クリスマスパーティーの、ドレス事情?!
「ジョーヌ、良い成績だったな!驚いたぞ。」
「本当に、よく頑張ったよね!」
アーテル君とクリスマスパーティーの会場までやって来ると、ルージュ様とラランジャもちょうどやって来たらしく、入り口のところで鉢合わせして、2人が成績の事を褒めてくれた。
2人だって、テスト勉強は相当していただろうに、こうして気持ち良く私を褒められるのは、人柄なのだろうと思う。……ローザ様には昨日、教室でギリギリっと睨まれたからね。
「ありがとう。ここんとこ、毎日3時間睡眠でガリ勉して頑張ったしね。……昨日は疲れすぎて、お風呂で寝ちゃったくらいだよ。」
「へえ……。」
ルージュ様が何故かニヤニヤとアーテル君を見つめて笑う。
「……。ルージュ、そういう顔、やめてくれない?ジョーヌちゃんは本当にお疲れだったから、ゆっくり休めて良かったって僕も思ってますから。……ルージュこそ、今年はラランジャさんにドレスを贈ったの?」
「ああ。まあな。婚約者だし。」
「へえ。それ脱がせる気、マンマンって事?……うわー……だとしたら、やーらしー……。」
どうやら、久々にアーテル君の煽り魂に火が付いたようだ。
「はあっ?!……な、何言ってんだよ?!」
「何ってさ、去年は自分でそう言って、ラランジャさんを怒らせたんだろ?……ラランジャさん、こいつ下心まみれだから、気をつけなよ?」
「お、おい、やめろ!……ラランジャ、俺は、そういうつもりでドレスを贈った訳じゃないぞ?!その、去年みたいに、他のやつにドレスを贈られるのが嫌だから、それで贈ったんだからな?!……下心はそんなにはない!」
ルージュ様はアワアワと言い募った。
……『そんなにない』って事は少しはあるんじゃ……。まあ、ルージュ様はラランジャが大好きだからね?下心が芽生えちゃうのは仕方ないかもなぁ……。ラランジャだって、ルージュ様を好きなんだし、まんざらじゃないだろうし。
……羨ましい限りです。
はぁ。結婚まで余裕で待て出来ちゃうらしい私とは、やっぱり違うよね……。
「はい、はい、分かってますよ?でもね、ルージュ様?ドレスは本当に嬉しかったんですよ?私を婚約者だって、認めてくれたみたいで……。」
「認めるも何も……お前は俺の婚約者だろ。……そ、その。似合ってるぞ、そのドレス。俺が見立てただけある……。」
……。
あ!
確かに……!!!
今夜、ラランジャが着ているドレスは、とてもラランジャに似合っており、彼女の良さを生かしていた。身長が高くてスレンダーな体型が引き立つ、美しいマーメイドラインのドレスで、あまり飾りのないシンプルさが、ラランジャの大人っぽい顔立ちにとても合っている。……そもそも、ラランジャが好きそうなデザインだ。
……ルージュ様ってさ、かなり良くラランジャを見てるよね???
いつもは『ローザ可愛い!』って騒いでいるから、てっきりローザ様が良く着ている様な、フンワリした女の子らしいキュートなデザインを選ぶのかと思いきや、ちゃんとラランジャの好みで似合うのを選んでるあたり……愛を感じるよ。
それに……。
ガサツで口は悪いけど、親分肌なルージュ様と、気も強いし言う事は言うけれど、細かい事に気が利くラランジャは、本当にお似合いのカップルだと思う。……人が良いところは似ているから、将来、騎士団長になったルージュ様と、それをフォローするしっかり者の奥さんに、沢山の騎士が慕って集まっている構図が目に浮かぶ様だ……。
なのに、未だに両片思いのまんまって……どうなの?お互い、もう少し頑張るだけなのに……じれったいなぁ。
「僕も素敵だと思うよ、そのドレス。……ラランジャさん。とても似合ってる。」
私が妄想する横で、アーテル君が微笑みながらラランジャを褒める。
「まあな、俺のセンスがいいし、ラランジャは美人だからな!」
「えっ?!ルージュ様?!……変な事、言わないでよ?!なんか恥ずかしいよ?!……アーテル様、ありがとうございます!」
ドヤるルージュ様を遮り、ラランジャは照れながら答えた。
「別に変って事はねーだろ。……お、そうだ。ラランジャ程じゃねーが、ジョーヌもなかなか可愛いぞ。そのドレス、アーテルに貰ったんだろ?いかにもアーテルが好きそうな感じだな。」
「ルージュ様、ありがとう……。あの、これ……似合ってる?」
「似合ってるぞ?……いかにもバカップルって感じで、ものすごいお似合いだ。お前らくらいにしか恥ずかしくて着こなせない衣装だよな!新郎新婦だって、そこまで揃いの衣装にしない。もはや双子だな!」
……。
新郎新婦を超えて……双子……。
褒められているのだろうか……それ。
そう、アーテル君が用意した衣装は生地から、ちょっとした飾りに至るまで、2人がお揃いになるよう仕立てられていた。ドレス自体はラインも綺麗だし、とても良いんだけれど、美形のアーテル君とここまでお揃いとか、ちょっと私の難が目立ちそうな気もする。……まあ、良いけどさ。
「ルージュ、双子じゃないよ!……僕たちは『比翼の鳥』だって、前に話しただろ?それをイメージして、作らせたんだよ……。2人ひと組で羽ばたく鳥をイメージしたんだ。お似合いだろ???……図書館でさ、『比翼の鳥』の伝承について調べたら、どうやら真鴨に似ているらしいから、そこからイメージを膨らませてるんだよ。」
……そうだったのか。
だから光沢のあるグリーンと茶色という、ちょっと変わった色の組み合わせなのね……。
それに、ドレスの腰の辺りには、垂れ下がる様に金属製の鳥のチャームが付いている。……アーテル君の襟元にも同じ物があるので、これが『比翼の鳥』ってヤツなのかな???
「テスト期間だったのに、アーテルは余裕だったんだなぁ……。羨ましい限りだぜ。……しかし、真鴨かぁ。まさにピッタリたな、ジョーヌ!」
「は、え???」
「お前さ、真鴨のつがいを見た事あるか?……真鴨はな、オスがやたら綺麗で、メスは地味で目立たないんだぞ???」
「……な、なるほど。」
確かに、私とアーテル君のようだ。
「ちょっと、ルージュやめてよ。ジョーヌちゃんに失礼じゃないか!ジョーヌちゃんは僕の最愛で、とても素敵なんだよ?!」
「なんだよ。真鴨女子、良いだろ?……真鴨のメスは地味で目立たないから、外敵に見つからずに、安全に子育てできるんだぜ?……つまり、地味なジョーヌの素敵さは、親しくならないと分からないから、変な奴から目を付けられにくいってことを言いたいの、俺は。」
え……。それ、褒めてるかな???
ただ単に、『地味』って言われてる様な気がするけど……???
「いいね……真鴨女子。」
アーテル君は嬉しそうにルージュ様と盛り上がり始めたが……。やっぱり、何となく褒められてる気がしない。
◇
私たちがそうして話をして居ると、リュイ様が私たちに気づいてやって来た。
「みんなもう来てたんだ!早いね……って、うわっ!アーテルとジョーヌさん……マジですごいの着てきたね。あからさまなペアルックを見せつけてくるバカップル・スタイル、僕は嫌いじゃないよ?……僕なら絶対にしたくないけどね。」
リュイ様は、私とアーテル君を見るなり、そう言って引き攣った笑顔を浮かべた。
……ペアルック。
「んー?……羨ましいなら、リュイも新しい婚約者とやりなよ。」
「やめて。彼女はさ、まだ子供だし、夢見る女の子なんだよ。……マジで憧れてやりたがるから、余計な事を吹き込まないでよね?」
「いやいや、いーじゃねーか。お揃いを着たら迷子になりにくいぞ?」
「あのね、僕の婚約者はそこまで子供じゃないよ?!……子供扱いするとメッチャ怒るんだからね?クリスマスにお人形を贈ろうかって手紙を書いたら、怒りの手紙か来たんだからね?……『私はレディなので、香水が欲しいです。』ってさ。」
……。
宝石やドレスではなく、ねだる物が割とお手頃なのが可愛らしい……。
「なにそれ、可愛いですね?!」
ラランジャも思わず顔を緩めて会話に入る。
「まあね。……でもさ、お子様なのは確かだし、どんなのを買うか悩んでいるんだよ。あまり大人っぽすぎても微妙だしさ……。」
「香水より、香りが軽いオーデコロンなんかで、リュイ様の好みの物を贈っては?」
「なるほど。さすがラランジャさん!……それなら気に入ってもらえそうだね。……さ、そろそろ会場に入ろうか?」
リュイ様は笑いながらそう言って、私たちを促した。
……リュイ様と新しい婚約者は、恋愛感情の有無はともかく、なかなか上手くいっているみたいだ。
◇◇◇
「こんばんは、アーテル、それとジョーヌ・アマレロ。」
会場に入って少しすると、ヴィオレッタ様が声をかけて来た。後ろにはいつのも如く、シーニー様が控えており、無言で黙礼してくる。
「やあ、ヴィオレッタにシーニー。……今夜もヴィオレッタのドレスはシーニーの纏わりつく様な執着心が表現されていて、とても素敵だねぇ……。その上、シーニーもよくやるよ……。」
アーテル君はそう言って、薄ら笑う。
そう、ヴィオレッタ様は、毎回の様にシーニー様を彷彿とさせる、ブルーのドレスを着せられている。ヴィオレッタ様がチラッと愚痴った所によると、青系以外を着るとシーニー様が不機嫌になって面倒くさいらしい。一方でシーニー様も、ネクタイとかチーフとか、カフスやらベスト、小さなアクセサリーやボタンなどの、小物がいつも紫になっている。こちらもヴィオレッタ様によると、「勘違いしないで欲しいんだけど、シーニーのアレは自主的にやってるの。私がやらせてる訳じゃないわよ?……彼はね非常に重い男なの……。」との事だった。
まぁ……重いのは、分かる。
「うるさいわね。ペアルックでキメてきたアーテルになんて言われたくないわ。シーニーの方がまだマシよ……多分?……もうさ、そんななら、2人で寄り添ったらハートになるデザインとかにしてしまえばいいのではなくて?」
嫌味な言い方でヴィオレッタ様が笑うと、アーテル君は目を見開いた。
「!!!……だよね?!僕もさ、そう思ったんだけどさ……。でもね、片割れのハートをドレスに組み込むのは、縁起も悪いし、デザイン的に難しいってイーリスに言われてさー、仕方なく『比翼の鳥』をイメージしたデザインにしたんだよ。……だから、今回は片羽の鳥のモチーフを付けてるんだ。」
……。
寄り添うとハートとか……えっと……さすがに嫌だな、それ。
ま、まさか……この鳥のモチーフも変な仕掛けがあったりしないよね?
「アーテル君、その鳥って……もしかして、これの事?」
おそるおそる腰に付いた鳥の飾りを持ちあげると、アーテル君がニッコリと笑う。
「ご名答!……これね、僕の襟元にあるモチーフとカチッと合うように出来てるんだよ?合体させると『比翼の鳥』になるの!すっごくいいでしょ?パーティーが終わったらこのモチーフをお揃いでネックレスにして身につけよーね?」
ええっ。
お揃いの合体するネックレスとか、恥ずかしいんだけど?
……でも、良い笑顔で見つめられると、惚れた弱みでお断りできない。
私は渋々コクリと頷いた。
「うげ。ダッサァ。……アーテル、マジでヤバい。デレるの知ってたけど、これは非常にキモいデレ方だ。……私、やっぱりシーニールートに行って正解だった気がする。ヤンデレだけど。……無理だわー。私にコレは無理、キッツいわー。……ジョーヌ・アマレロ、ある意味ざまぁじゃね?……ふはははは!」
ヴィオレッタ様は突如、まるで令嬢っぽくない口調でそう言って笑い始めた。
思わずポカンとそれを見つめていると、「シーニー、参りましょう?」と言って去っていってしまった。
「え?……い、今の、ヴィオレッタ様、一体……何ですか???」
「……さあ?ヴィオレッタは時々ああなるんだよ。ちょっと気味が悪いだろ?……シーニーはどうやらそれが良いらしいんだけど、変わってるよね?」
アーテル君はそう言って、首をくすめた。




