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これが、正装?!

私は目の前に並べられたドレス……ローブデコルテというらしい……をゲンナリした気持ちで眺める。……ナニコレ、マジでコレを着ろってか???



あれから私とアーテル君は学園で必要な物を、ショッピングエリアで買いなおした。

アーテル君が『学園は小さな街』と言っていただけあって、お店も数があるし、品物も充実していて、お買い物は楽しかった。


お支払いはアーテル君がするって言ったけど、私的には3年後には、なんとか婚約解消して街に戻る気だし、これ以上弱みを握られるのは怖いので、丁寧にお断りした。


お金は、姉さんが「成金って言われても、事実、我が家にはお金しか無いんだから、何かあったら惜しみなくこのカードでお金を使いなさい!それってつまりは『貴族の俺らが買えない高価な物を、お前ごときが身に着けてて羨ましいです。』って言ってるような、いわば敗北宣言みたいなもんだから!」って言って渡してくれた、姉さんの名義の信用取引ができるカードで支払う事が出来た。

さすが父さんより数段やり手の商売人だ。カードを見るなりお店の人の態度が変わったもの。ありがとうね。……でもね、姉さん。……美人なのに今まで彼氏が出来なかったのは、その気の強さと本当の事を言っちゃう容赦のなさだって、私は思うよ……。


そうして最後に、私達は晩餐会で必要なローブナントカを買いに仕立て屋にやってきたのだが……。


私は試着室の前で、数着のドレスを眺め、動けずにいる。


「ジョーヌちゃんのサイズに合いそうなのは、これしか無いんだ、この中から選ぶしかないよ?もう仕立ててもらう時間は無いからね???」


アーテル君が冷たく言い放つ。


「……えっと……このドレスのどこに慎みがあるのでしょうか???」


どーしても言わずには居られず、アーテル君をジトっと睨める。


……アーテル君は、私が持ってきたワンピースを「可愛いけど、正装じゃないし、ちょっと慎みが無いよね?」と言ったのだ。だけど、あのワンピースは膝が隠れるくらいの丈で、ミニって程でもないし、ふんわりなシフォンが袖というか、ケープみたいになっていて、透け感はあるけど、そこまで露出しているデザインじゃなかったのに、だ。


だからてっきり、貴族様の『慎み深い正装』ローブナントカとやらは、肌の露出が極めて少ない、お洋服なのかと思いきや……。


……ねえ、何でコレ、こんなに胸元開いてるの?


「は???……正装だよ?ロングドレスだし???」


「で、でも!!!……胸のとことか、ガバーって開いてますよね?谷間、見せ見せですよね?……慎みって何ですか???……わ、私、胸はコンプレックスなんです!!!絶対に、どれも嫌ですっ!選べません!!!」


そう。

実は私……けっこう胸がデカいのだ。


だから、姉さんと選んだあのワンピースも、シフォンとレースで上手く胸元を意識させない様なデザインになってたし、普段着だって胸を強調させる服は着ないようにしている。


で、でもこれ……どのドレスも隠すってか、むしろ見せにいく方向なんですがっ!!!


「もー。ローブデコルテだもの、胸元が開いてるのは当たり前だろ?……選べないなら僕が選ぶよ。……この中ならコレかな?」


アーテル君はよりにもよって、一番胸元が開いた黒いドレスを選んできた。……私的には、バスローブの方が正装に近い気がするんだけど?!


「……え……嫌だ。」


「ヤダじゃない。……いい?ジョーヌちゃんは、僕の婚約者なんだよ?分かってる?君が恥をかくって事は、僕のお家も恥をかいちゃうって訳。それも分かるね?……男爵家ごとぎの小娘が、名家シュバルツ公爵家に泥を塗っちゃうの?うわぁ……。酷い話だねぇ……。馬鹿じゃないジョーヌちゃんなら、それがどんなに困った事になるか、理解してくれるよね?!……だから……着てくれる?このドレス???」


アーテル君に凄まれてそう言われ、「はひっ」っと返事の代わりに変な音が出た。


た、確かに、貴族の世界とか全然わからないけど、アーテル君のお家にまで迷惑をかける訳には……い、いかない。いかないんだよ、ね???


よし、着るしかない……着るしかないよ……ジョーヌ!!!

覚悟を決めよう!!!……見た目より着ると、大した事ないかも知れない。



試着室で、着せ替えてもらい、何人かのお針子さんに手直しされつつ、鏡に映った自分の姿を見て……愕然となる。


や、やっぱり、このドレスの何処に慎みが???


む、胸元が……キッツくて、ドレスに無理矢理詰め込んだ感がすごい……。ちょっと動いただけでポロっといきそうで……しょ、娼婦みたいだ。街角でお見かけした事がある。みんな胸元をあらわにして、体のラインを強調するセクシーなお洋服を着ていた。私なんかより美人揃いだったけど……。


そう思いはじめたら、このドレスが、そんな感じにしか見えなくなってきて、だんだんに泣けてきた。晩餐会に娼婦ファッションで行っても良いのだろうか……。そもそも、娼婦になるにも、私の顔は微妙すぎるよ……!


「あ、あの……。こ、これ胸が……。」


「あら、お似合いですよ?ここまでお胸が盛れると、ドレスのラインが綺麗に見えますね?羨ましい。」


お針子さんがニッコリと笑う。


……う、うそ?!


き、綺麗?

ラインが綺麗って……え???


売りたいからって、それ言ってない?!?!


少なくとも、こんな胸出しファッションで正式な場所に出て、良いわけないよね???……ウッカリでポロリなんてしたら、痴女だよ、痴女?!


「ジョーヌちゃん、どう???」


「ひゃわわわ!!!」


アーテル君が声をかけると、お針子さん達が試着室のカーテンを開けてしまった。


もはやマジ泣きだ。アーテル君になんか、絶対に見られたくないんだけど?!


……慌てて屈むと蹲って、胸元が見えないように隠す。


「……ねえ、なんで蹲ってるの???」


ムッとするアーテル君を見上げて、確認をとる。


「ねぇ、アーテル君。アーテル君は、私が何も知らないのを良い事に、騙してないよね?……本当?これ本当に、こんなドレスで人前に出るの???これが正装ってマジですか?」


「んー……ドレスに関しては騙してないよ?」


……つまり、ドレスじゃないとこでは、騙してるって事ですか?!なんとなく感じてはいましたが……やっぱりそうなんですね?!


「お似合いですのに、嫌がられてしまって。はやく手直ししないと間に合わないのですけど……。」


お針子さんがアーテル君に苦笑いを浮かべて言う。


「ジョーヌちゃん、立って。……お針子さん達に迷惑かけないであげてよ。彼女たちはね、至急で対応してくれているんだよ?」


「あら、アーテル様のお願いですもの……。迷惑だなんて思ってませんわ。」


お針子さんがそう言うと、アーテル君はその手を取って目を細める。


「僕のお願いだから聞いてくれるの?……嬉しいな……?でも、急いだらこの綺麗な手を傷つけない?」


「そんな事……アーテル様のお役に立てるなら、傷でも何でも……。」


「……本当に???何でもって、例えば……?」


「フフフ……。もちろん、アーテル様が望まれるなら……。」


……。

……。


何故か、アーテル君とお針子さんのイチャイチャが始まってしまった。


昨日、浮気しないって言ったじゃん?!アーテル君の、嘘つき!!!


あ……。


『浮気しない』は言ってないかも。彼女作らないは言ったけど……。……アーテル君は詐欺師だから「『浮気しない』は言ってないよ?」とか平然と言ってきそうだ……。


チラリと見ると、アーテル君にお針子さんが纏わりついていて、極めてやらしい雰囲気を醸し出してる。

さすが「僕は女性には不自由しない」って言ってのける事はある。なんだよ、それっ……!!!ホントに不自由してませんね!!!


……あーもう……嫌いっ!!!

こんなドレスも嫌だし、アーテル君の馬鹿!!!浮気者!!!


クスンと鼻をすすり、試着室の隅っこで体育座りでメソメソする。この体勢、落ち着くんだよね。

もう良い、泣こう。泣かせて。スッキリするから。


「……どーしたのさ、ジョーヌちゃん?そのドレス、似合わないの?お針子さんは似合うって言ってたけど、気に入らないの?……それで拗ねちゃったの?」


メソメソを決め込んだ私に気付いて、アーテル君が近くにやってくる。


「……うるさいです。あっち行ってよ。心ゆくまでメソメソさせて下さい。気に入らないんです。ドレスもアーテル君も。……私は、お針子さんとイチャイチャする、アーテル君なんか、もう嫌いになったんです。」


素っ気なくアーテル君をあしらう。


ジョーヌちゃんは怒ってますからね!!!

確かに私は甘ったれのメソメソ野郎ですが、言う時は言うんです。気の強い姉さんの妹だけの事はあるんです。


「んー……。ジョーヌちゃんは、僕が『もう嫌い』、なんだ?……それって、今までは僕を好きだったって事なのかな???」


揶揄うような笑顔で覗き込まれ、「ん?」と顔を上げる。


……???


あ!


「……し、知らない。知りません!……罰ゲームみたいなエロドレス着せられたから、きっと混乱中なんだよ、私。」


なんか変な事を口走った気がして、慌てて訂正する。


べ、別に、アーテル君を好きな訳ないじゃん、出会ったばかりの婚約詐欺師だよ。……頼りになるし、嫌いじゃないけど……。わ、私はそんなチョロイ女の子じゃないからね?!騙されないし、3年後には婚約解消だもん!


「罰ゲームってさ……。普通に良さそうなデザインを勧めたつもりだよ?……ねえ、僕に見せてよ?……エロいか見てあげる。こういった場合、男性から見てエロく見えなきゃ、ただの自意識過剰だから、気にする事はないんだよ?」


自意識過剰って……言い方っ!!!

さすが、自称『誠実な男』のアーテル君!!!


……で、でもまあ……一理あるのかも???


私は胸がコンプレックスだから、ついついそこばかりが気になるのかも知れない。……平凡で地味な私の事なんて、周りはそう見もしないだろうし、お針子さん達はラインが綺麗って言ってくれた。


……もしかして、思ってるほどエロくも悪くもないのかな?


泣いた事でちょっと冷静になれた私は、心を決めた。

そっと立ち上がって、アーテル君にドレス姿を見せる。


「………。」


「アーテル君???」


「……すげー……エロい。何でそうなっちゃうの?……ローブデコルテをここまで下品なエロさで着こなすジョーヌちゃんに、僕は妙な才能を感じるよ……。」


!!!






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