18話・あなたはどなたですか?
「あなた、どなたですか?」
「わらわ? わらわはリョクショウ。おまえは?」
「わたしはサーラです。ノアールさまは嫌がっておられます。その腕を放して頂けますか?」
「なぜ?」
「相手が嫌がっているのを無理強いするなんて。失礼ですよ」
「嫌ですの?」
「承諾も得ず飛びつかれて喜ぶ者はいないと思うが?」
彼女はノアールに不機嫌そうに言われて腕を放した。それでも上目遣いに彼を見上げる。そこにあざとさのようなものを感じた。ノアールは、絡まれた腕を汚れでも払い落とすように叩いた後、私の隣に並んだ。その時、彼から香水とは違う、香木のような匂いがした。彼女が衣服につけた匂いの元が、腕を取られた時に移ったのだろう。あまりよく思えなくて、私も彼から伝わってくる匂いを払い落とすように、思わず彼の服を叩いてしまった。
「あ。ごめんなさい。その、嫌な気がして……、その匂いが」
「俺もこの匂いが臭くて嫌な気がしていた。気にしなくてもいい」
自分で言っておいてなんだが、うまく説明できなかった。ノアールはそれでも私が言いたいことを察してくれたようだ。叩いただけだが、妙な匂いが霧散した気がする。視線を感じて顔をあげれば、こちらを睨むリョクショウと目があった。
「あの人、ノアールさんのことを青金さまと呼んでいましたが──」
「人違いだろう」
ノアールが青金という人と勘違いされるのは、これで二度目だ。偶然とは思えない。それなのにノアールは人違いだと言ってのけた。そこに違和感のようなものを覚える。
──青金さまって、ダニールさんの言っていた青金さま? 石工達が信じていると言う?この山の神さまの?
疑問が増えていく。ダニールは実際には存在しない山の神さまだと言っていたけど、実は存在したりする? 私達人魚や、竜人のように?
いくら初対面とはいえ、存在しない人を、ノアールになぞらえて呼びかけたりするだろうか? やはりその青金は存在するような気がする。その青金にノアールが似ていなければ、間違えるようなことはないはず。
じっとノアールを見れば、彼は目を逸らした。ノアールはそれ以上、青金について触れて欲しくなさそうに見えた。ノアールにとって「青金」とは禁句だったのか、彼はリョクショウを睨みつけた。彼からまさか、そのような態度を取られるとは思いもしなかったのだろう。リョクショウは当てが外れた様な顔をしていた。ひょっとしたら今まで、彼女が言い寄れば、大抵の男性は好意的な態度を取って来たのかも知れない。
「リョクショウとやら。おまえは何者だ? ここはアイオライト公爵家が所有する山。許可なくここにこのような住まいを構え、何を企んでいる?」
「企むとは人聞きの悪い。わらわはお館さまに頼まれてこの山を守ってきた」
「お館さま?」
「竜胆さまじゃ。わらわは親に捨てられたのをお館さまに拾って頂いた。お館さまは、わらわの育ての親。そしてわらわはお館さまの後を継いだ」
「竜胆の後を継いだ?」
「そうじゃ。後を託されたのじゃ」




