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第一話:序章の始まり

 

 

 平原、そこは平原だった。

 しかし数歩先にその面影は一切ない。

 健康的な緑色をした草、小さな花々も僅かに地に舐き甘い香りを周囲に漂わせている。しかしそれらが全て数歩進めば激変する。緑色の大地はその姿を消し、豊かな草木の香りは腐敗した死臭へと

 たちまち変わってしまう。空間の熱が跳ね上がり蒸し返したように熱気が空間を覆い尽くす。それに重なるようにして悲痛に悶える声と激しい爆音がどこからともなく聞こえてくるのだ。

 この決定的な差は魔法が届く範囲が大きく影響している。魔法には発動可能領域というものが存在し、上位職であればあるほどその範囲は広く長くなる。上級魔道士場合はレベルと比例して

 その範囲と威力が決まってくる。レベル限界であれば百人程度の分隊などゴミ虫のように数秒の詠唱で一掃できるほどの力を彼らは持っているのだ。


「隊長、こっからどうするの? 一歩でも前に進んだら丸焦げで人生のドロップアウトに陥っちゃいますけど」

 

 部隊の足を止めていた小さな部隊長は鎧もつけずただ薄い布切れ一枚を身にして変形していく大地を眺めている。

 その表情は死地へ赴くというのに怯えの感情はなく、それどころか楽しむような笑を浮かべていた。

 人としてこういう人間の下で働こうとはどうしても思えない。が、今はこの少年に命を託す他現代っ子である晴人に道はなかった。

 不安半分、期待半分の眼差しを小さな体の隊長へ送っていると、隊長の表情にさらに不気味な微笑みが加えられた。


「戦場はいつの時代になっても活気があってやっぱりいいもんだよ。それに---今日は魔道士の方々があんなに頑張ってくれてるから久々に突破型防御陣で行ってみようかな」

「えっと・・・・・・なんですかそれ?」

 

 攻撃陣や防御陣形はいくつか知っているが、隊長が言った突撃型防御陣という陣形はゲーム内の命令欄にはなかった。

 こういったゲームとの食い違いの部分はここ数日でいくつか発見することができていた。人間の顔もゲームでは一般兵の場合すべてが同じ顔であったが、

 この世界では全てが全て、様々な個性と容姿を持っている。生活感や独自の考えでそれぞれの人間が動いている。痛みもあれば、感情もある。

 彼らはゲームの登場人物以上の何かを持っているのだ。それはつまりこの世界がゲームの世界によく似た異世界で、現実であることをしめしているのかもしれない。

 どうやってこの世界へやってきたのか、記憶に無い今、そうとしか解釈ができない。情報があまりにも少ないのだ。

 

 

「名前のとおり、突撃できて魔法の攻撃も弓の攻撃も全て跳ね返しちゃう僕たちにしか真似できない特殊な陣なんだ。まずは~彼らを前に」

 

 隊長はそう言って最後尾で独特の鉄の音を空間に響かせていた巨大な鎧を纏う十数人の重装兵を手招きして呼びつけると重装兵は隊長の前へ歩み寄り背中に背負っていた巨大な鋼の盾を無数の地響きとともに地面に叩きおろした。地面に刻まれた亀裂がその異様な重みを醸し出している。そして一歩、また一歩と兵士たちは動き出す。その歩みは徐々に早くなり、その巨体には似つかわしくない速度を発生させはじめる。


「ハル君、彼らから離れちゃダメだよ? 遅れたらハル君の大好きな女の人を見るっていう特殊な変態的趣味も叶わなくなちゃうから」

「まぁーこのくらいの速さならなんとか現代っ子の俺でもついていける。けど、一つ言わせてほしい! 俺は変態なんかじゃなぁーい!」

「うん、その息だよ。じゃーもっと早く、もっと鋭くいくよ!」

「え?」

「レッツゴー!」

 

 そう少年が満面の笑で指を前にかざすと先頭を走る鎧兵たちが一斉にその歩の速度を跳ね上げた。


「ちょ、ちょっとぉぉぉー!」

 

 

 [+++]



 

 走り出してどれほどの時間がたっただろうか、おそらく数分と経っていないだろう。数分の移動でこれほどの披露を感じたのは初めての事だった。

 飛び交う魔法が研ぎ澄まされた槍の先端で粉砕されるようにして彼らの巨大な盾に玉砕される様を、視界の端に僅かに捉えながら晴人は足を前へ前へと差し出していた。

 胸を拘束する重圧に必死に耐えながら走る様はきっとみっともない姿をしているに違いない。背後から迫る仲間の歩の音、盾の間から溢れる轟音、気がどうにかなってしまいそうだ。

 陸上部でもなく、運動部にも属していないただ平凡に文学部に身を転じていた晴人青年にとって、彼らの鍛え上げられた筋肉と体力の賜物である前進運動は数分の内に

 体の隅々まで披露の色を浮上させ始めていた。


「ねぇーちょっと質問していいですか? 君は隊長のなんなんですか?」

  

 その声は突如として右翼側の列からもたらされた。しかし晴人はその声に応える術を持ってはいなかった。

 彼がもしも運動部でそれなりの体力を保持する人間であれば声の主に言葉を返すことも可能だったが、現実は違う。

 彼は現代人にありがちな運動不足、将来確実に早死するであろう食生活を送っているぐーたらな一高校生なのだから。

 

「へぇー私の言葉を無視するんだ? ならこっちだって考えがあるんだから!」 

「待てフィーア! 何をするつもりだ? 戦いは始まったばかりなんだぞ? 嫉妬するなら戦場以外の場所でしてくれ。お前の身勝手な行動で死ぬのはごめんだからな」

「だってあいつ、私の言葉を無視して隊長の後ろに寄生してるのよ? あんな奴八つ裂きにして戦場に捨てたほうがいいわよ、きっといつか手を出すわよ? だってあんなに可愛い隊長ですもの」

「馬鹿かお前は? 彼はただ体力がないだけだ、身を守る力もなく、ただ生きるために隊長の後ろにへばりついているだけだ」

「嘘よ! うちの部隊に使えない人間なんて配属されるはず無いわ! 最強にして最高の兵士の集う部隊、金狼の牙ですもの」

「お前、まだそんなこと言ってるのか? 正規兵の方々が聞いたら斬首されるぜ? マジで」

「なによ、正規兵なんて雑魚ばっかじゃない。あんな奴私たちにかかれば地面を這いずり回る雑魚虫同然よ」

「はいはい、まぁーとにかく今はまずい、後でならいくらでも暴れていいから、今はこの街を攻め落とす事を先に考えようぜ」

「えぇ~」

「今は新兵より、俺たちの仕事を完璧にやり遂げる事を考えようぜ」

「フンッ! 運が良かったな、少しだけ寿命が延びたぞ新兵、が、この街を落としたとき、その時こそは・・・・・・」

  

 二人の兵士たちの会話をよそに、死のマラソンは突如として終焉を迎えた。

 

「止まった?」

 

 100人程度の軍列は突如としてその歩みを止めた。気がつけば巨大な門が頭上の先に映り込み、手を伸ばせば簡単に届いてしまう距離まで来ていたのだ。魔法は周囲攻撃から近距離攻撃型に変化して、今もなお浴びせられているが、強固な盾を間にしてはその力も意味をなしてはいなかった。隊長はその中をのそのそと歩みより、巨大な門に手を触れると嬉しそうに微笑みを漏らす。


「へぇーやっぱり防御魔法が入念に施してあるね。でもまぁーこの程度なら」


 少年は両手を壁に垂直に置き、深く瞳をゆっくりと閉ざしながら、小言にように言葉を発し始めた。

 

「古き理を示す言葉よ、長き歴史を刻む式よ、遥かなる虚無の闇へ誘い、混沌に沈め」


---死文デスノア

 

 黄金色の髪が言葉の発動と同時に灰色に色を一瞬変え、瞬間、手の甲に紫色の光が迸ると突如、空間に衝撃波が走った。一瞬からだをよろめかせ後ろへ倒れた。


「痛ってぇーなんだよいきなり? 爆発でもしたのか?」

 

 地面に両手をつけながらも再び立ち上がると、周囲で歓声に誓い声が多く上がりはじめる。

 彼らは扉の方を見て声をあげていた。晴人も彼らのそうした声に影響されるようにして視線を前へと向けた。しかしその場には少年姿はなかった。長い灰色の髪した美しい美青年、ただその存在だけが佇みケラケラと高笑いを発している。


「アイツ誰?」

「決まってるだろ? あれが俺たちの隊長、普段は可愛らしい少年だが、魔力の高まりの同時に本来の姿に戻るありゃー最高に強くて最高に便りになるお方だよ」

 

 背後で歓声をあげていた兵士の一人がそう言って晴人に漏らすと、晴人は唖然とした表情を浮かべてしまう。同時になるほどな、っと思ってしまった。


「あぁーだからあんなに下ネタが豊富なんだなぁーでもあの顔で下ネタって詐欺じゃね?」

「さて、デモンストレーションは終わった。これからはメインイベントだ、この街の全てを奪い、最高の項を得よう。まずはこの邪魔な扉を消し炭にしてしまおう」 

 

 そう言って美青年は艶やかな髪を風になびかせながら空に魔法陣を描いていく。

 数秒の詠唱の後、赤色の閃光が魔法陣の中央から放たれ、次の瞬間、巨大な火炎が門を焼き、数秒でその姿は跡形もなくなってしまう。


「ちょっと待てよ・・・・・・この魔法ってあれだよな? 終盤で暴走して魔軍を真っ二つに分断したあの悪名高きラスボスの放つHerrfireヘルファイアーでは・・・・・・そうだとしたら俺、とんでもない奴の部隊に入ってる?」

 

 晴人をよそに美青年は良く通る甲高い声で宣言した。


「お前ら! 絶対に死ぬんじゃねぇーぞ! 死んじまったら意味がねぇー行くぞー!」

 

 扉の先で展開する数多くの兵士たち、剣を握り、弓を構え、魔法陣を展開している。

 数にして有に2000を超えるであろう敵兵の待つ街の中へ隊長を先頭に100人程度の隊は突撃を開始した。

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