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神の箱庭  作者: 雨月 雪花
第一章アーリッシュ編  全ての始まりの日
5/33

04

 



 謎の声が聞こえなくなってからも、周りの混乱が収まる様子はまるで見せない。

 混乱しているのは自分も同じだが、あの声の言うことを信じるのだとしたら決してこの場も″安全″ではないのだ。

 今後の事も考えれば自分達の活動拠点を探しておくのが無難だろう。どちらにしろ、ここから移動するのが最適ということか。

 アーリッシュは、はぁ、と溜息を一つつく。妙な事に巻き込まれて、今後のことを考えざるを得ない状況に追い込まれるとは思いもしなかった。

 そこまで考えてからふと自分の手へと視線を落として、少しだけ意識を集中させると微かに火が出る。


(……元素はある、か。……唯一の救いだな、そりゃ)


 チビは一緒に来たようだし、元々溜めておいた元素もあるのは確かだ。

 だからと言ってこれが尽きる可能性のことも考えれば、″元素″があるのはアルケミストの自分から見れば幸いなことだった。


「……とりあえず、どうするよ? アッシュ?」

「移動、するか。……おい、ミルフローラ、コトネ。歩けるか?」

「あ、は、はい。ミル様は……」

「だ、大丈夫……」

「なら良い。……あーっと、もう一つ。万が一の事を考えて聞いておくが、戦えるか?」


 隣に立っていたジーノも既に溜息しかつけない状態なのか、いつもよりは声に明るさを感じなかった。

 問われたことに関しては考えていたことを言うと、少し離れた場所に居る二人へと声を掛ける。別に放って置いても良かったが、この状況では少しでも信用出来る相手と一緒に居た方がいいだろう。

 一人でも問題がないのであればそうしたいのは山々だが、それだけの力は自分にはない。

 声を掛けてから返って来た言葉にはこくりと小さく頷きながら、ふと気付いたようにそう問い掛けた。

 ――あの言い方だ。それなりの危険があるということだ。本当に戦闘があるかどうかなど分かりはしないが、万が一の可能性は考えておく必要がある。

 非戦闘員にまで戦わせるつもりはさすがにないし、聞いておこうと思ったのだ。もちろん、自分自身が戦えるのかと言ったらアカデミーで習ったぐらいなので、本当に一応、と言った感じではあるが。


「……オレは、まぁ、それなりに? って知ってるわな」

「ああ、知ってる。最近のことまでは知らねぇけど」

「まー、学生時代から変わっちゃいないって。戦う機会なんて早々ないし」


 まず答えが返って来たのはジーノだった。とは言ってもジーノは学生時代からの付き合いなのである程度は知ってるつもりだ。

 アーリッシュが苦笑交じりにそう返せば、なるほど、と頷きながらもジーノは素直に答える。

 確かジーノは体術を護身程度に身に付けているはずだったが、中々の腕だと誰かが言っていたような気がする。実際に見たことがある訳では定かでないが、明らかに自分よりはマシだろう。

 問題は少女二人だ。見た感じミルフローラは戦える気がしないが、コトネが良く分からない。


「あの、わたしは……」

「ミル様は見付けておりません。だから私がお傍におります」

「……あー……うん。その剣らしき、もので?」

「はい。師範に比べればまだまだ未熟ですが……」

「へぇ……?」


 少々言い難そうにミルフローラが申し訳なさそうに言おうとしたのだが、その声を遮るようにコトネがキッパリと言い切る。

 予想出来ていたことだったのでアーリッシュは、とりあえず確認するようにそう聞けば、こくりと頷いてから僅かに目を伏せてぽつりと呟く。

 コトネの言う″師範″がどれほどの腕なのかは分かりはしないが、師が居るのであればそれなりの扱いは出来るのだろう。

 見た感じ、コトネの携えている剣らしきものは木のようなもので出来ているようなので殺傷能力があるかと聞かれれば微妙だろうが、この中では一番の強いかも知れない。

 女の子に頼るというのは若干情けない感じがしたのかジーノは苦笑を浮かべるが、アーリッシュは気にした様子も見せずに頷く。


「じゃ、行くか。……いつまでもここに居たって仕方ねぇし」


 アーリッシュがそう告げると、三人は頷いてゆっくりと歩き出すことにする。

 混乱している人達の間を通るのは中々難しいというよりは、かなり嫌な感じがしないでもないがアーリッシュは気にせずに歩いて行くために三人は顔を見合わせてから慌てたように着いて行く。

 それに気付いている様子も見せずにアーリッシュは周りなどお構いなしに歩きながら、辺りを観察する。

 家の造りはあまり見た事のない感じに見えるが住めないという風ではない。あの謎の声が言っていた通りに、最低限の生活は出来るようになっているのだろう。

 つまりは食べ物に関しても用意してあるというような言い方のように聞こえたが、探せば見付かるのだろうか。

 と思っていた矢先に見付けたのは、白い翼がついている女性、だろうか。それがまるで店のように見覚えのある食べ物を売っている様子だ。


「……白い翼とか、天使みたい」

「あり得なくもないかもよ? ミルフローラちゃん。……だって、あの声、『神の箱庭』とか言ってたしさ」

「神……つまりは、あの声が『神』ということでしょうか?」

「さぁ……、オレはそういうの信じてないし。神サマだったとしたら……何でこんなことしたのかさっぱり分かんないしさ」


 後ろで聞こえる会話を耳に入れながらも、ジーノの言葉には同意をしてしまう。

 あの声の持ち主が『神』だとして、ここがその神とやらの『箱庭』なら、何の力も持たないただの人間達をその箱庭に呼ぶ、その理由が分からない。

 ″種″を持つ者とか言っていたが、その意味も分からないし、分からない事ばかりだ。

 とりあえずは考えても仕方ないと思いながらも、確かに食べ物には困ることはなさそうだと確認しながら拠点となるような場所を探す。





 それから程なくして見付かったのは二階建ての小さな一軒家、と言ったところか。

 四人で暮らすには十分すぎるほど広い気もするが、今後一緒に居る人数が増える可能性も考えればこれぐらい広い方が良いだろう。

 部屋数が多い方が都合が良いと思いながらアーリッシュは目を付けた家の扉を開く。幸いにも鍵は掛かっていないようであっさりと中に入ることが出来て、中に入って見ると掃除はされているのか普通に最低限の家具は揃っており住める状態だと言っても過言ではない。

 意外と良い場所を見つけたかも知れない。何気にそう思いながらアーリッシュは疲れたように近くにあった椅子に座る。

 チビもそれに倣うように椅子に座ったアーリッシュの膝の上で丸くなり、すやすやと寝入る様子が見える。三人も中へと入って来て、扉を閉めるとようやく一息つける。


「あー……疲れたー」

「……本当に。ミル様は大丈夫ですか?」

「あ……う、うん。何とか平気」


 精神的な疲れもあるのだろう、ジーノはそのまま床に倒れ込む。

 その様子には苦笑を浮かべることしか出来なかったが、コトネはミルフローラを誘導する形で大きなソファーへと腰掛けるとミルフローラもされるままに座るとほっと息を漏らす。

 家の中が安全かどうかは分かりはしないが、外よりは安全なのは確かだろう。


「……さて、どうするか……」

「どーするも、こーするも、どうにかするしかないっしょー? オレとしては錬金術出来ないのが痛手」

「錬金術馬鹿だからな、ジンは」

「失礼な! マイスターたる者、こんなもんでしょ。……ね?」


 アーリッシュが疲れたように呟きを漏らすと、それを聞き取ったジーノは床でごろごろと転がりながらもはぁ、と溜息を吐く。

 なるほど、と頷いたアーリッシュが呆れたようにそう返すとがばっと起き上がりながらキッパリと当たり前のように言い切れば、同意を求めるように二人の方を向く。

 突然同意を求められても意味が分からないのは当然のことであったが、ミルフローラはこくこくと頷き、コトネは僅かに首を傾げるだけで留めた。

 二人の反応に苦笑を浮かべながらも、ジーノは、はーい、と手を挙げる。


「とりあえず、オレから重大なことを言いたいと思う」

「何だよ?」

「呼び名! オレやコトネちゃんはまだしも、ミルフローラちゃんとか長いじゃん? アッシュもだけど。これからの事も考えれば、仲良くなるために呼び名は大切だと……」

「…………」

「呆れたような目で見るなよー。大切だろ? 今後一緒に行動してく上では!」


 真剣な表情でジーノが言い出したために、さほど期待していない目でアーリッシュは続きを促せばジーノは真面目な顔のまま、うんうんと自分の言葉に頷きながら言う。

 思った通りにくだらないことだったのかアーリッシュは呆れたようにじとっとジーノを見れば、必死に反論しながら言う。


「あ、じゃあ、わたしの事は「ミル」でいいよ。コトネもそう呼ぶし……」

「ホント? さっすが話を分かってくれる! アッシュも、いいだろ?」

「好きに呼べよ……」

「わーい! じゃあ、アッシュって呼んでいいからね!」

「……アッシュ、さん?」

「呼び捨てでいいよ、もう」


 ジーノの必死な様子を見て、助け船を出すようにミルフローラがそう提案するとジーノが分かり易いぐらいに嬉しそうに笑みを浮かべる。

 その後に確認を取れば、もう疲れたようにひらひらと手を振って投げ遣りに言うためにジーノが二人に対してそう言うとミルフローラが少々躊躇いがちに名前を呼ぶ。

 こうなればどうでもいいと思ったのか、アーリッシュが訂正するように言うためにこくこくとミルフローラは頷いた。

 やり取りを黙って見ていたコトネは、少しだけ考える仕草を見せてからジーノを見る。


「……アッシュ、が……ジーノのことを「ジン」と呼んでますが……」

「ああ、それ? その辺りは好きにしていいよ。コトネちゃんがそう呼びたいならそう呼んでよ、オレは嬉しいし」

「は、はぁ……」


 少々呼び難そうにしながらもコトネが確認をすれば、ふと思い出したようにジーノが言うためにこくりと頷く。

 つまりはこだわりはない、という感じなのだろうか。結局はミルフローラは「ジーノ」のままで、コトネは聞いてしまった手前「ジン」と呼ぶことになることで落ち着いた。

 出逢ったばかりではあるがジーノのおかげで、それなりの友好関係は築けているのだろう。

 そこには素直に感謝を述べるべきか分かりはしないが、自分が苦手とする分野なのは間違いないためにアーリッシュは、心の中で感謝しておこう、と思った。

 これからの事も考えなければいけないが、今日は予想だにもしなかったことが続いて疲れたこともあり、ふわぁ、と欠伸をする。


「……今日はもう寝ようぜ? 明日から大変になりそうだしな」

「おー。……あ、ミルちゃんとコトネちゃんは、えーっと……ああ、ここだ。寝室だからここ使ってよ?」

「あ、ありがとう」

「ありがとうございます、ジン。……では、今日はこれで」

「おやすみ、アッシュにジーノ」


 アーリッシュの言葉に最初に同意したのはジーノで、立ち上がってから近くにあった扉を開いて確認をする。

 寝室を探していたようで、女の子二人はベッドを使った方がいいだろうと配慮をするとそれには二人は感謝しつつ、コトネはぺこりと頭を下げる。

 ミルフローラも声を掛けてから部屋の中に入っていくと、ぱたん、と扉が閉まったのを確認してからジーノは二人が座っていたソファーの上で寝転がった。


「で? アッシュはその椅子でいいの?」

「いいよ、もう。どこでも寝れそうな気がする」

「ははっ、同感」


 ジーノが気遣うように声を掛けたのだが、膝上でチビが寝ていることもあり、移動するのも面倒だと思ったのか疲れたように言う。

 それには軽く笑い声を上げて同意をすればジーノはゆっくりと目を閉じる。それから数分もせずに寝息が聞こえてきたために、アーリッシュも眠るように目を閉じる。

 考えるべきはことは沢山ある。

 今後のことを考えれば嫌でも考えなければいけないことが多過ぎて億劫に感じはするが、それでも生きるためにはそうしなければいけない。


 ――生きるため、か。


 自分の思ったことに小さく溜息を吐いたアーリッシュであったが、半分眠りかけていた頭ではそれ以上のことは考えられずにゆっくりと眠りに落ちていくのだった。


 


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