26話・伝説の石工の正体は
「私達の住む集合住宅は、もともとこのロージイ達の住まいから発想を得たものなんだ。王都に住む貴族たちは、王都や領地に屋敷を持って、シーズンごとに行き来するのが面倒だというものや、年を取ってくると華やかな王都暮らしよりも、領地に帰ってのんびり暮らしたいという者が多くてね、王都にある屋敷を手放す者が出て来た。それを偶然にも手に入れることになって、無人にしておくのは勿体ないと思ってね。どうしたものかと思っていたら、ロージイ達の住まいを見て、賃貸の発想に思い当たった」
「さすがノアールさんですね。凄いです」
「それほどでもないと思うが……。結果としてうまくいった方だと思う」
ノアールは謙遜していた。私が彼だったなら、ロージイの家に来ても、そのような考えには至らないと思う。
「ロージイさんの家も、素敵ですよね。天井や壁、床などキラキラしていて、まるで宝石箱の中に入り込んだみたい」
「ここは地下にあって、天井も壁も床も全部オパールで出来ています」
私が感心して周囲を見渡すと、チムが教えてくれた。
この家は私達が暮らしている所とそう変わらない造りをしていた。柱や壁は建築したように見えるし、これが掘って作られたものだとは思えなかった。
「凄い技術」
「ロージイ達は伝説の石工だからな」
ため息を漏らすと、アコダが言った。
「レジェンド? それってこの地方で有名な? 青金さまお抱えの石工?」
「わしらの先祖はその昔、当時の妖精王から嫌われて追放されたのじゃ。住む所を求めて彷徨い続けていた所を、青金さまに拾われて、このノースデン山に住むがよいと許可をもらった。そのおかげでわしらは不自由なく暮らせておる。そのことに感謝して青金さまにお礼として何かしら献上しておるのよ。今は妖精王も代変わりしたようじゃが、わしらは一度受けた恩は忘れることはない」
「じゃあ、お話に聞く、花の咲く庭園、魚の泳ぐ川、緑の森や、そこに住む生き物達、家具や衣服など、何でも石で作り上げてしまうのは本当の話?」
「ああ。何でも作れるよ」
石工の憧れるレジェンドとは、ロージイ達、ノームのことだった。ロージイ達がレジェンドと言われるのには納得した。石工達が憧れ、そこまでなりたいと思われている「レジェンド」が、彼らだったなんて知ったら、先ほどウェデルに対して失礼な態度を取った男たちはどう思うだろう? そう思う頭の方隅で、あることが気になってきた。
「ロージイさん達は、人間の弟子を持ったことはある?」
「わしらは弟子を持つことはない。子供たちもそうじゃ」
「じゃあ、青金さまに魅せられてあなた方に近づきたいと接触してきた人はいない?」
「おらんな。人間がわしらに会いに来たことなどない」
「そう」
「それが何か?」
「知り合いのパン屋さんのお父さんなのだけど、腕の良い石工だったらしく、奥さんと結婚したばかりだったのに、ある日青金さまを見た。これは何かの啓示に違いない。あの人の下で修業をしたい。自分の力を試してみたいと言って家を出て行ったそうなの」
「いつぐらいのお話で?」
「奥さんのお腹にいたお子さんが今はパン屋のご主人をしているから、三十年か、四十年位前? の話だと思う」
「ほほう。初めて聞く話ですじゃ。青金さまはあまり人前に姿を現さないお方じゃ。その者が見たのは、果たして青金さまが微妙なところじゃのう」




