2話・何かあったらどうするの?
ノアールに手を握られて、気が付いたことがあった。当たり前のことだけど彼の手は自分よりも大きかった。自分の手が彼の大きな手に包まれている。それがちょっとだけ恥ずかしく思うと、誰かの視線を感じた。彼と手を繋いで歩き出す私の耳に、周辺の若い女性たちの声が聞こえてきた。
「あの人、素敵」
「あなた、声かけてきたら?」
「駄目よ。ほら、連れの人がいるわ」
数名の若い女性たちはノアールに注目していたようだった。サラサラとした濃紺色の髪に琥珀色の瞳を持つ彼は、息をのむほど端正な顔立ちをしている。そんな彼と手を繋いでいる私を見て、粉をかけようとしたのを止めたようだった。
「な~んだ。彼女がいるのね」
「残念ね」
彼女達には、私がノアールの彼女だと誤解されたようだ。そのような事実はないけれど、わざわざ彼女達のもとへ行き、誤解を解く筋合いもないかと歩みを進めた。
「先にどこ行こうか?」
「屋台が見たいです。沢山出ているのでしょう?」
「じゃあ、中央広場に行こう」
ノアールと一緒に歩いていると、方々から視線を感じた。若い女性達の視線を彼が集めているのだ。でも、ノアールは一向に気にした様子がなかった。そればかりか背の高い彼が身を屈めて、「サーラ、どうした?」なんて聞いてくるものだから、彼との距離が近すぎてドキドキした。
「そう言えば、伯父さんは奥さんに会えたかしら?」
「職場まで迎えに行ったと思うから、大丈夫だと思う」
王都に来て知ったことだけど、アコダの妻は女王護衛官を務めていた。王宮には王宮護衛官という警護の者たちがいて、王宮の警護はもちろんのこと、王族の護衛をしている。そのなかでも女王護衛官は特殊で、女王陛下の常に側に付き添い、何よりも女王の身の安全を優先する立場にあると聞いていた。陛下が女性ということもあり同性の護衛官が選ばれがちで、アコダの妻以外にあと二人いるそうだ。でも、その他の女王護衛官も誕生祭では休暇をもらうことになるらしい。
「女王護衛官が揃って休暇を頂いて大丈夫なの? もしも、何かあったりしたら……?」」
「大丈夫だよ。その間は最強の護衛がやってくるから」
「最強? 伯父さんの奥さんもかなり強いのでしょう?」
私の伯父のアコダは竜人だ。その妻も竜人だと聞いていた。アコダもその妻も竜人の中でも特に武術に優れていて、アコダの妻は竜人族の王の推薦を受けて、女王の専属護衛になったとアコダから自慢のように聞かされていた。
朝からそわそわしていたアコダを見ていただけに、伯父が奥さんと会うのを邪魔しようとは思わないけれど、ただ、女王陛下の誕生祭という日に、護衛官達が皆離れていいのかと疑問には思う。何もなければいいが、何かあったらどうするのだろう?
「まあ、陛下にも色々あってさ。皆が邪魔しないようにしているのさ。さあ、あそこに美味しそうな串焼き屋台が出ている。食べる?」
「あっ。食べたい。烏賊と牛肉の種類があるのね」
女王陛下直属の捜査官であるノアールは、何か知っていそうだ。彼の発言の中にあった、邪魔しないようにと言う言葉は気になったが、彼はその件に触れて欲しくなさそうだった。話題を変えるように屋台へと促され、そちらに気を取られて自分が言おうとしていたことは、どうでも良くなってしまった。




