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逃げる、ヴィオレッタ様?!

あれ以来、ランチの時間になると、私とヴィオレッタ様の元にチビッコ王子が来る様になってしまい……私たちは、最近は生徒会室でランチをしている、アーテル君やシーニー様、リュイ様に合流する事になった。


だってさ、チビッコ王子……話が通じなすぎて、怖いんだもん。


さっきも廊下でヴィオレッタ様にプロポーズし、蹴飛ばされたにも関わらず……「ツンデレ暴力系ヒロインって、俺的にはありなんだよね……。つまりこれって……『照れ』もしくは『ヤキモチ』なんだろ?!要するに……俺が好き。」と言われ、慌てて逃げて来たのだ。……怖すぎるポジティブさだ。


「気持ち悪くて耐えられない……。」


ヴィオレッタ様が珍しく弱音を吐く。


「その気持ち、分かります。あれは気持ち悪すぎですよね。」


私が同意すると、ヴィオレッタ様はコクコクと頷いた。


「ですが、一応はアキシャル国の王子……。追い出す訳にも行きませんし……。」


シーニー様も溜息を吐く。


ちなみにお取り巻き連中は、チビッコ王子をサッサと見捨てたらしく、クラスの大人しめな男の子グループと馴染んでしまった。……アキシャル国発祥の鉄道ネタで打ち解けたらしい。


「それにしても珍しいよね?シーニーが妬かないなんてさ……。」


リュイ様が、カフェテリアにお願いしている、お弁当タイプのランチを開けながら、少し感心した様に言う。


「……ヤキモチも何も……ヴィオレッタは相当に嫌ってますからね……。ヴィオレッタが可哀想だとは思いますが、アウルム王子に対しては特に何も思いません。」


「まあ、あそこまで嫌ってると……そうだよね……。」


ヴィオレッタ様は全身全霊で拒否してますからね……。


「ええ。ただ……。ヴィオレッタに嫌がられて叩かれるのを『ご褒美!』とか言い出したので、それは少し気になってます。……私はヴィオレッタに叩かれた事がないので、どんなものなのか、興味があります……。」


……。

……。


えっと……シーニー様、落ち着こう?!

なんか違う世界の扉が開きかけてないかな、それ?


「シーニー、叩かれてみたら?!新たな発見があるかもよ?!」


「アーテル君!!!……変な事を言ってシーニー様を煽らないでよ!」


「そうよ!!!私はね、嫌いな人しか叩かないわ!」


えーっと、ヴィオレッタ様……?

嫌いでも人を叩いてはダメなんだよ???


「えー……そうなの?……なんか面白いかと思ったのに。」


「……アーテル、やめなって。そんなに気になるんなら、自分がジョーヌさんにでも叩かれてみなよ。」


リュイ様が呆れた顔でそう言った。


「ん……?……ジョーヌちゃん、僕を叩いてみる?!」


「え。嫌だよ。アーテル君を叩くなんて無理……。暴力行為は嫌いだよ。するのもされるのも嫌だな。」


「うん。僕もジョーヌちゃんを叩いたりしたくないな……。叩くなら代わりにキスしたいし、して欲しい。」


「ええっ、それって代わりになるかな?!……でも、私もその方が平和だし、良いと思うよ?」


「ん。僕たち、気が合うよね?……キスしとこうか?」


「ええっ、嫌だよ。みんな居るし……。」


私たちが話をしていると、ヴィオレッタ様が『はぁあーーーー!!!』とデカい溜息をわざとらしく吐き出す。


ん???


「リュイ、このバカップルを……処分しましょう。」


「ヴィオレッタ、言葉使いが悪いですよ?!……リュイを変な事に誘ってはいけません!」


シーニー様かそう言ってヴィオレッタ様を叱ると、リュイ様は肩をすくめた。


「いやさ、ソレ、僕も時々は思っちゃってるんだよね……?この2人、隙あらばイチャついてくるでしょ?しかも無自覚だし……。」


えーっと、それ……私とアーテル君の事だよね???

さっきの話のドコがイチャついてるのかな?暴力はダメだよっ話だよね???


アーテル君を見つめると、アーテル君も首を傾げている。


「ま、まあ。否定はしませんが……。それより、アウルム王子の事です。……どうすべきか……。」


シーニー様が悩ましげに唸る。


「うーん。あそこまで話が通じないと……さすがにキモいよね……。」


アーテル君も相槌を打つ。


そうなんだよね、あれだけ嫌がっているのに、チビッコ王子は、無理矢理に全て良い方に捉えてしまうんだから……どうしようもない。


「普通ならノイローゼになってもおかしくないよね?ヴィオレッタは図太いから、平気そうだけど……。」


「リュイ、酷いわね?!……まあ、あんなヤツの所為で病むなんて、私はプライドが許さないわ!」


プライドの問題、なのだろうか……。


「側近の方々も、王子の事を完全に放置してますからね……。止めてくれるのを期待しても難しいでしょうね。」


「そうだね……。とりあえずは、当分、ヴィオレッタに我慢してもらうしか無さそうだよね……。……ジョーヌさん、悪いけどシーニーや僕が側に居ない時なんかは、ヴィオレッタに付いていてあげて?……あの王子、何かしてきそうで怖いし。」


「は、はい。分かりました!」


リュイ様にお願いされ、私は姿勢を正した。

頼りにされてしまった!……ちょっと嬉しい!


「えーっ!……なんかさ、僕のジョーヌちゃんをヴィオレッタに取られるみたいで面白くないんだけど……。」


アーテル君が不満げに言う。


「アーテル、私からもジョーヌさんにお願いしたいです。これが長く続くとヴィオレッタの負担は大きくなっていくでしょう。学園生活では、私とリュイがずっと一緒にいる訳にはいかないですし、男性は一緒に居られない場所もありますから。……アーテルには代わりと言ってはなんですが……今度の学年旅行で、ジョーヌさんと2人きりになれるよう手配してあげますから……。いかがでしょう……?」


「え……。……本当に???」


そういえば、今年は学園祭の代わりに学年ごとに旅行に行くんでした……!


王子様たちが留学しちゃって、班ごとに出し物をするのが難しいグループもあるからって、代わりに旅行になったんだよね……???


3年生の私たちは、他の学年よりちょっと遠くの街に行くから、お泊まりなんだよね。


「ええ。……本来なら4人ひと組の班行動ですが、私とヴィオレッタとアーテルとジョーヌさんの班になるよう工作します。そうして、お互い別々に行動するって感じになりますが……。どうでしょう?お2人で思い出作りをされては?」


「へえ……そんな事、出来るんだ?」


「ええ、生徒会長ですので、そのくらい簡単ですよ。……まあ、ご協力いただけないなら、クジ運がモノをいうだけでしょうが……。如何されますか?」


「分かったよ!ジョーヌちゃんはヴィオレッタに少し貸してあげる。……それに、僕も不本意だけど3人が居ない場合は、僕がヴィオレッタに付いててあげるよ。……さすがに、あの変態王子にヴィオレッタが何かされたら気分悪いからさ……。」


アーテル君が渋々という感じでそう言うと、シーニー様は満足そうに笑った。




◇◇◇




……とは言え、チビッコ王子の猛攻は止まなかった。


側近達がみんな逃げてしまったからか、いっそうヴィオレッタ様を追いかけ回しているのだ。


「はあ、なんとかならないのかしら……。地味にキツいわよね……。」


ヴィオレッタ様が溜息混りにそう言う。


「うーん。……もはやシーニー様と結婚してしまうしか無いんじゃないですか?……さすがに既婚者なら諦めてくれますよ。」


授業が終わってからも、散々チビッコ王子に追いかけ回され、図書館の書棚の影にかくれてやり過ごしたばかりで、私は投げやりにそう言った。


「そうね……。いずれ結婚するんだし……。秋にお兄様達が結婚するから式はともかく……もう、籍だけ入れちゃうのはアリかも知れないわよね。」


ヴィオレッタ様もお疲れなのだろう、私の意見に同意する。


「よし!そうしたら、サクッとシーニーにプロポーズしてくるわ!!!……思い立ったが吉日よね?!シーニーは、今日は生徒会の仕事があるって言ってたし、生徒会室にいるはずよ!」


さすが男前なヴィオレッタ様だ。


「頑張って下さいね?!応援してます!」


ガッツポーズを見せて見送ろうとすると、ヴィオレッタ様が「ん?」って顔になる。


「ジョーヌも行くのよ?私を1人にするなって言われてるでしょう?!」


「えっ?!そうですけど、プロポーズに付き添うなんて、無粋では?!」


「でも、あのチビッコ王子が来たらどうするのよ?……それに、普段から私たちはジョーヌとアーテルにイチャつかれて、砂を吐いてるの。……たまには思い知るがいいわ。」


……そんな事、してないってば!!!


私はヴィオレッタ様に連行され……シーニー様のいる生徒会長室に向かった。



生徒会長室には、どうやらリュイ様もいる様だ。

2人の話し声が聞こえてくる。


「……リュイもいるわね。……後にしましょうか……。」


「そうですね。……寮の部屋まで送るので、シーニー様が帰ったらプロポーズしたらどうですか???」


「そうね……。」


2人で部屋の前でコソコソと話し、寮へと戻ろうとするとシーニー様の声が響いてきて、足を止めた。


「あの……。リュイは良いのですか……その……。前の婚約者に未練があるのですよね?」


シーニー様の言葉に、私とヴィオレッタ様は息を止めた。

……気にはなっていたが、どうしたって聞けない話題だからだ。


「まあね。……でも、仕方ないだろう?……新しい婚約者も兄みたいにだけど、慕ってくれているし……。彼女は彼女で嫁ぎ先で上手くやってるらしいしさ。」


「ですが、それで良いのでしょうか?……私はこの、魔力が全ての貴族社会は、間違いではないかと思っています。ですから……。」


「あのさ、シーニー。……確かに僕にも好きな人と結婚したい気持ちはある。……だけど、好きな人と結ばれなかったから不幸って……事は単純じゃないんだ。僕はね、もし前の婚約者と無理に結婚したとして、魔力の無い子が生まれてきたら、きっと後悔するんだ。……もしかしたら、彼女を恨むかも。僕は臆病だから、それが怖いんだ。それなら、今の婚約者と仲良くしたい。割り切る事になるかもだし、彼女みたいに愛せないかも知れない。だけど……大切にしてあげる事は出来るだろ?」


私もヴィオレッタ様も立ち聞きなんて良くないのに、その場から動けなかった。


「リュイ……。」


「……シーニーこそさ、ヴィオレッタで大丈夫なの?」


……え。


「シーニーは……ヴィオレッタがアーテルに『ヴァイスなんかじゃなく、アーテルが王に相応しい』って、クーデターを唆すから……引き離す為に誘惑したんだろ?」


ハッとしてヴィオレッタ様の顔を見つめると、ヴィオレッタ様は青ざめて震えていた。


「ヴィオレッタ……様……?」


「……そっか。……そうなんだ。これが本当の『ざまぁ』だったんだわ。……そ、そうよね、悔い改めない悪役令嬢の末路なんて……そんなモンよね……。……ッ!!!うううッ……!!!」


ヴィオレッタ様の嗚咽に、ガラリとドアが開き、シーニー様とリュイ様が驚いた顔で飛び出して来た。


「ヴィオレッタ……まさか今の話を……。」


「……ッ!」


パンッ……と乾いた音が響く。


ヴィオレッタ様は、シーニー様に平手打ちを食らわせると、そのまま凄い速さで走り去ってしまった。


「シーニー様!追いかけてあげて下さい!」


「いえ……。ヴィオレッタは……嫌いな人しか叩きません……。そう……言っていましたよね……。私は嫌われてしまったのでしょう……。」


シーニー様はそう言うと、頬を押さえて立ち尽くした。








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