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貴族社会は、理解できない?!

「ねえ、ジョーヌちゃん、……本当に今日はどうしたの?何かあった?……ねえ、大丈夫?」


授業が終わり、部屋でソファーに蹲っていると、アーテル君がやって来て私を心配そうに覗き込んだ。


……。


リュイ様の話を聞いて、とても悲しい気持ちになってしまった私は、今日は一日中どんよりした気分で過ごしていた。……でも、リュイ様が普通にしているのに、私がメソメソするのもおかしな話で……。だからずーっと、平静を装っていた筈だけど……バレていたんだ?!?!


「何でもないよ……?夕飯に行こうか?」


「……。行かない。話を聞きたい。……どうしたの?なんだか一日中落ち込んでたよね?なのに、何も聞かないでオーラ出してさ……。ラランジャさんもすごく心配してたんだよ?」


「えっと、私、普通だよ?」


「そんな訳ないでしょ?……ありえない程に萎れてたよ?何かあったんなら、僕に言ってごらん???ジョーヌちゃんの顔を曇らせる悲しい事をさ、僕に半分わけて欲しいんだけど……?」


そう言ってアーテル君が腕を広げて優しく微笑むから……私は思わずアーテル君の腕に飛び込んでしまった。



「……なるほど、それでショックを受けていたんだ。」


アーテル君にヨシヨシと撫でてもらいつつ、今朝の話をすべてしてしまうと、ボロボロと涙が溢れてくる。


「うん。……リュイ様の思いが、切なくて……。その……好きな人と添い遂げられないとか、貴族だから仕方ないってのは分かるし、お家の事でもあるから、私には口出しできる事じゃないけど……。なんだか辛くて……。でも、私が泣くのも変な話だからずっと我慢してて……。」


「ん。泣き虫で、いつも泣いてばっかりで、締まりのないダダ漏れ涙腺持ちのジョーヌちゃんのくせに、良く頑張ったね。」


……えっと……事実なんだけど、地味に酷い事を言ってないかな、アーテル君。


「リュイ様が、自分はダメだったけど、私はアーテル君と幸せになれるんだから、頑張りなよって言ってくれてね……。」


「リュイ、良い事言うな……。……あのね、ジョーヌちゃん。僕たち貴族の間ではこういう話は割と良くある事なんだよ。……僕の母だって、大好きな婚約者と別れて父の元に嫁いで来たろ?」


「……ん。分かる。……分かるんだけど、ね。」


……知ってるよ。


さっきリュイ様から聞いたもの。……貴族として、みんな覚悟を持って生きてるから、望まない相手との結婚だって、仕方ないんだって事はさ……。


でも、頭で理解できても、やっぱり庶民育ちの私には、なんだかすごく切なくて……。


アーテル君のお母さまの事は、よく知らなかったから……お辛かったろうな……くらいだったけど、親しくしてきたリュイ様の身にもそんな辛い話があったなんて……。悲しくて、悲しくて……。


だからといって、私が悲しんだ所で、リュイ様の助けにはならないし、何の癒しにもならない事はちゃんと分かってて……だから、ずっと我慢してて……。


「ジョーヌちゃん……。あのさ……リュイの事情はさ、僕も幼馴染だし知ってたんだよ。すごく可哀想な事だって、思う……。……ねえ、ジョーヌちゃん。僕もさ、ジョーヌちゃんが逃げちゃったらさ、リュイみたいに辛い思いをする事になっちゃうんだけど、それはさ……どうする?可哀想じゃない???」


「え、ええっと???」


「僕もジョーヌちゃんが逃げたら、気の合わない望まない相手と結婚するしかないって事だよ。」


……あ。そうか……。


そ、そうだよね……。私が居なくなれば、アーテル君は別の人と結婚するんだものね。別の国のお姫様とか王命で誰か指名されるんだよね……確か。


私は、その方と結婚する方が、アーテル君は幸せなんじゃないかって、少なからず思っていた。貴族としてのマナーなんかも完璧だろうし、アーテル君の負担も少なくて、お役にも立てるだろうし、そっちが良いんじゃないかって思ったけど……。


言われてみると、その方と気が合うとは限らないよね。


例えば私だって、いくらキラキラでイケメンで王子様だからって、ヴァイス様と結婚する事になってしまったら……。うん、確実に辛いし、間が持たない。話が合うとは思えない。きっとこうしてグスグス泣いてるのさえ黙殺されるよね。それが何十年も続くとか……マジで無理だ……。


そっか、気が合うって、大切なのか!!!


「そ、そっか……!!!」


「ねえ?ちゃんと僕の言ってる意味分かってる?!」


アーテル君が疑わしげに聞いた。


「え、分かってるよ?アーテル君は気が合う人と結婚したいって事だよね???」


「ん……?何か微妙に違う気もするけど、まあいいや。……それに、僕の場合はリュイと違って、ジョーヌちゃんが逃げたらもう会えないからね?ジョーヌちゃんはさ、もし僕から逃げたら、もう社交界になんて来る気ないでしょ?」


「ま、まぁ、そうかな。……男爵なのは私じゃなくて父さんだし、父さんが必要ないって思ってるなら、社交界に行く事は、もうないと思うんだよね?……体験学習の時もさ、気を遣うばっかりで、特に楽しくもなかったし。」


それに……遠目にでも、アーテル君と奥さんの姿とか見ちゃったら辛いし、アーテル君とお別れするって決断をしたら、私はもう社交界には行かないと思う。……だって確実に泣いちゃうもん。


「でしょ?!……だからさ、僕はリュイみたく、その先に期待を持てないんだよ?!」


「ん?……その先に期待???」


どういう意味???

私が首を傾げると、アーテル君は解説をはじめた。


「……僕の父と母もだけどさ、貴族はね、後継ぎが生まれたら後は好きにしていいんだよ。だからさ、あまり気の合わないご家庭では魔術を使って『男の子』を生んで、サクッと責務を果たしちゃうんだ。……それもあるから、男ばかりに偏っちゃうのかもね。……でも、仲のいい家庭は違うんだよ。跡取りにできる『男の子』はやっぱり欲しいけど、ダメならまた次って考えてるからさ。ヴァイスの父……国王は王妃様とすごく仲が良いんだ。だから魔術で操作しないなんて言えて、子供を沢山もうけたんだよ。……ヴィオレッタの家なんかもそうかな?あそこも、おしどり夫婦で有名だから……。ヴィオレッタはあんなんだけどさ……。」


「へえ……。」


ヴィオレッタ様って、ひとりっ子じゃないんだ???

ちょっと意外かも。しかもご両親が仲良しとか……けっこうビックリ……。


「ローザの家は、やっぱりあまり仲良くないんだけど、王家との繋がりが欲しくて狙って女の子にした感はあるよね。侯爵家って言っても、あそこは落ち目だったからさ。……シーニーんとこは良く分からない。シーニーって無口だから家の話とかあまりしないし。でも弟がいるし、そこそこ仲良しなんじゃないかな?ルージュんとこは……。ルージュの母親は早くに亡くなってるんだ。ルージュの父親は奥さんをとても愛していてさ……男手一つでルージュを育てたんだよ。その結果ルージュは、あんなにガサツでデリカシーなく育っちゃったって訳。で、リュイの家も僕の家と結構近い感じかな。あまり両親の仲が良くなくてさ……。まあ、我が家ほど露骨で極端じゃないんだけどさ……。」


「???……えっと、みなさんのご家庭の事情は分かったんだけどさ、『先に期待』の意味が分からないままなんだけど???」


だってさ、途中から話が変わってるよね???


「ああ、ごめん。この話を踏まえてからの方が分かりやすいかなって思ってさ。……つまりさ、あまり仲の良くない夫婦だと、お互いに跡取りを生んだ後なら、もう後は好きなお相手と恋愛して過ごすって事なんだよ。もちろん簡単には離婚できないし、子供をもうけたり再婚するのも出来ないけど、そのへんはお互い様だしね?……つまり、リュイも今は辛いけど、将来的には元婚約者と幸せな未来があるかもって話なんだ。」


「……え。そ、それって……不倫とか、浮気って事???」


「まあ、確かに不倫だけどさ、自分の責務は果たしてるんだから、そこまで人の道には外れてないよね?……浮気ってのもさ、どちらかといえば、その人の為に好きでもない奴と子供を作って頑張るんだから、むしろそっちが本気じゃないかな?!」


?!?!?!


私の常識と、まるで違って、なんだか頭がクラクラするのですが???


「そ、その……政略結婚でもさ、お互いを大切にしようとかはしないの???」


「するよ。もちろんする!みんなさ、最初はそういうつもりなんだよ?夫婦で仲が良い方が、いいに決まってるしね?……でもさ、歩み寄れない場合だってあるだろ?僕の両親みたいにさ……。……僕だってさ、両親を見て、ああはなりたくない思っていたのに……ヴィオレッタには優しく出来なかった……。やっぱり、相性ってあるんだよ。」


……。


「リュイも必ずそうなるって訳じゃ無いよ?もしかしたらリュイも、リュイの元婚約者も、次のお相手と上手く行くかも知れない。だけど、ダメでもダメなりに未来があるよって話だよ。」


……常識が違いすぎると、こうも話が違ってくるのか……。


申し訳ないけど、リュイ様の悲恋が悲恋でなく感じてきてしまった。……できれば、早くその方は忘れて、次のお相手と幸せになって欲しいなって思ってしまう……。


ん???……と、言う事は……???


「アーテル君は……。アーテル君はどうなの???」


「ん???」


「……私と結婚して、子供が出来たら好きにしちゃうの???」


私がそう言うと、アーテル君は驚きに目を見開いた。


「えっと……なんでそうなったの???」


「だって、アーテル君はさ、結婚する相手には困ってたけど、恋愛するお相手には困ってないんだよね???……だから、私と無事に結婚して、子供を生ませたら……アーテル君は好きにするのかなって思って……。」


「……。えーと、僕ってそんな事、しそうに見える?」


「うん。見える。……ほら、仕立て屋さんの子たちともイチャついてたし、夜会なんかでも女の子に囲まれてたよね???……私が嫌がるから、結婚にこぎつけて子供ができるまでは、私に合わせてくれて我慢してるのかなって……?」


すごく悲しいけど、モテモテで遊び人だったらしいアーテル君なら、あるのでは???……最低だけど、貴族って私たちとは常識が違うみたいだし?欲求不満だからヤらせろ発言もありましたしね???


「ジョーヌちゃん?さすがに僕、怒るよ?!酷くないかい?……僕は、本気でラブラブ夫婦目指してるんだよ?」


「あっ……。ご、ごめんなさい。」


アーテル君はちょっとムッとした顔でそう言うと、私の頬をムギュと掴みながら、少し考えて溜息を吐いた。


「……まあさ、未来の事は分からないから、絶対に無いとは言い切れないのが……辛いとこだけどさ……。」


「え。……なんか最低?」


「いやいや、どうなるか分からないのに誠実なフリをする方が、騙してるし、不誠実で最低じゃない?……そういうジョーヌちゃんだって、絶対に確実に無いって、何か根拠を持って言えるの?……脅されたり、無理矢理にって事だって、あるかも知れないよね?」


真剣な顔でそう言われると……うううーん。


そ、そうかも???あって欲しくは無いけど……確かに人生、何があるかわからないからね。……数年前のジョーヌは、アーテル君みたいな婚約者が出来るなんて、思ってもみなかった訳で……。


「それは、そう……かもだけどさ。」


「だからさ……死んだら天国でどうだったか答え合わせしようよ?……その時こそ、本当に僕らがラブラブ夫婦で、お互いに誠実であったか証明できるんじゃないかな?……僕はね、本当に最後の最後で僕への疑いが晴れたらいいなって思ってる。」


「なるほど!アーテル君頭いい!……って、あれ???」


「ん???……だから、死ぬまで……いや死んでも一緒にいようね?」


……どうして、アーテル君と話してると、こうなっちゃうんだろう???私は話を戻したくて、アーテル君に言った。


「……アーテル君、リュイ様はどうなるのかな?」


「それは分からない。……でも、僕もジョーヌちゃんと同じ様に、リュイに幸せになって欲しいって思っているよ……。できれば新しい婚約者の子とね。……仲の良い両親は、子供にとっては何よりだし……。」


アーテル君はそう言って、私をギュッと抱き寄せたので……私は黙ってされるがままになっていた。









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