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夏の体験学習、はじまりました?!

夏休みに入ると、アーテル君は私を婚約者として連れて歩き、社交界に参加する事になってしまった……。


最初は不安だったけど、アーテル君やラランジャが側に居なくて、困った事になると、何故かヴィオレッタ様がササッとやって来て、すっごく高飛車な態度で助け船?を出してくれるおかげもあって、まあなんとかやっていけている。……ちょっとヴィオレッタ様は不気味だけど……。


アーテル君は「この体験学習で、少しは結婚後のイメージが掴めた?」って聞いてきたけど……。でもさ、これって体験っていうより……私が将来アーテル君と結婚します!ってのを、社交界に知らしめる事になってしまってるんじゃないかなぁ……???


なんとなく、またしてもアーテル君の罠に嵌っている気がするんだけど……???



「ジョーヌちゃん、疲れたよね?少し僕に寄りかかって休んだらいいよ。」


晩餐会が終わり、馬車に乗り込むとカーテンをさっと閉じてアーテル君が言った。


「あ、ありがとう……。で、でも……。」


私は少し周りが気になって、遠慮がちに言う。


「いやいや、滞在先のお屋敷までは少しかかるし、遠慮しないで休みなよ。馬車から降りたら、部屋まではやっぱり気を張っていなきゃだし。……はじめてなのに、すごく頑張ってくれて嬉しかったよ。さすが外国語が得意なだけあるよね?通訳してくれるつもりだった大使も、ニコニコしていたし!」


……そう。


ただいま私たちは、外交とやらで、近隣国に来ている。今回は、この国の王様が即位されて××周年とやらの祝賀会で、諸外国より賓客を招き、宮中晩餐会が行われたのだ。……我が国は諸事情により、国王が参加できず、代理として私たちが参加したって訳なんだよね。


「そ、そうかな。挨拶くらいしかしてないよ。あとはアーテル君に言われたように、ボロを出さないようにって、ひたすらニコニコしていただけだしさ……。」


「いやね、そのご挨拶の発音が素晴らしかったんだって!……ほら、寄りかかりなって。揺れるし、眠っても大丈夫だよ?到着の少し前には起こすから。……あ、僕のジャケット羽織りなよ。そのドレス、肩が出ているから少し寒いんじゃない……?」


アーテル君はそう言うと、ジャケットを脱いで羽織らせ、私を抱き寄せる。


……ちょ、ちょっと……。


「アーテル君、恥ずかしいよ。ジャケットもシワになっちゃうし、少しだから大丈夫だって……。」


「気にする事ないよ、このジャケットはシワになりにくい素材なんだ。……ジョーヌちゃんだって、こうした方が楽だろ?僕もジョーヌちゃんを堪能できるから、一石二鳥だしね。……はぁ……。ジョーヌちゃんの匂いがして、落ち着くなぁ。」


アーテル君が私の髪に顔を埋める。


「ね、ねぇ……?アーテル君……。や、やめて。……ヴァイス殿下の視線が痛いよ……。」


……。


私は正面に姿勢良くピシッと無表情で座る王子様をチラッっと見つめて、アーテル君を取りなした。


さ、さっきから王子様、ガン見してるんですがっ?!


「ん……?……あれは置物みたいなモンだから、気にしないで?逆にヴァイスがローザを同行させた時は、僕が嫌な思いをしてるんだから、たまにはいい気味なんだって。」


……えええ……そうなの?


王子様を見つめると、王子様は咳払いし、顔を顰めた。


「私はローザとイチャついたりしない。」


「しーてーまーすー。……ほんと、すっごいんだよ。ローザ大丈夫か?ローザ疲れてはいないか?ローザ、ローザ……って、マジでウザいくらいなんだ。」


へええ……。意外。


学園だと、仲は悪くなさそうだけど、節度のあるお付き合いって感じで、少しよそよそしいと言うか、イチャついたりしてるのを見た事なかったから、ちょっと驚きかも?


「していない!!!……ローザはか弱い女性だ。少しは気遣うだろう。国外にいるのだし……それだけだ。……お前がジョーヌに触れるように、私はベタベタとローザには触れていない。」


「……そりゃあそうだろうよ。結婚前にドSの本性がバレたら逃げられちゃうもんねぇ。……ジョーヌちゃん、よーく見ておくんだよ、ドSって普段はああいう顔をしてるんだ。あんなのに引っかかってはダメだからね?……引っかかるのは僕にしておこうね?」


アーテル君が私にそう言い聞かせるように言うと、王子様はダンッと足を踏み鳴らした。


「アーテル、やめろ!……ジョーヌ、アーテルが嘘つきなのは知ってるだろう?……騙されるな。」


「は、はい……。」


まあ、それは分かってますけどね?

アーテル君の半分は詐欺で出来てますから……。


「えっ?!ダメだよ!……ジョーヌちゃんは僕に騙されて???それで、上手いこと言いくるめられて、ずーっと一緒にいよう?……だってさ、外交って大っ嫌いだったんだけど、今日はすっごい楽しいんだ。……考えようによってはコレ、ジョーヌちゃんとの婚前旅行だもんね???」


……アーテル君。言い方……。


「ま、まあ、アーテルの機嫌が良いのは、私もやりやすい……。ジョーヌ、ご苦労だった。さすが教養の試験でいつも上位にいるだけはある。外国語の発音、素晴らしかった。……今は笑っているだけだが、慣れてきたら外交先の産業や特産品について調べておいて、褒めるなどすると良いと思う。……しばらくは私たちの会話を見て、タイミングや話題の内容から学習するといい。」


……な、なるほど……為になります。


「ちょっと、それ、僕が部屋に戻ってからアドバイスするつもりだったのに!……ま、いーや……。明日は昼には出立するんだっけ?」


「ああ、確かその予定だ。午前中の数時間は自由時間があるが……滞在している離宮は離れた場所にあるし、土産を買う暇も無いだろうな……。」


王子様はそう言ってため息を吐く。


「あ、そう言えば、今回は、ローザ様は?」


「ああ。本来は私、アーテル、ローザでの来訪予定だったのだが、アーテルがジョーヌをどうしても連れて行きたいと言い出したので、お前と入れ替えたんだ。警備の関係上、3人をいきなり4人には増やせないからな。」


「そうだったんですね。……ローザ様には申し訳ない事をしました……。」


うわぁ……。私、ローザ様の枠を横取りしちゃったって事?!また、睨まれたりしないよ、ね???


一年生のクリスマスパーティー以来、ローザ様に時々睨まれてる気がするんだよねぇ……。私が泣いたりしたせいなんだけどさ……。


「いや……。ローザは喜んでいるのではないか?毎回なんだが、外交はかなりの弾丸ツアーになるからな。今日だって、到着した日の夜に晩餐会だったし、明日はまた馬車で一日かけての移動になる。……国外に出るのはすごく疲れるんだよ。ローザは外国語もあまり好きではないし、今ごろのんびり過ごせているんじゃないか?」


……そうなのかな?

怒ってないと良いんだけど……。


そう言えば、去年の夏休み、アーテル君は顔色悪かったもんね……。確かにこんなのか続くんじゃ、忙しくて疲れ果てちゃうよね。


「……私やローザとしても、ジョーヌが王族のメンバーに入ってくれるのは、非常にありがたい。アーテルはいわば第二王子扱いだから、ジョーヌがいれば、第二王子夫妻扱いになるし、2人で参加する事で、正式なものにできるんだ。……そうなると公務を私と分けて負担できるので、かなり楽になる。……しばらく私は同行するようだが、ジョーヌが出てくれれば、今回のようにローザは休めるし、とても助かるんだよ……。」


王子様は疲れた顔でそう言って軽く笑う。


「そうそう!……ジョーヌちゃんが居ると、ヴァイスたちも楽ができるんだ。みんな相当にお疲れだからね?!期待されてるんだよ!……あ、そろそろお屋敷に到着だね。話していたらあっという間だ!やっぱりジョーヌちゃんとの公務は楽しいね?」


アーテル君がニコニコとそう言うと、場所は私たちの乗った馬車は、滞在先である離宮に入って行った。


……えーと……これ、本当に体験???なんかさ、結婚する方向から、ドンドン抜け出せなくなっていってるよね???



部屋に戻りシャワーを浴びてパジャマに着替えると、私はフラフラとベッドに向かった。


疲れた……早く寝よう……。


滞在する部屋はとても豪華で煌びやかなお部屋だ。


窓からこの国の王都に広がる夜景が堪能でるんですよ……とお部屋付きのメイドさんから説明されたが……どうでもいい。早く寝たい……。


天蓋付きの豪華なベッドには薄いカーテンが下されている。


私がそれをめくって中に入り込むと……。


中には何故かアーテル君がいて、本を読んでいた。


「え?」


「ん?」


本を閉じると、アーテル君が小首を傾げる。


「アーテル君?何故ここに?……アーテル君のお部屋は隣でしたよね?」


私たちは夫婦設定があるので、またしても寝室が繋がっているお部屋ではあるのだが、別々に寝る事になっているはずでは???


「せっかくだし……ジョーヌちゃんに教えてあげたい事もあったしね?」


アーテル君はそう言うと、少し笑った。


……。


え……えっと……何だろう?


さっき王子様が言っていた、外交で使えるマル秘テクニックみたいな事だろうか???


「教えたい……事……?上手な外交のコツ???」


「ははは。まさか!……ベッドで教える事と言ったら、一つしかないよ?」


アーテル君はそう言うと私に顔をズイッと近づけ、目を細めた。


えっ……。


ま、まさか……そ、それって……???


……ど、どうしよう?!


ジ、ジョーヌは……心の準備が……!!!

アーテル君は好きだけど……そういうのは、ちょっと困るし、まだ早いって思うの!!!


私はグッと身を固くした。


「ジョーヌちゃん、いいかい?……あのね、こうして国外に出ている時が一番危ないんだ。」


「危ない???」


真剣な眼差しのアーテル君に、私は思わずハッとする。


「……も、もしかして、狙われる、的な?暗殺されるって事?!?!」


……またしても、変な妄想をしたジョーヌを殴って!!!


あっ!!!


そもそもさ、アーテル君は私なら、結婚まで余裕で待てできるんでしたっけ……。自分で言って虚しいけど。……まあ、待てないって言われても困るんだけどね。……とにかく、そこは複雑なのよ、乙女心だから!!!


そ、それはさておき。


そうだよ、アーテル君は何度もそんな目に遭いかけているんだ!!!つ、つまり、アーテル君が教えたいってのは、身の守り方って事?!?!


「ん。そういう事。……特にヴァイスと一緒だと危ないんだ。」


「え?王子様がアーテル君を狙うって事?!」


「あははは。まさか。ヴァイスはそんな事しないよ。……ほら、国外に連れて来れるメイドや護衛には限りがあるだろ?そうなるとさ、どうしたってヴァイスが優先的に守られる事になるんだ。僕やジョーヌちゃんは、その次でね。……だから僕とジョーヌちゃんの護衛を一緒に出来るよう、今日は2人で寝よう。」


「な、なるほど……。」


私はコクコクと頷く。

確かに私とアーテル君が一緒の部屋で寝ていれば、警備は単純計算で2倍になるもんね。


「それから、僕たちには魔力があるだろ?これからベッドに結界の魔術を張るから、協力して。……この本に書いてある魔法陣をジョーヌちゃんは左右のカーテンに書いて魔力を流して。僕は前と後、それから天井とシーツに書くから。……そうしたら安全に休めるから、頑張ろう!」


アーテル君はそう言うと、さっきまで見ていた本を私に手渡す。


……うっ!!!


す、すっごい複雑な魔法陣……!!!


……が、頑張ろう……。

寝てる間に殺されたら困るもんね……。


私は慌てて鞄からインクと羽ペンを持ってくると、カーテンの端に魔法陣を描きはじめた。……アーテル君もシーツに真剣な顔で描いている。


……はあ。

もう寝ようと思っていたのにぃ……。


……。


しばらくして魔法陣を描き終え、魔力を流すとカーテンがキラキラと光りはじめた。……よし!成功!!!

アーテル君はまだベッドボードに真剣に魔法陣を描き続けている……。


……。


……。


そんなアーテル君を座って見ているうちに、私はものすごい眠気に襲われてきた。……ごめん……アーテル君……横になってもいいかな……。すごく疲れてるの……。


ベッドに横になると、シーツに描かれたアーテル君の魔法陣が目に入る。……相変わらず、無駄がなく綺麗な陣だ。……そっと手で触れると、なんとなくアーテル君の流した魔力が感じられて……私は安心感に包まれて、そのまま目を閉じた。


ああ、これなら大丈夫……。

ここなら安心して眠れる……。


「よし!終わった!!!……ジョーヌちゃん、これで、このベッドの中のプライバシーはバッチリだよ!……外からは中の様子を伺う事もできないし、音さえ漏れないんだ!……つまり、たくさんの護衛がウロつくこの部屋で、これから僕とジョーヌちゃんが何をしても……って、え?……寝てる?ジョーヌちゃん???……寝ちゃってるの?!」


アーテル君が何か騒いでいたけど、うるさいなぁ……と、そのまま布団に潜り込んで丸まった。


はあ……疲れたぁ……。






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