乙女ゲームのヒロインは死にました
※初手から残酷な描写があります。
首チョンパ系です。
ダメな方は読まないでください。
ある女の首が切断された死体が見つかった。
まるで見せしめのようだ、と言ったのは誰だったか。
発見者は顔色を悪くしながら騎士の捜査に協力したものの、見つけた時の異様な光景を思い出したのか、体を揺らすとそのまま意識を失ってしまった。
その死体はあまりにも異様な状態で見つかった。
天井の梁に括り付けられた縄は女の足首に括り付けられ逆さ吊りにされていた。そして、切断された首は血の海となった床の上に無造作に置かれていた。
女の衣服は簡素なものであり、太ももとふくらはぎの二箇所は細縄でスカートがめくれないようにとされていた。
そこまでして逆さ吊りにした意味を誰も理解出来なかった。
そして、この死体が誰なのか、誰が殺したのかなど誰も分からないまま女は教会所有の共同墓地に葬られた。
その女が、かつて王国の存続を揺るがしかねないほどの騒動を引き起こし、何人もの令息をその地位から引きずり下ろし、それだけでなく王子の一人の心身を損ねた為に行方を探されていたなど、国の端に住む彼らには想像も出来なかった。
六年前、王都にある王立の貴族学園には不穏な空気が流れていた。
それというのも、規律を乱す一人の令嬢により、人間関係どころか貴族の均衡までもが崩されようとしていたからだ。
その令嬢の名前はミミリア・ロイテ。
ロイテ男爵家の庶子の彼女は身の程を弁えることを知らないまま、何人もの令息を堕落させた。
とは言えど、自制心が働き危機管理のなっていた令息達は速やかに自衛した。即ち、籠絡された者は危機管理が出来ていなかった。
一番の問題は、貴族であれば誰もが意識している「信頼出来る者が作った飲食物以外は摂取しない」を守らなかったことだろうか。
確かに学園の食堂では毒見不要で食事が出来るが、それは料理人が一族郎党の命を天秤の片側に置いて契約しているからである。
もしも子供達を害せば、その瞬間に処刑される契約を結んでいるからこそ毒味をおかずに食事が出来るのだ。
だが、それ以外ではたとえどんな状況であろうと、それが婚約者からでも毒見を済ませるまでは摂取しないというのが王侯貴族の「当然」であった。
それなのに、令息達はミミリアが作った焼き菓子を毒見もなく食べた。
その中に依存度の高い、植物から抽出した成分が含まれていたのに。
結果としてミミリアの手渡す焼き菓子を食べ続けた令息達は薬物中毒者となった。
親が、家族が気付いた時には手遅れだった者は多い。中にはおかしいと感じて密かに隔離し対処した者もいたが、大半は気付けなかったのが落ち度であった。
問題は、ミミリアにはそれが薬物だという認識がなかったことだろうか。
『ええ~? これ、惚れ薬よ? 好感度上げに使うアイテムを自作出来るなんてラッキー』
と、わけのわからない供述をしていた。
初めは緩やかに、しかし摂取回数が増えるとある時点で一気に症状が深刻化する為、事態に気付いた時点で重度な中毒症状が出ているなんてことになっていた。
薬物中毒を完治させることは難しい。効果が強いものほど依存度が高く、一度でも摂取すれば忘れられなくなるのだ。
ミミリアは多くの令息だけでなく、本命の王子にすら手を出して薬物中毒にしたことで処刑されるはずだった。
しかし、それを許さなかった者がいた。
それが王子の婚約者であったイリーナ・ハウベルである。侯爵家の娘として生まれ、王族に嫁ぐ候補の一人として育てられたイリーナは己に与えられた屈辱をずっと心に潜ませていた。
イリーナは王子の変化の原因に気付けなかったことを悔やむが、軽率に出されたものを食した王子への怒りもあった。
王子は心身を損ねていたことで療養に入ったために怒りは一旦抑えたが、ミミリアへの怒りはその分増していた。
ひっかきまわすだけひっかきまわし、多くの混乱をもたらしたミミリアの願いは「顔の良い男にもてはやされ、王妃になって贅沢三昧の生活を送る」というあまりにも愚かなもの。
国を治める王の下には数多の民がいる。それらのことなど考えず、己の欲だけを優先するミミリアを死んで終わらせるなど許せなかった。
生かして早く死にたいと望むほどの苦しみを与えなければ気が済まなかった。
イリーナはおっとりとした外見に反し、中身は一族の中でも祖父に次いで苛烈であった。
王子もミミリアもイリーナを馬鹿にしていた節があったが、謀略で政敵を破滅させてきた冷酷なる宰相が心血を注いで教育したイリーナが優しいわけがないのに。
王族を害した罪で表向きは処刑したが、その裏でミミリアを国内でも最も過酷な労役所である北部のレンドラー収容所に送った。
ここは死刑など生温いと判断された者たちが収容される、過酷な環境こそが刑罰でもある施設で、暖房器具などの無い石造りの建物は真冬の寒さで死ぬ寸前まで追い詰められるのが当たり前だった。
簡単に死なせたくないという思惑から送られてきたのに死なせてしまっては意味がないので、死にかけては生きるために処置をされる。それは果たして嬉しいことなのか。
何度も死の淵に立たされながら生き延びさせられたミミリアは、漸く「手を出すのではなかった」と後悔したそうだが、後悔しても現実は変わらなかった。
イリーナは婚約者であった第一王子が王位に就けなくなったため、継承順位第二位だった第二王子と再び婚約を結んだ。
王子妃教育を修了し、王太子妃教育を半分まで済ませているイリーナを王家は手放さなかった。長年に渡る教育を一から新たな令嬢に教えるには時間が無く、また、そこまでにかけた費用とて馬鹿にならない。
ミミリアは何も考えていないから平然と王家にまで手を伸ばし、分不相応にも王妃の座を狙ったのだ。
ミミリアと出会うまではどこか抜けているところはあれど期待された王子だったのに、ミミリアのせいで手放すしかなくなったのだ。今の彼はどれだけ時間がかかるか分からない療養生活を過ごしている。
暴力性もあるため、面会は禁じられ、親と言えども国王夫妻すら会えなくなった。
ミミリアは自覚していないかもしれないが、多くの恨みを買ったのだ。
とは言えど、表向きは処刑したことになったとはいえ、生きて苦しんで欲しいと願う王家やイリーナはミミリアを殺すつもりはなかった。
死んだら意味がないのだ。
ある日ミミリアは収容所から姿を消した。
収容所の監視は厳しい。巡回時間はその日により変わるため、何時にそれぞれの独房の前を通るのかは推測出来ない。また、出入りも厳しく確認され、外部の者には必ず二人の職員がつけられている。
その日、出入りしたのは食材搬入の商人だけで、それも定められた場所しか立ち入っていない。
それに、夜の巡回時間、確かに職員はミミリアが室内にいることを確認していた。
なのに、朝になるとミミリアはいなくなっていた。
当然だが、判明した時点で直ぐに捜索が行われた。冬も始まりにもかかわらずすでに雪が降り始めているこの地域の地面は、うっすらと白に覆われていた。
「所長。日暮れまでには職員を戻します」
「そうしてくれ。見つけなければならないが、その為に職員が死ぬなど許されないからな」
山々に囲まれた中にある施設は、脱走しても余程でなければ生き延びることは無理だと言われている。その最大の理由は「魔獣」で、施設は魔獣避けが施されているために襲われないが、その外に出ればいつ魔獣と遭遇してもおかしくなかった。
職員は携帯用の魔獣避けを持っているため、昼間はまだ良いが、夜間ともなれば魔獣の力が増して魔獣避けが意味をなさなくなる。
レンドラー収容所の囚人は逃げ出そうとしない。夏場であるならば考えるかもしれないが、雪の降り始めた時期に魔獣避けも持たずに出るなど死にに行くようなものだ。
確かに死んだ方がましと思っても、魔獣に食い殺されたくはない。
ミミリアとて脱走しようと初めは思っていたようだが、その結果を知ると諦めていたはずなのに。
王家も知らせを受けて捜索の為の人員を派遣したが、ついぞ見つかることはなかった。
それもそのはずだ。
その時のミミリアは、北部とは正反対の南部の国境近くの村の物置小屋に転がされていたのだ。
ミミリアが意識を取り戻したのは木窓の隙間から入り込む日差しが顔に当たっていたからで、全身の気怠さを感じながらも瞼を開けた。
凍えるような寒さとは無縁の暖かな空気に戸惑いながら、視界に入った光景が脳を覚醒させていく。
石ではなく木で作られた床は収容所には無かった。
乱雑に物が置かれたそこは綺麗とは言えなかったが、それでも寒くないだけ嬉しくて起き上がろうとし、それが出来なかった。
ミミリアは両腕を後ろに、足もしっかりと縄で縛られていたのだ。
「なん、で……」
「起きたのね。良かったわ」
困惑しながら漏らした言葉の後に続いた声。そちらに顔を向けたミミリアは目を見開く。
黒のレースのベールに真っ黒のドレス。手にも黒のレースのグローブが嵌められた女性が佇んでいたのだ。
「だ、れ」
「貴方が壊しかけたヨシュアの婚約者よ。まあ、あなたは覚えていないでしょうけれど」
「ヨシュア……ヨシュアの、婚約者……デミレア!」
「あら。わたくしの名前を知っていたの?」
「ひっ」
動かない体をどうにかしようとするが、ミミリアは動けなかった。
ミミリアの恐怖に染まった声にもならない音が引きつったように漏れる。
ミミリアは転生者で、ここがゲーム『果てなき楽園の標』の世界で自分がヒロインだと知っていた。
このゲームは攻略対象ごとにトゥルーエンド、ハッピーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドが設けられており、かなりやりこんで遊べるゲームとしてそこそこに人気があった。
キャラクターデザインに有名なイラストレーターを起用し、声優も若手ながら実力のある者が声を当てており、ミミリアも前世で楽しんだ。
イージーモード、ノーマルモード、ハードモードが存在し、それぞれのモードの全てのエンディングを達成すると「ナイトメアモード」が発生する。
乙女ゲームで「ナイトメア」などおかしいと初めは言われていたが、実際にプレイした攻略感想などによると、まさに「ナイトメア」に相応しい鬼畜仕様になっていたのだと言う。
ミミリアはプレイしていなかったので知らないが、何気なく攻略サイトを見た時に「乙女ゲームで終わらせたいならやるな」という言葉があったのを思い出した。
攻略対象はイージーで三人、ノーマルで五人、ハードで七人になる。メインの三人からモードごとに二人増えていき、それぞれ魅力的で、ミミリアはハードモードのハッピーエンドまではクリアしていたのでその知識で彼らを攻略した。
第一王子、公爵令息、侯爵令息、辺境伯令息、伯爵令息二人、そして教師。
惚れ薬を入れた焼き菓子をプレゼントすると好感度がぐんと上がって一気に攻略しやすくなるのだ。
逆ハーレムモードはないのだけど、ゲームそのままじゃないだろうし、うまくやれば逆ハー出来る、と気付いたミミリアはせっせと彼らを攻略していた。
その中で、ミミリアは大公令息のヨシュアが「ナイトメアモード」で追加された攻略対象者なのではないかと思ったのだ。
ハードモードになると追加される第一王子と公爵令息の友人として登場したヨシュアは、専用にボイスもあったし、立ち絵もしっかりとあった。
これで攻略対象じゃないなんておかしいと思っていたミミリアは、一番顔が好みのヨシュアも攻略しようと決めた。
中々お菓子を食べてくれなかったので、こっそりと飲み物に惚れ薬を入れて飲ませていくと、次第に彼からの好感度も上がっていった。
何故デミレアを知っていたかと言うと、ヨシュアといる時に何度も声をかけてきて邪魔だったからだ。
ゲームでも確かに常にヨシュアと一緒にいるシーンがあったので、ナイトメアモードでの悪役令嬢はデミレアなのだとミミリアは決めつけていた。
確かにミミリアからすればデミレアは悪役令嬢なのかもしれないが、デミレアからしたら邪魔者なのはミミリアなのだとミミリアは全く気付いていなかった。
「本当に人間の決まりなんて煩わしいわ。これを殺すな、だなんて……嫌よ。わたくしには関係ないわ」
前世のミミリアはナイトメアモードをプレイしなかった。出来なかった。
何故なら面倒だったからだ。
イージー、ノーマル、ハードの三つのモードのエンディングを全て見るのだけど、イージーはその名の通り簡単だが、スチルはハードモードの時よりも少ないので、被った部分を何度もプレイするのが面倒だった。
更に、トゥルーエンドやハッピーエンドは見たいけれどバッドエンドをわざわざ見たいとは思わなかった。
なので、自分が楽しいところしかプレイしていなかったのだ。
もしもナイトメアモードをプレイして本当の意味でフルコンプしたプレイヤーであれば、絶対にこの世界でヒロインになろうだなんて思わなかっただろう。
ナイトメアモードはまさに「悪夢」にふさわしい鬼畜仕様だ。ミミリアの予想通り、追加される攻略対象はヨシュアだが、彼のトゥルーエンドは繊細な管理が必要だった。
その一番の要因は婚約者のデミレアである。
デミレアは異常なまでの愛をヨシュアに捧げている。その彼女からヨシュアを奪うのは他の攻略対象よりも遥かに難しい。いや、命の危険があった。
ヨシュアのエンディングはトゥルーエンドかバッドエンドしかない。しかもハッピーエンドやノーマルエンドがない代わりにバッドエンドが三種類という、ただ一つのトゥルーエンド以外は生存出来ない結末しか用意されていないのだ。
一度でも間違えれば容赦なく殺されるため、ナイトメアモードはキラキラ乙女ゲームだけを求めるプレイヤーには向いていないが、逆に難易度が高ければ高いほど楽しめる猛者には大ウケしていた。
トゥルーエンドに行くための条件のひとつにアイテムの使用はしない、がある。アイテムを使うとその時点でバッドエンドが確定するのだ。
ミミリアはヨシュアにも惚れ薬と称した薬物を摂取させた。
その時点でバッドエンドは確定していたのだ。
「わたくしのヨシュアに手を出そうなんて……大した顔でもなければ才能もない。魂は穢れているし……なぁに? ああ、あなた。その器に入っていた魂を食い尽くした忌み子なのね。異なる世界からの襲撃者。なるほど。まあいいわ。わたくしには関係ないもの」
ミミリアがナイトメアモードをプレイしていたならば、デミレアの正体も、彼女に手を出した者がどのような末路を迎えるのかも知っていたはずだった。
「精霊界でその魂、使わせてもらうわね」
デミレアは精霊である。
この世界には精霊が存在しており、時に人の世界にまじることがある。
デミレアは高位の闇精霊で、幼いヨシュアを見初め、人の世界に身を置いていた。ヨシュアはデミレアが精霊であることを知っており、彼女の愛を受け入れていた。
ゲームのトゥルーエンドではヒロインもヨシュアを好きになり、デミレアに認めさせることで彼女が精霊界に戻り、ヒロインとヨシュアが結ばれる。
だが、それは全て自分の力で為さねばならず、アイテムの使用はデミレアが認めるわけもなかった。
死亡率の高さはデミレアがヒロインを認めなかった証拠で、正解はひとつしかなく、その他のひとつでも間違えていればバッドエンドしかないと言うから鬼畜仕様なのだ。
しかもその正解もランダム出現なので選択肢の中に入っていなければバッドエンド直通。だからこその「ナイトメアモード」なのだ。
デミレアはヨシュアを愛し、ヨシュアもデミレアを愛している。相思相愛に割り込むからには覚悟が必要なのに、ミミリアにそんなものは無かった。
この世界の精霊がどれだけ残酷なのかも知らなかった。
自分の気に入った人間にはとことん尽くし優しく、そのまわりの人間にも多少の慈悲を見せる。だが、それ以外は有象無象でしかなく、どうでもよい。
そして己の敵は決して許さない。
それが精霊である。
いたずら好きの妖精よりも遥かに残酷なのが精霊なのだが、ミミリアにそんな知識はなかった。
子供の頃からおとぎ話として、子守唄として、精霊と妖精の恐ろしさは語られているはずなのにミミリアは気にしていなかった。
攻略対象と恋愛ゲームをすることしか考えていなかったミミリアは、この世界がゲームの中にあると信じ込んでいた。
もしもゲームそのままの世界ならば自由行動できるはずもないと気づいていなかった。ここは極めてゲームの世界に似ただけの別の世界だと、気付けなかった。
デミレアが今日この時まで我慢していたのは偏にイリーナのためだった。第一王子とヨシュアは幼い頃から仲が良かった。その為、それぞれの婚約者であるイリーナとデミレアも交流があった。
愛するヨシュアを恋愛対象にしていないイリーナはデミレアと仲良くなろうと微笑ましかった。
最愛のヨシュアの次に可愛いと思えるイリーナが心の奥底で第一王子を愛していたこと。裏切りに悲しんでいたこと。薬物の影響でおかしくなったと知って何故気づけなかったのかと悔やんでいたことを知っていた。
ミミリアを生きて苦しめたいという気持ちはよくわかる。だから数年は我慢した。それでイリーナが少しでもその心を慰められるのならば。
ヨシュアは辛うじて回復してきた。いくら精霊と言えど、薬物に汚染された体からそれを抜き取ることは出来なかったので、ただ寄り添うことしか出来なかった。
ヨシュアは他の七人よりも飲食回数が少なかったからこそ軽度で済んだ。だが、それでもやはり影響はあった。
決してヨシュアが悪い訳ではなかった。焼き菓子は食べなかった。
ミミリアが薬物を混ぜたのは、自分が用意した茶ではなかった。学園の使用人が運んできた茶の一つへ、人目を盗んで薬を落としたのだ。毒見を終えた後に細工されたものだと、誰も考えなかった。
デミレアもまた気付けなかった自分に苛立ちはしたが、情けないと悔やむことはなかった。そこはやはり人間と感性が違っていた。
精霊は人間の魂を捕まえることが出来る。
ヨシュアは死後、魂となってデミレアと共に精霊界へ赴き精霊となる誓いを立てていた。
ゲームのトゥルーエンドではその誓いをデミレアが解消するのだが、この世界のヨシュアはミミリアに薬物中毒にさせられただけで、心変わりなどひとつもしていなかった。
そもそも、本当の意味でミミリアに好意を寄せた人間は誰一人としていなかった。
毛色の変わった野生動物を愛でているだけだったのが、「惚れ薬」などという薬物を摂取させてきたのだ。気付かない内に体をぼろぼろにしたが、心からミミリアを愛したものはいない。
実際、「惚れ薬」を使用したエンディングのテキストが使わなかった時と絶妙に違うことを攻略サイトでは記載していたが、前世のミミリアは読んでもいなかった。
その違いとは、正当に愛を育まずに楽な手段を使ったためか、攻略対象が若くして亡くなったのを感じさせるようなものだという。おそらくは薬物中毒による死亡なのだろう、という考察もあったのだ。
前世のミミリアが考察まできちんと読むタイプならばヨシュアには手を出さなかっただろうし、「惚れ薬」も使わなかっただろう。
全ては手遅れなのだが。
何はともあれ、どう足掻いたところでヨシュアはデミレアのものなのだが、そのヨシュアを穢したミミリアを始末することにした。
イリーナには申し訳ないかな、と少し考えたが、デミレアが気に食わないし、穢れた魂でも使い道があるのでもういいだろうと判断したのだ。
「それじゃあさようなら」
ミミリアを惜しむ気持ちすらなく、すっぱりと首を切断したのはデミレアから見たミミリアが家畜と同じだったからだ。
屠殺した家畜は首から切られ、血抜きのために吊るされていたので、まあそんなものかと思ってデミレアは縄で吊るした。それだけで意味は無い。
一応どんな人間かわかるように首を置いたけれど、そこに意味は全くなかった。
捕まえた魂は精霊界にある穢れを溜め込む場所の浄化用の燃料に使用される。魂が汚れているものを使うのは、それが世界に不要だから。使っても悲しむ者がいないから。それだけだ。
こうしてミミリアは死んだ。
その死を王家が知ったのは偶然だった。
念の為、国内全土を探していた騎士が数年後に訪れ、首を切られた状態で小屋の中に逆さ吊りにされていたことを知った。
共同墓地に葬られても記録はされており、その日付が行方不明になった翌日で騎士は本当なのだろうかと疑ったが、特徴はミミリアそのもので、結局ありのままを報告するしかなかった。
王太子妃となり子供も生まれていたイリーナはその報告を受けて「そう」とだけ頷いた。
元々公的には既に死んでいた女が本当に死んでいた。
遠く山深い北部から、どうやって南部の辺境の村まで一日で移動したのかは分からない。それでも、イリーナはミミリアが死んだという事実を受け入れた。
かつての婚約者たち、薬物中毒の被害者は完全に治った訳では無いが、少しずつ正気になる時間が出来始めたという。
ヨシュアは症状が軽かったこともあり、デミレアと社交の場に出ているのを見かけた。
二人の間に子供はおらず、養子として縁戚の子を後継者として育てているが仲が良さそうでイリーナは安堵していた。
イリーナはデミレアがミミリアを殺したのだと思っている。
誰にも言ったことがなく、本人にも確認はしていないが、デミレアは精霊だとイリーナは気付いていた。
デミレアはヨシュアを愛しているから、ずっと我慢してくれていた。そうしてそろそろ世間が忘れ始め、イリーナも落ち着いたからミミリアを始末したのだろう。
もう気にしなくても良いように。まあ、これはイリーナの想像でしかないが。
デミレアとは今でも交流がある。しかし、二人の間でミミリアの名前は出てこない。そしてこれからも出すことはない。
捜索の中断と国王夫妻への報告、収容所への謝礼などを手配しながらイリーナはようやく一つの区切りがついたのだと小さな息を漏らした。
あれからどれだけの月日が流れただろう。どれだけの人々が巻き込まれ、苦しみ、嘆いただろう。
あの当時は生きて苦しんで欲しいと思った。しかし、今はもう死んでも何も思わない。ただ、もう煩わされることはないのだと、そう思うだけ。
イリーナは静かに窓の外へ視線を向けた。 穏やかな風が庭の花を揺らす。 もう、この件を思い返すことはないだろう。
割とえぐいことしたなぁと思いながら、あまり宜しくない感じですつきりしてます。
デミレアを考えた時点でミミリアの死は決まりました。
精霊は人のルールに従わない。それは私の考える神様系の考えと同じです。
人外種にえげつないことをしてもらいます。




