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明基 龍海  和風シリーズ

清流放浪談

作者: 明基 龍海

 人―――主に子供―――が、ある日、森や山などで忽然(こつぜん)と姿を消すという事をあらわすのに『神隠(かみかく)し』という言葉を使う。

 なんでも昔の人々は帰ってこない人間を天狗(テング)や鬼がさらっていったと思っていたらしく、すなわち“神”というのは、天狗や鬼を表す言葉だそうだ。

 だが、『神隠し』という言葉を使うというのもおかしな話だ。普通考えてみると人間は人外境の中で住んでいる人ならざるものは基本、神や妖怪と表し、人に良いことをすると神や仏とあがめられ、逆に悪いことをすると妖怪や天狗と恐れられる。

 おかしな話だ。

 どうしてそこで神という言葉を使うのか。

 人をさらっていくのだから、それが罪人でない限り『神隠し』とは人にとって“悪いこと”なのではないか?

 まあ、実際は誰がその“神隠しに会った者”をさらうかは分からないが。

 本当に妖怪か天狗か、ましてや神か、それとも野党か、子供ほしさにその辺を歩いていた子供をさらった母親か。

 死体が出るか、さらった者がつかまれば『神隠し』と言う神秘的なものは成立しないわけだが。

 だが、もし……つかまりもせず、死体も出さなかったら其の者は人々に神や妖怪と言われるのだろうか。

 ……愚かなことだ。人は神も妖怪も自分達の都合で位置づけている。


放浪者清流 ―ホウロウシャナガレ―


 人の死というものは悪しきものを呼ぶ原因となるそうで……

 たとえば怪鳥(かいちょう)以津真天(イツマデ)というものは死体が転がっているところに現れる妖怪だそうで、いつまで死体をそのままにしているんだと訴えかけているとか。

 ほかには自分と親しいものを殺されて恨み怨んで鬼と化したモノのか。恨みの念を食らうバケモノとか。

 まあ、平和な世界に住む僕達にとってはあまりなじみはありませんが……。

 この話は僕達とはあまりなじみのない“昔”の世界を舞台とした話―――フィクション―――ですが……

 人を殺し恨む、人の汚さ、愚かさというのは今でも変わっていません。もし、甘い誘惑によって闇への扉を開いてしまったら……

 そのときはどうかお気をつけて……


 死体も当たり前のように地面に落ちている戦乱の世、一人の青年が戦後と思われるたくさんの死体がある場所を歩いていた。

 彼は男性にしては少々華奢だと思われる体格―――いわゆる少年体系に近い体格―――で、長く伸びた髪は頭の高い位置で結ばれていて、背には彼の背丈近くあり、刀身のかなり太い大太刀を背負っていた。

 彼の腕であれを扱えるのか疑問なのだが、まあこの際気にしないこととしよう。

 ざわり、と木々がざわめく。

 青年―――名を清流(ナガレ)という―――は、小さく顔をしかめる。

「面倒だな。近くに村はないだろうか……」

 つぶやくが誰も聞いているものはいない。

 清流はそのまま歩みを進める、と。

「よう、兄さん、いい剣持っているじゃねえか」

「おれ達にもみせてくれよぅ」

 目の前にずらりと十数人の体格のいい野蛮(やばん)そうな男共が群がる

 野党だ。

 青年は思い小さく、彼らには気付かれないようにため息をつく。

(最悪だ)

「おいおい、だんまりかよ」

「お前、自分の立場が分かっているのか」

 清流は面倒だと思いながら、そのまま彼らを無視するように、歩みを進める。

「てめぇ、無視するんじゃねえ!」

「そうだ!痛い目見たくなきゃ身包(みぐる)みはいでおいていけ!!」

 野党はまたもや清流の目の前に立ちはだかる。

「痛い目見るのはどちらだろうな」

 初めて清流が口を開いていった言葉がそれだ。

 その言葉に野党たちは逆上した。

「ふざけんな。一人でこの人数やれるわけないだろ!」

「かまやしねえ!やっちまえ!!」

 瞬間、野党たちは清流に襲い掛かる。

「……」

 が、あっけなく、清流に倒されてしまった。

 清流は背に背負っていた大太刀を頭と思われる男の首に突きつけていた。

「アンタ、ここに詳しい?雨がふりそうだから、この近くに宿なんか取れる村があるといいんだけど。」

 男は恐れのあまり無言で、清流の向かっている方向より少々右にずれた方角を指差した。

「ふーん、ありがと。……ああ、そいつら峰打ちだから安心して」

 清流は、太刀を背負いなおすと男の指差した方角へと歩き出す。



狐神―キツネカミ―


 清流は後悔していた。

(あんな男に聞くんじゃなかった)

 そこは色町(いろまち)で宿へとまると漏れなく女がついてきた。

「ねぇ~え、お兄さん?お酒、どう?」

「ああいや、別にいい」

「ふ~ん、それじゃあ、イイコト……しない??」

遠慮(えんりょ)しとく」

「え~つまんないぃ~。ここに来たって事は、そういう事目当てのお客じゃないの?」

「おれはただ、雨露(あまつゆ)をしのげる場所を探していただけだ」

 清流の言葉に女は嫌そうな顔をし、しぶしぶながら部屋を出て行った。

 女が出て行った後、清流はぼうっと雨のふる外の景色を眺めていた。

「くるな。」

 何処からか嫌な感じのする“()”をかんじる。

「こっちに近づいてきているけど……この感じ―――俺が標的(ひょうてき)ってワケじゃないしいいか。」

 さっさと(とこ)につこうとしたら、外の方で人々の悲鳴が聞こえた。

「……休ませてくれないのかよ」

 外を見ると胴の長い狐が人々を襲っているのが見える。

狐神(きつねがみ)!?」

 それはまさしく獣の姿をした神、狐神だった。

 狐神は(アカ)き眼に憎悪(ぞうお)を彩らせ、金色の毛を真っ赤に染めていた。

 それを見ると清流は愛用の得物(えもの)を背負うと雨にぬれるのも気にせず外へ出た。

「狐神よ!……温厚(おんこう)と聞く貴方が、何故人々を襲う!!」

 清流の言葉に一端狐神は人々を襲う手を休めると清流へと向き直る

「狐神だって??」

「なにが温厚な神だ!!化けもんじゃねえか!!」

「あんちゃん!その背にある大剣で化けもんをやっちまえ!!」

 襲われていた村人達は加勢が来たと思うと口々に狐神を殺せと罵った。

 彼らの言葉に狐神は再び憎悪の目を人間達に向けると彼らに襲い掛かろうとする。

「止めろ狐神!」

 その言葉に狐神はしぶしぶといった様子で清流のほうを向く。

 その様子に清流は安堵したように易しい声音で言う

「我が名は清流。旅でこの村に立ち寄っただけで貴方と村人のことはよくわからない。良かったら話してくれ」

『コロシタ コロシタ……』

「殺した?何を?……いや、誰を??」

『セリ……シタ、コロシタァーーー!!!』

「せり??」

 清流がつぶやくと同時に狐神が暴れる。清流は狐神の攻撃を器用に避けると、もう一度狐神に聞く

「狐神!セリとは一体!貴方とどういう関係がある!!」

『グゥワァァァーーーーーーーー!!』

 狐神は完全に我を失っている。

 清流は仕方なく剣を抜くと剣の腹で狐神を殴り、ひるんだ隙をついて、峰で狐神の足を折る。

「落ち着け。……これじゃ、話はできそうにないな。」

 狐神は清流に攻撃(こうげき)されたときのショックで気絶していた。

 村に人々は気絶した狐神を見ると物騒な武器を持ち出し狐神を殺そうとするが、

「殺させねえぞ。聞くことがあるからな」

 清流の剣が村人を近づけさせないように、彼らの攻撃から狐神の身を守れるように、盾の役割をした。

「聞かせてもらおうか。セリという名の者のことを」

 清流の鋭い眼光に村人達は一瞬ひるんだが、武器を握りなおすと攻撃態勢に入った。

「お前、このバケモンをかばうのか!」

「関係ねえ!!」

「やっちまえ!!」

 瞬間、清流は村人に襲い掛かった。

 槍や刀、矢などを剣で防ぎ、受け流す。

素人(トーシロ)がいくら集まったって、闘い慣れしてる俺には勝てねーよ!」

 清流は人々の中からこの村で地位のありそうな人間を見つけると、胸倉をつかみ、無理やり立たせ、顔を近づけると凄みのある声で言った。

「この村の秘密。教えてもらおうか」


村之秘密 ―ムラノヒミツ―


「この村の秘密、教えてもらおうか?」

 村人はがくがくと振るえ、がちがちとかみ合っていない歯の隙間から細い声を出す。

「ひ、ひみつって、なんの??このむらには、そんなひみつ……」

 いまだがくがくと震えている村人に舌打ちし、清流は彼を地面にたたきつける。

「しらばっくれんな。セリって奴のことだ!さっき狐神が話していただろ!」

「せ、芹」

「知ってるなら話せ」

「は、はいぃぃい!!」

 村人は一端落ち着くとしずかに話しはじめた。


 せりという者はこの村で生まれ育った少女だ。

 彼女はこの村でもかなり美人な部類に入る人間で、言い寄ってくる男は後を絶たなかった。

 そんなある日、このあたりに住む貴族の男性が彼女を見初(みそ)めた。

 貴族の男性は彼女に結婚を申し込んだが、彼女はほかに好きな男がいるとかで彼との結婚を断った。

 その返事に逆上した貴族の男は部下たちに芹を殺すよう命じた。

 そして彼女は森まで逃げたが、あっけなく殺された。

 2日前のことだという。


「ふぅーん」

 清流は一通り話を聞くと考える。

(なるほど、“そういう事”か。……にしても芹という少女もお気の毒に。たった一回の男の言葉を断ったくらいで殺されるなんて。)

 村人は清流が何を考えているか分からなかったが、あわてて自分達の潔白を証明するために口を開く。

「お、おれ達は何も悪くねえ!悪いのは、あの貴族の男だ!!……だが、芹と狐神、何の関係があるんだ!」

 村人の言葉に清流は小さくため息をつく。

「べつにあんた達の潔白(けっぱく)に興味ないね。……で、芹の墓かなんかないの?」

 村人は清流の要求に首をかしげながら芹の墓へ案内した。

「さて……」

 するといきなり、清流は何を思ったのか墓を掘り返した。

「な、なにを……」

 芹の死体があがると清流は彼女の身体に手をかざす。

「生死をつかさどる神よ、我が声を……」

 彼の手から淡い光があふれ出すと芹の身体を包んだ。

「うぅ……」

 芹は小さなうめき声を上げると、そのまま身を起こす。

「あ、れ……私」

 芹は何がおきたか分からないという様子できょろきょろと辺りを見回す

「い、生き返った??」

 村人は呆然と生き返った芹と、清流を見比べている

「芹さん?ちょっと」

「え??」

 清流は芹の腕を引っ張ると強引に、狐神のもとへと連れて行った。

「ア……」

 芹は狐神の姿を見ると勢いよくだきついた

「やっぱりな」

 抱きつかれたとき、意識を取り戻した狐神は淡い光と供に人間とそう変わらぬ姿になると芹に抱きしめ返した。

「ど、どういうことだ??」

 村人は清流を見る。

「あの二人デキてたんだよ。」

 その言葉に村人はじっと狐神と芹の二人を見比べていた。


「嗚呼。」

 清流は朝日があがるのを確認すると、彼らが狐神と芹のほうをむいているすきに村を出た

「さて、今度は何処へ行こうかな」












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