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46話・雲の上のお方



「彼はどこに?」

「家族の元へ帰した。心配はない」


 不安が口をついて出ると、公爵と目が合った。この場には我が国の女王陛下と、アイオライト公爵。アコダ夫妻、ノアールと私だけが残された。


「クリュサオル、大儀だった」

「はっ」


 ノアールに合わせて頭を下げると、アイオライト公爵は満足したようだ。公爵は側に控えていたアコダに話しかけた。


「これがジグルドの娘か? 従兄殿?」

「ああ。サーラと言う。18歳になる」

「そうか。意思の強そうなところがジグルドに似ている」

「そうだろう。可愛い姪っ子だ」


 アコダが自慢気に言うのが恥ずかしくなったが、それよりも公爵がアコダのことを従兄殿と呼んだのが気になった。二人の仲は単なる主従関係には見えなかった。とても親しそうだ。


「伯父さん」

「何だ? サーラ」

「あの、公爵さまと従兄弟なの?」

「あれ? 言っていなかったか?」

「聞いていないけど?」


 アコダが竜王陛下の従兄という事は、私の父も竜王陛下とは従兄弟同士になる? 伯父や父が竜人だったってことだけでも、驚きなのにその上、竜王陛下と血縁? 驚きに目を見開く私に、追い打ちをかけるように、もう一人のお偉いお方が話しかけてきた。


「先ほどは素晴らしい歌声だったわ。さすがはセイレーン族ね」

「じょ、女王陛下さま」


 女王陛下は絵姿で姿は知ってはいても、直接言葉を交わすなんて平民の私にとって一生に一度、あるかないかのお人だ。そのお方から褒められた。微笑む陛下は神々しく女神さまのようだった。気を抜いたら卒倒しそうだ。何とかその場に踏み止まって「光栄です」と、言うことは出来た。


「そんなに固くならないで」


 そんなことを言われても、庶民育ちの私にとってこの国の女王陛下は、雲の上のお人。竜王陛下もそうだけど、まさかこのような形で会うとは思わなかったし、どう接していいのか分からない。失礼な態度にならないようにと思えば思うほど、体に力が入って顔が強張っていく。どうしようもなかった。


「そなたの声には、邪を払う力があるようだ」

「まあ、素敵。聖力ね。なかなかこの国では発現する者はいないのに」


 アイオライト公爵がそう言えば、その傍らで女王陛下は少女のように微笑んだ。自ら戴冠の折に国家と婚姻したと、宣言したと言われている我らが女王陛下は、自分の母親たちと同世代と思われるが、若々しく感じられた。


「あなたが気に入ったわ。今度、わたくしのサロンにいらっしゃい」

「えっ? あの」

「無理強いは止めて欲しい。貴方が口にすれば、それは命令と同じになる。嫌でも従わざる得ない」


 女王陛下からお誘いの言葉に、どうすればいいの? と、ノアールに目をやれば、彼は陛下に不躾にも食って掛かっていた。いくら女王陛下直属のクリュサオルだからと言っても、こんな風に陛下に意見していいもの? 助けを求めてアコダ達を見れば二人とも苦笑していた。止める気はないらしい。


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