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式典と夜会と、それから?!

次の日の式典は昼からなので、私達は準備に多忙を極めた。


そう、私とアーテル君の衣装は、ヴィオレッタ様が言うところの『ペアルック』だから、夫婦設定が入れ替わっている以上、なんとか交換しなきゃいけなくなったからだ。


でも、ヴィオレッタ様のドレスは私にはキツくて入らないし、逆に私のドレスはヴィオレッタ様にはブカブカで、交換するのが無理だと、すぐに判明した。


ここで重要なお知らせがあります。……キツかったのは残念?なことに、胸よりもウエストでした……。

だってね?ヴィオレッタ様って、本当にお人形の様に細くて、くびれた腰をしているのですよ?……ジョーヌがデブな訳ではないんです!ヴィオレッタ様が細すぎなんです!!!


そんな訳で、アーテル君とシーニー様が衣装を入れ替える事になったのだが……。


普段なら準備がかかるのは女性の方なのだが、アーテル君とシーニー様は衣装チェンジによる手直しに時間がかかっており、アーテル君たちの部屋の居間で私とヴィオレッタ様は着替えを終え、待ちながらその様子を眺めている。


「はあ。似た様な体型かと思っていたのに、シーニーの方が足が長いってショックだよ、僕……。」


「まぁ、私の方が身長がありますから、それは仕方ないのでは?」


シーニー様のズボンを裾上げする為に長さを測って貰いながら、アーテル君が嘆いた。シーニー様の方は裾が少し短いそうで、裾を下ろせるだけ下ろして、ズボンを少し下めに穿く事にしたそうだ。


「でもさ、別に足じゃなくて、胴が長いんでもいいだろ?」


「まぁ、それはそうですが。どうやら私は足の長さで背が高いようですね?……あ、袖の長さは問題ないですよ?」


シーニー様はジャケットを着て、修正はしなくても大丈夫そうだと、お針子さんに伝えた。


「ねえ、ジョーヌちゃん。僕って、もしやスタイルが悪いのかな???腕長なのに、短足???」


「ええ???そんな事ないと思うけど……?……シーニー様が足が長すぎるんだよ。」


そう、アーテル君は決してスタイルが悪い訳じゃない。

身長も高すぎず低すぎずで、バランスの良い体型だと思う。


シーニー様が規格外にスタイルが良いのでは?……ヴィオレッタ様もだけどさ。


さっき、私のドレスを着て全体的にブカブカだったヴィオレッタ様を思い出し、深い溜息を吐いた。


アーテル君には悪いけど、たかだか数センチズボンを詰めるだけなんて、大した事じゃないと思う。……だって、足の長さ数センチより、ウエスト数センチの方が事は遥かに重大じゃない???


「まぁね、私のシーニーはスタイル抜群ですから、羨ましがるがいいわ!」


苦笑いしているシーニー様を余所に、まるで関係ないヴィオレッタ様が自分の事のように「フンッ!」と胸を張った。


……うん、今日もヴィオレッタ様はヴィオレッタ様だ。


「ああ!そうだ……僕、ジョーヌちゃん用にネックレス持って来てたんだ!……さすがにあのネックレスを付けて外交に出るのはマズいから、僕が用意するって言ったよね?」


アーテル君は思い出した様にそう言うと、メイドさんに箱を持ってこさせる。


……確かに、私の持ってるコスチュームジュエリーのギラギラネックレスなんかじゃ、失礼に当たるのかも知れない。まあ、いわばオモチャだものね、アレ。


アーテル君が箱を開けると、中には大粒の真珠のネックレスが入っていた。


「うわ……すごく綺麗!……どうしたの、これ?」


「ん。母が貸してくれたんだよ。……つけてあげるから、こっちを向いて?」


いつもの如く、向き合ってネックレスをつけてくれる。


「……いいの?こんな高価そうな物、お借りしても?」


「うん。……母はさ、無関心そうに見えてたけど、僕とジョーヌちゃんの事を気にかけてくれているみたいなんだ。自分達の代わりに僕らが外交に出る事も、すごく感謝してくれたし。……今回ね、僕が式典用にジョーヌちゃん用のアクセサリーを探してるって聞いて、わざわざ持って来てくれたんだよ。……なんかさ、ちょっと嬉しかったな。」


そう言ってアーテル君が嬉しそうに笑ったので、私はなんだか幸せな気持ちになった。


「アーテル君……。なら、お借りするね?」


「うん。……とっても似合ってるよ……。」


私たちがそうやって話をしていると、ヴィオレッタ様がチッと舌打ちをした。


……え。

思わず驚いて振り返る。


「あ、ごめんなさい、つい。ジョーヌにじゃないわよ?……アーテルがあまりにも気持ち悪くて。」


「……あのさ、ヴィオレッタ、僕に喧嘩売ってる?」


「売ってないわよ。歯ブラシを奥に入れすぎるとオエッてなるでしょう?あれと同じ、反射みたいなものよ。……まあ、そのくらい気持ち悪いとも言うけど。」


2人はバチリと睨み合う。


「やめて下さい、2人とも!!!……夫婦設定なのですよ?式典も夜会の間も、人前では仲睦まじく過ごすんですからね?!」


シーニー様が慌てて止めに入った。


「シーニー、式典は大丈夫よ?座っているだけだし、アーテルとは口をきかずに済むから。……夜会は私よりアーテルが問題じゃない?まず、エスコートする方が歩み寄るべきではなくて?」


「はあっ?……なんで僕?……エスコートされる方だって歩み寄りは必要だろ?可愛げがないどころか、憎たらしい感じしかないヴィオレッタだって悪いよね?」


あ、あれ……???大丈夫かな、これ???

昨日より、さらに険悪になってる???


私がオロオロしていると、シーニー様は溜息を吐いた。


「はぁ……。分かりました。……夜会は、入場してファーストダンスを踊ったら、アーテルは私と外交に勤しみましょう。ジョーヌさんはヴィオレッタと過ごして下さい。……ヴィオレッタにはジョーヌのフォローをお願いします。……ジョーヌさん、ヴィオレッタはこんなですが、イザとなれば社交のマナーは詳しいですし、この国の要人については頭に入れさせてますので、そちらはヴィオレッタを頼って下さって大丈夫ですので……。」


シーニー様は言って、安心させるように私に笑いかけてくれた。




◇◇◇




式典を無事に終え、夜会でのファーストダンスが始まった。


シーニー様もダンスは上手いのだが、身長が高いし、アーテル君とは違って少し癖があって、割と踊れるはずのダンスなのに、とても緊張してしまう。


……ふと、アーテル君とヴィオレッタ様を見ると、2人は素敵な笑顔を振り撒きつつ、素晴らしいコンビネーションで優雅に踊っていて、思わず胸が痛くなる。


仕方ない事なんだ、嫉妬したらダメ、これは仕事みたいなモンなんだから……と自分に言い聞かせながらも、ズンと落ち込んでしまう。シーニー様も同じ気持ちなのだろう、さっきから目から光が消えて、まるで機械みたいに気持ちを消して踊っている。


「シーニー様、大丈夫ですか?」


思わず声をかけると、シーニー様は困った顔で頷いた。


「ダメですね、私は嫉妬深くて。」


「……私も、辛いです。」


私がそう言うと、シーニー様は「早くダンスが終わって欲しいですね?」と優しく言ったので、私は滲む涙を堪えつつ、頷く事しか出来なかった。



「ジョーヌ、大丈夫?疲れた顔をしているわ?……なにか飲んで休みましょう?」


ヴィオレッタ様が心配そうな顔でそう言って、私の分の飲み物を受け取って手渡してくれる。


ファーストダンスを終えた私とヴィオレッタ様は、社交に専念するアーテル君とシーニー様を見送り、壁際に下がっていた。


「はい……。ダンスって、アーテル君とくらいしか踊らないから、シーニー様と踊るの……ちょっと緊張してしまって。……ありがとうございます。」


ヤキモチを妬いて辛くて、心が疲れてます……とは言えないので、私はそう言って誤魔化しつつ、受け取ったジュースを一気に飲み干した。


「シーニーは教本みたいなダンスだから、踊りやすいはずなのだけど……?身長のせいかしらね。」


「え……?……シーニー様って、随分と癖があるダンスするんだなって思ったんですけど……?」


「あら、もう飲んじゃったの?……癖が凄いのはアーテルの方よ?上手いんだけど、派手というか、ちょっと独特なのよね?……婚約者だった頃に踊って以来だったけど、その癖は変わってなかったと思うんだけど?……はい、お代わりどうぞ。」


ヴィオレッタ様の口から、アーテル君と婚約者だった頃の話が出て、更に胸が苦しくなった。


「ありがとうございます。……コレ、美味しいですね?」


私はそう言って、2杯もゴクゴクと飲む。

……本当はもう、味なんて良く分からない。


「とても気持ち悪いんだけど、アーテルはダンスもマナーも魔法陣すら、自分の好みになるようにジョーヌに教えているのね……。」


ヴィオレッタ様はそう言って、溜息を吐く。


「……え?……どういうことですか……?」


「例えばダンスは、癖のある自分のリードに慣れさせてるし、マナーなんてAかBどちらかで大丈夫なんてのは、自分がスマートだと思っている方を教えてるって事よ。それにジョーヌの書く魔法陣って、いかにもアーテル好みだって聞いたわ。……シーニーが気付いて羨ましがってたの。『ジョーヌさんは、本当にアーテル好みに仕込まれてるんですね……。』って。まあ、ヤンデレのシーニーには、たまらないわよね。ある意味、『光源氏計画』だもの。」


???


「なんですか、『ひかるげんじけいかく』って???」


「あ、それは気にしなくて良いわ。……つまり、アーテルはキモいって事よ。あと、シーニーもね?……って、うわ。ジョーヌ?大丈夫?ものすごく顔が真っ赤よ???しかも、フラフラしてるわ……。……え。ちょ、ちょっとこっちに座りましょう?」


???


ヴィオレッタさまは、あせったようにそう言うと、わたしを壁際のイスに座らせてくれる。


あ。なんかフワフワしてて気もちがいい。モヤモヤした気もちもボンヤリとどっかへ消えてった……。


「思った以上に弱かったわね。コレはマズイわ……。ジョーヌ、シーニー達を呼んでくるから、ここにピシッと座ってられる?」


「はい。……ピシッとしてます。」


「声をかけられても、気分が悪いから、知り合いが人を呼びにいっているので、お構いなくって言うのよ?わかった?」


「はい。『おかまいなく。』言います。」


「……う、うーん。不安ね……。あ、シーニーがいるわ!……直ぐに戻るから、絶対に動かないのよ!」


ヴィオレッタ様にそう言われ、わたしは息を止めた。


「ジョーヌ、息はして大丈夫よ。……ちょっと行ってくるから、分かったわね!!!」


そう言うと、ヴィオレッタ様はタタッと人ごみに消えて行った。



「ジョーヌさん、大丈夫ですか?」


「……シーニー様?」


シーニー様に呼びかけられて、私はハッとする。


どうやらジュースとお酒を間違えて飲んでしまっていたらしく、酔っ払っていたみたいだ。……私は、滞在先であるホテルのリビングにあるソファーで少し休んだおかげか、頭がスッキリしてきて目開けた。


えーと……。フラフラしながら、馬車に乗り込んだ記憶がある。そうしてシーニー様に支えてもらって、急いで部屋に戻ったんだよね……?とりあえず、この国の人には醜態を晒す事なく、泊まっている部屋まで戻って来れから……良かったのかな?


「あの、アーテル君たちは?」


「ロビーで別れて、部屋に戻りました。お付きの私たちが王族夫妻にお世話になる訳にはいきませんからね?……お水を飲みますか?」


シーニー様はそう言って水の入ったグラスを差し出してくれる。シーニー様もお水を飲んでいたのか、飲みかけのグラスがもう一つテーブルに置かれていた。


「あれ?……シーニー様もかなり飲みました?」


グラスを受け取ると、シーニー様から、かなり濃いお酒の匂いがした。


「ええ……実は。少し飲みすぎました。アーテルとこの国の大臣にかなり勧められてしまいまして……。でも、おかげで外交としては大成功でした。……ただ、まだお酒が残っていますので、休もうかと……。」


「じゃあ、私ももう休みますね?」


「そうですか。……では、お休みなさい。」


「はい。シーニー様もお休みなさい。」


私たちはそう話して、それぞれの寝室に入って行った。







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