20話・孔雀石ばかりが狙われる
帰りに森を通りかかると、岩を叩いていた男の姿は消えていた。その代わりに小さな小人たちが数名群がっているのが見えた。その中にはロージイもいた。
「ロージイ」
「坊ちゃん」
ノアールが声をかけると、小人たちは驚いたようにその場から散り散りに姿を消した。ロージイだけが一人残った。ロージイは『坊ちゃん』呼びを止める気になれないようだ。ノアールも指摘するのは諦めたのだろう。何も言わなかった。
「何があった?」
「また、我らの仲間の住処を壊されました」
「住処?」
そこには大きな穴が開いていた。その穴を覗き込むと、その中には小さなテーブルや、椅子などが見え、柱や窓らしきものがあるのも見えた。まるでドールハウスの中を覗き込んだような感じだ。ノームが住んでいる家の中のようだ。私の疑問に答えるようにノアールが言った。
「この山に住むノーム達は、お気に入りの鉱石を見つけると、その中を切り抜いて住処を作る。ここにあった鉱石を掘り出した者は、そのことまで気にかけてないようだ」
「さっきの人ですよね?」
「周りがよく見えてないのだろうな」
ノアールの言葉で、先ほど鉱石を叩いていた若者を思い出した。ロージイはため息を漏らした。
「奴らは根こそぎ持っていくのです。それも何故か孔雀石ばかりを」
「孔雀石だけ?」
「はい」
ロージイは奴らと言った。つまり孔雀石を狙って掘り起こしていく犯人は、さっきの若者だけではないようだ。孔雀石を掘り出して何を──と、思えば、一人の女性の姿が頭の中に思い浮かんだ。
「奴ら石工は、孔雀石を掘り起こしてそれを持ち帰るのじゃ」
「あの男は石工だったか……」
ノアールの言葉に、ハッとした。もしかしたらあの男は、いなくなった石工の一人だったかも知れない。お貴族さま所有の山に、立ち入る者なんていない。いるとすればいなくなった石工ぐらいなもの。どうして見過ごしてしまったのだろう?
「あの男に聞けば良かったな。どうしてこの山に来たのかと」
「それなら狙いはハッキリしているじゃないか」
失敗したと言いたげなノアールに、アコダが言う。
「リョクショウという女の為だろう? あの男は、この山はリョクショウの許可がなくては入れないと言っていただろうが」
「リョクショウ?」
「何だ、ロージイ、知り合いか?」
リョクショウと言う名前が出ると、ロージイはどこかで聞いたような?と、首を傾げ、思い当たったかのように言った。
「ああ、竜胆の拾い子か?」
「拾い子?」
「竜胆が20年位前に拾った子じゃ。名前はリョクショウと名付けたと言っておった。最近、竜胆にはあっておらぬが元気にしておるかのう?」
「ロージイも知らないのか?」
「何の話ですじゃ?」
「その竜胆だが昨年の秋に亡くなったとリョクショウが言っていた。それで竜胆の代わりに山の管理人を務めているそうだ」
「そんな馬鹿な! 竜胆が死んだ? リョクショウが山の管理人? 何も聞いておりませんぞ。青金さまを問い質さなくては──」
「ロージイ。待てっ」
今にも飛び出していきそうなロージイの首元を、ノアールが掴んだ。




