二学期の、ランチ事情?!
「ねえ、何でヴィオレッタがシレッとラランジャさんの居た場所に座っている訳?!」
アーテル君は私の隣でランチを食べるヴィオレッタ様を、トレーを持って立ったまんま睨んでいる。
そう、二学期が始まり、王子様・ローザ様・ルージュ様・ラランジャが留学で居なくなり、ローザ様とランチを食べていたヴィオレッタ様から「ラランジャさんが居なくて可哀想だから、私が一緒にお昼は食べてあげるわ!喜びなさい!」というありがたいお言葉を頂き、私とヴィオレッタ様は一緒にランチを食べる事になったのだ。
「あら、アーテル。……貴方、友人が居ないからジョーヌとお昼を食べていたのよね?……お可哀想。」
「はぁ?……ローザしか友人が居ないヴィオレッタに言われたくないね。しかも、そのローザとだって上部の付き合いだろ。……シーニーの所にでも行けよ。」
「……残念でした。私はジョーヌともお友達です!……あ、違ったわね、姉妹でしたわ!」
ヴィオレッタ様はアーテル君に冷たく言い返すと、私に向き直って笑いかけた。
そうだ……。
姉さんとモーブ様が結婚したら、私たち義理の姉妹って事になるんでした。
「はぁ?!まだモーブ様とフラールさんは結婚してないだろ?!……ヴィオレッタ、僕のジョーヌちゃんから離れろよ。なんか汚れる。いや、穢れる???引き取ってもらうのに、シーニーを連れてくる!」
「アーテルこそ、シーニーに引き取ってもらいなさいよ。リュイと2人で食べてるし、席に余裕があるわよ?……昼からイチャついてる婚約者なんて、アーテルとジョーヌだけよ?みんなお昼は同性の学友と過ごしてるじゃない。」
ヴィオレッタ様にそう言われて見回すと……確かに、みんな同性同士……もしくは婚約者同士で食べていても、他にも友人が混ざっており、2人きりで食べている人たちはいない。
「別に良いだろ!気にしすぎだよ!昼だって夜だって、好きな人と食べて構わないだろ?!」
「バッカじゃない?……アーテルが良くてもジョーヌが気にするわよ。『アーテル様って本当にジョーヌさんにご執心よね???やっぱり庶民育ちは媚びるのが上手いのね?それとも何か特別なテクニックでもお持ちなのかしらねぇ……?私達には想像もつきませんけど、商魂逞しい商人の娘らしいですから、色々なモノを売りにされてるのかも知れませんわねぇ……。』なーんて、嫌味を言われるのよ。」
「え……。そ、そんな事を言う奴がいるの?!」
アーテル君が青ざめて私に問いかける。
……そんな意地悪、言われた事あったかな???
「えっと……直接は言われた事ないし、そんなの言われてたの知らなかったよ???……それにさ、今まで私たちラランジャと3人で食べてたよね???2人っきりって訳じゃなかったと思うけど……。」
ヴィオレッタ様をおそるおそる見つめると、ヴィオレッタ様はウンウンと頷いている。
「ヴィオレッタ、誰がそんな酷い事を言ってるんだ?!」
「……私よ。」
思わず、アーテル君と私は唖然としてヴィオレッタ様を見つめる。
「1年生のクリスマスパーティ以来、ローザはジョーヌを嫌っているの。ジョーヌが泣いて、みんなジョーヌを庇ったでしょう?だから気に入らないってだけだけど。……だから、私がジョーヌを悪く言うと、ローザはニコニコして機嫌が良くなるの。『ヴィオレッタ、そんな事を言ってはいけないわ。』なんて言ってね。」
……。
なんだろう、あっけらかんとしすぎていて、陰で悪く言われていたのに、全く気分が悪くならない……。
「ヴィオレッタって最低だね。」
アーテル君が呆れた様に言うと、ヴィオレッタ様は鼻で笑った。
「ハッ、何とでも言えば?私がそう言ってジョーヌを悪く言うから、ローザはジョーヌを避けるだけで、何もしなかったとは思わないの?……ある意味、私のおかげでジョーヌは守られていたのよ。ジョーヌ、感謝しなさい。」
「ありがとうございます?ヴィオレッタ様?」
「ちょ……!ジョーヌちゃん?!?!ヴィオレッタに感謝なんかしちゃダメだよ?!君の悪口を言ってたんだよ?!」
あ、そうか……。
でもまあ、ローザ様に睨まれたら面倒そうだったし、ヴィオレッタ様のおかげで?そうならなかったんなら、まあ良いよね???
「ジョーヌは素直で可愛いわ。……でもね、だからこそ性悪腹黒下衆男のアーテルに付け込まれるのよ?」
「その肩書きは、そっくりそのままヴィオレッタに返すよ!」
「残念ながら、私は下衆女よ。……そっくりは受け取れないわ。……馬鹿って嫌ね。アーテルは頭は良いのに性別すら分からない馬鹿なんだわ。」
「いちいち揚げ足とるなよ!」
「揚げ足とりの元祖であるアーテルに言われたくはないわね。」
2人が睨み合い始め、どうしようかとオロオロしていると、シーニー様がリュイ様を連れて慌ててやって来て、割って入ってくれた。
「ヴィオレッタ、アーテルと喧嘩してはいけませんよ。」
「……シーニー、喧嘩なんてしていないわ、アーテルが言いがかりをつけてきたの。私はジョーヌとお昼を食べたいだけなのよ。勿論、アーテル抜きで。」
「シーニー、あのさ、僕とジョーヌちゃんは1年生の時からお昼を一緒に食べて来たんだ。……ヴィオレッタが割って入ろうとしたんじゃないか!」
シーニー様は困った顔をした後に、言った。
「あの……アーテル、私たちと昼は過ごしませんか?……夜はジョーヌさんと食べるのだから、ヴィオレッタに譲ってくれませんか?」
「え……嫌だ。」
アーテル君がバッサリと断ると、リュイ様が苦情混じりに嗜める。
「アーテル、即答すぎない???……それに、2学期の間だけだよ。たまには男同士で情報交換しようよ?」
「……それって、何か役に立つかな?」
アーテル君は不服そうに2人を見つめる。
「さあ?……僕はともかく、シーニーの話は役に立つかも?なんてったって、ヴィオレッタを籠絡してアーテルから奪ったくらいだし?」
リュイ様がそう言うと、ヴィオレッタ様は「籠絡なんか、されてないわよ!!!」と真っ赤になって睨んだが……まあ、されてますよね……。
アーテル君は咳払いすると、私とヴィオレッタ様を見つめてから、「うーむ。」と少し考えた。
「……。まあ、たまには男同士で話すのもありかもね。ヴァイス達が帰ってくるまでの数ヶ月だし、我慢してあげようかな?……ヴィオレッタ、ジョーヌちゃんを泣かすなよ?」
「無理ね。軽く突いてもジョーヌは泣くのよ?……ヒヨコに黙ってろって言うようなモンよ。」
「私、そんなに泣いてませんよ?!」
私がそう言うと、アーテル君やヴィオレッタ様、リュイ様だけでなく、シーニー様すらも笑った。
……え?
そんなに私、泣いてるかな???
◇◇◇
そんな訳で、2学期はヴィオレッタ様とランチを取る事になったんだよ!ってラランジャに手紙に書いたら、そんな話より、文末にあったジョーヌのお姉さんとヴィオレッタ様のお兄さんが秋に結婚して、2人が義理の姉妹になる方がビッグニュースだよ?!そっちを詳しく!!!って感じのお返事が来た。
……た、確かに、そうだったかも!
ラランジャの手紙には、アキシャル国について、来週からやっと学院でのお勉強が始まるんだって書かれていた。
王子様、ルージュ様、ローザ様のお世話は大変らしい事も。……どうやらラランジャは、王子様のパンツまで手配したらしい。ちなみに、ルージュ様とローザ様の分もだそうだ……。
だから、薬師学部を選択しちゃったのが不安……てのも書かれていた。
どうやらアキシャル国の王立学院は、幾つかのキャンパスに分かれているらしく、3人はメインキャンパスでの就学になるけれど、ラランジャだけは別のキャンパスになってしまうらしいのだ。だから、夜とお休みの日しか3人をフォロー出来ないらしい。4人は短期間だからホテルに滞在するらしく、平日も会おうと思えば会えるけど、課題なんかもあるから忙しいしね……って感じなのだそう。
私が手紙を読みつつ、ラランジャの苦労を偲んでいると、アーテル君が夕食を誘いに来た。
「ジョーヌちゃん夕食に行こう。……あ、ラランジャさんからの手紙?」
「うん。色々と3人のお世話が大変らしい。……しかもね、ラランジャだけキャンパスが別なんだって。」
私はそう言ってアーテル君に手紙を見せた。
「へえ。……でも、別の方がラランジャさんには良いんじゃないかな?3人に振り回されて、勉強どころじゃ無くなっちゃうよ。……一応さ、3人とも子供じゃないんだから、ラランジャさん頼みじゃなく、少しは自分で身の回りの事をしてみるべきじゃない?」
「まあ、そうかも。」
「僕はさ、夏の間だけだったけど、ジョーヌちゃんの家で家事を手伝って、メイドや使用人の有難さに気づいたよ。……ヴァイス達に家事をやれって訳じゃないけど、アイツら世話を焼かれて当然!って態度だろ?……これでシーニーやラランジャさんの有難さに気付くと思うよ?」
……そうだよね。
滞在先はホテルだし、掃除や洗濯はやってもらえる。
やる事なんて、自分で必要な物を買ったり、困ってる事や不便な状況を誰かに相談するくらいだろう。
「いい経験になるかな?」
「うん。僕はそう思うし、そうだったよ。……だから、ラランジャさんはラランジャさんがやりたい事に集中したら良いって、手紙に書いてあげなよ。」
「うん、そうする。……あ。そういえば、『交換留学』って事は、アキシャル国からも留学生が来るって事なんだよね???」
「そうだね……?」
そういえば、数日前に別館と呼ばれる賓客用の宿泊施設に掃除業者が来ていたな……?
ここは孤島だし、あそこをアキシャル国からの留学生の滞在先にする気なのかも知れない。
「……アキシャル国も王子様が来るのかな?」
「確かに……。ヴァイスが行ったしね?……でも、あちらは大国だよ?わざわざ王子を寄越すかな?」
「でも、アキシャル国は、魔術に興味を持ってるんでしょう?」
「うーん……。……まあ、向こうも身分は隠してくるだろうし、それなりに丁寧に接しておくのが正解かもね?……さ、夕飯に行こう?昼はジョーヌちゃんをヴィオレッタに取られてるんだから、夕飯は2人でゆっくりしたいんだ。」
アーテル君はそう言うと私を食堂へと促した。




