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8【Foreboding】予感

 それからは例のカフェで集まって話をしたりする機会が増えたけど、恵ちゃんはカフェのバイト上がり、大越は自分の姉がいるからなのか、乗り気ではないような気がしないではない。なんにしても、学校から出るのは、この3人になったわけだけども。

「大越は大学受験、大丈夫なのか?」

「うっわ。推薦組の余裕きたよ」

「いや、そう言うのじゃなくて、勉強するならこうして誘うのも迷惑じゃないかなって思ってさ」

「別に構わないけど……勉強は家でしてるし」

「お姉ちゃんに教わってるとか?」

「誰があんなやつに」

 仲が悪いのかな。今後はこの話題は振らない方が良さそうだ。同じ質問を恵ちゃんにもしようと思ったけど、恵ちゃんの方から説明があった。しかも志望校は自分が推薦を取った大学よりもかなりレベルが高い。しかも、実力テストでは評価Sで合格間違いなしのレベルだとか。

「恵ちゃんも予備校行ってないのか。みんなすごいな」

「推薦を取っちゃう神谷くんのほうがすごいと思うよ」

 正直悪い気はしない。けれど、あの慶洋大学が評価Sってすごいな。その調子だと東大も夢じゃない気がする。自分の推薦先は名前こそそこそこだが、レベル的には高いとは言えない。

「そう言えば、二人とも「図書準備室の住人」の話って知ってるか?」

「図書準備室の住人?」

 大越はなにそれ、という口調で興味津々といった感じだ。

「なんか事情があって図書準備室でずっと自習をしてて授業に出てこない人が居るらしくて。図書室で本を借りるときに何回かすれ違っててさ」

「へぇ。そんな人いたんだ。最近も見るの?」

「いや、最近は図書室じゃなくてコッチに来ているから見てない。今度行ってみるか?」

 自分の話を2人がしている。ここで「それは私です」って言うべきなのかな。でもそうすると男装していた理由も話さなきゃいけないし……。あれだけ信念をもって続けていたことなのに、いざそれを話すとなると勇気がいる。変な人に思われるんじゃないか。なんて。いや、十分に変な人だ。二人はまだその話題を続けているが、「詮索は良くない」とか「そっとしてあげておいた方がよい」とか口を挟もうと思ったけども、ボロが出る可能性を考えて出来なかった。そして結局、三人で明日、図書室に行ってみようということになってしまった。

「はぁ……どうしよう。当の本人がそこに行っても誰も居るわけないし。でもそれで、その人はもう居ないってなればそれで話は終わるかも知れないし。最近はもう通ってないんだし」

 お風呂に入りながらそんな事を考えてたけども、最終的には黙っていることにした。ちなみに、男装をやめて学校に通い始めた私を母親は泣きそうになりながら喜んでくれた。

 そんな私には一つ、大きな問題が発生した。自分の書いている小説についてだ。幼なじみの彼女が亡くなったのが原因で自分は男装を始めた。だけど自分は男装をやめてしまった。これからは男の子を好きになる自分が現れるんだろうか。混乱してくる。実際、PCを前にしても指はキーボードをうまく叩けない。あんなにあふれるように文字が出てきたのに。

   翌日の放課後には3人で図書室へ。図書委員の女の子に例の図書準備室の住人について聞いてみたが、最近は見ないとの事だった。試しにドアをノックしてみたものの返事はない。当たり前だ。当の本人はここにいるのだから。それにしても、仮に今まで通りに中にいたとして、ノックされたら出て行くのだろうか。自分からドアを開くのだろうか。

「あ、開いてる」

 神谷山くんが扉を引くと鍵が開いていて懐かしい光景が目に飛び込んできた。右手には書架。正直人気のなさそうな本の引退場所みたいな場所だ。左手には壁。見慣れたカレンダーが掛かっている。月が変わっているのにめくられていない事が、この部屋の住人が先月には居なくなっていることを示している。窓際のサボテンはそのままだ。このままここに住人が居なければ枯れてしまうのだろうか。

 なにもかもが気になる。そしてそんな私の態度で元住人であったことがバレるんじゃないかなんて思ったりもして。

「机もイスもないし、本当に居たのかな?図書準備室の住人って」

 それは当然だ。ここで使っていた机とイスを教室に持って行ったのだから。一応、私がいた形跡は無くしてきたつもりなのに、細かいモノが残っていて、大越さんがそれに気がついてしまった。

「ねぇ。ここやっぱり誰か居たと思う。だってこれ、机とイスの跡でしょ?それに窓際の棚。こんなところに参考書とか赤本があるなんておかしいもの。私が想像するにここにいたのは3年生。受験を控えて勉強していたんじゃないかしら」

 参考書も赤本も先生が持ってきたものだから、そのままにしてきたけども、それが痕跡になってしまうのは私的には想定外だった。大越さんは参考書が新しいことについても指摘してきて少々目が泳ぐ。だって、高校3年生で、こんな時期にクラスにやってくるなんて私しか居ないし。もしバレたらどうしよう。なんて言おう。神谷くんはここの住人は男子だと思っているようだど、状況証拠的には男装していたってバレるんじゃないか。不安ばかりが募って来たときに、その言葉は放たれた。

「ねぇ、宮地さん。ココにいたのってもしかしてあなた?」

「え?なんで?」

 平静を装えただろうか。

「だって……」

「いやいや、ココにいたのは男子だったぞ。俺が見たのは」

 神谷くんの言葉が助け船に感じる。このままやり過ごすことは出来ないか。そんな私の願いは届かず大越さんは質問を続けてきた。

「今まで聞いてなかったけども、宮地さんって転校してきたんだよね?どこから?」

「えっと……」

 自分の自宅近くの公立高校の名前を必死で思い出そうとするが出てこない。

「もしかして、だけどぉ。自分が誰か分からないようにするために男装してたとか?」

 もう隠せないかな。一気に吐き出した方がすっきりするのかな。でもなんで男装していたのかは言うのは恥ずかしい。

「その……実は……」

「大越さん、宮地さん困ってるじゃないか。色々と事情があるんだって」

 今度の助け船はココにいたのが私だっていうのが前提のもの。もう隠し切れていない。

「私が……ここに……その……」

「あー、やっぱり。なんでかは聞かないけど、クラスに戻ってきたってことは何かが解決したんでしょ?おめでと」

「えっと…ありがとう?」

 予想外の展開で気持ちがついてこない。もっと質問責めを予想していたから。

「はい、この話はここでおしまい!謎解きは終わったんだし」

 神谷くんが場を締めてくれて助かった。

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