41話・開き直り
「竜胆もあんたのどこか良かったのやら? あんたの為に竜胆は決まりを破って、結界に穴を開けたり、魅了したりしたんじゃない。そしてそれをわらわの母に目撃されて、脅される羽目になった。このことを青金さまに告げ口されたくなかったら、言うことを聞けってね」
馬鹿だよ。どいつもこいつも。と、リョクショウは呟いた。
「その頃、母さんはさ、懇ろな仲になった若い男がいて、その男がこの山の外の世界に行きたがっていたから、付いて行く気でいたらしくて、子供のわらわが邪魔だった。そこで竜胆に、青金さまに告げ口しないことを条件にわらわを押し付けた」
「それは違う。竜胆に聞いた話では、おまえの母は子沢山で育てきれないからおまえを預けたのだと……」
「それは竜胆が嘘を付いたのさ。竜胆はあんたに真相を知られたくなかった。あんたってお人よしだから、自分のせいで竜胆がこの山の決まりを二つも破ったと知ったなら、責任を取るなんて言い出しかねないから」
ノースデン山では、結界破りと魅了は禁忌だったようだ。そうだろう? と、リョクショウは、ブルーノを見た。彼は黙ってしまった。私はその話を聞いていて、胸が詰まるような気がした。実の母親が我が子を邪魔になったからと他人に押し付けるなんて。彼女が竜胆と暮らし始めた背景には、そんな事情があったとは思わなかった。
「石工達を魅了したのはどうしてだ?」
「……ブルーノがいつまでも、竜胆に執着しているのが我慢できなくなったのよ。竜胆はもう亡くなったのに。顔を見ていると腹立たしくなってきて、竜胆を思わせるものを全部壊してやりたくなった。だからわらわの手足となって動く即戦力が欲しくなった。全てわらわ好みの物で埋め尽くしてやりたくなったのよ」
ノアールの問いに、彼女は不貞腐れたように答えた。ブルーノにとってリョクショウは娘のような存在でも、彼女にとってはそうではなかった。彼にそれ以上の関係を求めていたように私には聞こえた。そのままならない思いが、歪んで暴走してしまったように感じられた。
「それで屋敷や、道を彼らに作らせていたのか?」
「はい」
「孔雀石にこだわった理由は?」
「わらわが好きだから」
「石工達にはどうやって接触した?」
「たまたま結界の穴が開いている洞窟から麓の街に降りた時に、仕事が無いって愚痴っている石工を見つけたのよ。何人か同じようなことを言っていたから、ちょうど良いと思って。魅了したらわらわのいう事を聞いてこの山に来たわ。後はあんた達が知っている通りよ」
「昨日の話では、おまえは結界の外に住んでいる者を、この山の中に引き入れてはいけない事とは良く分かっていなかったような話しぶりだったが、魅了までして連れて来たとなると話は変わってくる。分かっていてやったことになるが?」
「バレたなら仕方ないわね。そうよ。知っていてやったわ。泣いて誤魔化せばどうにかなるかと思ったけど駄目ね。魅了にも引っ掛からない男だもの」
リョクショウは、開き直った態度を見せた。
「で、わらわはどうなるの? 牢屋に入る? この山から追放? どうせ青金さまの裁きがあるまで待たされるのでしょう? さっさとしてよね」
「ではこの場で沙汰を下してやろう」
突然上がった声に振り返ると、美麗な男性とそれに負けず劣らず圧倒的な美女がいた。その後ろにはアコダとカルロッタが控えていた。アコダ夫妻が控えるぐらいのお方となれば当てはまるのは限られる気がした。




