勇者は薬を作る
アギトはユイカの毒を直すアキサリ草を手に村へと戻って来た。急ぎハツネの所に向かうアギト。
【コンッコンッ】
「ハツネ、アギトだ。素材を持ってきた」
すると家の扉が開きハツネが現れた。その表情は、以前と変わらず不安な顔をしていた。本当に母親は治るのかどうか。
村に居る医者にも原因がわからず治すことも出来ず、大都市には治療院という物があるが膨大なお金が必要で、冒険者でもなくただ生きていくことで精一杯なハツネには払える金などなかった。
まして、ここから近くの大都市までは馬車で3日、歩いていくと1週間はかかる。病気の母親1人残し、家を空けるわけにはいかなかったのだ。
「アギトさん。無事だったんですね!良かった。正直、戻って来てくれないと思ってました。今まで、何人もの冒険者の方が母を見てくれたのですが、原因がわからないのに分かったふうにして薬を買ってくるからお金だけ持って帰って来なかった人達が居て。」
冒険者の中には、人の弱みに付け込みお金を巻き上げる下衆な奴もいる。皆が皆、優しい冒険者ではないのだ。
ハツネも幾度となく冒険者達に騙され、アギトの事は信じていなかった。
「そうだったのか。なら仕方ないんじゃないか?俺だってハツネの立場なら、今日あったばかりの冒険者なんて信じないさ。だから俺はハツネの事をどうこう言うようなことはしない。」
「アギトさん・・・・・・。ありがとうございます。」
ハツネは涙を浮かべアギトに感謝の言葉を述べた。
「さっ、とっとと薬を調合しよう。家に薬研と乳鉢はあるか?」
薬研とは、薬草を砕くための道具。そして乳鉢は薬草をすり潰すための器具。それらを使い、アギトは自ら薬を調合しようとした。
「確か、倉庫に昔使ってた物があったと思います。少し待っててください。」
ハツネは倉庫に行き、昔祖父が使っていたと言われる薬研と乳鉢を持ってきた。
「アギトさん、ありました!これを使ってください。」
「おう、ありがとう!ではさっそく、【スキル 調べる】」
アギトはユイカに調べるを使い、解毒薬の項目を更に調べるを使った。そして、
【解毒薬 毒を除去するアイテム。薬草、マンドラゴラの根、アキサリ草、水で調合可能。素材の状態が良なら高度の毒も回復出来る。売値100ゴールド。】
「マンドラゴラの根か・・。ん?確か、女神様から貰ったアイテムボックスの中にあったな・・・・。」
アギトは、女神から与えられたアイテムボックス(布製の小さなショルダーバッグ)を確認する。
すると思った通り、解毒薬に必要なマンドラゴラの根、薬草、水が入っていた。他にも、少量の食材も入っていた。
「女神様、ありがとう。感謝する。」
「ん?アギトさん、何をブツブツ言ってるんですか?女神様?」
「ん?あ、いや、気にしないでくれ。さてと始めるか。」
アギトはアイテムボックスから薬草A、マンドラゴラの根A、大地の水A、先程取ってきたアキサリ草Aを出した。
「全部Aランク?アイテムボックスの中じゃ、物の劣化も止まるのか。こりゃ便利だ。」
アギトは、薬研に薬草、アキサリ草、マンドラゴラの根を入れて砕き、乳鉢で、それらのアイテムをすり潰していく。
そして、木製のボールにそれらの素材と、大地の水を入れて混ぜ合わせる。
そして、それらを丸薬にして完成させた。
「出来た!解毒薬の完成だ!」
【解毒薬A 毒、麻痺を回復可能。乾燥させれば長期保存が可能。売値1万ゴールド】
アギトは完成させた解毒薬Aをハツネに渡してユイカに飲ませるよう言った。ハツネはすぐさまユイカに解毒薬Aを飲ませた。
すると、みるみるうちに顔色が良くなっていった。
「これで、ユイカさんはもう平気だろ。これも、ハツネさんが毎日回復薬を飲ませて命を繋いでいたおかげだ。」
「お母さんの顔色がみるみる良くなっていく。良かった、本当に良かった。あ、ありがとうございますアギトさん。このご恩は一生忘れません。」
「大げさだよ。自分はただ、困った人の助けをしたくてやっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。さて、じゃ自分はそろそろ失礼するよ。宿も探さないとならないしな。」
「宿?なら、うちに泊まっていってください!狭いですが、アギトさんさえよろしければ!」
「いや、流石にそれはまずいだろ。見ず知らずの男を泊まらせるなんて。仮にも、自分は一応男だぞ?何かあったらどうするんだ?」
「ア・・・・アギトさんとなら私は何があってもか、かまいません。」
ハツネは、顔を赤くしてそんな発言をした。何を想像したかは言うまでもない。
「な、なら倉庫で構わないならお言葉に甘えさせてもらうよ。流石に、同じ屋根の下では・・・。」
「むむむ。アギトさんの根性なし!」
「いや、それちょっと酷くない?流石に傷つくんだが。」
「フンッ!知りません・・・・・・ふふふふふふふ」
「何がおかしいんだよ!?」
「いや、アギトさんは優しいなと思って!ほら、私って結構色っぽいでしょ?だから、前に来た冒険者さん達も見返りをお金と体で求めてきた人も居て。もちろん断りましたけど、アギトさんはそーいう事言って来なかったので。」
「あー、そいう事か。俺をそんな腐れ冒険者と一緒にしないでくれ。俺は真っ当な冒険者でいたいんだ。」
「わかりました。アギトさんさえ良ければ倉庫を自由に使ってください。そして、何かあれば私に言ってください。」
「あぁ、じゃお言葉に甘えて倉庫の方を使わせてもらう。」
こうして、ハツネはアギトの分の布団を倉庫へと運び、家でアギトと夕食を共にしてその日を終えた。
【翌日】
「アギトさん、起きてますか?ハツネです!」
倉庫にやってきたハツネは、夜通しで薬を作り疲れ果てて寝ているアギトをみつけた。それは、昨日作っていた解毒薬Aだった。
そして、大量の解毒薬Aを見てハツネはアギトが村から出ていくのを確信した。いつかはと思ったが、まさかこんなに早くとは思って居なかった。
せめて、ユイカが元気になるまで居てくれるものだと思っていた。
しかし、アギトは冒険者。何か目的があって旅をしているのに違いないと思った。
「こんなにもたくさん。何でこんなに優しくしてくれるんだろう。お別れなんかしたくない。ずっとここに居てくれればいいのに。」
そうアギトに聞こえるか聞こえないかの声でハツネはささやき、アギトの頬に口づけをした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
(おいおい、ハツネさん何をしてくれるんだ。起きるタイミング逃したじゃないか。こりゃ出ていくまで寝たふりをするしかないな)
やがて、倉庫からハツネの気配が消えアギトは体を起こす。昨日は、今後の為にユイカの分と自分のこれからの冒険の為に解毒薬Aを作れるだけ作っていた。
そして別れの時。
「行ってしまうんですね、アギトさん。アギトさんさえ良ければこの村に・・・・・・。いえ、何でもありません。アギトさんは冒険者さんですもんね。これからも頑張ってください。」
「あぁ。世話になった、ハツネさん。しばらくユイカさんには渡した解毒薬Aを飲ませてくれ。数日中にはよくなるだろう。」
「何から何まで、本当にありがとうございます。少ないですがこれを受け取ってください。今まで溜めてきたお金がこれだけしかないのですが。」
ハツネは。布製の袋を取り出した。その中には決しておおくは無いがお金が入っていた。この村で1年は暮らしていけるお金だ。
「いらん!そのお金は、2人で今後の為に使ってくれ!自分は冒険者だ、お金などどうにでもなる。」
「で、でも。いくら何でも見ず知らずのあたし達にここまで優しくしてくれる義理は無いはずじゃ。せめて何かお礼をさせてください。」
アギトは考える。このままではハツネは引かないだろう。かといってお金を受け取るわけにもいかない。だが、
「なら、薬研と乳鉢と木製のボールをくれないか?」
「え!?あんなので良いんですか?使ってないから構いませんが。」
「あぁ、あれでいい!あれがあれば俺のスキルで薬が作れる。それを作って、街で売ればお金になる。これで万事解決だ!」
そう、アギトのスキル【調べる】があれば、薬師じゃなくても薬が作れる。それに女神様から貰ったアイテムボックスがあれば素材を劣化せずに持ち歩け、薬研と乳鉢と木製のボールがあればいつでも状態良の薬が作れる。
「わかりました。それでアギトさんが納得してくれるなら。」
アギトはハツネから貰ったアイテムをアイテムボックスに入れた。そして、いよいよ村から次の街に向かう時が来た。
ハツネは、村の門まで見送りに来てくれた。
「それじゃ、短い間だったが世話になった。ありがとう。」
「お礼を言うのは、私の方です。何から何までいろいろありがとうございます。道中お気を付けください。」
「あぁ。いずれまた会おう」
「はい!」
アギトは次の街へと向かうために歩き出す。そして、
「アギトさーーーーーーーーーん!最後に1つだけ聞いてもよろしいですか?」
アギトは、足を止め振り返りハツネを見る。
「アギトさんの職業って何なんですか?」
アギトは、少し考えた後はっきりと答えた。
「勇者だ!」
そう言って再び歩き出すアギト。そんなアギトの言葉を聞いたハツネは、
「勇者・・・・・。おじいちゃんから聞いたことがある。この世界の魔王を倒す者。そんなすごい人と私は巡り合えた。この出会いに感謝しないと。頑張ってください、勇者アギト」
【アイテム紹介1】
【解毒薬A】効果→毒、麻痺を回復可能。特徴→乾燥させれば長期保存が可能。その他→売値1万ゴールド アギトのみ調合可能




