43話・リョクショウの正体
「……竜胆がわらわを追い出そうとしたからです」
「そんなはずない。何かの誤解だ」
リョクショウは白状した。それを聞いてブルーノは立ち上がった。突然、口を挟んだブルーノに公爵は目を細めた。
「そなたは?」
「ブルーノと申します。この子の父親のようなもので、竜胆とは共に暮らしてきました」
「ふ~ん」
公爵は彼のことも観察するように見て言った。そしてリョクショウに訊ねた。
「これが元凶か?」
「ち、違います」
公爵の眼力には鋭さがあった。言葉一つによっては、その場で制裁が行われそうな勢いがある。
「一応、おまえの言い分も聞いてやる。言いたいことを話してみろ」
「竜胆に独り立ちしろと言われたのです。その言葉が寂しく思われて……。わらわはまだ、竜胆達と一緒に暮らしていたかった。だから──、一緒にいる理由が欲しくて竜胆の本体を傷つけ、萎れさせました」
ノアールの前では太々しい態度でいた彼女は、公爵に対し恐れる気持ちが湧いたようだ。神妙な面持ちで語り出した。
「リョクショウ。嘘だろう?」
「初めは八つ当たりのつもりだったのです。竜胆には何もかも叶わないから、本体の方をちょっと傷つけてやれって、ほんの出来心でした」
ブルーノは、おまえはそんな子じゃないと、彼女を庇おうとしたが、リョクショウは首を横に振った。
「でも、段々竜胆の元気がなくなっていき、寝付くようになってからは怖くなってきました。竜胆は何か察しているようでしたが、責めることもなく黙って最期の時を迎え──、一つの美しい青い魔石を残しました」
「それで?」
「憔悴していたブルーノがそれを見て、魔石を撫でまわし、竜胆と語りかけるようになりました。それを不気味に思いながらも、あの魔石を見れば欲しくてならなくなって、飲み込んだのです。そしたら竜胆のような美しい容姿となり、気がつけばブルーノが側にいました」
「なるほど。魔石が飲み込んだおまえに強い影響を与えたようだ。でも、それは我の物。盗人よ。返してもらうぞ」
アイオライト公爵が指をパチンと鳴らすと、リョクショウの姿が消え、その場に青い石が転がった。それはキラキラと輝き赤子のこぶし大の大きさがあった。その石には何か小さな生き物が、齧り付くように張り付いていた。一匹のヤモリだった。緑青色したヤモリは、キョロキョロとこちらを窺っている。公爵は魔石を持ち上げた。
「緑青よ。今のお前はもう何の力もない。本性の姿で麓の街で暮らすがよい」
そう言って公爵が、魔石についていたヤモリを引きはがすと、ぽいっと宙に放り投げた。小さな姿は一気に消えてしまった。麓の街まで転移させられたのかも知れない。私達を散々困らせた悪女のあっけない幕引きだった。
「あれがリョクショウさん? リョクショウさんってヤモリだったの?」
「この辺りでは、ヤモリを緑青と呼んでいるんだ」
とても信じられない。目を見張る私にノアールが言った。
この付近ではヤモリは、緑青色しているそうで、その色からそう呼ばれているらしい。ノアールはリョクショウという名前から、その本性を何となく察していたようだ。もしかしたらアコダ達も知っていて、知らないのは私だけかもしれないけど驚いた。
横ではブルーノが膝を着いていた。両手で顔を覆い、天井を仰ぐ。今まで共に暮らしてきた者たちが人外だったと知り、かなりのショックを受けていた。
信じられない思いと、そのような者達と平然と暮らしてきた日々が恐ろしく思われてきたのか、喚き出した。




