5【mischief】悪戯
今回バイト先に来た「宮地恵」名前からしても学校にしても学年にしても。神谷君が言っていた図書準備室の住人に間違いないわね。と言うことは……。
今日の話題は「恋する女はなにより強い」の第三巻についてだ。いつもやりとりをしている3人全員が読み終わったと言うことで、あーでもない、こーでもないと話題が尽きない。
『私、最近アルバイトを始めたんですよ』
『あ、俺も』
『何のバイトをされているんですか?私はカフェの店員です』
『ああ、俺はファミレスのウェイター。お客に料理を持って行って片づけるだけの仕事だな』
カフェの店員も似たようなものだと思っていたのだけれど、実際は結構大変だった。窓際と店の周りに植えてある観葉植物に季節の花々、冬になると焚かれる暖炉の薪とその炎の管理。お客さんからの注文。業者からの納品受付。カフェの店員ってもっと華々しい感じがしたのだが、地味な仕事が多い。薪を運んだりするような力仕事があるのに、ウェイターではなくウェイトレスに拘ったのはなぜなのか。
「ん?ウェイåトレスに限定した理由?簡単じゃない。女の子の方が絵になるから。ココの制服、男子で作ろうとしたら『お帰りなさいませお嬢様』みたいになるでしょ?それはちょっと……」
制服。制服のために私は結構な重労働を任されてしまっているのか。なんて考えたら理不尽な気もしたけども、大越先輩の同じ仕事姿を見ているとわかる気がする。
その晩に暖炉のことを話題に出したら、自分の通っているカフェも暖炉があるという。SNSでお互いの素性とか住んでいる場所の話題は暗黙の了解でNGにしているが、今回の暖炉の件はもしかしたら、という気がしたのでお店の雰囲気を聞いたら間違いない。
「このアカウントは神谷君だ」
気が付いてしまった。彼はまだ気が付いていないようだけども、これはどうしたものか。
「ははーん。コレは気が付いたかな?」
大越薫は本業をこなしながら目の前のスマホで起きている3人の会話が楽しくて仕方がなかった。
「さちはどうするのかな?置いて行かれてるぞぉ」
同じ部屋の背中合わせに座ってる妹の方を見て独りそんなことを思う。私は妹のさちが携帯投稿小説を書いていることには気がついている。本人は私が知っていることなんて気にしていないだろうけども。むしろ知らないんだろうけどね。そんな私は一つ悪戯を思いついた。
SNSでさちの作品と恵ちゃんの作品の両方について話題に出してみよう