CASE:001 カカオの友達 報告書
- 東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX −
警視庁 特異事案対策室
特異事案報告書
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【案件番号】
T-2013-17
【事案名称】
カカオの友達
【分類】
デジタル型怪異三類 / 認識災害型三類 / 精神侵食型二類 / 情報伝播型四類
【発生日時】
2013年9月9日
【発生地点】
東京都内 清嶺学園及びその周辺地域
【初動報告】
本件は、清嶺学園において急増した不登校・行方不明事案に関する捜査中に判明。
当該学園の生徒の間で、特定のSNSを介した不審な行動が観察され、失踪者の共通点として「カカオの友達」と称される存在との接触が確認された。
当室捜査官・南雲美優(調査担当)が潜入調査を行い、当怪異と接触。結果として、精神的侵食の進行過程と怪異の特性が明らかとなった。
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1. 概要
「カカオの友達」とは、SNS上に突如として現れる未知の存在であり、対象者に対して"友達"という形で接触し、精神的な依存を促す怪異である。
本件に関する特筆すべき点は、単なる霊的現象ではなく、「デジタル情報を媒体とし、対象者の認識を変容・支配する」という性質を持つことにある。
また、本怪異は物理的な存在を持たず、通常の視認手段では認識が不可能である。
当室捜査官・葦名透真(恩寵:透視)による分析の結果、「カカオの友達」に関連する視覚的異常は通常の物理層には存在しないが、一部の対象者の精神層にのみ認識可能な存在であることが確認された。
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2. 発生条件
本怪異が対象に接触する条件は、以下に該当する者である。
1. 精神的孤独感を抱えていること
2. 未成年であること
3. 不特定の「カカオの友達」関連メッセージを受信すること
対象者は、SNS上で「カカオの友達」という未登録アカウント(発信元不明)からのメッセージを受け取ることにより、怪異の影響下に置かれる。
当該メッセージの特徴として、削除・ブロックが不可能であり、特定の時間経過後に内容が変化することが確認されている。
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3. 影響の進行段階
本怪異の影響は、複数の段階を経て進行し、最終的に対象者の完全消失に至る。
前兆:視認異常
- デジタル媒体(スマホ、タブレット、PCなど)を通じて「目」が認識される。
- 例:「写真に映り込む」「SNSの投稿の背景に浮かぶ」「通話中に一瞬だけ見える」
- これらは対象者本人が感じることが多く、第三者には通常確認できない。
第一段階:「監視」
- 対象者の行動を詳細に把握するメッセージが送信される。
- 例:「今日、授業中眠そうだったね」「お昼にコンビニで肉まん買ってたね」
- 監視されているという恐怖ではなく、「理解されている安心感」を抱かせる点が特徴。
第二段階:「精神侵食」
- 返信の有無に関わらず、一方的に"会話"が成立する状態となる。
- 例:「今日、元気なかったね」「誰も心配してくれなかったの?」
- 対象者は次第に「カカオの友達」を待つようになり、他者との関係が希薄化する。
- この段階での精神干渉は、対象者本人にも自覚されにくい。
第三段階:「絆の強制」
- 対象者は「カカオの友達」を唯一の理解者と認識し、依存状態に陥る。
- 他者とのコミュニケーションを拒絶し、最終的に引きこもり状態となる。
- 対象者のSNS投稿が変化し、「カカオの友達と一緒」などの文言が目立つようになる。
第四段階:「同一化」
- 最終的に対象者は「受け入れる」ボタンをタップ。
- この瞬間、対象者の物理的な存在が消失。
- 以降、行方不明者として扱われるが、「カカオの友達」の集合体の一部となると推測される。
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4. 対処方法
本怪異に対する有効な対策として、初期段階での精神カウンセリングと記憶処理の並行が挙げられる。
以下の条件下では影響の低減が可能と考えられる。
1. 第一段階の時点で、対象者に外部との関係性を維持させる。
2. 精神カウンセリングにより、「カカオの友達」への依存を軽減する。
3. 認識の強制を伴う記憶処理を施し、怪異との接触を断つ。
しかし、第三段階以降の精神侵食が進行した場合、通常の対処は極めて困難となる。
特に「同一化」段階では、怪異との完全な同化が進行するため、救出の確率は極めて低い。
そのため、予防的対策の徹底が最優先とされる。
また、SNS等を通じた怪異の発生条件が明確であることから、対象となり得る未成年への啓発活動およびデジタルリテラシー教育が有効である可能性が高い。
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5. 現在の状況
1.当該怪異による影響を受けた対象者の一部は回復傾向にあるが、完全に失踪した生徒の行方は依然として不明。
2.「カカオの友達」によるメッセージの発信は停止したように見えるが、完全消失は確認されていない。
3.本件解決後、当室捜査官・南雲美優の端末に「またね」という未登録アカウントからのメッセージが届く。
4.本怪異の再発生、または別形態での変異の可能性を考慮し、監視を継続する必要がある。
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【報告書作成】
特異事案対策室 捜査官
南雲 美優