好きだけで、結婚できるのだろうか?!
ラランジャと別れて寮に戻った。
アーテル君が好きだって気持ちを自覚した私は、ものすごーくドキドキしながら部屋に入ったが……どうやらまだアーテル君はお勉強会で居ないみたいだった。
部屋着に着替えて、ベッドにダイブする。
……ああ、これからどうしよう?!
ここはやっぱり、アーテル君に好きって言って……。
……。
ん???
……もし。
もしだ。
私がアーテル君に好きですって、告白したらどうなるんだろう?
……。
ん、んんん???
……。
普通なら、お付き合いするとかしないとかって話になるよね?……でも、アーテル君の場合、私が告白したら絶対に断らない……というか、なら結婚しよう!!!ってなってしまう気がする。
あ、あれ……?
告白して、大丈夫かな、これ???
……アーテル君は好き。
卒業後も一緒にいたいなって、思っている。
でも……。
そんな軽い気持ちでアーテル君と結婚して、アーテル君の奥さんなんて、私につとまるのだろうか?!?!
アーテル君のお家は公爵家だ。
それだけじゃない。アーテル君は王位継承順位が高く、半ば第二の王子様扱いをされており、話を聞く限りでは外交やら社交だってメチャクチャあるらしい。
現実問題……そんな人の奥さんなんて大役……私に務まるんだろうか???
……う、うーん???
で、でも、出来ないからって諦めて婚約を破棄しちゃったら、二度とアーテル君とは会えなくなって、他の人と結婚しちゃう訳で……。それは嫌なんだけど……。
考えただけで、じわっと涙が浮かんでくる。
で、でもさ?告白なんてしたら、アーテル君はすでに私の血判が押された婚姻の手続きをする書類も所持しているし、下手したら明日にでもゴールインとかしちゃうのでは?!
ど、どうしよう。
なんか……勢いで告白するのは、なんかマズい気がする……。
ベッドでうつ伏せになっていると、段々と頭が整理されてきて、冷静になってきた。
なら……どうすれば???
私の理想とか願望としては……「アーテル君が好きです!」って告白するでしょ?そうしたら、結婚とかそういう話はとりあえずナシで、アーテル君がね……「僕もジョーヌちゃんが好きだよ。」って言ってくれて……。
うん。コレ、コレ。こーゆー感じよ。
そう、私が知りたいのはアーテル君の気持ちなのよ。
『ジョーヌちゃんが好き……。』
……キャー!!!!
ど、どうしよう!!!……アーテル君にそんな事を言われたら……私……ひゃわあわあわあ!!!
うつ伏せのままジタバタしていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「えっ?!?!アーテル君?!」
「お勉強会終わったから、ジョーヌちゃんとお茶でも飲もうかなって来てみたら、何故かベッドでジタバタしてたから可笑しくて。……どうしたの?」
「……ん……と。……悩んでるって言うか……。」
アーテル君が不思議そうな顔をして、ベッドの端に腰掛ける。私はのそっと起き上がった。
「ん?……テストの事?」
「違う……。あの……。」
アーテル君の隣に並んで座り、どう言うべきか頭を悩ませる。……さすがにアーテル君が好きなんだけど、それを言ったらすぐに結婚に持ち込まれそうで怖いし、結婚してやっていける自信がないから悩んでる……でも好きって言いたいし、言われたら嬉しくて死んじゃう……とは言えない。
「……なーに???」
「う、うーん……???……その……。私たち、婚約……してるじゃない???」
「うん。だからこうして一緒の部屋に2人でいますね?」
あっ!……そうでした。婚約者同士だからお部屋も繋がってるんでしたっけ。……って、意識すると、なんか恥ずかしくなってきちゃった……。だって、それってつまりはさ……。
……!!!
し、しかも今、ベッドに座ってますよね、私たち?!?!
ふと、私の手の隣に置かれたアーテル君の手が目に入る。……何度となく繋いだ手だけど、こうして改めて見ると、私の手よりだいぶ大きくて筋張った……男の人の手だ……。
アーテル君はいつもこの手で、私の手を握ったり……抱きしめたり……してて……。
……。
ゴクリと自分が唾を飲む音に、ハッとする。
ちょ、ちょっと、ジョーヌ、何を考えてるの?!?!
顔がカッーと熱くなってきて、思わず下を向く。
これは多分、耳まで赤いよ?!?!
「ん?ジョーヌちゃん???」
アーテル君が不思議そうな顔で、私を覗き込もうと顔を寄せてきた。
……ひ、ひえ……!!!
ダ、ダメっ!!!
変な妄想しちゃったジョーヌの顔は、見ちゃ、ダメーーーーー!!!
思わずアーテル君をぽんと押すと、アーテル君は何故か簡単にベッドにポスンと倒れてしまった。あまりに呆気ない手応えに、ぐらりとバランスを崩した私が、その上にのしかかるようになって……。
ぎゃ!!!
わ、私?!アーテル君を押し倒してしまった?!?!
う、えっ?!?!
アーテル君が私を見上げ、苦笑ぎみに言う。
「ジョーヌちゃん。あの……。積極的なお誘いでビックリだし、僕的にやぶさかでは無いんだけどさ、お勉強会でかなり魔力を使ってまして、今の僕ってばフラフラなんですよ。……さすがにご期待には添えないかと?」
!!!
私は慌てて、アーテル君から凄いスピードで離れた。
「ち、違う!!!そうじゃなくて!!!……ちょ、ちょっと色々と考えてて、それで変な感じになってて、顔を見られたら困るといいますか……!!!そうしたら、アーテルくんが簡単に倒れて、私ものしかかってしまって!!!……でもお誘いではなくて、事故!!!事故ですっ!!!」
「えっと……?ジョーヌちゃん?意味がわからないけど大丈夫?……冗談だよ???……さすがに僕だってジョーヌちゃんに襲われるなんて思ってないよ?」
アーテル君はヨロヨロと起き上がりながら、不思議そうに言う。
……で、ですよね……。
「あのねですね、ジョーヌは今、激しく混乱中なんです。」
「ん。……見れば分かる……。……だから、どうしたの?なんかあった?」
「あ、あの……!!!……あのね……。もし卒業して、アーテル君と婚約を破棄したら……もうアーテル君とは二度と会えないだろうなって……思って。……その……。」
「……。ん……。」
アーテル君は、寂しげに目を伏せた。
……やっぱりそうなるんだよね……。
「そ、それで……。そうなっちゃうのは……寂しいなーって……。」
「え……?」
アーテル君がポカンとした顔で私を見つめる。
「……寂しいなって思ったの!!!……で、でも、じゃあ、アーテル君と一緒にいたいから結婚しよう!ってのも、なんか違う気がするって言うか……。」
「……えっ?!?!ち、違うの?!」
アーテル君は一瞬だけ顔を緩めた後に、酷くショックな顔でそう言った。……ううう、そんな顔しないで……。
「い、いやね、結婚するのが違うって訳じゃなくて……ね?」
「……ねえ、ジョーヌちゃん?!君はさ、僕を喜ばせたいの?悲しませたいの?どっち?……乱高下が酷くて、さっきから、心臓に悪いんだけど?!」
軽くイラついた様に、アーテル君が叫ぶ。
「ご、ごめん。……あのね、私はずーっとアーテル君とは婚約破棄する事しか考えてなくて、結婚するってのは、本当に微塵も考えて無かったのね???」
「……あのさ、それ、つまり僕を泣かしたいって事で良いのかな?」
アーテル君が青ざめた顔でそう言った。
「違う!!!違うの!!!……その……考えたいの!!!考えてみたいんだよ。私が、アーテル君の奥さんになるとしたら、どうなるのかなーってのを……。私で出来るのかな……とか、やってけるのかな……とか……まるで未知だから……。……その……。ちょっとだけでも、知ってから、婚約破棄するかしないか決めてもいいのかな……みたいな……ね……。」
「え……?だから、僕を押し倒したって事???……結婚前に相性を確認しておきたい的な???……な、なるほど。なら、フラフラだけど頑張りましょう。」
……???
「え?……相性?……頑張る???」
相性が悪かったら、こんな事を思う訳、ないよね???
その、好きだからこそ、今後も一緒にいられるのか、私でも大丈夫なのか、ちょっと先を知りたいって話で……???つまり……頑張るのは、アーテル君じゃなく私では???
私が首を傾げてアーテル君を見つめると、アーテル君が魅惑的な笑顔を浮かべている。
「勿論、夜の……でしょ?……やっぱり、奥さんの大事なお仕事のひとつだけに、そこは気になりますよねぇ……。ジョーヌちゃんにご満足いただけるよう、僕なりに善処します。」
アーテル君はそう言って、私の手の甲に口づけた。
……!!!
「は?はあっ???……ち、ち、ち、違うよーーー!!!……その公爵家の奥さんとしての、社交とか、お付き合い的な、そっち方面のお仕事だよーーー!!!」
「え?……じゃあ、夜の相性診断は?」
「しないっ!!!しないよ!!!……もう!!!……何でそうなるの?……やっぱり、婚約破棄するよぅ!!!」
私が真っ赤になってそう否定すると、アーテル君は慌てて謝って……物凄く幸せそうな笑みを浮かべた。
「……ジョーヌちゃん。ありがとう。……考えてくれるだけでも、僕は嬉しい……。……本当に、ありがとう。」
……ああ、どうしよう。
私、本当にアーテル君が大好きだ……。
◇
「うーん。そうだな……。確かに僕もさ、ジョーヌちゃんを逃してなるものか!!!ってばっかりで、結婚したらどうなるかってのは話して無かったよね。」
「うん……。」
私たちはとりあえずお茶を飲みながら話す事にして、リビングスペースにやってきたのだ。……ベッドの上だと、またジョーヌの妄想が暴走しちゃうかもだしね?……アーテル君も夜の相性診断とか言い出しちゃうし。
「そうだね……。やっぱり公爵家としても、僕の立場的にも、子供を生んでもらう事が一番大切かなぁ……?……でも、それ以外にも将来的にはシュバルツ家の事や、僕のサポート、ジョーヌちゃんのみの公務も入ってくるかも知れないね。」
「そ、そうなんだ?」
な、なんかすでに大変そうだな……?
「だだ、家の執務に関しては、家令も優秀だし僕もいるから、その辺は少しずつで大丈夫だと思うよ?そもそも、僕の母は公爵家の執務にはノータッチだし……ジョーヌちゃんが少しでもやってくれるなら、助かる!って感じかな?……それにね、僕のサポートってのは……僕はジョーヌちゃんが側に居てくれるだけで幸せだから、それで充分なんだよ……。」
甘い笑顔でそう言われると……キュンとしちゃいます……。あれ、なんかいけそうな気がする……?
「公爵家は王族になるから、もしかすると将来的にはジョーヌちゃんにも王族メンバーとしての公務が入ってくる可能性はあるけど、ヴァイスには沢山のお姉さんがいるから、女性王族には、そこまで困ってないんだ。だから、あるかも?くらいで大丈夫だし、すぐにって事はまずないだろうね。」
「なんか、思ったよりなんとかなりそう???」
「うん、頑張り屋のジョーヌちゃんならなんとかなる!……た、たださ、社交とか外交の場で、僕のパートナーとして出席してもらう事が、かなり多いと思う。……うちの父と母の場合、色々あるから国内のものは不参加にしてるけど、それでも国外や式典なんかは、夫婦で参加しているし……夫婦同伴が基本なんだよね?」
「な、なるほど……。あのさ、それって大変???」
「うん。大変って言えば大変だね。やっぱり社交シーズンだと過密スケジュールになるし……。夜会や晩餐会は拘束時間が長いし、式典や視察は短時間だけど、365度から見られている意識は必要だよ。発言にも気をつけなきゃダメだし……。……ハッキリ言って、楽ではないと思う。これは僕にとってもね。」
……な、なるほど……。
う、うーん……。で、出来るかな、私に???
アーテル君ですら大変なんだよね?
「……でもさ……だからこそ、ジョーヌちゃんに居て欲しいんだ。すごいワガママなんだけど……。」
「……え?」
「辛くて大変だからこそ、ジョーヌちゃんが居てくれたらいいのに……って僕は休みの間、ずーっと思ってた。ほら、最愛の人が側に居るから頑張れる……的な、ね?……あのさ、僕もジョーヌちゃんを精一杯フォローしていくから……二人三脚で頑張っていかない?」
いちいち、その最愛ってのが嘘くさいんだよなぁ。
「う、うーん……???でもさ、私……もとが庶民育ちだし、やっていけるかな?……やっぱり、なんか難しい気がする。……アーテル君と二度と会えないのは辛いけど、お互いの為にはさ……。」
私がそう言いかけると、アーテル君がバッと私の口を手で押さえた。
「ジョーヌちゃん、それ以上言わないでっ!!!泣くよ、僕!!!……あ!あのさ……案ずるより産むが易しって言うじゃない?とりあえず、もうすぐ夏休みだし……夏の体験学習、してみない?!?!」
「むぐっ?!」
……えっと、ソレ、そんなノリで体験できるモノなの?!?!




