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6話・青い鳥


「ダニールさん。この時期になるとお婆さんがおかしくなると言っていましたけど、お婆さんがこうなる何か原因でもあるのですか?」

「それは……」


 私の問いかけに、ダニールはため息を漏らした。


「婆ちゃんは誕生祭が来ると、父のことを思い出すのです」

「亡くなられた方のことを?」

「皆にはそう言ってきましたが、実は正確には父は失踪したのです」

「失踪?」


 思いがけないことを聞いてしまったと、ノアールを伺えば彼は首を横に振る。彼も知らない事情のようだ。


「父は腕の良い石工でした。母と婚姻届けを出して三か月ほど過ぎた頃に、興奮した状態で帰ってきて(せい)(きん)さまを見た。これは何かの啓示に違いない。あの人の下で修業をしたい。自分の力を試してみたい。一度でいい。チャンスをくれと、母に言ったそうです」


「青金さま?」


「ラーウル地方では男性は石工を生業としています。青金さまとは、その石工達が敬っている山の神さまです。石工にとって青金さまの目に留まる事は誉らしいです。青金さまにはお抱えの石工たちがいて、彼らは「レジェンド」と、呼ばれ、青金さまの住む宮殿を始めとして、ノースデン山や、花の咲く庭園、魚の泳ぐ川、緑の森や、そこに住む生き物達、家具や衣服など、何でも石で作り上げてしまうそうです。そんな話を聞いて育った父は、そのような神業を持つ石工になりたいと夢見ていたようでした」


「不思議な話ですね」

「ラーウル地方に伝わる昔話のようなものです。青金さまなんて想像上の神さまで、実際にいるわけがありませんよ」


「ダニールさん?」


「母と父は幼馴染で、ラーウル地方の田舎町から王都で一旗揚げたいと夢を抱いてやってきたそうです。二人は子供のころからの付き合いで兄妹のように仲が良く、父は石工の腕を買われて、ある豪商の屋敷に出入りしていたと言います。母はそこのお嬢さまから父と別れるようにと、何度か言われたこともあったそうです。そしてその豪商が他国へ渡る日がちょうど生誕祭で、その日に父は姿を消したそうですから、母は父に裏切られたのでしょう。ちょうどその頃、母のお腹には私がいたというのに。とんでもない男です」


 ダニールは、自分達は父親に捨てられたのだと言った。当時のスターシャさんは、妊娠していた。夫が帰らない中、一人で子供を産み育てる日々は、どんなに辛く苦しかったことだろう。私には想像もつかない苦難が幾つもあったに違いない。

 そんな母親を見て育ったダニールは、父親のことを良く思っていないようだ。私も他人事ながら、妊娠した妻を残し失踪したスターシャの夫に怒りを覚えた。

ダニールは憔悴している母を横目で伺う。スターシャは何も言わなかった。そこへカーチャが戻ってきて、スターシャの膝に何か乗せた。するとスターシャは、ノアールの服から手を放し、それに手を伸ばした。


「青い鳥……」


 スターシャの手の中に青い鳥が収まる。全身青い毛で覆われたその鳥は、黒い円らな瞳が愛らしかった。


「青い鳥なんて珍しいですね。他人慣れしているのかしら?」

「この青い鳥は作り物ですよ。婆ちゃんの旦那さんが作ったものらしくて、石で出来ているそうです」


 感心して言えば、カーチャがこれは石で作られたものだと言った。信じられなかった。スターシャの手の中にいる青い鳥が作り物だなんて。円らな瞳はスターシャをじっと見つめていて、今にも動き出しそうだ。その青い鳥を見ていたスターシャに動きがあった。スターシャは顔をあげた。




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