47話・ノアールの両親はまさかの?
「ノアールさん。失礼ですよ」
「大丈夫よ。いつもわたくしたちはこれが平常だから。ね、ノアール」
見ていてハラハラする。ノアールの腕を引けば、それを見た陛下がうふふと笑う。ノアールが反抗的でも楽しそうだった。ノアールは不貞腐れたような顔をする。彼のそんな顔を見るのは初めてでびっくりした。
「別に強制ではないわ。サーラ嬢と個人的にお話がしたいだけよ。駄目かしら?」
「あ。わたしは全然構いません。でも、その、礼儀とか知らなくて、もしかしたら陛下に対して知らないうちに失礼な態度とかとるかもしれなくて、その……」
女王陛下を前に、うまく言葉が紡げない。言葉が堂々巡りをしている気がする。女王陛下には、誘われて大変光栄には思っている。でも、私は平民として育ってきた。こういったお偉い方々の前に出るマナーとか全然知らないし、登城するとなればそれなりの正装が必要だと聞いたことがある。そんな服なんて持っていないし、登城できるはずがない。これはきっと社交辞令なのだろう。と、思ったら陛下がにっこり微笑んだ。
「あなたが普段、話している言葉で話してくれればいいわ。ここは堅苦しい王宮ではないし、ノースデン山よ。わたくしは休暇を利用して遊びに来た、ただの通りすがりの小母さん。あなたが気に入って、我が家にお誘いした。それだけよ」
「あ、はい。では、そういった機会があれば──」
「嬉しいわ。楽しみにしているわね」
陛下はお忍びできたので、あくまでもこれは個人的なお誘いだと言ってくれた。しかし、我が家って王宮のことですよね? 強引な押しにちょっと引けたが、うっかり本気にすると、とんでもないことになりそうで聞き流すことにした。陛下は自分のことを『小母さん』なんて言ったが、とんでもない。綺麗なお姉さんにしか思えない。
「サーラに変なことを言うなよ」
「そんなに彼女のことが心配なら一緒に来たらどう? 彼女も王宮なんて場所に来たら委縮しちゃうかもしれないから。そうよ、あなたも一緒にいらっしゃい」
「分かったよ」
機会があればそのうちに……と、自分では話を濁したつもりだったが、陛下は乗り気の様で、ノアールにも参加を呼び掛けていた。ノアールはあっさり承諾? これって陛下のお招きに応じることになってしまったのでは? 何で?
「その時は、我も共に……」
「あら。あなたは駄目よ」
「なぜ?」
「サーラ嬢に目移りしたら困るもの」
「そんなことはない。おまえ一筋だ」
「はいはい」
アイオライト公爵も参加したいと言い出したが、そちらは軽くお断りされていた。それにしても陛下と公爵は随分、仲が良さそうに見える。会話だけ聞いていると、まるで恋人同士のような?
「いい年して、みっともない。少しは人目を気にしろよな」
ノアールの声に、陛下は後ろにいる気まずそうなアコダ達と目が合い、恥ずかしそうに俯いた。アイオライト公爵は逆に堂々としている。
「別に番との仲を、息子ごときにとやかく言われたくはないな」
「息子?」
いま、公爵の口からさりげなく、とんでもない事実が飛び出したような? ノアールを見れば苦笑が返ってくる。まさかとは思いながらも、ノアールが公爵や、陛下に遠慮ない物言いが出来るのはそう言う事?
──ノアールは、女王陛下とアイオライト公爵の息子?
緊張のあまり硬直していた体に、それ以上の負荷がかかったようで足元が揺らいだと思ったら、ノアールの驚く顔が目に入った。
「さ、サーラ?」
「サーラ嬢?」
「「サーラ!」」
今日は色々あったせいか、私の許容範囲を超えてしまったみたいだ。意識が遠のくような気がする。薄れゆく意識の中で、最後に目にしたのは皆の驚く顔と、こちらに向かって手を伸ばすノアールと、倒れこむ前に誰かに受け止めてもらえた様な感覚。それがノアールだと良いなと思いながら、私は意識を手放していた。




