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アーテル君、発熱する?!

怒涛の一夜をグライス先生のアパートで過ごした私達は、翌日早々に学園に戻って来た。


アーテル君は、目に見えて憔悴していて……部屋に着くなり熱を出してしまった。


……だよね。


アーテル君てば深窓のご令息ですもん、あんな虫の湧いた部屋……正直、無理でしたよね。

庶民育ちの私ですらキツかったもの……。


だけど、アーテル君は一言も弱音を吐かず、ずっと私を気遣ってくれていた。

先生のアパートもだけど、道行く人にアパートの場所を尋ねたり、夜遅くに沢山歩き回ったり……正直、それだって貴族のお坊ちゃまがするのは、しんどかったと思う。


だけど、本当に最後までアーテル君は嫌な顔ひとつせず(いや……先生のアパートの虫と臭いにはしてたけど!)、ずっと優しかったし、気持ち悪いカサカサいう虫からも守ってくれて……何度も「僕のせいでごめんね。」って謝ってくれた。


……まぁ、惚れ直しますよね。



「アーテル君、私……鍵を先生に返してくるね?」


「ジョーヌちゃん……。」


寝室でボンヤリしているアーテル君に声をかける。


「ごめん……熱なんか出しちゃって。情けないよね、僕。」


「情けなくなんかないよ。アーテル君、すごくカッコよかった。……アーテル君が守ってくれたから、私は元気なんだよ?!……疲れが出ているだけらしいから、ベッドでゆっくりしてて?鍵、返したらまた来るからさ?」


めずらしく熱をもった手を握ってそう言うと、アーテル君はコクンと頷いた。


「……先生に、文句言っといて。あのアパートのショックで、この熱は出たんだと思うんだよ。」


「うん。言っておくよ。……食欲が無いって言ってたから、メイドさんに昼ごはん代わりに、すりおろしたリンゴを出してくれるように頼んでおいたよ?……それなら食べられそう?」


「ん。……それなら食べる。ね……ジョーヌちゃん、本当にまた僕の様子を見に来てくれる?」


アーテル君はそう言うと、私の袖をギュっと握った。


……メイドさん曰く、アーテル君はあまり体調を崩さないらしい。言われてみると、学園に来てから、寝込んだ事なんかなかったと思う。……もしかすると、久しぶりの体調不良で心細くなっているのかも知れない。


「もちろんだよ?……たださ、鍵を返してあのアパートの惨状を先生には伝えなきゃ。あれ、ご近所から苦情が来るよ。すぐ戻ってくるから。……そうしたら、ずっと側にいるね?」


「……ずっとって……一生?」


アーテル君は熱が出ても通常運行の様です……。







グライス先生の職員宿舎にアパートの鍵を返してに行くと、待ち構えてましたとばかりに、ニヤニヤ顔でグライス先生は私を部屋に招き入れた。


ソファーでまったりと寝そべっていたヒミツ君も、ピクンと起き上がり、私の元へと駆け寄ってくる。


「ジョーヌちゃん!どうだった?!アーテルと上手く行った?!」


「おい、ヒミツ……そういうのを聞くのは野暮ってモンだぞ?こういう場合はな……『昨晩はお楽しみでしたね?』って言うんだ。」


オッサンとオッサン猫のいやらしい物言いに、軽くイラっとくる。


「2人が期待するよーな事は何もありませんよ。」


どうして、あんな汚ったない部屋で、私達が何かするなんて思えたのか、むしろそっちを聞きたいです。


「え、な、何で???……もしかして僕がグライスに魔法陣を教えさせたから、ジョーヌちゃん、驚いて微妙な感じになっちゃったとか……?……余計な事しちゃった?」


足元に周り込んで来たヒミツ君が、悲しげに私を見上げるが……。


「違うよ、ヒミツ君。使わなかったけど、あんな魔法陣あるの知らなかったし、それはちょっと感謝してる。きっと先生が教えてくれなかったら、知らないまんまだったもの。」


庶民は、子供が出来ないようにする魔法陣なんて知らない人がほとんどだと思う。魔力持ちも少ないしね。

だから、そうならない為にはお薬を使うって聞いた事があるけれど、効果はイマイチだそうで……。それもあって、お付き合いしていても、そういう事をするのは、慎重なのだ。


貴族たちが、簡単にそういう関係になっちゃうのは、もしかするとこういう魔術があるからかも知れない。……産まれてくる子供の性別すら魔力でコントロールしちゃうくらいだし。


「そっか、なら良かった。……アーテルはさ、ジョーヌちゃんと、なんとしても結婚したいから、子供をつくっちゃえ!とかなるんじゃって、心配だったんだよね。」


「……え。」


「ほら、さすがに子供が出来たら逃げられないでしょ?……だけど、いくら相思相愛のカップルやご夫婦でも、子供は話し合って、どうするかを決めないと。……子供の為にもさ?」


ヒミツ君はニコニコとそう言うが……私はサッと青ざめた。


だって……前に、アーテル君が欲求不満だからヤらせろ的な発言をしたのは、もしや……それ狙いだったのかなっ?!?!


確かに子供が出来たら……逃げられない。


アーテル君としては、お嫁さん……いや、後継が欲しいのだから、まさに一挙両得?!?!


いやいやいや、さすがにそれは嫌すぎる……!

ある意味、グライス先生のお部屋が汚くて良かったかも???ジョーヌってば、割にその気だったし……。


「……念のため、あの魔法陣、書いておくね?」


私は顔を引き攣らせて、そう言った。


「うん!そうして?……僕としてはさ、ジョーヌちゃんがアーテルのお嫁さんになってくれたら、すっごく嬉しい。……だけど、僕はジョーヌちゃんも大好きだから、そういうのは嫌なんだ。……それでなくてもアーテルって、いろいろとやらかしてるんだろ……?」


ヒミツ君はそう言って、耳もシッポもヘニャっとさせる。


「ヒミツ君、大丈夫だよ?……アーテル君は、たまに変な事は言うけど、そこまでやらかしてないよ?」


「本当……?……僕さ、ちょっとアーテルの育て方を間違えちゃったんだ。僕って、あくまで魔獣だし、人と常識が違うみたいでさ……。学園に来てから気づいたんだけど、僕のアドバイスのせいで、アーテルは孤立したり、嫌味になっちゃってたんだよね……。」


……育て方間違えたって……。


まあ、ものすごーーーくアーテル君はヒミツ君の影響を受けてるみたいだから、あながち間違いじゃないのだけれど、まるで父親みたいな事を言うヒミツ君がなんだか少し面白い。


でも、あの寂しげなお屋敷で、2人は寄り添って暮らしてきたんだし、そうもなるのかもしれないよね……?


私は思わず、ヒミツ君を抱き寄せた。


「ヒミツ君、アーテル君は素敵な男の子だよ?……ヒミツ君はちょっとズレてたかもだけど……アーテル君の優しさは、もしかしたらヒミツ君譲りかも知れないよ?」


「本当?……アーテル、ダメじゃない?」


「ダメじゃないよ。昨日だって、すごく色々あってアーテル君だってしんどかったのに、ずーっと私を気遣ってくれてて……そういう優しい所、すごく素敵だって思ったよ?」


ヒミツ君は嬉しそうに喉を鳴らすと、私に頭を擦り寄せた。


「お、おい!ジョーヌ、何があったんだ?!色々あったって……?!……まさか、またアーテルが暗殺されかけたとか?!2人っきりにしてやりたくて、放置したが、良くなかったか……!」


話を聞いていたグライス先生が、少し焦ったように私に聞いてきた。


「えっ?!違いますよ!……暗殺なんて、危ない目には会ってません!」


「じゃあ何で……?何で昨晩はお楽しみじゃなかったんだ?!」


……そのセリフ、いちいちイラッとしちゃうんですが?


「……あのですね、先生のアパートは、臭いし虫だらけで、とてもじゃないけど、それどころじゃなかったんです。……てか、よくあの部屋の鍵を貸す気になれましたね、先生?!」


「え、そうか?……しばらく使って無かったからなぁ。隠れ家だからメイドも雇ってなかったし……?そこまで汚かったかなぁ???……虫ねぇ?湧いてた?」


グライス先生はそう言って考え込む。

……いやいや、考えるまでもなく『ゴミ屋敷』でしたよ?!


「ええ!そりゃあもう、沢山!……あれ、近いうちに苦情が来ちゃいますよ!あの部屋は早く片付けた方が良いです!……私もアーテル君も本当に気持ち悪くて、まだ少しマシな場所を見つけて、座って夜を明かしました。……そもそも、先生がくれた地図も意味不明で、アパートを見つけたのも真夜中近くになっちゃったから、そこから馬車を呼んでホテルに移る事も出来ませんでしたし、とても疲れました。……おかげでアーテル君は、疲労困憊で熱を出してるんですよ?!」


ヒミツ君がグライス先生をジロリと睨む。


「酷いよグライス。散らかし屋だとは思ってたけど、そんな不潔な場所じゃ、いくらなんでも、何も起きるはずないって!」


ヒミツ君はそう言って、先生の手をペシッと叩いた。


「そーかぁ?……俺は気にしないが。ヒミツ、猫のお前も似たようなモンだろ?」


「はぁ?!……僕はさ、あくまで猫型の魔獣だよ?!決してただの猫じゃないんだ!!!不潔な場所は僕も無理だよ!……それに、あまりに汚い人とは僕、一緒に住めないからね?!」


ヒミツ君がプリプリ怒りながらそう言うと、先生はヘコヘコと謝まる。……なんか、良いコンビなんだな、2人は。


「ジョーヌ、それならすまなかったな……。アーテルにも謝っておいてくれ。この詫びは必ずするって伝えてくれ。」


「先生、お詫びなんて良いんで、あのお部屋ちゃんと片付けて下さいよね?!」


私はそう言って先生に釘を刺すと、心細い気持ちで熱を出しているだろうアーテル君の元へと急いだ……。




◇◇◇




「……ジョーヌちゃん?」


さっきまでスウスウと寝息を立てていたアーテル君が目を覚ました。……眠っていたからか、だいぶ顔色が良くなっている。


「アーテル君!目、覚めた?……お水、飲む???」


私はベッドの側にある椅子から立ち上がると、ベッドサイドに置かれていた水差しからグラスにお水を注いで渡す。


「ありがとう。……少し眠ったせいか、だいぶ楽になったよ。……寝てるのに、側にいてくれたんだ?」


「当たり前だよ?一緒にいるって約束したし……。」


アーテル君はお水を飲み干すと、サイドテールに空のグラスを置いて、私に手を伸ばす。


「……ありがとう。なんか……うれしい。」


そのままギュッと抱き寄せられた。


「目が覚めて、誰もいないの……寂しいかなって思って。」


「うん。……情け無いけど、そうかも。……いや、今まではそれが普通だったから、寂しいとか思わなかった。……でも、ジョーヌちゃんと居ると……甘えたくなる。」


「……いいよ。甘えるのは無料だよ?」


熱っぽい目でそう言われると、なんだか恥ずかして、私は慌てて、おどけてみる。


「じゃあ、無料なら……もう少し……甘えて良いかな?」


……アーテル君はそう言うと、私に顔を寄せ、そっと唇を重ねた。


!!!


そうして、そのままアーテル君は顔を離す。


「……アーテル君。」


「風邪だったら、うつっちゃうかも知れないから、今日はこのくらいにしとく。……うつっても良いなら、もっと濃厚なのもするけど、どうする???」


「し、しないよ!!!ゆっくり休んでて?!」


私が真っ赤になってそう叫ぶと、アーテル君はハハハッと笑う。


「……でも、一緒にはいて?」


……そう言って、アーテル君は私の手を握った。






夕方になりましたが、なんとか更新できました!……土日は必ず更新しますので、よろしくお願いします!!!

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