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ふたりで

 静まり返った病院では、少しの足音でもよく響く。真夜中ともなれば、なおさらだ。だけど彼女は、足音はおろか、呼吸の音すら立てずに、やって来る。毎晩、計ったように、きっちり零時に。

 それまでいくらぐっすり寝ていたとしても、突然、首を思い切り締め付けられたら、誰だって目を覚ます。最初はとにかく混乱して、なんとかして人を呼ぼうと、枕元のナースコールを必死で探した。けれども、なかなかボタンを探り当てられない。息ができないこと自体も苦しいが、息ができないということの恐ろしさは耐え難い。

 死ぬ、死ぬのに違いない。

 喉が、肺が、必死に酸素を取り込もうとするのに、気道は殆ど塞がっているのだ。

 ……殆ど?

「苦しい? 苦しい?」

 彼女は、首にかける力を絶妙に加減して、ほんの僅かな空気の通り道を確保してくれる彼女は、乱れた髪を顔に貼り付けて、何度も囁く。

 苦しいよ、苦しいよ。死にそうだよ。

 私の声にならない言葉を聞いて、何度も聞いて、ようやく彼女は満足したように消える。何の前触れもなく、すっと。

 そうして毎晩、私は彼女を思い出す。電話越しに「それじゃあ、一斉のせで」と言った、あのカラッと明るい声を思い出す。

 ふたりで同時に首を吊って、私だけ助かった、あの晩のことを思い出す。

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