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魔法使いもどきの冒険  作者: 雨澤はる
第四章 決戦、アトランティス!
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「それじゃあ、はじめましょう。イーケンス討伐作戦を。いろいろと予定が外れたけれど、今日中になんとかしないとヤバい。異論が無ければ出発します」

 真は、懐中電灯の明かりを一度消して、また点けた。電池の残量を気にしているのだろうか。

「空中から見えた、あの青白い光のところへ行くんだな」

「そうです。今度は歩きです。『箒で近づくとイーケンスが起きる』という言い伝えがあるので。あと、喋ってもいいですけど、小声でお願いします」

「魔法使いたちは言い伝えを気にするんだな」

 興味深げにアクアがつぶやいた。

 4人は歩き出した。ピラミッドを迂回して、イーケンスのところへ向かう。足音があちこちに反射する。反射音の遅いことが、この空間の広さを物語っていた。

 真と惠美は黙ったままだったが、アクアとビリーは道中、小声で「ミノア様式だ」「クレタ島で似たものを見たぞ!」「これは見たことがないな」などと興味深げに言い合っていた。

 4人の視界に青白い光が入ってきた。イーケンスだ。

 アクアとビリーも口を閉ざした。

 4人は、イーケンスの入った(せつ)(かん)の前までやってきた。石棺は地面に直置きだ。イーケンスは、青白い光に包まれて青ざめた顔をしているが、まだ生きているようだ。

「意外に背が高いな。古代人にしては珍しい」

 アクアが沈黙を破った。小声だが。

 真が水晶を取り出して、イーケンスを観た。

「信じられない。なんて魔力だ!」

「見せてください」惠美が真の水晶を覗いた。「よく分からないけど、こんな色と模様は初めてです」彼女も驚いている。

「アクアさん、ビリーさん、いいですか」

 真が問いかけると、ふたりは「ああ」と答えた。

「じゃあ、惠美ちゃん、お願いするよ」

 真が惠美を見た。

「はい」

 惠美は、〝お目覚め魔法〟をイーケンスに放った。

 青白く光っていたイーケンスが、虹色に光り始め、永い眠りからついに目覚めた。石棺から半身を起こす。

「何事か! 何が起きた!」

 目覚めたばかりのイーケンスの声は、緊張を帯びている。

 真と惠美、アクアとビリーは、ゆっくり膝をついた。

「はじめまして、イーケンスさま。ぼくは渡辺真と申します。魔法使いです」

「はじめまして、イーケンスさま。わたしは倉田惠美と申します。魔女です」

「はじめまして、イーケンスさま。私はアクア・ライアン、人間の初学者にございます」

「はじめまして、イーケンスさま。オレはアクアさんの付き添いです」

 4人が自己紹介を終えた。

「何があったのだ、言え!」

 イーケンスはまだ緊張したままだ。

「はい。イーケンスさまは、悪い魔法使いの(かん)(けい)にあって、永い永いあいだ眠らされていたのです」

 真が答えた。

「そうなのか?」

 イーケンスは惠美を見た。

「間違いございません」

「ここはどこだ」

 イーケンスは天を仰いだ。

「海底に沈んだアトランティス大陸にございます」

 モニカが答えた。

「杖をよこせ」

 真は、杖を一本イーケンスに渡した。子供用の杖だ。イーケンスは魔法で周囲を明るくする。子供用の杖なのに、ものすごい明るさだ。

 真も惠美も、アクアもビリーもまぶしさに目を細めた。

 天上を見上げるイーケンス。彼は杖で天井を照らした。ドーム状になっているのが視認できる。

「嘘ではないようだな。ふたりは魔法使い、ふたりは人間か」

 イーケンスは4人を注意深く観察した。

「はい。イーケンスさまの(こころざし)を継ぐものにございます」

 これは真。

「われらふたりは、魔法使いの補佐をするものにございます」

 これはアクアだ。

「魔法使い千人と戦って、それから……。なにか食べるものはあるか」

 惠美が、袋からパンと牛乳を出した。

「食べ物にございます」

「一口食べよ」

 惠美が、パンを一口かじり牛乳を一口飲む。

「よい、それをよこせ」

 イーケンスは、パンと牛乳を惠美から奪い、食した。

「うまいな。あれから何年経った」

「おそらく、お信じになられないと思うのですが」

「言え、われが眠ってから何年経ったのだ」

「3621年経ちました」

 もごもごしていたイーケンスの口が止まり、絶句する。

「3621年? 3621年だと! 間違いないのか?」

「間違いございません」

 惠美が答えた。

「ふ~む」

「イーケンスさまを眠らせた()(とど)きな魔法使いは、もう一人も生きておりません」

「そうか。全員立つがよい」

 真と惠美、アクアとビリーがゆっくり立つ。

 このとき真たちは、はじめてイーケンスの背丈を知った。175センチくらいだ。真より少し高い。真は意外に思った。紀元前の人類は、身長はそう高くないはずだからだ。イーケンスは、当時としては規格外の高身長だったろう。

「なるほど、3621年経ったか。どうりでヘンテコな格好をしておる。それは薔薇(ばら)か?」

 イーケンスは、惠美のワンピースの刺繍を指さした。

「はいそうです」

「見事な細工だ」

 ついで、イーケンスは、アクアとビリーを見た。

「お(ぬし)たち人間は、とても奇妙な格好をしておるな」

「我らは劣った民ゆえ空を飛べません。ならば、探検の服装が特別なものになるのも無理からぬことなのでございます」

「なるほどなるほど。ところで、3621年経った今、外はどうなっておる」

 真は、袋からスマートフォンを一台取り出した。旅の途中で入手した中古のスマホだ。

「それは何だ」

「今の時代の石版でございます」

「見たところ、何も彫られておらんようだが」

 真は、スマホの電源を入れて動画を再生させる。世界の日常風景が撮影されたものだ。

 驚嘆したイーケンスは、スマホに手を伸ばした。

「よこせ!」

 真は、スマホをイーケンスに渡した。

 イーケンスは、スマホの動画を食い入るように見ている。

「これは魔法で動いているのか?」

「いいえ、魔法ではありません。魔法の使えない民であるわれら人間たちが、嫉妬心から発明したものでございます」

 これはビリーだ。

「なるほど、そうか。それにしても凄いな。どこも人だかりではないか。馬車は走っておらんし、町はピラミッドだらけだ。ピラミッドには誰が住んでおる? 王族か?」

「お金持ちと見栄っ張りが住んでおります。王族は、高いところには住みたがりません」

 アクアが答えた。

「そうか。見栄っ張りか。なるほどなるほど。見栄っ張りはいつの世も変わらんなあ」

 イーケンスから、ふと笑みがこぼれた。

 この時、アクアの好奇心は最高潮に達していて、このイーケンスなるものから3621年前の世界について根掘り葉掘り聞き出したい、と強く思っていたが、もちろん我慢せざるをえなかった。

 イーケンスは、スマホを横から見たり裏返したりして観察している。手が画面に触れて、動画がストップした。

「どうした。終わりか?」

 イーケンスは、真たちを見た。

「もう一度、石版に触ってください」

 イーケンスがそうすると、動画の再生が再開した。

「ほう」

 だが、動画はほどなくして終了した。

 イーケンスは黙考している。

 しばらくして、惠美を見た。

「おや、それは何だ」

 彼は、惠美の持っている電子ピアノを指さした。イーケンスが動画を見ている間に、惠美は背中に回っていた電子ピアノを前に動かしておいたのだ。

「これは楽器です」

「見たことのない楽器だ。どう使うのだ、音を鳴らしてみよ」

「はい、ですが」

「構わんから音を出せ」

 惠美は電子ピアノの電源スイッチを入れると、ドレミファソラシドと弾いた。

「ほう。どうなっているのか仕組みがさっぱり分からんが、なかなか良い音だ。何か曲は弾けるか」

「はい。ですが」

「構わんから一曲弾いてみよ」

「よろしいのですか」

「このゲディパルク・イーケンスが弾けと命じておる。弾くのじゃ!」

 引っかかった。イーケンスが、真の仕掛けた罠に引っかかった。

 惠美は、ジョルジュ・サンドの子守歌の楽譜を取り出すと、弾き始めた。

 不可思議な音色を聴いたビリーが、すぐに寝て倒れる。が、ティーパーティーが受け止めた。真も寝て、ビリーの上に倒れ込む。ティーパーティー、ナイスキャッチだ。

「どうした。おや、われも……」

 惠美が曲を弾き終わるが、イーケンスは立っている。

「どうしよう、イーケンス寝てないよ、まだ立ってるよ。真くん……は寝てるし、どうしよう」

 作戦が失敗したのかと、惠美は気をもんでいるのだ。

「惠美さん。どうやら、イーケンスは立ったまま寝ているようだ」

 アクアが()(ざと)く指摘した。

「えっ……、ほんとだ。寝てる、立ったまま寝てる。やった!」

 惠美は三歩下がる。下がったときに暗いから転けそうになった。

「おっとっと」惠美は、事前に真から渡されていた、紫のラインが入った杖を構えた。紫のラインの入った杖は、禁断の魔法が放てる杖だ。「天の精霊よ、大地の妖精よ、わたしに力を貸しておくれ、ザンキャリエン!」

 惠美の放ったザンキャリエンが、イーケンスを貫く。

「通った! ザンキャリエンがイーケンスを貫いた!」

 彼女が歓喜する。

 惠美はザンキャリエンをあと二度撃つ。四度目のザンキャリエンを撃とうとしたとき、イーケンスが目覚め始めた。

「ううっ、うう」

「えっ、もう起きちゃうの? ちょっと早いよ」

 惠美はラビットハートにまたがり、後ろにアクアを乗せ、ビリーと真のベッド替わりになっているティーパーティーを引っ張りながらそそくさと逃げた。ラビットハートとティーパーティーは、(えい)(こう)ロープで繋がっている。彼女は、ピラミッドの反対側のベースキャンプに逃げてきて、防御魔法を張った。

 人間は、誰かに押しつけられたことには容易に反発するが、自分で決めたことはなかなか(ひるがえ)さないものだ。それを利用し、惠美に曲を弾くように、イーケンス自身が命令するよう誘導したのだ。真の立てた作戦はみごと成功。イーケンスは、ジョルジュ・サンドの子守歌で眠った。その際に、防御魔法はすべて剥がれて、ザンギャリエンが効くようになったのだ。

 これがもし、「イーケンスさま、一曲お聴かせしましょう」だったなら、イーケンスは途中で罠だと気づいて、演奏を強引に止めていたに違いない。



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