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神の箱庭  作者: 雨月 雪花
第一章アーリッシュ編  全ての始まりの日
4/33

03

 



「きゅー!」

「……っ……チ、ビ……?」


 耳元で必死に叫ぶチビの声が聞こえて、アーリッシュはゆっくりと目を開くと突然入って来た光に思わずまた目を閉じる。

 その後に名前を呼ぶとチビはすぐに安心したかのように胸元に擦り寄って来る。それにほっと息を漏らしながらゆっくりと身体を起こすと、僅かに痛みが走る。

 どこかをぶつけたのかも知れない。ベッドから落ちたのだろうか、と思いながらも改めて目を開いた時に、見えた光景にただ驚くことしか出来なかった。


「……どこ、だよ……ここ……」


 アーリッシュは呆然とした表情で、ぽつりと零す。

 辺りに広がるのは見慣れた「ミステール」の街ではなく、見覚えのない場所。建物が向かいあうようにしながら並んでいる。

 だけどその建物の構造は木のようで、少々古びた感じすら感じさせる。

 夢であって欲しいと思いながらも身体に痛みが走ったことを思い出せば、現実なのだと思いながらもふとどうしてここに居るのかを思い出す。

 ――確か、ミルフローラとコトネという客が来て、その後にジーノがやって来た。ゼクトも程なくしてやって来て、他愛のない雑談を交わしていた時に聞こえてきた「謎の声」。


「……ここが「箱庭」なの、か……?」


 『箱庭に招待しよう』と言っていた。今の状況を考えればここが、その『箱庭』であるのだろうがその確証はどこにもない。

 全く働かない頭を一度落ち着かせるように息を吐きだしてから、ふと辺りを見回す。

 自分だけが連れて来られたという可能性は捨てられなくもないが、もしかしたら一緒に居た彼らも来ているかも知れない。どこであるか分からない以上、一人で居るのは危険かも知れない。

 そう思いながらも辺りを見回すと、程なくして目的の一人を見付ける。


「ミルフローラ!」

「……え? あ……アーリッシュ、さん?」

「無事か? コトネやジーノは一緒じゃ……、おい?」

「よ、良かった……わたし、一人だけかと思って」


 立ち上がってチビを肩に乗せると、見付けた一人――ミルフローラへと駆け寄っていく。

 名前を呼ばれたミルフローラはと言えば呆然とした様子で目に居れた人物の名前を呼ぶ。見た感じ怪我などはないように見えたが、一応はと確認するように聞きながら気になったことも問い掛けようとしていたアーリッシュに、ミルフローラはぎゅっと抱き付く。

 突然のことに反応しきれないアーリッシュであったが、ミルフローラは本当に安心したのか震えている身体のまま、アーリッシュへと縋りつく。

 引き剥がすべきだろうかと思いながらも、さすがにそれをするのは躊躇われた。だからと言ってどうするべきかも分からなかったアーリッシュは、そのままで居ることしか出来なかったのだが、ふと声が聞こえる。


「あー! アッシュ! お前……役得な役目を……」

「……お前、最初に言う台詞がそれか……?」

「オレなんてな、コトネちゃんに斬りかかられそうにな……」

「ミル様!」

「え……あ、コトネ!」


 聞こえてきた言葉はあまりにも今の状況にも不釣り合いなものだったために、アーリッシュは思わず脱力したように呆れた感じに呟く。

 だがそんなのは気にしないと言わんばかりに必死に自分の状況を説明しようとしていたのだが、その言葉はコトネの言葉で遮られることになる。コトネは慌ててミルフローラの名前を呼びながら駆け寄っていくと、アーリッシュの抱きついていたミルフローラは思わず顔を上げ、コトネの姿を視界に入れると離れてそのまま、二人は抱き合う。


「ご無事で良かったです、ミル様。お怪我などは……」

「うん、大丈夫だよ。コトネも大丈夫だった?」

「はい、私も特には……」

「おー、おー、感動の再会ってやつか? ……ってのはさて置き、アッシュ? 状況の把握出来てたりする?」

「してたら苦労しねぇよ。俺だってさっき起きたばっかだよ」


 二人の抱きあっている姿を見ながら、ジーノはふと微笑みを零しながら茶化すように言うのだがすぐにアーリッシュの隣まで来るとまずは、と言わんばかりに問い掛ける。

 問われた事に対して、はぁ、と深々と溜息を吐きながらほぼ投げ遣りに言う。

 把握が出来ている方がすごい。だが見た感じ、自分達以外の人達もここに連れて来られているようだ。見える範囲でも結構な数のようで、僅かに顔を顰める。

 何らかの共通点があるから、こうやって「箱庭」とやらに連れて来られたのだろうがどう考えても共通点など見付かるはずもない。

 そう思いながらも、ふとアーリッシュはもう一度辺りを見回す。それに気付いたジーノは首を傾げた。


「アッシュ?」

「……ゼクトが居ねぇな」

「え? あー……そういや、そうかも。ここに来る時の会話から察するに、ゼクトは何らかのことを知ってそうだったし。居てくれたら助かったかも知れないけど」


 不思議そうに名前を呼ばれれば、アーリッシュが目に見える範囲にはいないことを確認してからぽつりと呟いた。

 ジーノは、そう言えば、と言わんばかりに肯定するように頷いてから、うーん、と思い出すと苦笑を浮かべた。それには同意するように頷きながらも、別の可能性も考える。

 自分達は幸いにも近くに居たようだが、ゼクトだけ遠くに飛ばされたという可能性は捨てられなくはない。

 元々こちらに飛ばされたのではないというのであれば、それはそれで良いと言えるだろう。遠くに飛ばされたという悪い可能性はこの際考えないことにしながらも、これからの事を考えようとした時だったろうか。まるで空から声が振って来るかのように、聞き覚えのある声が辺りに響き渡る。

 


 ――″種″を宿す者達よ、ようこそ。ボクらの箱庭……いや、『神の箱庭』へ。



「『神の箱庭』……?」



 ――君達は全員可能性を秘めし者達だ。その可能性を開花させる為に、二つの世界から″種″を宿す多くの者達をこの箱庭へと招待させて貰った。



 少年の声は、ゆっくりとまるで歓迎するように言葉を紡ぐとアーリッシュは言い直した言葉に疑問を抱く。

 だがその疑問に答える声があるはずもなく、空から聞こえる声は今の状況を説明するかのように話していく。


(……″種″……?)


 ここに飛ばされた全ての存在を総称するように″種″を宿す者と呼ぶ。全く身に覚えのないことに困惑することしか出来ない。

 それはアーリッシュだけではなく、ここに居る者全員の想いなのだろう。混乱する者、中には泣き叫ぶ者、怒りを露わにする者など様々だ。

 あそこまでして今の状況を表現したいと思えないアーリッシュは一つ溜息を吐く。溜息をついてからふともう一つ、引っ掛かる言葉があったことに気付く。


(二つの世界……? 一つは俺らの居た世界だとして、もう一つ……?)


 益々意味が分からないと思った。御伽噺やら空想の物語の中で、並行世界とか多元世界とか様々な単語を聞いたことがあるような気もしないではないがそれを信じる程子供でもない、と思っている。

 とりあえずは周りの人達の反応を確かめるように辺りを見回してみれば、ジーノは難しそうな顔、ミルフローラは今にも泣きだしそうな顔だ。ここまでは何となく予想がついたが、一人――コトネだけは、何やら驚いた表情を浮かべているのが目に見えて分かった。

 まるで何か覚えがあるような、もしくは想像すらしなかった事だったから、だろうか。

 どちらにしろ、誰もこの状況を把握していないのは丸分かりで、それは仕方ないことなのだろう。アーリッシュはもう一度溜息を吐くが、彼のそんな様子など知る由もなしに声は言葉を続ける。



 ――『神の箱庭』は四階層に分かれ、一階層は君達が不便しないように最低限の生活が出来るようにこちらで用意させて貰ってる。



「……親切なことで」



 ――二階層、三階層には″種″の意味を理解し、能力を開花させた者だけが進むことが出来る。そして四階層にはボクがいる。



「っつーことは……あれか? ボスを倒せば、ここから出れるとかそういう話……?」

「そう簡単な話には聞こえねぇけど」



 ――……″種″を宿す者達よ。決して君達の身が″安全″ではないことを覚えておいてね? それじゃあ、期待しているよ。



 その言葉を最後に、声は何も聞こえなくなり、これからの事を考えると頭が痛くなる。

 急に意味の分からない場所に連れて来られて、周りの人達は混乱していて手を付けられない状態で。

 これから何をすればいいかの検討もつかない中で、″安全″ではないのだと言われた。アーリッシュは怒りさえも通り越して疲れしか出て来なかったのだった。


 


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