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三獣士と呪いの剣

作者: トリノハハ



小さな港町、タストー。

活気はあるが、町の中心から離れると穏やかな波の音だけが静かに聞こえる船着場に、1匹の黄色い犬が海を見つめて横たわっていた。


「よお、何ボーッとしてんだ、サニー?」


声は犬の背後から聞こえた。

「クン」

サニーと呼ばれた犬が振り向くと、そこには頭から足の先まで全身ピンク色をした、人間の子供くらいの背丈の小さなクマが立っていた。

そのクマの口からは、血のように真っ赤な液体がよだれのように垂れている。自慢の鋭い爪も、これまた真っ赤に染まっていた。

そのおぞましくもヘンテコなクマが何か言おうと口を開いた時、また別の方角から声が聞こえてきた。


「やあ、また盗み食いでもしたのかい、ブレッド」


声がした方を見ると、そこには緑色のカエルが服を着て立っていた。背丈はクマよりも大きく、ずんぐりと出たお腹が目立っている。

「盗み食いって人聞き悪いこと言うなよ、ロッソ。俺は野いちごしか食わねえんだ」

ブレッドと呼ばれたピンクのクマは憮然として答えた。

「へぇー、木いちごじゃなくて?」

「どっちだって一緒だろ、イチゴなんてみんな同じじゃねーか」

口を尖らせるブレッドに、ロッソはニヤニヤと笑いながら、

「いいや、この香りは違うね。シュシュおばさんとこの木苺ジャムの香りだ。そうだろう?サン」

ロッソはサニーに尋ねた。

「ワフォッ!」

肯定するように小さく吠えるサニー。

ロッソも鼻は良いが、サニーは犬だ。匂いを嗅ぎ分ける特技なら、サニーの右に出るものはいない。

ほらな、とニヤッと笑うロッソに、ブレッドは観念したように肩をすくめた。

「ああそうだよ、腹が減ったからシュシュんとこのパン屋で、なんか美味しそうなパンでもないか見てたんだ。けど金の持ち合わせがないから、見るだけにしとこうと思ってたら、ちょうどシュシュが出てきて、苺ジャムが余ってるからってくれたんだよ」

「自分だけかい?」

ロッソは意地悪そうに笑いながら言った。

「しゃーねえだろ、その場に俺しかいなかったんだから。別に俺だけもらおうっつーかそーいう考えでもらったわけじゃ…」

モゴモゴとバツが悪そうに口ごもるブレッドを見て、少し可哀想に思ったのか、

「よし、サンもお腹すいたよな、みんなで美味しいゴハンでも食べに行こうよ」

とロッソが優しく言った。



タストーの名物、大衆食堂ナンデモ亭。

その名の通り注文すれば出せないメニューはないというくらい、何でも出てくる。この港町は小さいものの、いろんな国からいろんな行商人がやってくる。そのため、時には珍しい食材が手に入ることもしばしばあり、ある意味この食堂目当てにやってくる観光客も多いのだ。

緑色のカエルとピンク色をしたクマと、黄色い犬の異色の三匹は、ガヤガヤと賑わう食堂の中ひとつの丸テーブルを囲んで食事を済ませていた。正確にはサニーはロッソの足元で高級そうなドッグフードを平らげていた。

「はぁー食った食った。ご馳走さん」

満足そうにお腹をさすりながら、ブレッドが言った。

「しかしよお、ロッソ。お前、なんでそんなに金があるんだよ」

不思議そうに問いかけるブレッドに、ロッソはテーブルに置かれたグラスの水を一口飲んで、

「そりゃあ、町の人たちの仕事の手伝いをしたり、海や川で釣った魚を売ったりしてるからさ。釣りはもともと好きだしね」

と得意げに答えた。

「ふーん、釣りねえ」

「ブレッドも仕事の手伝いとかすれば良いじゃないか。じっとしてるのは嫌いなんだろう?」

ブレッドが釣りが苦手なことを知っているロッソは、仕事の手伝いを勧めたが、ブレッドはかぶりを振った。

「ンなもん、面倒くせーよ。俺はこう、もっと一発ドカンとよ…」

ブレッドが両手をあげて言いかけたその時、


「おい、聞いたか?船の積荷が盗まれたってよ」


後ろのテーブルで話す男の声が耳に入った。

そちらを見ると、二人の男が向かい合わせで何やら話をしている。

物騒な言葉に、ロッソとブレッドが聞き耳を立てていると、男は気付かずそのまま言葉を続けた。

「聞いた話じゃ、中には大量の武器が入っていて、その中でも曰く付きの剣が無くなったらしい。港じゃあ今、大騒ぎだってよ」

「へぇー、曰く付きねえ」

相手の男は大して興味なさげに相槌を打った。

「とにかく、今は港には近づかない方が良いぜ。トラブルに巻き込まれるのはゴメンだからよ」


ブレッドは、小声でロッソに呟いた。

「聞いたか?」

「うん、聞いたよ。武器を盗むなんて、物騒だね」

ロッソも、後ろの男に聞こえないように小声で返す。

「武器かあ、それも曰く付きの剣だって。なんだろうな、曰く付きの剣って」

興味深そうにブレッドが腕を組んだ。

「そうだ、剣って言やあロッソ、お前、昔剣で魔王と戦ったことあるんだろ?」

「ブフォッ!!!!!」

唐突に変なことを言い出すブレッドに、飲みかけた水をロッソは大量に吹き出した。

「ちがっ、ちょ、どっからそういう話が出てくるんだよ!誰と間違えてるんだよお前はいつも」

慌てて首にかけていた紙エプロンで口とテーブルを拭くと、ロッソはジト目でブレッドを睨んだ。

「え、違うの?噂じゃ元は人間だったとか、お姫様にキスしてもらって元に戻ったとか戻らないとか、はたまた遠い未来にぶっ飛んでったとか」

「どこの噂だよ!話がめちゃくちゃじゃないか。俺は昔も何も、生まれた時から今もカエルだぜ?」

言うとロッソは喉を、「ケロケロ!」と鳴らしてみせた。

「……」

何か言いたげな表情のブレッドだったが、やがて、

「そうだ!良いこと思いついた!」

パッと表情を明るくし、手のひらを叩いた。そして再び小声で、

「なあなあロッソ、盗まれたその剣、俺たちで取り返そうぜ!」

目をまん丸くさせて驚くロッソ。

「馬鹿言えよ、誰が盗んだかも分からないのに。どうやって探すんだよ」

その言葉に、ニヤリと笑うとブレッドは言った。

「どうせ盗んだ奴は、高値で売ろうとするんだろ?だったら武器屋に行けば良いじゃないか。曰く付きのって言やあ、すぐに分かるだろうしさ」

「行ってどうするのさ。俺たちで、買い戻すのかい?とっくに売っていたら、取り戻すのは無理だぜ」

「なあに、そん時はロッソ様のお財布で、無事に解決さ!」

ロッソは呆れ顔で深いため息を吐くと、

「そんな大金、あるわけないだろ。そもそも高値で売れるような価値のある物かどうかも分からないし、盗んだ奴がそこへ持っていくとも限らないじゃないか」

「けどよ、じゃあ港へ行って情報集めるにしたって、さっきアイツが言ったみたいに逆に俺たちが犯人扱いされてもたまったもんじゃないだろ。とりあえず行ってみようぜ、武器屋によ」

まるで子どものようにわくわくしながら興奮しまくし立てるブレッドに、ロッソはやれやれ、と肩をすくめた。

「まあ行くだけ行ってみるかい。それにしても、えらいやる気だなあ、ブレッドは」

言われてブレッドはフフン、と鼻の下をこすると、

「だから言ったろ?俺は一発ドカンと当てて、大儲けするのさ!」

胸を張って言うと、早く早くと急かさんばかりに、食堂を出て行った。

ロッソはテーブルの下でウトウトと昼寝を決め込んでいたサニーを優しく起こし、

「一発ドカンねえ…。嫌な予感しかしないよなあ」

と独り言のように呟くと、欠伸をしていたサニーは「ワフッ!」と、同意したのだった。



ナンデモ亭から少し離れた場所にある武器屋の看板には、「タイソウ価値のあるものをタイソウ安く売る店、タイソー屋」と書いてあった。

ロッソがサニーと中に入ると、先に来ていたブレッドが目をキラキラさせて店内のあちこちを物色していた。

普段立ち寄ることがないため、目に映るもの全てが珍しいらしい。

ブレッドがロッソたちに気付くと、

「なあなあ、俺も何か武器欲しいなあ、カッコいいやつ。何が似合うと思う?」

本来の目的も忘れて、すっかり買い物気分で舞い上がっている。

「ブレッドにはその鋭い爪がじゅうぶん似合ってるよ

「爪かあ…爪は良いけどよ、欠けたら痛いし」

「ほらほら、武器屋に来たのはそんな目的じゃないだろ」

まだ諦めきれないブレッドに、ロッソが諭すように言うと、ブレッドは目を見開いて思い出したように手を叩いた。

「そうだった!すっかり忘れてたぜ!おーいおっさん」

言うが早いかカウンターで頬杖をついて暇そうにしている店主に声を掛けた。

「なあなあ、ここに曰く付きの剣って最近入ってないか?」

「んあ?曰く付きぃ?ンなもん、ウチじゃ置かないよ、そんなもんどんなもんか知らねーが、置いといて買ってった客からクレームが来ちまったら、おめぇ面倒臭ぇったらねぇだろうがよ」

もっともらしい返事に、ブレッドは肩を落とす。その様子を見て店主は首を傾げたが、「おおそうだ」と何やら店内を移動すると、一本の剣を持ってブレッドの前に差し出した。

「コレよ、曰く付きとはちょいと違うが、面白いぜ。水が出るんだ、ピューッてよ」

店主が剣の柄を強く握ると、鍔から勢い良く水が飛び出て、ブレッドの顔に直撃した。威力はあまり無いが、ピンポイントで当たると割と痛い。

「ま、要は水鉄砲だな」

「いらねーよ」

ビショビショに濡れた顔でブレッドが答えた時、


「きゃあああああああっ!!!!」


武器屋の外から悲鳴が聞こえた。

「おい、ロッソ!」

「なんだろう、行ってみよう、ブレッド!サン!」

三匹は急いで外へと駆け出した。



「うわっ、なんだコレ!」

駆け付けた三匹が目の当たりにしたのは、タストーの中心部にある噴水広場の前で、たくさんの人間が横たわっている異様な光景だった。

よく見るとほとんどの人間が怪我をして動けないでいる。その中心に、一人だけ立っている人間がいた。

右手にぶらりと下げているのは、一本の剣。持ち主の表情はどこか虚ろで、目は空中ををさまよっている。

「おい、ロッソ。まさかコイツが…」

「ああ、多分、コイツがやったんだ。理由は分からないけど、このままじゃほかの人たちも危険だ。俺たちでなんとか食い止めないと」

「でもアイツ、剣持ってるぜ。俺たち武器ねえよ」

「大丈夫、俺が相手をするから、ブレッドはサンと怪我人を助けてくれ」

ロッソは言うと、剣をぶら下げた男の前に立ちはだかった。

心配そうにロッソの背中を振り返りつつ、ブレッドは離れた場所で倒れている怪我人に駆け寄った。サニーも後に続く。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ、今助けてやる」

声を掛けると、怪我人の女性は小さく目を開いた。

「助けて…。あの人が…あの剣を手にした瞬間、急に…」

言ってロッソと対峙している男を震える手で指さした。

「分かった、大丈夫だ。もう大丈夫だからな、ロッソのヤツがなんとかする。…たぶん。サニー!」

不安な気持ちをかき消すように、大丈夫、と繰り返し呟くと、ブレッドはサニーを呼んだ。

「ワンッ!」

サニーが女性の前に来ると、怪我をしている箇所を確かめるようにクンクンと匂いを嗅ぎ、一瞬ブルッと体を震わせると、全身に力を入れ始めた。

しばらくサニーが力み続けると、全身が暖かい光に包まれ始めた。やがてその光が女性の怪我の部分を包み込む。

「暖かい…」

みるみるうちに治っていく怪我と、目の前の犬を不思議そうに見つめる女性の顔が、ふいに苦悶に歪む。

「くさッ…!なんかクサい!何コレ!?なんかウンチ臭いんだけど…!?」

「クサッ!てバカお前、回復魔法かける時は我慢しろってあれほど言っただろうがよ!」

鼻をキツくつまみながらブレッドがサニーに怒鳴る。

「クウーン…」

申し訳なさそうに小さく頭をうなだれるサニーの頭上を、ヒュンッ!!とものすごい勢いで剣が通過した。剣はそのまま落下し、ガラガラと音を立てて地面を転がっていく。

驚いた一同が振り向くと、男の右手に剣はなく、ロッソが地を蹴って飛び上がると、空中二段蹴りを男の顎にヒットさせた。

男はそのまま仰向けに倒れ込んだ。

「ロッソってあんなに強かったっけ」

友の戦う姿を初めて目の当たりにしたブレッドは、呆然と立ち尽くし、やがてポツリと呟いた。

「…やっぱり魔王、倒してるよな、アイツ」



ブレッドとロッソとサニーは、気を失ったままの男を紐で縛り上げ、怪我人を助けて回った。サニーは一度目でスッキリしたらしく、二度目からは何事もなく回復魔法をかけることができた。

すぐに救援も駆け付け、三匹が休んでいると、サニーがふと地面の匂いを嗅ぎ始め歩き出した。

「どうしたサニー。なんか見つけたか?」

ブレッドとロッソが後を追うと、サニーの鼻の先に、あの剣が落ちていた。

「うわ…どうする?コレ」

拾おうとするブレッドを止め、ロッソが代わりに拾う。

「コレが曰く付きの剣なら、柄を持っちゃダメだぜ。剣を持っていたあの男は普通じゃなかった。これなら大丈夫だろ」

と、鍔をつまんでぶらんと持ち上げてみせた。

「さすが剣に詳しいな、ロッソ。お前やっぱり魔王と」

「戦ってないってば」

しつこく食い下がるブレッドに、ロッソが呆れた表情で言う。

「それよりほら、持ち主に返そうよ。次は持ち主を探さなきゃな」

ロッソが言ったその時、三匹の元に駆け寄ってくる商人の姿が見えた。

「ああ〜ッ、それ!ソレ返して下さい!ワタシの売り物デス!!」

「売り物?売れんのかよ、こんな物騒なモン」

怪訝な顔をしてブレッドが商人を疑わしげに睨むと、商人は声をひそめて、

「コレはまだ試作段階の武器で、今回国から依頼されて大量発注されたモノなんデスヨ。試作のうえ、国からの依頼ということもあって、ナイショで運び込んだのデスが、ドコからか情報が漏れて、盗まれてしまいマシタ」

そこまで言うと、商人は大きく溜息を吐いた。

「しかし見つかって良かった。盗んだはイイが一度に大量に運ぼうとしたせいで、町中では目立つのですぐに捕まえることができまシタ。ただ…」

商人はあたりを見渡すと、肩を落とした。

「一本だけ途中で落としたらしく、そのせいでこんなコトに…」

ブレッドとロッソは顔を見合わせた。

「おいおい、曰く付きの剣って…一本だけじゃねぇのかよ」

「まさか、全部こんな武器なのかい?」

問い詰めるような二匹の言葉に、商人は慌てて手を振った。

「イヤイヤイヤ、あくまで試作段階デスのでッ、必ず管理下のモト、国での研究を進めつつこんなコトが二度と起こらないように徹底するデスよ!!」

早口にまくしたてるように言うと、二匹に近付き耳元で、

「なので今回のコトは、決して他言無用でお願いシマス!!試作段階のコトとか、国の研究のコトとか…ッ!」

そう言って商人は、懐から麻袋を取り出すと、ロッソに押し付けるように手渡した。

ずっしりと重いその袋の中には、今まで手にしたことのない金貨が大量に入っていた。

「す、すげえっ!」

袋の中身を覗き込んだブレッドが目をまん丸くさせて

言った。

ロッソはしばらく考えるような素振りを見せたあと、

「分かった。今回のことは口外しないでおくよ。その代わり…」

そこまで言って一呼吸置くと、

「次また同じようなことが起きたら、今度こそ役人に突き出すから、そのつもりで」

「……」

ロッソの脅しともとれる台詞に、閉口する商人。

「気をつけたほうが良いぜ、コイツ、魔王を倒したこともあるんだからな」

ブレッドの追い打ちの言葉に、商人の顔が一気に青ざめた。

「わ、わかった、約束スル!二度と同じ過ちはしナイ!だから命だけは勘弁してクダサイィ!!」

ロッソが何か言う前に、商人は慌てて逃げるようにその場から去ってしまった。

「……ブレッド」

「いや、まあ良いじゃねーか。それよりホラ、俺の言ったとおり、大金手に入っただろ?」

「いや、言ったとおりって…。まあ確かにそんなようなことも言ったけどもさ」

何やら複雑な表情を浮かべるロッソだったが、手元にある金貨の入った麻袋を見て、ひとつ溜息を吐くと、

「まあ、良いか」

と苦笑した。



それから数日後、何事もなかったかのように再び活気のある街に戻っていた。

ただひとつ、変わったことがあるとすれば……

『よッ!三獣士!』

『三獣士は今日も見回りかい?精が出るねぇ!』

普段は仲が良いというだけで三匹はいつも一緒にいるのだが、例の騒ぎを目撃した街の人達からは、まるで救世主のような扱いを受けていた。

実際にサニーの魔法を受けて怪我を治した人達からも激烈な感謝を受け、三匹の噂はあっという間に街中に広まったのだ。

ロッソに至っては、しばらく弟子入りをせがむ子供たちが後をついてまわり、ブレッドがそれを見てはからかっていた。

「あ〜あ、いいなーロッソは。俺も弟子入りしようかなあ」

ブレッドは頭の後ろで腕を組み、歩きながら呟いた。

「なにがいいもんか。ゆっくり釣りもできやしないよ」

街行く人の波をかき分けるように、ロッソも歩いていく。

「だって俺、なんにもしてないんだぜ。暴れてたヤツを倒したのはロッソだし、怪我人を助けたのはサニーだし。俺もなんか活躍したかったなあ」

「何言ってんだ、じゅうぶん活躍してるよ。サンと一緒に助けて回ったじゃないか。サンは言葉を話すことができないから、ブレッドがいてくれたおかげで街の人達も安心できたんじゃないかな」

「そうかなー」

「それに」

うわの空で返事をするブレッドに、前を歩きながらロッソは言葉を続けた。

「今回はブレッドのおかげで、大金が手に入ったじゃないか」

ほら、とロッソがブレッドに差し出したのは、一本の剣。

「おい…なんだよ、もしかしてコレって…まさか」

ブレッドが目を丸くして何かを言いかけた瞬間、ビューッ!!!!と剣から勢い良く水が噴射した。

「…………」

ブレッドは顔面水浸しで仏頂面になりながらロッソをジト目で睨んだ。

対してロッソは腹を抱えて笑いながら、

「欲しいって言ってただろ?武器。似合うじゃないか、高かったんだぞ、意外と」

「おい…まさか貰った金、全部使ったんじゃないだろーな?」

剣を受け取りながら、ブレッドが恐る恐る聞くと、

「あんな大金、持ってたって仕方ないからな。ほとんど使っちゃったよ、その武器、大事にしてくれよな。ホント高かったんだから」

ロッソはウインクをしてみせた。…実は嘘である。

商人から貰った金貨のほとんどは使わずに、大切にとってある。ただそれを言うと、ブレッドのことだから無駄遣いをするに決まっている。

何に使うかは今のところ決めていないが、いつかこの大金で三匹でどこか旅行に行くのも良いなあ、などとロッソが考えていると、そうとは知らないブレッドは、

「ふざけんな!こんな水鉄砲になに大金はたいてんだっ!返品だ、返品!今すぐ返してくる!」

「いやいやいや、今更遅いし、店長ももう要らないって。まあ良いじゃん、また稼げば。ほら、ブレッド得意の一発ドカンとさあ…」

武器屋へ向かおうとするブレッドを慌ててなだめるロッソ。

一緒に歩いているサニーは、やれやれといったふうに大きな欠伸をすると、スタスタと前を歩いて行ってしまった。

「返品だあああぁぁぁぁーーッ!!!!」

ブレッドの悲痛な叫びは、タストーの街の澄み切った空に、どこまでも響き渡ったのであった。



 お わ り 






 あとがき


最後まで読んで頂いた方、本当にありがとうございます。

やっと夢がひとつ叶いました!

いつか私の大好きなぬいぐるみを主人公にした物語を書いてみたいという、私の夢がやっと叶いました。

いつも夜、寝る前に空想をしながら物語を想い描くのですが、いつも話が進まないうちに朝になってるんですよねー。

そしてその日のうちに見る夢は全くと言っていいほど全然関係ない内容。空想の続きくらい見せてくれ。

まだまだこれからも三匹の活躍は続くし、また新しいオモチャやフィギュアやぬいぐるみなんかもいろいろと登場させたいなあと思っています。

更新はかなりゆっくりめですが、こんなでもよろしければまたお付き合い下さい。


最後に、今回登場した三匹のぬいぐるみたちのプロフィールを載せて終わりにしたいと思います。

最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。




※※※※登場人物紹介※※※※


サニー・ルーク(子犬のルーク)

黄色い毛並みの犬。三匹の中でいちばんデカい。

癒しの魔法を使うことができるが、力みすぎてウン◯が出るのがたまにきず。優しい性格で、人語を喋ることはできない。ロッソとは古い付き合いで、ロッソはサニーのことをサンと呼んでいる。


ブレッド・グルーミー(グルーミー)

全身ピンク色をした小さなクマ。無類のイチゴ好きで、常に口や爪を真っ赤に染めていることから、よく誤解される。本人曰く、苺を食べていて気が付いたらピンクになっていたとか。


グレノア・ロッソ(かえるくん)

二本足で立つ服を着たカエル。色々噂があるが、どれも確かな証拠はない。本人はすべて否定している。三人の中でいちばんしっかりしており、カエル拳法を駆使する猛者。首から下げた瓢箪型の水筒がお気に入り。ずっと前に旅の途中ではぐれてしまった親友のガマガエルを探し続けている。


呪いの剣(とある100円ショップの逸品)

持つとなぜか振り回したくなる、呪いが込められた剣。斬ることはできない。鞘付きの剣がカッコいい。息子は腰ベルトにコレを挿していつも見えない敵と戦っている。




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