巫女は勇者の街を訪れる
「ここが勇者の街・・・」
【勇者の街予定地】
そう書かれた看板の前に1人の女性が立っていた。女性は辺りを見渡し誰か居ないかと確認する。しかし、建物はあるのに人の気配がしない。
「すみませーん。どなたか居ませんか?」
「・・・・・」
女性が叫ぶも返事がないため、仕方なく街の中に入ってみる。いくつかの建物の中に【勇者の屋敷(仮)】を見つけドアをノックする。
【コンッコンッ】
すると、中から女性の声がしてドアが開く。
【ガチャ】
「はーい。どちら様ですか?」
「すみません。こちらに勇者アギトさんが居ると聞きお尋ねしたのですが。」
「あなたは?」
「あ!すみません、申し遅れました。私はハツネと申します。以前、アギトさんに私の母を救っていただいたものです。」
「ふ~ん。そう、私はアリス。この国の第3王女で、今はアギトのサポートをしているわ。それでそんなハツネさんは何の用かしら?」
「はい、その時のお礼を兼ねて微力ですが私の力をアギトさんの掲げる魔王討伐のお力になりたいと探しているんです。」
「なるほどね。でも残念ね、アギトはここには居ないわ。今はロックフォールに行っているのよ。」
「ロックフォールに?」
「ええ。アギトはね、クランを立ち上げたの。それで今は、仲間を集めにロックフォールで活動しているのよ。」
「そうなんですか・・・。」
「ちなみになんだけど、あなたの職業は何?」
「わ、私ですか?私の職業は【巫女】です。主に札を使い、攻撃、防御、サポートが一通り出来ます。」
「巫女?そんな職業聞いたことないわ?本当なの?」
ハツネは冒険者の証をアリスに見せる。
「どうやら巫女というのは本当のようね。で、どうするの?アギトを探しにロックフォールに向かうの?」
「そうですね。ここで待つのもいいですが、少しでも早くアギトさんと合流したいのでロックフォールに向かいたいと思います。」
「そう。なら少し時間をいただけないかしら?アギトと合流してもあなたが足手まといじゃ合流する意味ないもの。その為にあなたの実力を見せてちょうだい。場合によっては、アギトとの合流を認めるわけにはいかないわ。」
「わかりました。」
アリスとハツネは、敷地内の何もない場所に移動してハツネの実力を見る。一通り、札による戦い方を確認するアリス。
「あなた、今までにモンスターや人間と戦った事はある?」
「いえ。まだないです。」
「ならダメね。正直言ってこの程度じゃ、アギトの足手まといにしかならないわ。しばらくライザでクエストをこなすことね。」
「そ、そんな・・・」
「ごめんなさいね。でも仕方ない事なの、アギトはね今左腕が使えないの。呪符による呪いで全く動かないのよ。その状態であなたと合流したらアギトの負担が跳ね上がるだけ。アギトをこれ以上危険な目には合わせることは出来ないの。」
「呪符による呪い?」
「ええ。以前、アギトは魔王軍の四天王と対峙したことがあるの。その時にね、一緒にいた冒険者の女の子を庇い左腕に呪いを受けた。その時から、左腕に呪いがかかり全く動かなくなったの。その呪いを解くための方法を探そうにしても、まだ戦力が全然足りないのよ。私も、一応は冒険者だけど低級魔法しか扱えないし。」
「それで今、ロックフォールで仲間を集めているんですか?」
「その通りよ。もし、あなたがアギトと合流したいのであればもっと経験を積むことね。例えば、そう冒険者ランクを最低でもCランクにする事。」
「Cランクの冒険者・・・」
「そうよ。それでやっと冒険者としての見習い期間が終わるわ。Cランクの冒険者に成れたのならアギトとの同行を認めてあげる。」
ハツネは自分の手を強く握りしめた。
今の自分では、まだ届かない場所。
守られる側でしかない自分。
悔しさが胸を締め付ける。
だが・・・それでも。
「わかりました。必ずCランクの冒険者になってアギトさんのお力になれるようにします。」
ハツネは顔を上げ、真っ直ぐにアリスを見つめた。
その瞳に迷いはなかった。
「必ずCランクの冒険者になります。そして――今度は守られる側ではなく、アギトさんを支えられる存在になります。」
その言葉を聞いたアリスは、一瞬だけ驚いた表情を見せる。
だがすぐに、王女としての威厳ある表情に戻った。
「……ええ。期待しているわ。」
それは試す者の言葉であり――
同時に、未来の仲間へ向けた言葉でもあった。
ハツネは深く一礼すると、踵を返した。
目指す先はただ一つ。
冒険者ギルドのある街――ライザ。
勇者の隣に立つ資格を得るために。
母の命を救ってくれた恩人の力になるために。
そして――
いつか、その背中を守るために。
こうしてハツネは、Cランク冒険者になるべくライザでクエストをこなすのであった。
まだ見ぬ未来で、再び勇者と並び立つその日のために。
母の命の恩人の目的に手を貸すべく・・・。




