ヴィオレッタ様は、癖になる?!
5日もずっと一緒にいると、段々とヴィオレッタ様の人柄が分かってきた。
薄々は気付いていたが、ヴィオレッタ様は、一見すると完璧なご令嬢だが……中身は残念というか、不思議というか……。とにかく普通のご令嬢じゃないのだ。
そして、それが私にバレたと分かるや否や、ヴィオレッタ様は思いっきり地を出してきた……。
ヴィオレッタ様によると、シーニー様には地を出しきれてないらしく、「シーニーってお坊ちゃまだから、さすがに引かれるかなぁと思って!ジョーヌは庶民だから、そこまで驚かないでしょ?!」などと言ってるが……いや、知ってると思うよ、それ。
それに……。
「ヴィオレッタ様!ベッドでお菓子なんて食べてはダメじゃないですか?」
いくらジョーヌが庶民でもね、寝ながらお菓子を食べるとか……普通に引きますからね?
「えーいいじゃん。……ね、見てみて???」
ヴィオレッタ様はそう言うと、手のひらに載せたクッキーを、ポンともう片方の手で手首を叩き、空中に放り投げると、それを口で受け止めてパクリと食べた。
……え、ええと……。
「どう?すごくない???」
「……すごい……気はしますが、それ、シーニー様は怒りそうですよね?」
ちなみに、一緒に同行する事で、あんまり接点のなかったシーニー様の性格もかなり分かって来た。
シーニー様は、寡黙で真面目な優等生タイプで、すべてにおいてソツがない。……まぁ、ヴィオレッタ様に対する愛が非常に重い事を除いては、ヴィオレッタ様が言うように『いいとこのお坊ちゃま』って感じの方だ。
「そうなんだよね?だからさ、得意技なのに披露できないんだよ。……明日には外交先に着くんだよね?さすがに飽きて来たわー……。」
ヴィオレッタ様はそう言って、枕に突っ伏した。
……まあ、飽きる気持ちは分かるけれど。
警備の関係上、私たちはこのフロアから出ないように言われており、豪華客だから船内にはステージやプール、レストランやショップなども完備されているらしいけれど、私達は部屋かラウンジにいるしか無いのだ。……食事は飽きないように色々な料理を出してくれてるけど、それもラウンジか部屋で食べている。
「でも、着いたら式典ですよ?」
「まあね。……でも、まあその辺は慣れてるし。いい暮らししてく上での仕事みたいなモンじゃん?……ねえ、ジョーヌ、暇だし胸、揉んでいい?」
「はぁ?!嫌ですよ!……ヴィオレッタ様、スケベ親父ですか?私の胸で暇つぶししないで下さい!!!」
「ええー?ジョーヌにあやかりたいのよ。」
「ダメです!……シーニー様に言いつけますよ?!」
私がそう言って睨むと、ヴィオレッタ様は伸ばしてきた手を止めた。
「……でもさ、私ったら小さいんだもの。羨ましいのよ。」
「そうは見えないですけど?」
「極厚パッドで寄せて上げてるの。下着にそういう効果があるのを採用してるのよ。……あ!ちょっと見てみる?ジョーヌは少し貧乳の苦労を知るべきだわ。」
ヴィオレッタ様はそう言うと、トランクから下着を引っ張り出してくる。
……ほんと、自由だな、この人。
「これはね、この横の部分にボーンを入れて脇からのお肉をグッと集めて逃がさないようになっているの。前後に入れたパネルもしっかりと胸を支えてくれてるし、下の部分はモールドってのになってて、底上げ効果バツグンなのよ。なおかつパッドを入れるポケットがあってね、見事に2カップはアップするわね。なのにコルセットなんかと違って動きやすいの。」
「へええ……。すごい……。こんなの、どこで買うんですか?」
「もちろん売ってないから、作らせているのよ。だいたいね、私がモテないのは、胸がないからなのよ。」
……えっと。それ、絶対に違うと思う。
「胸ではなく、シーニー様が鉄壁のガードで守っているからでは???」
「ジョーヌ、聞いて。私はね、シーニーと付き合う前から、まるでモテないのよ。まあ、性格が悪いってのもあるだろうけど……。」
そんな事って、あるかな?
ヴィオレッタ様って、相当な美人だけど?
学園でも、ローザ様もだけどヴィオレッタ様も人気だって、ラランジャは愚痴ってたよねぇ???
……うーん?
「それにしても素敵ですね、この下着。機能的なのに可愛いし、動きやすそう。私は胸が小さく見える可愛い下着が欲しいな。……あ、『嫌味だ!』なんて怒らないで下さいね?デカいのだって悩みなんですよ?」
私は、ヴィオレッタ様が自慢げに出して来た下着を見つめて、心底そう思った。
……ヴィオレッタ様は小さいのをコンプレックスだと言うが、デカいのだってコンプレックスなんだよ。邪魔で動きにくいし、服も変に太って見えたり、やたらエロく見えたりして似合わないし……。
あげられるなら、半分くらいあげたいくらいだよ。
「あ!……ジョーヌ、それよ!貴女、良い事を言ったわ!」
「えっ?」
「私は今まで、ジョーヌみたいなデカ乳の事なんか考えた事、無かったの。」
……デカ乳。
あの……言い方ってありますよね?!?!
「でも……そうよ、小さいだけでなく、デカいのも悩みになるのよね?……私、やっと分かったわ。私がこの世界に来たのはね、乙女ゲームをするためではなく、下着に関する知識を使って成りあがる為なんじゃないかしら?!」
……???
「乙女ゲーム???……この世界に来た???」
「ああ、それはいいの。そこは気にしないで。……私は、ジョーヌと話していて気づいたの。胸は小さくても大きくても悩むのよ……。そして、女の子はそんな悩みを解決できる、可愛くて機能的な下着が欲しいものなのよ。……胸だけじゃないわ。みんな密かに下着には悩んでる。苦しすぎて嫌だったり、あんまり可愛くなかったり……この世界は下着の機能もだけど、考え方もだいぶ遅れてるもの。……ジョーヌは、胸が小さくなる下着とかあったら、欲しくない?しかもデザインも可愛いくて、苦しくないのよ?」
「ほ、欲しいです!!!」
そ、そんな夢のような下着って……あるのだろうか???
「でしょう?……確か私の記憶では、胸をコンパクトに見せる下着もあったハズよ……。」
「あの、記憶って???」
「だから、それはいいのよ!いちいち気にしないで!……確か、肩紐が太いやつとか、蒸れにくいのや、金具が三角になってるのもあったわね?……異世界なら特許なんか関係なく、パクリまくりよ!……とにかく、私はやるわ!私は下着で天下を取ることにします。……いい、ジョーヌ?これはね、この世界初の下着ブランド『ヴィオレッタズ・シークレット』誕生の瞬間よ!……はい、拍手!!!」
は、はい?
よく分からないが、パチパチと拍手をするとヴィオレッタ様は満足そうに目を細めた。
「えーっと……。ヴィオレッタ様は下着ブランドを立ち上げる気なんですか?」
「ええ、そう。今、思い付いたわ。卒業したら、お父様を騙してお金を用意させ、立ち上げようと思うの。……どうかしらね???」
あまり、貴族のご令嬢が商売を始めたいだなんて、聞いた事がないけれど……?でも、機能的で可愛い下着って、確かに欲しい。
「……いいと思います。我が家の姉さんが飛びつきそうな話です。」
ヴィオレッタ様と話していて、私はなんとなく姉さんが好きそうな話だなぁと思ったのだ。
「……そう言えば、ジョーヌって商人の娘なのよね???お姉さんて、そういうの詳しいの???」
「ええ。我が家で商売を仕切ってるのは、ほぼ姉さんなんです。父さんはお人好しすぎて、実はあんまり向いてなくて……。家はお薬をメインで取り扱ってるんですけど、姉さんはやり手で……。最近は化粧品やら健康に良い食品なんかも売ってるんですよ?」
……そう。
最近姉さんは、彼氏と破局してしまい、またしても仕事に燃えているのだ。どうやら、彼氏と商売の事で張り合ってしまい……ギスギスして、喧嘩別れしちゃったんだって。
まあね、姉さんって仕事や商売が絡むと、ちょっとギラギラしちゃうとこあるからね……。
そんな訳で、今や姉さんは「これから私は、仕事に生きるわよ!我が家をこの国一の大きな商会にしてやるわ!!!」と息巻いているらしいのだ。兄さんからのお手紙に、そう書かれていた……。
ちなみに兄さんの方は、リッチーとエイミを預かってくれた女の子とお付き合いを始めたらしく、ラブラブモードだ。『恋って素敵だね。(ハート)』とか書かれており、実の兄からの言葉としては、とても気持ちが悪かった。
「ねえ、ジョーヌ、それなら貴女のお姉さんを私に紹介しなさいよ。ほら、私って貴族のお嬢様でしょ?商売を始めようと思っても、騙されちゃうかも知れないじゃない。」
「え……?……まぁ、別に良いですけど……。」
……姉さんと、こんなヴィオレッタ様なら……意外と性格が合うかも知れない。
「でも、いつもの『ご令嬢モード』じゃなくて、今みたいな感じで話して下さいね?姉さんも、あんまり貴族が好きじゃないんで……。」
「あら?そうなの???……この国で一番を目指すなら、貴族に売り込むのもアリじゃない?」
「そうなんですけど……。我が家の姉さんって、私と似ていなくて、かなりの美人なんですよね。それで……貴族の男性に、妾にならないかとか、愛人にどうかとか……色々と言われたりしたらしくって。」
……私が貴族が嫌いな理由には、それもある。
姉さんが、そんなお誘いを上手く断るのにとても苦労しているのを知っていたからだ。……姉さんは気が強いし、そもそも貴族相手の商売ではないから、酷い目に遭うことはなかったけれど、それでも嫌な思いをする事は、いっぱいあった。生意気だって言われて、商売の邪魔をされ、悔しくて泣いているのを見た事もある。
父さんが爵位を貰ったのは、庶民でいるよりは、そういうのが少しマシになるかもって思ったのもあったらしい……。
「ふーん。そいつら最低ね。……じゃあ、ますます私と組んだらいいわ。そんな事を言う奴らは、私が魔術でギッタンギッタンのボッコボコにしてやる……!!!私の家は侯爵家で、とっても顔が利くから、うっかり殺っちゃっても……闇に葬れるはずよ?」
「ヴィ、ヴィオレッタ様、もっと平和的にいきましょう???」
……やっぱりヴィオレッタ様は、ちょっとヤバい。
権力を笠に着るにしても、うっかり殺っちゃってからとか……おかしいから!!!
しかもヴィオレッタ様は選択魔術では攻撃を選んでいたはず。……それがものすごーく適性があったらしく成績が爆上がりしたんだと、自慢していたよね?……洒落になんないよ???
「あっ、そうだ!その前に、シーニーから許可を貰ってこなきゃ!」
「そうなんですか???」
自由人かと思いきや、婚約者のシーニー様から許可を貰うとか……やっぱりご令嬢なのね……。
「ほら、シーニーは重くてめんどいでしょ?だから先に言っておくのよ?『許可した。』ってテイが大切なの!分かる?……ジョーヌも見習って良いわよ?コレが男を上手くコロがすコツね?」
「……は、はあ。」
「可愛くお願いして、自尊心をくすぐっておくの。従順なフリをしておくのよ。……例え囚われて鳥籠に入れられていても、好きな場所に連れて行けって上手く命令できるなら、不自由なんてないに等しいと思わない?」
「……ヴィオレッタ様って、何かあくどいんですね。」
私がそう言うと、ヴィオレッタ様はわざとらしい溜息を吐く。
「違うわよ。……人生2回目の、ズルい女なのよ。」
「えっ???……人生、2回目???」
「ジョーヌ、だからね、イチイチ気にしなくていいのよ。……とにかく、そういう事なの。」
……やっぱりヴィオレッタ様は良く分からない。
でも、なんだか癖になるんだよね、この感じ。
シーニー様がヴィオレッタ様に惹かれるのが、分かる気がする……。
そもそも、シーニー様は、タランチュラをモコモコで可愛いクモって言っちゃう人だ。ちょっと趣味が独特なのだろう。
(それに……実はジョーヌも、シーニー様のクモを見て、ちょっと可愛いかもって思ってしまったんだよねぇ……。)
誤字報告ありがとうございます!とても助かっています!




