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詐欺師な令息アーテルの懸想◆アーテル視点◆

……ジョーヌちゃんが寝てしまった。


相当疲れているのか、軽く揺すると嫌な顔をして、更に布団に潜り込んでしまう。……もはや顔すら見えない。見えているのは黄色い髪の毛だけだ……。


そ、そんな。


せっかくのチャンスだったのに……!!!


……く、くそっ!!!


せっかく国外に出て、ルージュ・シーニー・リュイの監視から逃げられたのにっ!!!


仕方ないので、ため息を吐きながら、諦めて布団に潜り込んだ。……背中に僅かに感じるジョーヌちゃんの体温が、なんだか恨めしい。



……ルージュ達3人からは、ジョーヌちゃんには結婚まで、絶対に手を出すなと釘を刺されている。多分だけど、学園のメイドにも屋敷のメイドにも3人の手先が混ざっていて、しっかり監視されていると思われる……。きっと、そんな事になりかけたら、確実に邪魔が入るだろう。


だから、今日はチャンスだったんだ。

ジョーヌちゃんじゃないけどさ……ちょっと泣きそう。


まあ……3人はジョーヌちゃんが何者か知ってるから、口うるさくなるのも分かるけど……。


ジョーヌちゃんには実は大国……アキシャル国の王家の血が流れている。だから、結婚に持ち込むまでは、一応やめとけ……ってのは理解できる。


理解はできるんだよ?


でもさ、好意を自覚してしまったらさ……さすがに辛くなってきたのですが???


しかもさ、ジョーヌちゃんはさ、手を繋ぐのも、抱きしめるのも、キスさえ許してくれるんだよ?


そうしたらさ、あれ?コレいけるんじゃない?……次は、もう少し進んだお誘いもアリなんじゃない?……なんて思ってしまう男心……分かってくださいよ。


だから、今日はコマを進めてみよう!って僕は決心を固めてこの場にやって来たんです……。


ジョーヌちゃんのベッドに、尤もらしい事を言って入り込むところまでは順調にいってたよね?……護衛に3人の密偵がいる可能性を考えて、結界の魔法陣まで描いたのが敗因???……でも、いい所で邪魔なんかされたくないじゃん?!


……はあ。


ちぇー……って感じ……。


もちろん、ジョーヌちゃんの許可は、ちゃんと貰うつもりだったよ?……無理矢理とか絶対にダメだからね!嫌われたくないから、強引に迫るのもチョットどうかと思いますし……。


だから今夜は、邪魔の入らない所で、ゆーっくり、じーっくり、時間をかけて許可をいただこうかと、思ってたんだよ!!!


チラリと横目でジョーヌちゃんの黄色の髪を見つめる。


……。


ムカつく程にぐっすりですね!!!


その髪を一房とって、なんとなく指に巻きつけてみる。ジョーヌちゃんは、猫っ毛だよなー……。指を外しても、僕が巻きつけた髪の毛はクルンとなったまんまだ。


はあ、クルンとした髪の毛すら可愛く見えるんだけど……。


ああ……。

なんか、僕、今夜は眠れる気がしない……。



眠れない僕は、ボンヤリとジョーヌちゃんと出会った日の事を思い出していた……。


船着場で、最初に興味を持ったのは、ジョーヌちゃんではない。……アマレロ夫人の方だ。


最初に見かけた時に、物凄い美人で、思わず驚いて目を留めたのがきっかけなんだよなぁ……。


こんな美人、社交界に居たかな?って……。


だってさ、僕はこの国の貴族の名前と顔は、ほとんど頭に入っているんだ。なのに、その女性は知らなかった。……美人で目立つから、覚えやすいはずなのに、そんな事ってあるんだろうか?ってね。


しかも、不思議な事に、知らないのに、どこかで見た気がするんだよね???


そうして、しばらく考えて……思い出したんだ。


……この女性、父の書斎にある、父の最初の婚約相手だったアキシャル国のお姫様の写真にそっくりなんだ!ってね……。


僕は驚いて、一緒にいる男性を見つめた。


男性の方は印象に残る顔では無かったけれど、すぐに誰だか分かったよ。……あれはガン無視男爵だ!ってね。


全く社交界に現れないアマレロ男爵だったけど、爵位を賜る為に一度は王宮に来ていたし、黄色でいかにも沢山魔力がありますって感じの髪は印象的だったから、シッカリ覚えていた。……確か、自分は別の国から来た移民だから、爵位なんて貰っていいのか?って困ったように言っていて……。普通なら、爵位を貰えるのは光栄だと喜ぶはずなのに、珍しいなあって思ったんだよね。


……で、聡い僕は、色々と気付いちゃったってワケ。


ああ、父の憧れのお姫様は、この国にアマレロ男爵と逃げて来て暮らしてたんだなって。……まさに灯台下暗しってヤツだよ。全く知らない国に逃げるより、嫁ぐと決まって勉強していた国に逃げる方が安心だし、さすがにこの国に来るとは、誰も思わないもんね……。


ホント賢いお姫様だよね。


僕にとって、お姫様は、父と母の仲が拗れた原因でもあるけど……恨みよりも、断然興味の方が勝った。


……申し訳ないけど、僕にとっては父も母も、なんかもう終わった関係だからね。


アマレロ男爵は……見た目は平凡だけど、なんだかホッとする雰囲気の男性で……ちょっとだけ、お姫様が父より男爵を選んだ気持ちが分かる気がした。父はハンサムだけど……実の子であり跡取りである僕すら放置するような、冷たい人間だからね……。


しばらく見ていると、アマレロ男爵とお姫様は、守るようにして、真ん中に女の子を隠していた。……僕が、ちょっとだけ皇帝ペンギンが雛を守っている様子を想像してしまったのは秘密だよ。


真ん中にいる女の子はお姫様にそっくりの、すごい美人か……と、思いきや、男爵そっくりの普通の顔立ちの女の子で、思わず顔が緩んだ。……あらら、残念?みたいなね。


だけど、2人にとっては宝物なんだろうね。2人は大切そうに女の子を取りなしていた。女の子が学園に行きたくないみたいで、グスグスと泣いていたから……。


そりゃ、そうだよね。


何も知らない女の子がひとりぼっちで行くにはちょっと過酷な場所だもん。


今まで誰にも知られてなかった女の子が、貴族として、婚約者がいない状態で、嫁不足の学園に送られちゃうんだ。……しかも、どうにでも出来ちゃう男爵家の子……。きっと争奪戦になるだろう……。


まあ、美人すぎないのが、ちょっと救いかも……???美人だったら大騒動になりそうだけど、それなりに力がある家の奴が抱え込めば、そこで終わりになるだろうし……。とは言え、この子には過酷な話にはなるだろうけどさ。


……なんて、思いつつ、女の子の横を通り過ぎようとした時、僕は天啓の様に閃いた。


あ、僕がこの子を貰っちゃえば、良いんだ!!!……ってね。


そうして、気づくと僕は女の子に声をかけていた……。



ジョーヌちゃんのお母さんがアキシャル国のお姫様なのは、分かってはいたけど、ジョーヌちゃんがネックレスを持ち出して来た時は、さすがに驚いた。


……いやさ、国宝級のネックレスをボストンバッグの底に入れてるって、どーゆー事???……お姫様がもう、王族に未練なんか無いのは分かるけど、扱いが雑すぎない?……まあね、アキシャル王族の血を引く者以外が身に付けると、呪われて死ぬネックレスだし、盗まれても売る事もできないのだろうけどさ……。


……でも、もしかしたら、あのネックレスは、お姫様が親心でジョーヌちゃんに持たせたのかも知れないなって、僕は思った。


もし、ジョーヌちゃんに、学園で好きな人が出来た時に、あのネックレスがあれば、どんな身分の人とだって添い遂げられる……。例えばそれが、ヴァイスだって。


だから……わざと持たせたんじゃないだろうか……?


駆け落ちしちゃうお姫様だ……娘が好きになったのが王子様でも、なんとかしてやる気だったのかも知れないって、僕はちょっと思ってる。




◆◆◆




フッと目を開けると、ジョーヌちゃんが僕を覗き込んでいた。部屋には明るい光がふんだんに差し込んでいる。


うわ……。


眠れないとか言いつつ、しっかり寝ちゃってた……。

しかも、疲れてたとは言え、こんな明るくなる時間まで……!


まあ、午前中の予定は特にはないから、あせる事も無いんだけど。……おそるべしジョーヌちゃんの安眠パワー。……ジョーヌちゃんが側にいると、何故か僕って良く眠れるんだよねぇ???


「アーテル君、おはよう?」


ジョーヌちゃんのトパーズみたいな瞳が朝日を受けてキラキラと光ってる。


「おはよう、ジョーヌちゃん……。もう、起きてたの?」


「うん。随分とぐっすり寝てたから、なんか起こすの悪くて。……でも、そろそろ起こしてあげようかなーって見に来たらさ、急に目が開いて、ちょっとビックリだったよ?」


ジョーヌちゃんが照れた様に笑う。


「僕の寝顔はいかがでした?」


「うーん。アーテル君の眉間がジョーヌよりだいぶ狭い事が分かったよ。……私の顔が間抜けっぽいのは、眉間が広いせいだと思う……。」


……ジョーヌちゃん……ずいぶんと変なとこ見てたんだな?

僕は、のそっと起き上がった。


「ジョーヌちゃん、あのさ……これ、僕のお嫁さんになった場合の、体験学習だよね?」


「えっ?!……うん、そうだね???」


「じゃあさ、おはようのキスをしないと駄目だと思わない?」


「……あ!そうか!」


……え。


なんとなく何もナシってのが悔しくて、つい言ってみただけなのに、ジョーヌちゃんがアッサリと同意したので、思わず驚く。


「父さんと母さんも毎朝してるもんねぇ。夫婦になったら、それが朝のご挨拶なんだよね……。」


……違うと思います、それ。


あ……。


もしかして、今までジョーヌちゃんが手を繋いだり、抱きしめたり、キスするのに寛容だったのって、ラブラブ夫婦産の子供だから???……僕を受け入れてるからってより、もしや夫婦や婚約者ならするのが当たり前な、親愛行動だとかって思って許してる???


ええっ?!


だ、だとしたら、由々しき問題だ……。


昨日、焦って事を進めなくて良かったのかも?


それって……僕を好きだからって許してるって事じゃなくて、婚約者とだから普通に、挨拶とか、スキンシップの一環でしてくれてるのかも?

そ、そういえば、ジョーヌちゃんてば、まるで似てない美形のお兄さんとも、やたらと距離が近くて、僕を勘違いさせましたよね?!


……僕が考え込んでいると、ジョーヌちゃんが顔を寄せて、僕の唇に触れるだけのキスを落とす。


……。


「おはようございます、アーテル君!」


う、うわぁ……。


こんな軽いキスなのに、僕をとっても幸せな気持ちにしてくれるって……やっぱりジョーヌちゃんは特別だと、僕は思うんだよね……???


「おはようございます、ジョーヌちゃん。」


やはりこれは……ジョーヌちゃんにも僕を特別だって思ってもらいたい。なんとしても!!!


……まずは、あれが親愛の証なんかじゃなくて、エロい下心満載なんだよってのを理解してもらわないと……!!!


僕は爽やかに微笑みながら、心の中で固く決意するのだった……。





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アーテルの元婚約者、ヴィオレッタが主人公の前日譚はこちら↓↓↓
短編「悪役令嬢に転生したけど、心は入れ替えねーよ。だってヒロイン、マジムカつく!」
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― 新着の感想 ―
[一言] 有難う御座います。 ネックレスに込められた想い理解しました。 まさに ・・・ 『親の想い、娘理解らず』 ですね ・・・ ジョーヌちゃんは幸せ者です。
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