勇者は初めて他の転生者に出会う
ガイとメイが、アギトの元を離れ冒険者として旅立ち、丁度1ヶ月が経ちアギトの処分が終わりを告げた日。
「ねぇ、アギト?」
「何だ、アリス?」
「本当に行くの?」
「あぁ。ようやく冒険者としてまたやっていけるからな!」
「で、でも、その腕じゃ・・・・・・・。」
「わかってる。決して無理はしないさ。」
「で、でも・・・・・・・・・・。」
「何だ、アリス?心配してくれるのか?」
「し、し、し、し、心配なんかしてないわよ!バ、バカじゃないの?誰があんたみたいなへっぽこ勇者の心配なんか!べーだ!」
「あははははははは。じゃ、行ってくる!俺が留守の間、屋敷を頼むわ!」
「任せなさい!第3王女のアリスの名において、必ずここを守るわ!」
「おう!」
こうしてアギトは再び冒険者としてやっていくのだった。一時は諦めもした。右腕1本じゃろくに魔物も倒せない。そして、木製武器しか装備出来ないという大きなハンデもあり、絶望すら感じていた。
しかし、ガイとメイが頑張っているとの噂を聞いていてアギトももう一度冒険者としてやっていくことを決めた。何より、このまま冒険者を止めてしまえば魔王を倒すどころかこの世界が滅んでしまう。
アギトはまず、戦力増強を目指した。その為には、ライザ以外の大都市に行き、まだ出会っていない冒険者達と会うためだ。
まずアギトが目指すは、ライザから南に位置するロックフォールを目指すことにした。それには訳があり、ロックフォールでは鉱石が採れる。
鉱石は、武器や防具の材料にもなる。腕の立つ鍛冶師でもいれば、それはもうAランクの武器も作れるだろう。アリスの計画では、いずれは小さい村レベルまでもっていくとの事だ。
そして、やがて人々が往来し、村が活気が付き旅の冒険者が村で買い物でもすれば、ブレイブハートの活動資金も調達できる。
勿論、ブレイブハートのメンバーは格安で装備を与えるつもりだ。あくまで、他のクランに所属している冒険者に狙いを定めての売買する話し。
こうしてアギトは、ロックフォールに行き自分でこの世界の鉱石を調達しつつクランメンバーを見つけていくつもりだ。まずは、戦闘系の冒険者。次に、腕の良い鍛冶師。
馬車に揺られる事5日。アギトは3つ目の大都市山岳地帯のロックフォールに到着した。まずは冒険者ギルドへと足を運ぶ。
冒険者ギルドの扉を開け中に入るアギト。流石は鉱石の街。冒険者ギルドの中には、体格のいい男達で溢れている。皆、鉱石の関係のクエストをこなしているのだろうか。
この世界の鉱石は、銅、青銅、鉄鋼、ミスリル、プラチナ、アダマンタイト、オリハルコンの8種類が存在する。
それらは主に、インゴットに加工され武器や防具の素材として店に並んでいる。武具に使用されるのは主に鉄からで、銅や青銅だとこの世界のモンスターだと直ぐに刃こぼれをおこし、使い物にならない。防具も同じで、鉄の武具からが主要になっている。
アギトはまず、この街の冒険者ギルドで登録を済ます。左腕には包帯が巻かれている。呪いを受けた左腕をそのままだ露出していると目立つためだ。そしてカウンターに行き、
「いらっしゃいませ。クエストの受注ですか?」
「いや、ここの冒険者ギルドで登録をお願いしたいのですが。」
「はい、かしこまりました。では、冒険者の証をよろしいでしょうか?」
「はい。」
アギトは、受付の男性に冒険者の証を渡す。
「えーっと、アギト様・・・・・・勇者?」
「「「!!!!!」」」
受付の男性の一言で辺りが騒然とする。そして、
「おい、見ろよ!あの人勇者だってよ!」
「マジかよ!勇者って存在したんだ。」
「はぁ?勇者だぁ?そんなの嘘だろ!」
「で、でもよ、冒険者の証は偽造できないだろ?だとしたら」
「確かに。でもまた何でこんな所に勇者が?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
いつもの事が起こる。アギトが勇者だと知られるとこの騒ぎ。だが、今回は女性が珍しく1人も居ない。この街では女性の冒険者は少ない。
そのわけは、ここのクエストは主に採掘がメインであるからだ。わざわざ、そんな力仕事をしようと思う女性冒険者は少ない。
「で、では、こちらをお返しいたしますね。ど、どうぞ。」
「あぁ。ありがとう。」
(さて、いつも通り目立ってしまったな。ここは逃げるが勝ちだ!)
アギトは、いつも通り一目散に冒険者ギルドを後にする。
「さて、この後どうするか・・・・・・。」
アギトは悩む。採掘作業をしようにも、つるはしを装備出来ない。持てることは持てるが、振り上げる事さえ難しい。そんな事を悩んでいると、
「なぁ、聞いたか?あそこの武器屋のこと。」
「あぁ。知ってる。何でも売ってる商品がぼったくりなんだろ?」
「そうなんだよ!鉄の剣は普通、何処も3000ゴールドで売ってるんだがよ、あそこの店は倍の6000ゴールドらしいぞ!」
「高っ!マジかよ!誰が買うんだよ?」
「駆け出しの冒険者だろうよ!右も左もわからねー新人を狙ってんだろ!」
「えげつねーな!」
(鉄の剣が相場の倍の値段?何で、わざわざそんな値を付けるんだ?他の武器屋の武器と何か違うのか?とりあえず行ってみるか。)
アギトは、冒険者達が話していた武器屋へと向かった。
「らっしゃい。」
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
「あぁ。かまわねーよ!」
アギトはさっそくスキルを使って売っている武器を調べてみる。まずは自分の鉄ナイフ。
【スキル 調べる】
【鉄ナイフ 攻撃力6 装備〇 特殊効果✖ 買値1200ゴールド 売値400ゴールド】
そして、次は売っている鉄ナイフ。
【スキル 調べる】
【鉄ナイフ 攻撃力8 装備〇 特殊効果 切れ味(小) 買値2400ゴールド 売値400ゴールド】
「!?」
(攻撃力が上がり、特殊効果に切れ味(小)?何で特殊効果がついてる?他の武器も調べてみるか。)
【スキル 調べる】
【鋼の剣 攻撃力25 装備✖ 特殊効果 刃こぼれ減少(小) 買値18000ゴールド 売値3000ゴールド】
(これは特殊効果だけだが、刃こぼれ減少(小)は凄いな。まるで、俺が作る薬の様だな・・・・・・・・・。)
「まさか・・・・・・。」
アギトは店の亭主にスキルを使った。
【スキル 調べる】
【大輔 38歳 男】
【転生者】
【状態:良】
【職能ランク:B】
【職業:鍛冶師】
【所属:ロックフォール鍛冶ギルド】
【固有スキル:武器に付与】
・製作した武器に特殊効果を付与
・使用したアイテムにより効果は変化
・製作速度上昇
「!!!」
「転生者だと!」
アギトの転生者というワードに店の主が反応する。
「あんた何者だ?何でその事を知っている!答えによってはただじゃ済まさんぞ?」
「あぁ。悪い、俺の名前はアギト。俺も転生者で、職業は勇者だ。」
「なっ!嘘を言うな!死にたいのか!」
「待て、待て、待て!今、証拠見せるから!」
アギトはダイスケに冒険者の証を見せた。
「マジか・・・・・・・。」
「マジだ。俺は2ヶ月前に転生してきた。」
「くくくくくくっ。あはははははははははははははは!」
「どうした?」
「いやすまん!つい、嬉しくてな!そうか、勇者か!」
「だから、どうしたんだよ?」
「お前も言われただろ、女神様に!俺達は、魔王を倒す勇者が現れ、その勇者が魔王を倒せれば元の世界に帰れるって言われてるんだ!」
「女神だと!?」
「あぁ。俺達も会ったんだ。」
「俺達?」
すると、店の裏から若い女性の声がする。
「お父さん!?誰と話してるの?店が暇すぎて気でも狂った?」
「雫、こっちに来い!」
「えぇぇぇぇぇ?今、私忙しいの!後にしてくんない?」
「いいから、いいから!早くこっちに来い!」
「ったく、何なのよまったく。忙しいって・・・・何!?このイケメン!?」
「聞いて驚け!なんと、この人は勇者アギトさんだ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「まぁ、そうなるよな?」
「え!?お父さん、どこか打った?遂に店が暇すぎて、頭のネジまで吹っ飛んだ?」
「おいおい、酷い言い様だな。お父さんはいつでも正常だぞ?」
「初めまして。自分はアギトと言います。2ヶ月前にこの世界に転生した勇者です。よろしくお願いします。」
「あ、あの・・・・・・・・・・・。」
「はい?何でしょうか?」
「アギトさんは、歳はおいくつですか?彼女とか居るんですか?結婚していますか?好きな女性のタイプは?元の世界でも彼女は居ますか?結婚してますか?こっちの世界でも、元の世界でも彼女は募集していますか?今日の宿は決まっていますか?決まっていないなら、狭いですけどうちに泊まっていってください!もちろん、私の部屋ですけど!ちょっと、今掃除してきますね!すぐ戻ります!その後、ゆっくり私の部屋で今後の人生について話しましょう!では、後程!」
「おかぁ――――――――さん!今すぐ部屋の掃除手伝って!お小遣い3ヶ月いらないから!お願い!」
【ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ】
雫は物凄い速さで店の奥へと消えていった。
「な、なんかすごい娘さんですね・・・・・・・。」
「あははははははは。すみません。」
こうしてアギトは、この世界で初めて他の転生者と出会ったのである。
【街紹介3】
【ロックフォール】山岳地帯にある大都市。鉱石が豊富に採れ、鉱石街としても有名。転生者、折原大輔(父)、折原ゆかり(母)、折原雫(娘)が暮らしている。斧聖率いるクラン、虎の牙=タイガーファングが拠点を構えている。斧聖は、天使の宴に所属するユイの師匠でもある。




