ヤンデレと、ツンデレ暴力ヒロインは拗れたら大変なのです?!
「シーニー様!ヴィオレッタ様とちゃんと話しましょう?……その、リュイ様の話がきっかけだとしても、シーニー様はヴィオレッタ様の事、今はちゃんと好きなんですよね?!」
フラフラと生徒会室に戻るシーニー様の腕を引っ張り、ヴィオレッタ様を追わせるべく格闘するが、私はシーニー様にズルズルと引きずられてしまい、まるで手答えがない。
「シーニー、ごめん!……まさかヴィオレッタに聞かれるなんて思ってなくて……。その、僕も一緒に謝るから……。ちょっと確認したかっただけなんだ……。」
リュイ様も援護してくれるが……シーニー様は暗い目のまま、首を横に振って生徒会長の席に座ってしまう。
……ど、どうしよう。
ヴィオレッタ様の事だ。追いかけて弁明すればまだしも、追いかけて来なければ、ますます捻くれてとらえてしまうだろう。
「ねえ!シーニー様、行きましょう?まだ間に合いますって!」
「もういいです……。……ヴィオレッタに嫌われてしまいました。……もう、私には……生きている意味など……ありません。」
あ。
え……。
ヤ、ヤンデレが発病してるっ!!!
隣にいるリュイ様と目を合わせて、ヤバいって顔になる。
「シーニー、あるよ、ある!君に生きててもらわないと、ほんと困るからっ!!!君、将来の宰相様なんだよ?!この国をどーするのっ?ヴァイスだって困ってしまうよ!……すべて捨てて逃げるなんて、僕たち側近としてあってはならないだろ?!」
リュイ様が驚くほどの早口で、捲し立てるようにシーニー様を説得しはじめると、シーニー様はポロリと涙を溢した。
「……そう……ですよね……。」
「だよね?!……死ぬなんてダメだよシーニー!……ほら、僕とジョーヌさんも行くから、ヴィオレッタに弁解してさ……。」
「……なら、ヴィオレッタを殺すしかありません……。私が死んで側にいる事すら叶わないのなら、死んだヴィオレッタを側におく他ありません……。」
「「!!!」」
ちょ、ちょっと……なんでそうなっちゃうんですか?!
ヤンデレの思考回路はブッ飛びすぎてて、怖すぎるんですけど!!!
リュイ様は蒼白になってカタカタと震えている。
分かります、怖いですよ私も!!!
「だっ、だめだよ、シーニー……。そんなの、殺人犯になっちゃうだろ???……未来の宰相様が殺人犯ってのも困るんだよ?!」
「そうですよ!……それに、ヴィオレッタ様が可哀想じゃないですか?!殺されるなんて怖いし、きっと痛いです!!!やめてあげましょう???苦しんだり怖がるヴィオレッタ様なんて、見たくないですよね?!」
「……なら、ヴィオレッタを監禁しましょう。殺さず……閉じ込めてしまうしかない。私から逃げない様に……。薬も飲ませましょう……私の事を嫌いだなどと言わないように……。」
「「ヒッ……!!!」」
仄暗い笑みを浮かべるシーニー様に、リュイ様と2人で思わず後ずさる。
ど、どんな薬を飲ませる気ですか!!!
薬商人の娘としては黙っておけない案件ですよ?!……監禁も良くないと思います!!!
「お薬を悪い事に使わないで下さいっ!!!……シーニー様、とりあえず少し落ち着きましょう。深呼吸です!」
私はシーニー様の隣でスー、ハーと深呼吸してみせる。
リュイ様もスー、ハーして、それを促す。
見ようによっては滑稽だろうが、私たちは必死だ。
私たちが盛んにスー、ハーしていると、シーニー様も釣られて深呼吸してくれた。
……ちょっと……1ミリくらいは落ち着いてくれたら良いんだけど……。
「あのですね、ヴィオレッタ様は『嫌い』なんて、言っていませんよ?……それに、あれはシーニー様を叩いた……いえ、手が当たっただけなんです?!」
「いやいや、ジョーヌさん、『手が当たった』は無理がない?!」
「ちょっとリュイ様!邪魔しないで下さいよ!……元はリュイ様の発言が悪いんですからね?!」
「あ、うん……。でもさ……立ち聞きしてたのも悪いと思うんだけど……。」
冷静なツッコミばかり入れるリュイ様をキッと睨んでやると、「そうそう、あれは事故かもー。言われてみると、手がぶつかってしまっただけじゃないかなー?」と、白々しく棒読みで言い始めた。
「……私を叩いた訳ではない……?!」
いや……すいません、あれは叩いてました。
でも……!
そもそも、ヴィオレッタ様はシーニー様を嫌いで叩いたんじゃない。あれは、愛されていると思っていたのに、アーテル君と引き離す為にシーニー様が嘘の愛を囁いていると思って、ショックで手が出ただけだ。……じゃなきゃあんな悲しい顔で走り去ったりしない。
この極めて重たいシーニー様の愛が、どうして偽りだと思えるのか私には理解出来ないけれど!!!
私とリュイ様は全力で頷く。
「あれは、たまたまヴィオレッタの手がシーニーの顔に当たっただけにしか、僕には見えなかったよ!!!」
「そうですよ!!!たまたまです!!!」
「では、私はヴィオレッタに嫌われていない……?」
「「いない!!!愛されてます!!!」」
私とリュイ様は同時に腹の底から叫んだ……。
◇
なんとかシーニー様を説得できた私とリュイ様は、まだヴィオレッタ様の愛を疑い、暗い目をしたままのシーニー様を引き連れて、ヴィオレッタ様の後を追った。
「……ヴィオレッタのヤツ……どこへ行ったんだ?」
「ま、まさか……チビッコ王子に捕まって?!」
私がそう言うとシーニー様がピクリと動く。
……あ、ヤバっ……。
「ヴィオレッタに何かあったら、あの王子を殺して……ヴィオレッタと共に死にます……。もう……それしかありません……。」
……。
うげ……。死人が増えてる。
「ちょっとジョーヌさん?!やっと落ち着いて来たんだから、スイッチ押さないでよ?!」
「す、す、すみませんっ!!!」
私とリュイ様がコソコソと話していると、シーニー様が顔を上げて「ヴィオレッタ!!!」と声を上げだ。
シーニー様の視線の先には……ヴィオレッタ様がいる。
何やら大荷物を抱えて、急いで船着場に向かっている。
良かった、チビッコ王子には捕まってないみたい!!!
で、でも……こ、これは???
まさか……『実家に帰らせていただきます』状態?!
「い、行きましょう!……止めないと!!!」
「うん。シーニー行くよ?!」
シーニー様は、出て行かれるのがショックだったのか、ブツブツと「やはりヴィオレッタを逃がさない為には、監禁するしか……。」と、物騒な事を呟いていたが、もうすぐ夕方の船が出る時間だ。とりあえず急いで止めないと!!!
私たち3人は急いでヴィオレッタ様に走り寄った。
「ヴィオレッタ様、待って下さいっ!!!」
「ジョーヌ、リュイ……シ、シーニー!!!」
ヴィオレッタ様は散々泣いたのか、目が真っ赤で目蓋も腫れぼったくなっている。
「ヴィオレッタ、どこへ行く気なの?……シーニーと少し話し合って欲しいんだ。僕が不用意な事を言ってしまったせいで、こんなのダメだよ。」
「リュイ、……もう良いの。私、分かったの。私みたいな悪役令嬢は……『ざまぁ』される運命なのよ……。」
……悪役令嬢???
思わずリュイ様と顔を見合わせる。
「あのー、ヴィオレッタ様は悪役なんですか?……何か悪い事をしてるのでしょうか???」
「ジョーヌ、聞いて。私はね、ヴァイスとローザに立ち塞がる悪役令嬢なのよ!!!……2人の恋路を邪魔する悪い令嬢なのよ!!!」
……。
……。
……。
何で、いきなり王子様やローザ様が話に出て来たのか意味が分からない。
リュイ様もだが、シーニー様もなのだろう、ポカンとしている。
「ごめん、ヴィオレッタ、意味が分からないんだけど?いつ君はヴァイス達の邪魔をしてたのかな???……僕が知る限りだと、どっちかって言うと2人の仲を深める役みたいな感じだったよね?」
「え???」
「ほら、ヴィオレッタがローザにキレるから、ヴァイスはそれから守るナイト的な気分になっていたよ……?まあ、悪役と言えなくもないけど、子供の頃のイザコザだし……。それで悪役令嬢って……???」
「ち、違うわ!……私は他にも悪い事をしてきた、真正ダークヒロインなの。」
……ダークヒロイン???
ツンデレ暴力ヒロインではなく???
「えっと……どんな悪い事をしたのさ?」
「ローザとウワベの友情を育んでました!!!……それに、将来的にはローザの悪口をヴァイスのお姉様たち……小姑に吹き込んで、意地悪してやるって……思ってて。」
「う、うーん。……それは止めてあげて欲しいけどさ、まだやってないよね???……それに、あのさ……。ヴィオレッタがやろうとしていた事は意地が悪いなぁとは思うけど、社交界なんて嫌味な噂で溢れてるから、何だろう……小物感しかないよね。」
「え、小物……。」
ヴィオレッタ様は愕然とした表情でリュイ様を見つめるが、私も悪口を陰で言うだけの悪役は……かなりの小物だと思う。
「とにかく、ヴィオレッタ、シーニーと話し合って欲しいんだ。家出なんてやめてさ。」
「違うわ、リュイ。私はこれから出家するのよ!今から修道院に逃げるの!……『ざまぁ』された悪役令嬢の末路は、娼館に送られるのがお決まりなのよ!そうなる前に修道院に入って悔い改めるわ……!」
「だからさ、何を悔い改めるんだよ!!!何でヴィオレッタが、娼館になんかに送られるの?!そんなの君のお父様やお兄様が見過ごす訳ないだろ?!意味が分からないよ???……シーニー通訳してくれよ?!」
唖然としていたシーニー様がハッとなる。
「あの……。すみません。私も意味が分かりません……。」
シーニー様も困惑気味に答える。
何で娼館に送られるなんて話が出て来るのだろう???悪口を言った(しかも未遂)くらいで、そんな事ある訳がないよね???
「シーニー……がやるのよ……。」
「えっ、私が?!」
もはやシーニー様はヤンデレる間もなくキョトンとしている。
「そうよ!……貴方は私に取り入ってパールス家を探っていたのね?!そうして我が家は不正が発覚して取り潰しになり……私は売られてしまうんだわ……!!!私、本当にシーニーが大好きだったのに、酷い!!!酷すぎる仕打ちだわ!!!」
ヴィオレッタ様はそう言うと、「ウワァーーーン!!!」と声を上げて泣き出してしまった。
「えーと……ヴィオレッタ?……パールス侯爵家ほど誠実な家は少ないのでは?貴方のお父様もお兄様も清廉な方々ですよね?……なぜ取り潰しになると???」
「だから何度も言ってるでしょ?!それが悪役令嬢の末路だからよっ!!!……シーニーは、私なんか好きではなくて、私を陥れる為に近づいたんでしょう?……アーテルの事はその……ノリ?みたいな感じだったけど、私が悪役令嬢だから……いつか我が家ごと成敗する気だったのよね?!お決まりのパターンだわ!!!」
えっと……ローザ様の悪口を陰で王子様のお姉様方と言うより、クーデターを唆す方が断然悪役っぽいけど、ヴィオレッタ様的にそっちがノリなんだ……?
「い、いえ……そんなつもりは。泣かないで下さい、ヴィオレッタ……。」
シーニー様はさっきヴィオレッタ様に「大好き」と言われたのでヤンデレモードから持ち直したのだろう、必死にヴィオレッタ様を慰めはじめた。
「その、確かに、きっかけはアーテルとの事でしたが、私は貴女を本当に愛しています。……パールス侯爵家に不正などないでしょうし、まして貴女を売ったりなどしませんよ???」
「本当に?……シーニーは、私を娼館に売らない???……これは『ざまぁ』じゃないの???」
「……『ざまぁ』が何か知りませんが、その様なつもりは毛頭ありません。……ヴィオレッタ、始まりは酷い理由かも知れませんが、どうか変わらず私の側にいてくれませんか?」
「シーニー!!!……本当に?!本当に信じていいの?」
ヴィオレッタ様が顔をあげると、シーニー様はしっかりと頷く。
「はい。貴女を心から愛しております。」
「……シーニー、私もよ……!!!」
ヴィオレッタ様はそう言うと、荷物を投げ捨てシーニー様に抱きついた。
メデタシ、メデタシである。
……。
「……ねえ、ジョーヌさん。」
「なんでしょう、リュイ様。」
「あのさ……ある意味ヴィオレッタは十分に『ざまぁ』されてるよね?」
……え?
2人の幸せそうな抱擁を見つめながら、ニコニコしているとリュイ様が真顔で言った。
「だってさ……シーニーのヤツってばさ、さっきヴィオレッタを殺したり、監禁する気だったよね?心中も仄めかしてた。そんな危ういヤツと結婚するってさ、かなりの『ざまぁ』じゃない?……僕なら修道院に逃げるレベルだよ。……考え様によっては娼館もアリだよね?だって、売られたとしても、高級なお店だろ?そんなお店の娼婦は貴族並みの暮らしをして、大切に扱われてるらしいじゃない……?」
それ、聞いた事ある……。
確か、高級娼婦たちは、気に入らないお客様さんとはいくらお金を積まれても、お茶すら一緒に飲まないそうで、そんなお店の方と懇意に出来るのは、一種のステータスにすらなると聞いた事がある。お給金もすごいらしく、引退後も安泰らしい。
……。
あ、本当だ……。とは思ったけど、私は口に出さずに曖昧に微笑んだ。




