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詐欺師な令息アーテルの焦燥・前編◆アーテル視点◆

ちょっと前に戻って、アーテルがなぜ対岸の街にいたのか……というお話になります。

ジョーヌちゃんが騎士団のお祭りで不在なので、授業が終わると、ショッピングエリアにあるカフェにでも寄ってから寮に戻ろうかと思い、フラリとカフェに足を向けた。


カフェの入り口近くの席では、何故かシーニーとヴィオレッタがイチャつきながらお茶を飲んでいて、ゲッって気分になる。……部屋でやれよな。


「あら!アーテル!……ジョーヌ・アマレロは?……まさか、あなたの性格の悪さに嫌気が差して逃げられてしまったとか?」


僕が1人で入って来たのを目ざとく見つけたヴィオレッタが、ニヤニヤと笑いながらそう聞いてきた。


いやさ、シーニーから聞いてるよね?


今日はグライス先生も騎士団のお祭りでお休みで、僕たちは自習だったんだからさ。


「別に、ジョーヌちゃんは僕に愛想を尽かしたりしてないよ。ヴィオレッタこそ、シーニーに愛想を尽かされないと良いね。君って見た目はともかく、中身がえげつなくクズいからね。」


「あら、それは大丈夫よ。シーニーったら私が潰れて中身が出ても、それすら愛おしいと言ってくれるのだもの!……ね、シーニー?」


「もちろんです。ヴィオレッタ。」


……相変わらずシーニーは病んでる。そんな訳あるかよ。


潰れて中身が出てしまったら、さすがにそれは愛さなくて良いと僕は思う。少なくとも僕なら速攻で埋めて欲しい。


僕は2人を無視してコーヒーを頼むと、席でノートを写しはじめた。……今日の授業のノートだ。

ジョーヌちゃんにあげたら喜ぶだろう。


不意に目の前が光ると、グライス先生とヒミツが転移して現れた。


!!!


思わず、ガタリと立ち上がる。


「ジョーヌちゃんに、何かあったの!!!」


「アーテル……その……。」


グライス先生は、転移してまでやって来たのに、歯切れが悪い。


「グライスのせいで、大変な事になったんだ!グライスが調子に乗ってジョーヌちゃんを怒らせた上に、適当に謝って逃げたんだよ。そうしたら、ジョーヌちゃん、怒って1人で帰っちゃってさ……。」


ヒミツは焦った声でそう言うと、グライス先生の腕からスルリと降りて僕の足元に寄って来た。


「ん……???それだけ?……なら転移できないから、夜にはなっちゃうだろうけど、ちゃんと帰ってくるよね?」


そう言って、ヒミツを抱き上げてやる。


「違うよ!……そうしたらね、騎士団のコーディネーターだった奴がジョーヌちゃんを対岸の街まで送ってったらしいんだ!」


「……なら、なおさら安心じゃないか。」


先生と喧嘩別れして1人で帰って来るのは心配と言えば心配だけど、騎士団の人が船着場まで送ってくれるなら、とても安心だよね?


「アーテルのバカっ!!!そいつ、ジョーヌちゃんに好意を寄せてるんだよ!!!打ち合わせの時も、ジョーヌちゃんをニコニコ見てさ、大好きですって顔に書いてあるくらいだったんだからね?……その人、アーテルと違って性格がすごく良い奴でさ、ある意味ジョーヌちゃんとお似合いなんだよ!……ねぇ、アーテル、このままじゃジョーヌちゃんを取られちゃうかも知れないよ。」


「……え。」


思わず、固まる。

……ジョーヌちゃんが取られてしまう???


「いや、いや。ジョーヌちゃんはそんな浮気者なタイプじゃないって。」


チラリとヴィオレッタを見ながらそう言うと、ヴィオレッタは目を伏せた。ジョーヌちゃんは、ヴィオレッタみたいに、優しくされたからって、フラフラと簡単に浮気しちゃうタイプじゃないよ……意外とガードも固いしさ、キス以上は僕のお誘いにだって、乗ってくれませんしね?


「でもさ……ジョーヌちゃんが、そいつを好きになったらどうするの?浮気はしなくても、卒業するまで待ってもらって、婚約破棄してから、その人と付き合うかもよ?!だって、2人ともそういう、ちょっと真面目なタイプだしさ。」


え。………ま、まさか……ね?


「ヒミツ?順調に外堀は埋まってるし……僕はさ、ジョーヌちゃんを簡単に逃すような馬鹿じゃないよ?!」


「バカだよ!アーテルはバカだって!……いくら外堀を埋めてもジョーヌちゃんの気持ちが無かったら、ジョーヌちゃんは、簡単に逃げちゃうんだよ!!!」


「……。」


……言われてみるとそうだ。アマレロ家は貴族のしがらみに囚われていない。ジョーヌちゃんが嫌がるなら、家族揃ってこの国から逃げてしまう……そんな家だった。


でも、外堀を埋めてく以外にどうしろと???


「……アーテルはさ、ちゃんとジョーヌちゃんに大好きだって言ってる?外堀を埋めるのに夢中で、自分の気持ちを伝え忘れたりしてないよね?」


ヒミツがズイッと顔を寄せる。

……猫の癖に、眉間に皺が寄っている。


「それは散々言ってるよ?……ジョーヌちゃんがお嫁さんになってくれなきゃ、僕は困った事になるしさ。」


「!!!……それ、本当に大丈夫?!……ジョーヌちゃんが大切だって、ちゃんと伝わってる?ただ単にお嫁さんに出来る子なら誰でも良かったとか、思われてないよね?!」


ヒミツの言葉に固まる。


……そういえば、冬休みの後にラランジャさんからも「ジョーヌはアーテル様が大切なのは自分だからじゃなくて、お嫁さんだからだって言ってましたよ?……あの、ジョーヌを安心させてあげて下さいね?」って釘を刺されたんだっけ……。


だからさ、ジョーヌちゃんが大切だって意味で「最愛」って言ってたんだけど……?

もちろん伝わってた……よ、ね?


「……あ、あのさ。僕的にはちゃんとジョーヌちゃんが大切だって表現してきたつもりだよ?……その、確かに条件ありきだったし、お嫁さんが欲しかったのも本当だけど、今はもうジョーヌちゃん以外をお嫁さんにするつもりなんか無いんだよ。……僕にとって、ジョーヌちゃんはヒミツと同じくらい特別だし大切な存在だって思ってるからね……?」


「あのさ、それを僕に言われてもね……?アーテルはさ、お嫁さん欲しさに、最初の頃にテキトーな事を言い過ぎたんじゃない?……ジョーヌちゃんがちゃんとアーテルの気持ちを分かってくれてるか、僕は疑わしいと思う。今みたいに、ちゃんと気持ちを真摯に伝えるべきだってば……!……とにかく、アーテル!……対岸の街で待ち伏せしよう?強力なライバルが出現中なんだってば!」


ヒミツは、焦った様に僕にそう言った。


「う、うーん。……でもさ、それヒミツの勘違いだったりしない?その……ジョーヌちゃんて、見た目は特別に可愛い訳でもないし、そうそうモテないと思うよ?」


チラチラとシーニーを見つめながら、ヒミツにそう言う。

だってさ、男の人に船着場まで送ってもらっただけだよね?さすがにヤキモチ妬きのシーニーみたいでカッコ悪くないか???


そもそもが、全部ヒミツの妄想だし。


2人が関係してた証拠を見つけて乗り込むならイザ知らず、ジョーヌちゃんに好意があるっぽい青年と一緒にいるだけななのに、大騒ぎして邪魔しに乗り込むとか……ちょっとどうかな?


僕が戸惑いながらそう言うと、ヴィオレッタがプププっと笑った。……全く以て令嬢の笑い方ではない。ヴィオレッタって時々こんな感じになるから、なんかホント不気味なんだよね。


「……アーテルって、ほんと馬鹿ね。……ジョーヌ・アマレロは、モテるに決まってるじゃない。多分、アーテルなんかより始末に悪いわよ。」


……え。


「……申し訳ないが、私もそう思います。」


珍しくシーニーがヴィオレッタに同意する。


一見、ヴィオレッタのイエスマンにしか見えないシーニーだけど、譲れない所は曲げないのがシーニーなのだ。だから、ヴィオレッタがどんなに騒いでも、ダメだったり同意出来ない事は、キッパリと否定するのだが……。


「どういう意味?……ジョーヌちゃんが僕より実は遊び人だとでも言いたい訳?」


思わずイラッとしてヴィオレッタを睨みつける。


「……はぁ?……そんな事、一言も言ってないわ。……あのね、じゃあ教えてあげる。ヴィオレッタ様のありがたいお言葉を謹んで拝聴しなさいね?……アーテル、貴方がいくらモテても、貴方に寄ってくるのは所詮はその容姿や身分に惹かれた人ばかりよ。つまりみーんなそこまで本気じゃないの。……だから、遊びまくってた割に、誰も追い縋ってはくれなかったのではなくて?……一方のジョーヌ・アマレロは……まあ、見た目はそこまで美人じゃないわ。でもブスでもなくて、いつもニコニコ機嫌が良くて優しい子よ?……ああいう子、男性は大好きだし可愛いって言うのよ。ね、シーニー?」


「ええ。そう思います。……先日、治療の魔術をアーテルの為に習いたいと言い出した時など……あまりにも健気で可愛らしく、正直、羨ましかったです。……ヴィオレッタに爪の垢を飲ませる程度には。」


……『飲ませる』?

『飲ませたい』の間違いだよね???


ヴィオレッタもシーニーの問題発言に気づいたのだろう、微妙に青ざめた顔でシーニーを唖然と見つめている。


「……シーニー???……最近、夜に淹れてくれてる『体に良いお茶』って……まさか……。」


「その話は置いておきましょう。話が逸れてしまいます。」


シーニーは口をパクパクさせているヴィオレッタを無視して、僕を見つめる。


「アーテル。ジョーヌさんに好感を持つ男性は、とても多いと思います。そして、そういう男性は、みなさん遊びを目的にはしていないと考えられます。……だから、その猫が不安になる気持ちは理解できますね。……貴方はきちんとジョーヌさんに、ジョーヌさんが大切だと伝えていないのですよね?ジョーヌさんは、貴方が今まで、お嫁さんになってくれる人なら誰でも良いんだという態度だったのを知ってますから、彼女は本当に彼女自身を愛してくれる方が現れたら、アーテルとの関係を見直すかも知れません……。」


「……僕……は……。」


僕は動揺して、言葉が出なくなっていた。

ヴィオレッタがコホンと咳払いをする。


「アーテル、いい?……貴方さ、どう言ってジョーヌ・アマレロを騙して婚約者にしたか知らないけど、あの子……もう貴方が居なくても学園でやってけるのよ。……成績だって、そう悪くないし、授業にだって充分について行ってるって、シーニーから聞いてるわ。……貴方と婚約していなくても、リュイやルージュと仲が良いから学園では誰も無理矢理に既成事実なんて作ったりは出来ないし、友人だってラランジャ・オランジェがいて、楽しそうに過ごしているわよね?……もう彼女、貴方に頼る必要なんて何も無いと思わない?」


……そうだ。


ジョーヌちゃんは、この1年間、学園でとても頑張ってて、勉強だけでなく友人や居場所をちゃんと作ってきてた。……ジョーヌちゃんは気付いてないかもだけど、もう僕の婚約者として、僕に守ってもらう必要なんて無くなってたんだ……。


つまり……在学中は婚約者だし、卒業までは時間ある……なんて呑気な事、いってられないんじゃないかな、これ?!?!


「ねえ、アーテル行こうよ。……ジョーヌちゃんのとこにさ。……グライスに転移させるから……ね?」


ヒミツが鼻先を寄せる。


僕は頷くと、グライス先生に対岸の街に転移させてくれるように頭を下げた。







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