後始末
「──これで良かったのか、辰治」
四人はそれから浜の隅へとモグルガイの亡骸を運び、砂浜を深く掘るとそこにモグルガイを埋めた。
「ああ、元々私──住職にある人間が一人で事を終わらす予定だったんだ。それがこんなことになってしまって」
と、辰治は他の四人に向き直り頭を下げた。
「巻き込んでしまって、誠に申し訳ありません」
「構わないさ。元より、私と三品は事件を解決するためにこの奥之島へとやってきたのだ。巻き込むも何もない」
木暮の言葉に三品も同意して頷いた。
「敏彦兄さんや一郎くんにも迷惑をかけた」
「そんな事ない、気にするな」
「ええ」
二人の言葉を聞いても、まだ辰治は浮かない顔をしている。
「もし私が──浜口さんが失踪した時に怪文書などを作らず正直に、包み隠さず全てをお話していれば二人の兄を喪う事にもならなかった。これは私の罪です」
と、辰治は木暮の目を正面から見つめる。
「どうか、私に罪を贖わせてください」
己を捕らえてくれという辰治の言葉に、木暮は目を見開いて驚いた。暫く根津浜の波の音だけが彼らの沈黙を支えていた。
「……私は休暇中の身ですので、貴方を捕らえるようなことはできません」
「俺もだぜ」
一郎も木暮に続く。
「しかし」
なおも言い募ろうとする辰治の肩を敏彦がぐっと掴んだ。
「観音様を見てご覧辰治くん。私は信心深い人間ではないが、もしも君が許されない立場の人間ならば、あのモグルガイにこの観音様は噛み砕かれていたんじゃないかな」
そう言ってそばに佇む観音菩薩像を見上げた。その像は先程の激突にも関わらずひび一つなく今尚穏やかに微笑んでいる。
「それに兄二人は……弟の私が言うのも酷い話だが、モグルガイが居らずとも、いずれ恨みを買って誰かに殺害されていたよきっと。だからというわけじゃないが、君が兄たちを悔やむ必要は無いんだ」
「……有難う御座います」
辰治も敏彦に倣って観音菩薩像をただ見つめた。
「島の人たちにはどうしても黙っておくつもりなのですか?」
疲れ切って砂の上に座り込んでいた三品が辰治に訊ねる。
「ええ。既にもう皆さんご存知のように、昔、この島は人食い貝を食したことが誤った形で広まり『人食いの島』と蔑まれてきました。もし今モグルガイの存在が明らかになれば、またこの島は奇異の目に晒され謂れなき差別を受けることに繋がりかねません」
「矢張り、貝のように口をつぐむか──それでもいい」
一郎が笑う。辰治の隣に立つ敏彦は黙って腕を組み何事か考えている様子だった。
木暮はため息をつくと、たった今モグルガイを埋めたばかりの砂地を折れたサーベルの鞘で突いた。
「しかし建前上の殺人犯の確保はどうしたものか。島の人達になんと説明するべきだろう」
「昨夜和尚と対峙して、そのまま島外へ逃げ出したことにでもするのはどうですか?」
と、三品が即座に提案をする。それに対し辰治が難しい顔をして首を横に振った。
「いや、それでは。実は──」
辰治は島の住民たちから三品や木暮が疑われかけていることを申し訳なさそうに語り始めた。
「一郎くんには既に言っているのですが、島の者たちから『島外の者こそ怪しいのでは』という疑惑が湧いてきているのです」
「なんだって!そりゃあ参ったな」
木暮が己の額をピシャリと叩く。
「ああ成る程。一郎くんが帰ってきてから浜口氏、僕らが来てから潮兄弟ですからね。モグルガイ亡き今、真相を明かさずにこのまま逃げるように立ち去れば、僕たちの汚名だけが残りかねません。商売上それは避けたいものです」
何か妙案はないものかと、五人は唸って沈思黙考した。
「──一つ、私から提案があります」
やがて辰治が案を閃くととつとつと提案を始めた。暗がりの中で今まで誰にも見せたことのない、悪戯を思いついた怪しい顔をして辰治は笑っていた。
打ち合わせを終えた五人が観音菩薩像を抱えながら海澄寺へと戻ると、瑠璃は離れの座敷でスウスウと寝息を立てて熟睡をしていた。今まさに死闘を終えた兄がそっと布団をかけてやっても気づかずに眠りの中にいる。
「この子も疲れていたのでしょう」
「ヨシ、ぼくらは本堂で寝るとするか」
間に合せの掛け布団を運び、弥勒菩薩像を本堂の元の位置へと戻すと、五人はそのまま本堂の床に寝転がった。板張りの床は冷たかったが、それ以上に五人はクタクタで敷布団を取りに行く気力など微塵も湧かなかった。やがて敏彦が寝息を立て始めると、他の者もいつしか眠りについた。ただ二人、木暮と三品を残して。
しばらくして、まだ起きていた木暮が横たわったまま三品に語りかけた。
「なあ三品」
「……なんです」
三品は小声で返すが体の向きは木暮とは反対の方向を向いたままだ。
「サーベルが折れた件、どうしようか……」
木暮は横になってからずっと、そのことばかりを考えていたのだった。
「知りませんよ」
「署長に何と言い訳すべきか教えてくれ」
「竹林で稽古をしていてサーベルを振り回していたら誤って折れた、とでも言えばいいじゃないですか」
三品がぞんざいな返事をする。
「それでは私が変質者みたいじゃないか」
「充分変な人ですよ。何ですか『秘剣、釣瓶落とし』って」
「あれはだなあ……その、ついやりたくなったんだよ」
「子供ですか。見た目ばっかり矢鱈と気にしてるくせに、頭の中はそんなことばかり考えておるのでしょう。普段から、いつも」
「……実は、もう一つ思いついた秘剣があるんだ」
「聞きませんよ……」
寝た振りなのか本当に寝たのか、三品の方からぐうぐうといびきが聞こえてきた。木暮もいつしか意識は眠りの淵へと滑り落ちていった。




