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アキシャル国からの、留学生?!

私とヴィオレッタ様が教室からカフェテリアに向かうのに渡り廊下を歩いていると、ヴィオレッタ様が中庭を見つめて言った。


「ねえ、ジョーヌ、あれノラン様じゃない?」


「え?兄さん???」


私はヴィオレッタ様の視線の先を見つめる。

中庭の噴水の側には見慣れない男性4人が、一塊になって話をしていた。


確かに、その中心に立つ男性が……あ、確かにちょっと兄さんに似ている……。


でも……。


兄さんはあんなふんぞり返って、偉そうに話したりなんかしないし、あの人はなんだか身長も足らないし、若いと思う。


「ねぇ、ヴィオレッタ様、あれ兄さんじゃないですよ?他人の空似ってヤツじゃないですか?そもそも、兄さんは学園になんか来ないですし……。」


そう言ってヴィオレッタ様の方を振り向くと……ヴィオレッタ様はもう居なかった。


え???


慌てて見渡すと、渡り廊下の横にある階段を降りて、その一団に走り寄ろうとしている。


は、早っ!!!


てか、止めなきゃ!……あれは兄さんじゃない!


……どうでも良い情報だが、ヴィオレッタ様は我が家に来て以来、兄さんを大変気に入っている。


兄さんは基本、若い女性が苦手だ。


昔からお店でも、主にお爺ちゃんお婆ちゃんのお相手ばかりしており、今の新しいお店でも、若い女性のお客様なんかは、彼女さんに担当して貰っている。女性同士の方が話しやすいよね?とか、尤もらしい事を言って……。


そんな兄さんは、若い女性……しかもグイグイくるヴィオレッタ様に話しかけられる度にビクビクしていた。……どうやらそれがヴィオレッタ様には堪らなかったらしく、ビビる兄さんを追いかけ回して楽しんでいた。


アーテル君曰く「ヴィオレッタも……なかなかのドSなんだよね……。」だそう。


「ノラン様〜!!!お会いしとうございましたぁ〜!」


私は慌ててヴィオレッタ様を追いかけるが、ヴィオレッタ様はニコニコと、兄さん似の人に駆け寄って、腕に絡みついた。


「ノランとは……誰だ?」


「え。」


その男性は、そう言うとヴィオレッタ様を見つめ、不思議そうな顔で聞いた。


「なんだお前?……もしかして、この俺と懇意になりたくて、こうしてアピールしてきたのか?……ふーん……。美人だな。悪くない。」


「あ、れ……?ノラン様じゃない……。あ!ご、ごめんなさい。……人違いでしたわ。」


ヴィオレッタ様は慌てて、その人から離れようとするが、グッと抱き寄せられてしまった。


「ん?本当に人違いか?……俺ほどの美形がそう居るとは思わないが……?」


ヴィオレッタ様は、嫌そうに体を捩るが、その男性は腕を緩める気がないらしく、2人は揉みあっている。


「ちょ、ちょっと!……すみません!ヴィオレッタ様を離して頂けますか?!」


私も焦って兄さん似のチビッコに走り寄った。


……チビッコって言うのは、兄さんより若く見えるし、背が低くてヴィオレッタ様と同じか、ちょっと高いくらいしかないので、取り敢えず仮称として、そう呼ばせていただく。


「へぇ。お前……ヴィオレッタって名前なのか。名前も可愛いな……。」


「は、離して下さい!……人違いした事は、謝罪いたします。」


「嫌だと言ったら、どうする?」


チビッコはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ、ヴィオレッタ様を更に強く抱きとめる。ヴィオレッタ様は不快そうに顔を顰めた。


……ヴィオレッタ様は深窓のご令嬢だ。


紳士的な幼馴染たち(ルージュ様はアレだけど、それでも酔っ払いみたいに嫌がる女の子に抱きついたりはしない。)と優しいお兄様と可愛らしい弟さんに囲まれて育っている。……こんなの、気持ち悪くて仕方ないのだろう。……微かに震えて見える。


「やめて下さい!!!……私からも謝りますから、ヴィオレッタ様を離してっ!」


チビッコに近づき、その腕を解こうとしがみつくと、思いっきり振り払われ、私はドスンと尻餅をついた。


……お取り巻きと思われる他の人たちは遠巻きに見ているだけで何もしてくれない。


思わず涙が込み上げてくる。


迂闊に腕を絡めたヴィオレッタ様は良くなかったのかも知れない。だけど謝ったし、とても嫌そうにしている。


……なのに助けてあげられないなんて、自分が情けない……。


「ジョーヌ……!」


私が尻餅を付いたのに驚いたヴィオレッタ様は、チビッコをキッと睨むと……。


ガンッ!!!


物凄い音がして、ヴィオレッタ様がチビッコに頭突きを食らわせた。


は、い……???


あまりの衝撃に腕が緩むと、その隙に高速で鳩尾にドスッと肘を入れた。


チビッコは悲痛な声を上げると、その場に崩れ落ちる。慌てたお取り巻きが、今更のように彼を囲んだ。


「ジョーヌ、大丈夫?怪我はない?」


ヴィオレッタ様はそう言って、私を安心させるように微笑みながら腕を差し出した。……何、このイケメン。


「……大丈夫です。ヴィオレッタ様こそ大丈夫ですか?」


「ええ、平気よ。ジョーヌに暴力を振るうなんて許せなくて、ついカッとなってしまったわ。」


チビッコのお取り巻き達が、批判めいた視線を送ってくる。


「……何、貴方達も殴られたい?」


ギロリと睨んで一瞥すると、そいつらは目を逸らした。


……やっぱり、ヴィオレッタ様って中身はご令嬢じゃない気がする。なんだろう……あえていうなら狂犬?!


「ヴィオレッタ様……。」


「ジョーヌ聞いて。人間の急所は体の真ん中にあるのよ?だから、ピンチの時はそこを狙い打ちよ?」


バチンとウインクを決めながらそう言われ、私は乾いた笑いが漏れた。『ハートを狙い打ち☆』みたいな感じで、怖い事を言わないで欲しい……。


「どうされましたか!!!」


混沌としてしまった状況に困惑していると……救世主、シーニー様の声が響いてきた。




◇◇◇




「ヴィオレッタ、彼は交換留学生でアキシャル国の王子、アウルム殿下なのですよ。……謝罪を。」


私たちはシーニー様に連れられて、チビッコと取り巻き3人と共に、生徒会室に連れて来られた。ちなみにシーニー様と一緒に居たアーテル君とリュイ様もいる。


……シーニー様は生徒会長なのだ。


普通なら王子様がやりそうだが、王子様は「私には向いていないし、留学するから。」と辞退したそうだ。シーニー様って苦労人なんだよね……ヤンデレだけど。


「嫌よ、シーニー。その人、いきなり抱きついたの。痴漢行為よ?正当防衛だわ。……アキシャル国の王族って、性犯罪者だったのね、怖いわぁ。」


はわわわわ。

ヴィオレッタ様、本当の事を言っちゃった!!!


チビッコ王子は赤くなりながら、ヴィオレッタ様を睨んだ。


「お前が最初に腕を組んで来たのだろう?……俺の妾にでも名乗り出る気なのかと思ったんだ。アキシャル国の王族が、蛮族の暮らす国にわざわざ来てやったんだ、取り入りたいのかと思ったし……俺は、この美貌だからな!!!」


「へえ……蛮族の暮らす国ねぇ……。」


アーテル君が不快そうに眉を顰める。

何だかんだ言っても、アーテル君は王族だ。この発言は不快極まりないのだろう。


「この国がアキシャル国より遅れているのは認めるけれど、そこまで馬鹿にされる覚えはないよね……。」


「アーテル、やめましょう。彼は大国の王子です。……時には我慢せねばなりません……。」


シーニー様は、素早くアーテル君を制止した。

しかし、悔しい気持ちはあるのだろう、ギュッと唇を噛む。


「シーニー、別に我慢する必要無いわよ?」


「ヴィオレッタ?!」


「いい、こいつは王子なんて言ってもきっと名ばかりよ。……だって、そんな高貴なお方が、蛮族が暮らす国に、何故来るハメになったのからしら?もしかすると、テイよく、島流しにされたのではなくて?……連れて歩いている側近も極めて程度が低いと思うわ。私が嫌がっているのも、ジョーヌを突き飛ばしたのも見て見ぬふりをしたのよ?側近どころか紳士でも無いわよね?……蛮族の国でも恥ずべき振る舞いよ?」


ヴィオレッタ様はそう言うと、チビッコ王子の側近を睨む。

側近は狂犬のようなヴィオレッタ様が怖いのか、ビクリとして目を逸らした。


「……もしヴァイスが他の国でそんな振る舞いをしたら、シーニーなら止めるでしょう?……リュイだって、ルージュだって、アーテルでも、私やローザだって止めるわ。それが私たち王子を支える者の、幼馴染の役目だと思っているから。……つまり、そんな意識すら持たない連中しか側に居ない時点で、コイツはまるで期待されてないって事よ。」


「……な、なんだと!そんな事は……!」


チビッコ王子がヴィオレッタ様に食ってかかろうとすると、イラついていたアーテル君がヴィオレッタ様をサッと庇った。


「シーニー、ヴィオレッタの言う通りじゃない?……考えてみたら、ヴァイス達はセキュリティの為もあって身分を隠して留学したよね?でも、彼らは違うみたいだし……。蛮族の国に来たのに、セキュリティがどうでも良いなんて、ウッカリ何かあっても構わない存在って事なんじゃないかな?」


アーテル君がそう言うと、リュイ様もおずおずと口を挟む。


「あのさ……アーテル。ヴァイス達が身分を隠して留学したのは、セキュリティの為もあるけれど、それだけじゃないんだ。ヴァイス達は、王子やその側近だと名乗らなくとも、きっと素晴らしい成績を残し、一目置かれるだろうから必要ないって判断したのもあるんだよ?」


「ええ、リュイ、そうですね。……いくら蛮族の国の王子でも、ヴァイス達は痴漢行為や暴力行為などはしません。きっと頑張って我が国の名に恥じない態度で修学してくる事でしょう。肩書きなど無くとも、丁寧に接すれば、丁重に扱われるはずです……。文明国なら尚のこと。」


シーニー様もそう言って、留学中の王子様たちに思いをはせる様な顔をする。


幼馴染のコンビネーションとは流石なものだ。


嫌味の応酬に王子の側近はソワソワと帰りたそうに出口を見つめている。チビッコ王子も気まずそうに俯いてしまった……。


……。


なんだか、チビッコ王子が、小さな頃の兄さん見えてきて、ちょっと可哀想に思えてきた。顔だけは似てるし……。


側近たちは『俺たち関係ないし?』的な顔をしてて、フォローする気すら無いみたいだ……。


「あのっ、みなさん、そろそろやめてあげましょう?……王子様は、こんなに体もお小さいですし、礼儀もありません。きっと考え方も幼いんですよ。……多分まだ、成人されていないのでは?アキシャル国は13歳から学院に入学すると聞きました。……てっきり同い年くらいかと思って反発を強めてしまいましたが……もうやめませんか?」


私が咄嗟にチビッコ王子を庇うと、王子は怒鳴り出した。


「黙れ!!!そこのブス!!!お前が一番失礼だ!!!……俺はもう18になっている!!!」


……え。18歳……?!


も、もしかして、私が一番失礼な事、言ってる?!

体が小さいとか、礼儀なしとか、考え方も子供とか言っちゃいましたよ?!


チビッコ王子は私をギリギリと睨むと、威嚇する様にバンとテーブルを叩いて立ち上がった。


「ひゃっ!!!……す、すいませんでしたっ!!!」


ビクリッとして後ずさると、アーテル君が私を庇うように抱きとめてくれた。


「ジョーヌちゃん大丈夫かい?……僕の奥さんに相応しい立派な煽りっぷりだよ……。」


「え。……ち、違うんだよ。本気でフォローしようとして、失敗したんだよ?」


私とアーテル君がそんなやり取りをしていると、ヴィオレッタ様がスッと立ち上がり、チビッコ王子に近づいた。


「ちょっと!貴方っ!いい加減にしなさいよね?!……テーブルを叩いたり、立ち上がったりして、威嚇するとか……うちのジョーヌに、何するのよ?!」


そう言って、チビッコ王子の胸ぐらを掴み、睨みをきかせた。


ひええええっ!!!


ヴィオレッタ様の方が、数倍怖いですっ!!!


「……。……お、お前……。……キスを強請りに来たのか……?やっぱり俺に一目惚れしたのか……?!可愛いヤツだな……。」


え。


な、なに、言ってるの、この人……?


キッチリカッチリなシーニー様すら、ポカンと口をあけてチビッコ王子を見つめた。


チビッコ王子は嬉しそうに顔を赤らめると、そのままヴィオレッタ様に頭を近づける。


パシーーーーン!!!


ヴィオレッタ様がチビッコ王子の頬を打った。


まあ、そうなりますよね……。


「そんな訳あるかぁ!!!」


シーニー様が、蹴りまで繰り出そうとしているヴィオレッタ様を慌てて止める。全身を使っての拒絶である。猫ならシャーッ!!!と鳴いてる勢いだ。


なのに……チビッコ王子は、腫れた頬をさすりながら、蕩けた笑みを浮かべた。


「……ヴィオレッタ、知ってるぞ。お前はツンデレってヤツなんだよな?!……俺はわかっている。……お前、好きな奴の前では素直になれずに意地悪しちゃうタイプなんだよな?……つまり、お前は俺が好き……。」


え、えー……っと。


「「「キモっ!!!」」」


私とヴィオレッタ様、そしてアーテル君は、ついついハモってしまった。









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― 新着の感想 ―
[一言] ジョーヌちゃん、良いですね!!傷に塩した後畳みかけるようにトドメを刺すスタイル。だんだんアーテル君より強者に見えてきました。 ヴィオレッタちゃんもまた高感度が上がってきました。自由すぎる!
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