CASE016 巨頭オ 報告書
東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX −
警視庁 特異事案対策室
特異事案報告書
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【案件番号】
T-2009-08
【事案名称】
霧山窩「巨頭オ」信仰伝搬事案
【分類】
異常存在生成型四類 / 宗教儀式型四類 / 呪詛伝播型三類 / 境界転位型三類
【発生日】
第一次確認 2009年7月13日
第二次確認 2009年8月27日
【発生地点】
第一次確認地点:
東京都西多摩郡奥多摩町 旧霧谷林道周辺
第二次確認地点:
長野県南佐久郡八千穂高原 林道南沢線周辺
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1.概要
山間部に木製看板が出現。文字の大部分は傷や汚れでかすれているが、「巨頭」「オ」の文字は判読可能。看板接近後、看板を視認した者の周囲が半径約1.2kmの転位領域へ変質する。内部には被排斥集団「霧山窩」が畸形化した姿で居住し、仮面を用いて霧山窩の信仰する「オ」を模倣する。領域最奥では霧山窩が集団自死的に頭部を巨石裂隙へ沈め「オ」に供する「還りの儀」を実施し、終了と同時に領域が消失する。外来者は儀式完了までは離脱不能だが、身体的被害を被ることはないと思われる。轟雷蔵の証言による第一次、第二次の共通事項から、転移領域内では霧山窩が途絶えた際の記憶再現が行われているものと推測される。
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2.初動報告
第一次
当室捜査官 葦名透真・轟雷蔵・久世灯里が奥多摩旧霧谷林道脇で「巨頭オ」と書かれた看板を発見し調査を開始。濃霧発生後に転位領域へ迷入し、霧山窩集団による「還りの儀」(仮称)を強制的に観測させられる。三名とも身体的外傷はなく帰還。
第二次
長野県八千穂高原で同看板の目撃通報。当室捜査官 轟雷蔵・蜘手創治郎が現場入りし、奥多摩事案と同一の転位現象を確認。二名は第一次と同様に「還りの儀」観測後に帰還。
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3.発生条件
・山間部に「巨頭」「オ」と判読可能な木製看板が自発的に出現すること。
・看板を視認し、接近あるいは林道に踏み入れる行為。視認者が複数名でも条件は成立する。
接近後。二十分以内に転位領域が生成される。第一次と第二次、ともに条件は同一であった。
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4.特性
Ⅰ.霧山窩の背景
廃村で発見した文献より、山窩の中で「オ」と称される怪異と交合したとされる異端が霧谷一帯に定住。山窩や周辺村民から排斥され閉鎖的集団内交配を続けた結果、畸形個体が多発し、「オ」の形質と推測される頭部肥大を神聖視する文化が形成された。現在は既に集団は途絶えているものと思われる。観測時点では、現代日本語とは異なるクリック音などを交えた言語(異界由来の可能性有り)を使用し、意思の疎通は困難である。なお、廃村の痕跡からは、外部からの襲撃などの暴力的な事件の痕跡は発見されなかった。また、当事案においても霧山窩自体には外来者に対して直接的な攻撃行動や加害的性質は認められなかった為、異なる信仰を持つだけの無害な集団であった可能性が高い。
Ⅱ.仮面と指導個体
霧山窩は「オ」の姿を模した仮面を着用する。稀に先祖返りと推測される影響で「オ」の形質を備える個体が生まれ、長または巫女として集団を統率し儀式を主導すると推測される。
Ⅲ.怪異本体の推定
霧山窩が「霧の常世」と呼称する異界領域に存在。信仰を受ける「オ」は一般的な荒御魂などといった神威は持たないものの、文献では土地神に近い存在として扱われており、儀式中のみ巨石裂隙を介して断片的に現出。信仰が失われ、一度名と形を失った神の再顕現、もしくは神から妖怪に堕ちた存在と推測される。
Ⅳ.呪いの伝播
看板は儀式終結後、一定の期間を置いて再構築される。期間はサンプル数不足の為、現時点では断定不能。再構築エリアについてはランダムであるが、山間部に限定される可能性が極めて高い。材質は周辺の倒木等が利用され、塗布物からは高濃度のヒト血液と山土壌菌が検出された。目的は「霧山窩とオの信仰を忘却させないための強制的記憶継承」と推測される。
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5.対処方法
Ⅰ.看板発見時の下山
一般への浸透は難しいが、関係者への周知徹底及び報告義務とする。
Ⅱ.看板出現地点の封鎖
熊出没、土砂崩れ、土地所有者による通行止め等のカバーストーリーを用いた一般人の隔離。
Ⅲ.看板の回収
回収後、防疫処理を施し当室保管庫へ移送、捜査員監視下による焼却処分。物理回収のみでは再出現の阻止は不能。
Ⅳ.SNS等での写真拡散や場所特定情報の継続監視及び、デコイとなるフェイク情報の拡散。
現時点では根絶よりも封じ込めと情報管理を優先する。祓除法については調査継続中だが、当室室長方針により「封じ込めが機能している限り根絶追及は優先度低」とされている。
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6.現在の状況
観測終了地域
東京都奥多摩旧霧谷林道(第一次地点)および長野県八千穂高原南沢線(第二次地点)
人的影響
第一次帰還者三名、第二次帰還者二名において身体的外傷はなし。
過去の関連すると思われる事案においても、身体的被害は発生していないものと思われる。
再出現予測
現時点ではサンプル不足により不明だが、判明している事例から看板の再構築周期を最低45±12日と仮定。
評価
怪異は直接的殺傷能力を示さないが、強制観察による精神損耗が潜在危険。模倣犯・心霊スポット目当ての流入を防ぐ広報統制が重要。
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【報告書作成】
特異事案対策室 捜査官
葦名 透真
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