35話・洞窟に結界の穴があった?
「あの、ちょっといいですか?」
皆の目が向く。私は大きく深呼吸をしてから聞いてみた。
「リョクショウさんは、石工の皆さんをどこから山に入れたのですか? 結界が張られている山に石工達を招くにしても、あなたは結界など知らないと言っていた。結界の存在を知らないあなたは、どこから彼らを引き入れたのですか?」
「洞窟から皆を招いたよ」
やはりそうかと思った。彼女は結界の存在を知らないと言いつつも、ブルーノに向かって洞窟から出るのは良くても、そこから人を招くのはどうしていけないのかと聞いていた。彼女は何も知らされていなかったようだ。
「その洞窟に結界の穴があったのですね? ブルーノさん。ひょっとして結界の穴と洞窟を結び付けていた?」
洞窟を通ってノースデン山に行けるようにしていたのかと、彼を見ればブルーノは黙っていた。でも、そうなると誰が結界の穴をそこに開けて、洞窟を通って山の中に入れるようにしたのかということになるけど、リョクショウではない気がした。彼女は見た目と中身が伴わない大人のようだ。結界に穴を開けるほどの力があるようにも思えなかった。そうなると──?
「竜胆さまが結界に穴を開けたのですね? ブルーノさん。あなたはそれを知っていたのではないですか?」
「──!」
私の言葉にアコダ達が目を剥く。まさかと言いたげだった。竜胆は皆に信頼されていたようだし、そのような禁忌を犯す者には思えなかったのだろう。
「これは私の憶測にすぎないのですけど、あなたは以前、崖下で倒れて気を失っていたのを竜胆さまに助けられたことがあったと聞いております。その時、竜胆さまは結界の向こう側で倒れているあなたを発見し、見過ごせなくてあなたをノースデン山に引き入れたのではないですか?」
じっとブルーノを見れば、彼は一瞬、目を泳がせたが観念したように認めた。
「その通りです。彼女は面倒見の良い人ですから、きっと放っておけなかったのでしょうね。山の結界を破って外に出た彼女は、私を洞窟へと案内しました。それから彼女の屋敷に治療も兼ねて滞在させてもらっていました」
「あなたにとって竜胆さんは命の恩人のような者だった?」
「はい。それと同時に共犯者となりました。後に親しくなった竜胆から、結界に穴を開けるのはご法度だと教えられました。結界に彼女が穴を開けたのは、私を助ける為です。この子にも何も伝わっていなかったのは、私がちゃんと教えなかったせいです。どうか、お咎めがあるのならば私だけに……。どうかお願いします」
「駄目よ。ブルーノ。ブルーノは何も悪くない」
「このことは、この山の所有者である青金さまが判断される。それまで二人で大人しく屋敷で謹慎しているのだな」
ノースデン山にかかっている結界に穴を開けたのは竜胆で、その穴=洞窟を利用して石工を招いていたのはリョクショウだと判明した。ブルーノは罪を認めたが、その処遇を決めるのは自分達ではないと、ノアールは言った。
ノースデン山に住む妖精や、生物が山の外に興味を持ち、外に出るのは許されているのでそれは問題なさそうだが(ロージイもハヤブサに乗ってやって来たし)、ただノースデン山に関係のない者を勝手に招くのは許されていない。
恐らく青金さまは、妖精界を追われたロージイ達を、害する者が勝手に入り込まないようにそういった処置をしていたのではないかと思われた。その恩恵を受けて他の生き物も無駄に命を狙われることもなかったように思える。
これでこの一件は解決したように思われたが、翌日思わぬ出来事が起こった。




