34話・どうして結界の外の者を招いてはいけないの?
「やだ。どうしたの? そんな怖い顔をして」
「おまえはこのノースデン山が誰の物なのか、分かっていないのか?」
「知っているわよ。青金さまでしょう? でも、どうして結界の外の者を招いてはいけないの? わらわは困っている人を助けただけだもの。青金さまが知ったら褒めて下さるわ」
「ふざけるな。おまえ、本当に竜胆から後継者として認められたのか?」
「やだ。怖い。ノアールさま。怒ったの?」
「おまえがしたことはいけないことだ。青金さまが決められたことを勝手に破った。その上……」
「やだ、やだ。怒らないで。次からはもうしないから……。ね、許して。ノアールさま」
リョクショウはノアールが怒ったのを見て、体を震わせた。目には涙が溜まっていく。その彼女を見ていたら、成人女性の割には言動に幼さが感じられた。見た目は自信に満ちた謎めいた美女と言った感じの美女なのに、外見と中身が一致しないような、ズレを感じる。彼女はぐすぐすと泣き出した。
「これは泣いても許されないことだぞ。処罰対象と見做される。どんな処罰になるかは青金さま次第になるが」
「そんなこと言わないで。もう絶対しないから」
「およしなさい。みっともないですよ。いい年をした女性がめそめそと泣くのは」
泣き出した彼女を見て、カルロッタが呆れたように言う。私も同意する。ノアールとアコダもやれやれと当惑していた。そこへ玄関に誰か来たようで「すいません」と、声がした。皆、リョクショウに注目している。わたしは一言、カルロッタさんに「玄関を見てきますね」と、言ってその場を離れた。玄関にはブルーノがいた。
「すみません。こちらにリョクショウが来ていないでしょうか?」
「ブルーノさん。あ、来ていますよ。中へどうぞ」
ブルーノを連れて、応接間に戻るとまだ、彼女はシクシク泣いていた。呼びかけられたリョクショウはパッと、顔を上げた。彼女は自分の味方が来たと思ったに違いない。ブルーノを期待した顔で見た。
「リョクショウ」
「ブルーノ。この人達、酷いの。わらわがしてきたことはいけない事だって言うの」
ブルーノは、幼子のようなもの言いに呆れた顔をしているアコダ夫妻や、ノアールの様子を見て何か悟ったようで聞いてきた。
「申し訳ありません。リョクショウが何かご迷惑をおかけしたのでしょうか?」
「リョクショウは、ノースデン山に勝手に人を招き入れた」
「意味が分からないのですが?」
ブルーノは首を傾げる。
「ノースデン山は、青金さまがお住まいになられている山だ。それは知っているか?」
「はい。存じております。竜胆から絶対的な支配者だと聞かされておりましたから」
「その青金さまはノースデン山に結界を張っている。つまり青金さまの許可がない限り、外からは勝手に山に入ることは出来ない」
「では、あなた方は──?」
「勿論、青金さまの許可を得ている」
「そうでしたか。もしかして石工達の事でしょうか? あの者達は勝手に押し寄せてきたので……」
「貴殿はそう思いたいのだろうが、違うようだ。リョクショウが言うには、仕事が無くて困っている石工達に、自分の所で働けばいいと提案したようだ」
リョクショウを庇うような発言をしたブルーノに、ノアールが真実を告げると、ブルーノは顔色を変えた。
「リョクショウ。何て勝手なことを……! 石工が求婚して勝手に押し掛けてきたと言うのは嘘だったのですか? あなたが彼らを招いたのですか?」
「だって、わらわは人助けをしただけ。それなのに人を呼んだだけで怒られるの? あの洞窟から外には出ても良いのに、その逆はいけないだなんておかしいじゃない?」
「そういう決まりだと、あれほど言って聞かせていたではないですか」
「だって──」
二人の発言を聞いていて、気が付いたことがあった。




