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40話・竜胆はあんたを魅了した



「あんたってば、竜胆、竜胆。煩いのよ。竜胆が亡くなってから、竜胆を見習ってそればかり」

「……!」

「あんただって、竜胆に誑かされた口じゃない」

「何だと?」

「あんた、考えたことなかったの? わらわがどうして魅了の力を使えるようになったのか、不審に思ったことある?」

「どういう意味だ?」


 リョクショウは、憐れむ目をブルーノに向けていた。


「わらわは竜胆が亡くなってから、体から出て来た魔石を飲み込んだことで、彼女の記憶を引き継ぎ、彼女が使っていた力も扱えるようになった」

「危惧していたことが起こっていたか」


 リョクショウの言葉に、ノアールが呟く。その声を拾った私は聞き返した。


「ノアールさん。どういうこと?」

「竜胆は青金さまに作られた存在だ。彼女には青金さまの力を込めた魔石を与えていた。その魔石から力を得ていた竜胆は、色々と術を扱えるようになっていたのだろう。だから本来ならば、生命力が失われた時点で、ロージイが拾い上げて青金さまの元へ戻すことになっていた」

「だからなのね? 竜胆が亡くなって、後継者がリョクショウになったと聞いたロージイが、慌てて青金さまにどういうことなのか問い合わせようとしたのは?」

「ロージイもそんなことになっていたとは、知らなかったみたいだからな」 

「でも、竜胆さんは作られた存在なのに亡くなるの?」

「元は竜胆の花だ。その本体が枯れるか、根腐れすれば生命力は無くなる」


 私達が話し込んでいた間に、リョクショウは衝撃的なことを、ブルーノに告げていた。


「つまり、竜胆はあんたに魅了の力を使ったのよ」

「──!?」


 その言葉に唖然とした。魅了をリョクショウだけではなく、竜胆も使っていた? ノアールは信じられない顔をする。私は竜胆に一度も会ったことはないけれど、ノアールやアコダ達の話から推測するに、その竜胆は皆に信頼されていたように思えた。


「竜胆はね、あんたの何に興味を惹かれたのか分からないけど、怪我をして倒れていたあんたを魅了して、ここまで連れてきた。そして死ぬまで側に居させた」

「嘘だろう? 僕が魅了されていた?」


 今まで押し殺してきた感情をぶつけるように、リョクショウは言い放った。自分が長いこと魅了されていたと知ったブルーノは、顔面蒼白になっていた。


「本当に……?」

「信じたくないでしょうけど、本当よ。竜胆が死んで一度、あんたはパニックになった。多分、竜胆の魅了の力の効力が切れたのだと思う。そこへわらわが上書きで魅了したのよ」


「嘘だ」


「嘘じゃない。いい加減認めなよ。薄々感じていたんじゃないの? 竜胆とわらわが他の人間とは違うことに」

「何を言っているんだ? 竜胆はこの山の管理人として少し魔法が使えるだけで、人間とそう変わりなかった。きみだってそうだ。不思議な力が使えるだけで……」


 ブルーノは真っ先に否定した。彼は竜胆や、リョクショウが人外だとは認めたくなかったのだろう。


「僕には記憶がない。記憶を取り戻した時に、自分達と暮らしたことを忘れるだろうと竜胆は言っていた。竜胆とはただの同居人でも、きみを含めて三人で家族のように思ってきたんだ。きみのことは娘のように思っている。そんな嘘はつかないでくれ」

「よく言うよね? 三人家族?」


 リョクショウは、悪態をついた。ブルーノは彼女のそんな態度に信じられないような顔をしていた。今まで彼にとっては、多少我儘を言っても可愛い娘のような存在だったリョクショウが、このように直接、非難してくることはなかったのだろう。


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