

 極々当然のように返答を返せば、ジーノはそのままミルフローラへと視線を向けてへらっと笑いながら言うと焦りを見せるものの、こくこくと頷く。

 はい、と手渡して持っていたリンゴを渡しながらアーリッシュにも聞くのだが、はぁ、と溜息交じりにキッパリと言い切る。

 その反応は既に予想していたのか、ジーノは軽く笑いながらリンゴを租借しながらふと買い物に付き合ってくれたコトネへと視線を向ける。


「……コトネちゃん?」

「……」

「おーい、コトネちゃーん?」

「……? コトネ……?」


 果物を手に持っているコトネは自分達の方ではなく、あらぬ方向に向いており、名前を呼んでも返答がない。

 それを不思議に思いながらももう一度声を掛けると、ミルフローラも様子がおかしいと思ったのか同じように名前を呼ぶのだが、やはり視線がこちらに向くことはなかったために三人は互いに顔を見合せてから、首を傾げあった。

 だがそれにすら気付いていないように、コトネの視線はある一点を見つめたままだ。


(ま、さか……まさか……まさかっ……!)


 三人のやり取りを一歩離れた場所から見ていたコトネだったが、ふと視線を感じて振り返ったのだ。

 でも、そこには特に人の姿はなくて気の所為だろうか、と思って視線を戻そうとしたその時。――視界の中に映ったのは、白い、髪。

 ふわりと風になびく白い髪は見覚えがあった。あったからこそ、コトネは視線を外さずにじっと見続けているとようやく、その白い髪の持ち主の顔が見える。否、離れているために顔は判断出来なかったが、遠くからでも瞳の色だけは見えた。

 とても美しく、そして恐ろしいほどのまるで鮮血のような、赤い瞳。

 コトネには見覚えがあった。それは忘れられるはずのない記憶。その記憶が一気に蘇ると、コトネは持っていた果物を落とすと竹刀に手を掛けながらいきなり走り出す。


「コトネっ!?」

「……どうしたんだよ、あいつ?」

「わ、分かんない。でも、コトネがあんな風に取り乱すことなんて今までなかった……!」


 いきなり走り出したコトネを呼びとめるようにミルフローラが名前を呼ぶものの、その声が聞こえていないかのように足が止まることはなかった。

 アーリッシュは呆気に取られたように目を瞬かせながら、ミルフローラはふるふると首を横に振りながら必死に訴えるように言う。


「……コトネちゃん……?」


 ミルフローラの言う取り乱す、という表現が正しいかどうかは分からないがジーノにも何となくだがそれは感じられた。

 走り出した彼女の横顔を一瞬だけ見えたとき、その表情は激しい怒りに染まっていて、瞳は憎悪に染まっていた。

 出逢ってまだほんの少しだけれど、彼女があんな風に明確に感情を表に出すのはこれが初めてなような気がした。そこには強い殺気が込められていることに少し遅れて気付いたジーノも、コトネの後を追うように慌てて走り出す。


「ジンもかよ……」

「……コトネ、ジーノ……」

「はぁ……。……追うぞ、ミル」

「う、うんっ! ……ありがとう、アッシュ」


 コトネの姿を捉えるのが難しいぐらいに姿が小さくなっており、ジーノは見えなくなる前に走り出していたようなのでジーノの後を追えばコトネの行き先は分かるだろう。

 追うな、と言うつもりはないが一言も言わずに行くのは考えものだ。

 文句を言いたい気持ちはあるが、ミルフローラの心配そうに、不安げに呟かれた声を聞いたアーリッシュは溜息を一つ吐いてから、一言そう告げる。

 驚いたようにアーリッシュを見たミルフローラであったがすぐに頷けば、嬉しそうに笑いながら礼を告げられる。それに対しては苦笑を返すだけに留めたアーリッシュは、ミルフローラの手を取って彼女に合わせる形で走り出しながらジーノの背を視界に入れながら、ふとコトネの事を考える。

 ――ハッキリと憎悪を露わにした彼女の瞳は、一体何を見付けたというのだろうか。

 ただごとならぬ事態だということに気付くとアーリッシュは走りながら、深々と溜息を吐くのだった。


 


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