10話・もう二度と御免です
──もう少し、楽しみたかったな。
「怖い?」
「はい。ちょっと……」
「勇気を出してちょっとだけ目を開けてもらえる? 下に綺麗なものが見えるのよ」
怖くて震える私にカルロッタが聞いてくる。怖いけどちょっとだけ勇気を出して目を開けると、下を見ろと言われて恐る恐る目をやった。すると明かりが彩る街並みが見えた。
「綺麗……」
夜空から見た夜景ってこんな感じなんだと、魅入っていると、その連なった明かりが段々、数を減らしてポツポツとなって行き、寂しくなったと思えた頃に「もうじきだぞ」と、アコダの声がした。初めての飛行なので、降下の際は慎重にしてもらえるかと期待したのに、気遣いはなかった。
ガクンと降下する気配を感じで身構えると、いきなり加速する。
「きゃあああああああああっ」
悲鳴を上げる私をカルロッタがしっかり押さえてくれていた。気が抜けそうになった頃に動きが止まり、私はカルロッタに抱き上げられて竜の背から降りた。カルロッタから地面にそっと下ろされたが、まだ足元が頼りなく思える。ふらつくと「大丈夫か?」と、ノアールが体を支えてくれた。
「驚いたか? サーラ。凄い悲鳴だったな。いでっ」
「やり過ぎよ。サーラちゃんのように可憐な子は、我々と違って体の作りが華奢なのだから加減しなさい。もう、この体力馬鹿っ」
「分かったよ。そう怒るなってカルロッタ。悪かったな、サーラ」
カルロッタは竜の姿から人間の姿になったアコダのもとへ駆け寄り、拳骨をお見舞いしていた。アコダは涙目になって謝ってきたので許してあげることにした。でも、もうアコダの背に乗るのは嫌だと、ノアールに言っておくことにした。
「ノアールさん。帰りですがまた伯父さんの背に乗るの?」
「いや。いくら時間がかかろうとも馬車で帰ろう」
「その方が良いです」
ノアールも私の声音で気持ちを察してくれたのか、帰りは馬車で帰ることを約束してくれた。
「初めは低飛行から初めて慣らしていくものだけど、急過ぎたからね。済まない。私も強く止めればよかった」
「本当ですよ。もうあのような急激な移動は御免です」
でも、そう言いながら伯父さんの背から見た夜景は綺麗だったなと思った。それでも、これとそれとは別の話だ。伯父さんの荒い移動には慣れそうもない。今回のことで思ったが、アコダは行動が雑な人なのかもしれない。
私をハムスターにした時も承諾なく勝手に行って、その後のケアも怠っていたし。カルロッタに叱られているアコダを見て、可哀そうには思えなかった。
「いつものことだから、あの二人は放っておいていいよ」
アコダ達を見ていたら、ノアールにはアコダを心配しているように思えたようだ。彼は荷物を持って歩き出した。その中には私の分もある。
「私、持ちますよ」
「いいよ。これは私が持つよ。男性が女性の荷物を持つのは当然だからね」
雇い主であるノアールに荷物を持たせるなんてとんでもないと思っていたのに、ノアールにそう言われてしまった。手持ち無沙汰で彼の後を追うと、石造りの建物にたどり着いた。そこは領主館で、しばらくここでお世話になるらしい。
「この領主館は町外れにあって、裏手に問題のノースデン山がある。領主館は無人だと聞いていたんだが……」
領主館には明かりがついていた。中に誰かいるのかも? と、思っていると、外に老齢の夫婦が出て来た。私達を見て話しかけてきた。




