44話・ブルーノは消えた?!
「うわああああああああっ」
大声を上げる彼の身に変化が起きていく。髪の毛は色落ちしたようにどんどん白くなっていき、体は萎み、顔を覆った手には皺が寄っていく。しばらくして顔をあげた彼は、かなり年を取っていた。お爺さんになっていたのだ。
「どうやら竜胆や緑青は、彼の時間を止めていたようだ」
「どうして、そんなことを?」
「竜胆と緑青は仮の姿をしていた。彼だけが普通に年を取っては、自分達が人外だとバレてしまうからじゃないかな?」
老人となったブルーノは、自分の両手を確認し、その手で顔を摩った。落ち着きのない様子だったが、しばらくして何かを思い出したように言った。
「そうだ。スターシャ! どうして僕は……、いや、わしはスターシャのことを忘れていたのだろう? スターシャはどこに?」
「記憶を取り戻したようだな」
「スターシャって、あなたステパンさん?」
ブルーノの変化に驚いていると、私が口にした名前に反応したようだ。ブルーノは聞いてきた。
「そこのお嬢さん、わしのことを知っているのかね? どうしてここに居るのか分からないが、スターシャのことを知っているのなら教えてくれないか? スターシャは今どこに?」
「ブルーノさん。今までのこと、覚えてないのですか?」
「ブルーノ? 何のお話ですかな? わしはステパンです」
ブルーノは、スターシャがいまだ帰りを待つステパンだった?
「竜胆さんも、リョクショウさんのことも覚えていないのですか?」
「それは誰のことで?」
ステパンは、はて? と、首を傾げた。演技をしているようには見えなかった。
「そんな名前、聞いたこともありませんな。何だか長い夢を見ていた様で、頭も少しぼんやりしていますが。それよりもスターシャはどこに? わしの帰りを待っていると思うのです。早く帰ってやらねば」
ステパンの記憶を取り戻した彼は、今まで共に暮らしてきた竜胆や、リョクショウのことを、綺麗さっぱり忘れてしまったようだった。今までの彼を知る私としては複雑な気分だ。竜胆の共犯者と名乗っていたブルーノという人格が消えて、元のステパンという人格に還った気がする。どう見ても彼は、ブルーノとは同じ人物とは思えなかった。
「今まで魅了されて、竜胆の都合の良いように記憶を書き加えられていたのだろう。だから魅了を解かれて記憶を取り戻した今、ステパンさんにはブルーノとして過ごしてきた日々は消えてなくなった」
ノアールの見解を聞いていて思った。彼も知らないうちに、被害者となっていたようだ。でも、どうしてステパンはノースデン山の崖下で倒れる羽目になったのだろう?




