ジョーヌの帰国と、テストの結果?!
次の日、アーテル君たちは帰国の途についた。
私とシーニー様が何者かに襲われたテイで話をすすめると、やっぱりというか、結局というか、大変な騒ぎになってしまい、そう簡単に帰国するのは難しくなってしまった。
警察や警備の方に、この国の偉い人からも何度も色々と状況を聞かれ、心配されたりもして……まあ、そうなるよね……って感じではあったけど、とにかく、その数週間は……修羅場だった。
……そんなこんなで、やっと帰国できたら、すでに学園は始まっていた。
◇◇◇
「ジョーヌ、大変だったわね?トラブルの後処理で帰ってこれなかったんでしょ???」
久しぶりに登校し、教室に入ると、ラランジャに労わるように言われた。……多分、詳しい事はルージュ様あたりから聞いているのだろう。
「うん。まーね……。あ、これお土産。」
お土産の包みを渡しつつ、頷く。
「あ、ありがとう。……なんか、やつれてない???」
「うん、やつれてるよ……。早く帰るのに、偽装入院までしてさ……辛かったもん。本当は元気なのにさ、ずーっとショックで弱ってるフリしてなきゃだったし……。あ、そのお土産ね、お守りだよ?!恋が叶うんだって!」
「うわぁ、ありがとう!……って、何でコレ、2個あるの?」
ラランジャは包みを開けて、驚く。
「ああ、それね。もう1個を、思い人に渡すんだって。そうすると恋が叶うらしいよ?」
「ジョーヌ……。あのさ、これ……ハートとかも書いてあるし、いかにも……って感じじゃない?この文字、向こうの国の言葉だけど『恋愛成就』って書いてあるように読めるんだけど?」
「うん。そう書いてあるらしいよ?!……すごいね、さすがラランジャ!」
私達が今回外交で行った国は、ちょっと特殊な言語を使う国だったので、正式な会談等には通訳さんが付いた。……とはいえ、かなり進んだ国なので、観光地やホテルなどは色々な国の言葉に対応していたし、旅行客として過ごす分には特に問題なかったけれど……。
……嘘の入院が辛かったのには、言葉の問題もあったんだよね……。看護士さん達の中には外国語が出来ない人も多かったし、かと思えはすごく堪能な方もいて……。シーニー様とも1日に数十分しか会えないし、嘘の打ち合わせをするにも、看護師さん達はウロウロしているし、ヒヤヒヤもんだった……。
私は辛すぎた入院生活を思い出し、遠い目になった。
「あのさ……ジョーヌ。回想に浸ってるトコ悪いんだけどさ、このお守りを好きな人に渡すって、その時点ですでに好きですって告白したようなモンじゃない?……それが難しいからこその、お守りなんじゃないかと思うんだけど???」
「あっ!!!」
……。
……。
私とラランジャは、しばらくそのお守りを見つめて、固まってしまった。……な、なるほど。確かにコレ、渡したら……そういう事だよね?
「……ま、いいわ。ルージュ様のバッグにでもコッソリ忍ばせておく。……どーせこの国の言葉なんて読めないだろうし。……ありがとうね?!」
「ご、ごめんね、何か変なお土産だったね?!売店で見ていたらね、すごく効果があるんですよ?!って店員さんに勧められて、深く考えずに買っちゃったんだよね……。あ、そう言えば、学園はどうだった?特に変わった事とか無かった???」
そう聞くと、ラランジャが顔を顰めた。
「変わった事と言うか……。……毎日のようにアーテル様とヴィオレッタ様が言い争って、大変だったのよ。……ルージュ様とリュイ様が必死に止めて……。『ジョーヌちゃんが戻って来れないのは、ヴィオレッタのせいだ!』、『シーニーが帰って来れないのは、アーテルのせいよ!』って、寄れば触ればいがみ合って……。最近はさ、ヴァイス殿下やローザ様までも仲裁に入ってさ……あの2人、婚約者破棄して正解だったよねって、クラスのみんなが思ってたわ……。」
……。
それで、私とシーニー様が教室に入って行った時に、なんとなくホッとした空気が流れたのね。
「そうなんだ……。外交先でもさ、いがみ合っていたんだけど、シーニー様が帰りは喧嘩しないように!って言ったから、大丈夫だと思ったんだけどな?」
「うーん。……それはきっと『帰るまで』は喧嘩しなかったんじゃないかな?……学園に戻ってから喧嘩しないなんて約束はしていない!!!とか、あの2人なら言い出すわよ……。」
犬猿の仲なのに、どうしてそういうトコは妙に気が合うんだろう???
「あ、そろそろ授業がはじまっちゃう!魔術だから、私はグライス先生の教室に行かなきゃ!……ラランジャ、またね?」
「うん、またランチの時間にね?!」
予鈴が鳴ったので、私は別れ、慌てて教室へと急いだ。
私とラランジャが、久々に会って盛り上がってるのを見て、アーテル君たちは先に行ってしまったのだろう。
……久しぶりの授業に、私は普通の毎日が戻ってきた喜びを噛み締めた。
◇◇◇
だけど、3学期とは残酷なモノで……そんな、のんびりした普通の日々はあっという間に終わり、学年末テストがやって来てしまうのだ。
……とはいえ。
今回は、外交先で女子力を上げると心に誓ったので、前回みたいに、なり振り構わずガリ勉するのはヤメました。
もちろん、頑張った。……ちゃんと頑張りはしたよ?
だけど、夜はキチンと眠って、お風呂もちゃんと入ったし、夕飯もゆっくり食べた。……ランニングもピラティスもやって、アーテル君に「ちょっと休憩しようか?」って誘われたら、休憩もした。
そして、限られた時間の中で集中して取り組んだのだ。
……まあ、成績は充分らしいしね?
で……、その結果が出たのだが……。
◇
「……9位……。」
私はポカンと貼り出された成績を眺めた。
……。
多分、今回が一番勉強した感は無かった……よね???
「ジョーヌちゃん、今回もお見事な成績、だね?」
やっぱり今回もトップのアーテル君が、ニコニコと私に笑いかけてくる。
1位がアーテル君、そして2位が王子様、3位がシーニー様で4位にヴィオレッタ様、5位にローザ様で6位がリュイ様、7位がルージュ様で、8位にラランジャ……そうして、9位が私……?!……だったのだ。
「う、うそ。……だって今回はそこまで追い込んでやってないよ???」
どんなに頑張っても、なかなか10位を超えられなかったはずなのに、今回私はアッサリと9位になっていた。……テストが終わった時、確かに手ごたえはあったけど、それだっていつもの事で……???
……10位を超えらたのは、寝食を忘れてやった前回だけだったよね???
「うーん。……追い込まれ過ぎないのが良かったのかも?……一緒にお勉強してる時も、今までより集中してやってるなって思っていたし……。」
「そ、そうかな?」
「前々から思ってたんだけど、ジョーヌちゃんてヴァイスと少しタイプが似てて、テスト前になると勉強してなきゃ落ち着かない!って状態になるんだけど……。その割に、まるで集中できてなくて、寝不足だからかウトウトしてたり、それに気付いて、取り戻そうと睡眠時間をさらに削って勉強したり……なんか悪循環に入ってるような気がしていたんだよね?」
……。
言われてみると、全くその通りだ。
テスト前は、眠くて辛くて……集中出来ないのに、無理矢理に集中してやってて……。だから、ボンヤリしちゃう時もあって、その分を取り戻そうって、寝る時間を削ってやるけど、さらに眠くて……。
「ボンヤリしてるせいか、長時間やってるのにあまり頭に入ってなさそうだよなって思ってさ、集中切れてそうな時に、お茶に誘って気分転換を勧めてたんだけど、そういうのは嫌みたいでさ……。……今回は、そんなコトなくて、一緒にお茶してくれたから、気分転換しながら、集中してやれたって事なんじゃないかな?」
「……そ、そうかも。言われてみると、今回、勉強していた時間はすごく集中してやれてた気がする。」
ずっと、休憩を勧めてくるアーテル君を邪魔してくるって思ってて、邪険してきてたけど……。違ったんだ……。
「それに、礼法……良くなったよね?……これ、僕と一緒に外交とか社交に出てくれたからだと思うよ。……ジョーヌちゃんてこれまで、そう言うのとは無縁の生活だったから、礼法の授業って、ちょっと他人事みたいなとこ、あったんじゃない?」
「それはそうかも……。実際に使う様になって、やっと教科書に書かれていたのは、こういう事だったのか……ってのもあったし、使う事で、失礼にならないように頑張って覚えなきゃ!って気持ちにはなったかも。」
そういう意味では『体験学習』も良かったのかも知れない?
「……とにかく、9位、おめでとう。……あとは……春休みだね?」
「うん、そうだね?」
……早いものだよね。
春休みが開ければ、3年生……。最終学年がやってくる。
「あのさ、春休みは社交も少なめだし……良かったらさ、旅行にでも行かない?シュバルツ家の別荘が、この国の南方にあってね……?」
「え……。旅行?」
うーん。……この前の外交が大変すぎたし、旅行はちょっとそそらないなぁ……。どちらかっていうと、家でのんびりしたい……。
「あ、いや。2人きりじゃなくて、ヒミツも連れてくんだけど、ここより気候が良くてね?春休みにはたくさんの花が咲いて美しい庭もあるんだ。お花見がてらにお散歩したり、のんびりさ……。」
「うーん……。」
私が悩んでいると、「ダメよ!!!」と背後から、鋭く声かかけられた。
振り返ると、ヴィオレッタ様が立っており、あっという間にアーテル君と睨み合いになる。
「ヴィオレッタ?!……なに?何の用事?!」
「……ジョーヌ、アーテルと旅行に行ってはダメよ。貴女には先約があるの。……忘れたの?」
「先約、ですか???」
私、何か用事なんかあったかな……???
「もう!忘れているわね!……私に貴女のお姉様を紹介して下さるんでしょ?!」
「あ!!!そう、そうでした!!!」
そうだ!
行きの船で、姉さんを紹介する約束をしたのでした!……帰るのが大変すぎて完全に忘れてた!!!
「ジョーヌちゃん?!……そんな約束をしたの?」
「……うん。ヴィオレッタ様は卒業したら下着ブランドを立ち上げたいんだって。でも、そういうの詳しくないから、姉さんと話をしたいって……。」
「ヴィオレッタ?!……何考えてるの?侯爵家のお嬢様が商売を始めるとか……?!パールス侯爵や、君のお兄様……それにシーニーだって、そんなの許さないんじゃない?!?!」
アーテル君が驚いた様にヴィオレッタ様を見つめる。
……や、やっぱりそうなんだ???貴族のご令嬢は商売するイメージなんてないものね?
「だからよ!……だから、ジョーヌとお姉様に我が家に滞在していただいて、アマレロ男爵家のしっかりモノのお姉様と一緒にやるから大丈夫なのよってのを見せるんじゃない?……シーニーに聞いたら、お父様とお兄様が賛成するなら、反対はしないって言っていたわ?……シーニーは今回の事で、ジョーヌが信頼できる子だって思ったみたいだし、アマレロ家のお姉様も、悪い方では無さそうだって思っているのよ?……ね、ジョーヌ、だからお願い!!!春休みは、我が家に遊びに来て?!?!」
……え、ええっ?!
「ま、まずは姉さんに聞いてみないと……。色々あったから、まだ話してないし……。」
「それはそうよね。……じゃあ、お姉様がOKならで良いから、アーテルとの旅行はナシでお願い。……どーせアーテルの事だから、春休み中ジョーヌを独占する気だもの。」
……まあ、旅行は乗り気じゃなかったから、それはナシで構わないけど……。
「ちょっと待ってよ?!……ジョーヌちゃんが泊まりに行くなら僕も行く!」
「はあ?……何で元婚約者が家に泊まりに来るのよ。社交界で変な噂をされそうだから、絶対に嫌よ。アーテルは来るな。……じゃあ、ジョーヌ、そう言う事でよろしくね?」
ヴィオレッタ様は言うだけ言うと、軽い足取りで教室へと入って行ってしまった。
……とりあえず、至急で姉さんに手紙を書かなきゃ!!!




