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治療の魔術は、難しいのか?!

魔術の授業は、私達の班とアーテル君の班のみ選択も選択じゃない部分も、グライス先生に教えてもらう事になるらしかった。


私たち6人は魔術の授業になると、別の部屋で教えてもらう事になり、今日はその初日だ。


いつもの教室よりだいぶ狭い教室に、グライス先生がヒミツ君を連れて入ってくると、隣の席のルージュ様がゲッと呟いた。


「……どうしたんですか、ルージュ様。」


「ああ、あの猫。アーテルの猫だろ?」


「そうです。ヒミツ君です。……知ってるんですか?」


「知ってるも何も、アーテルが昔からよく連れ歩いてる猫型魔獣だからな。……俺、アイツ苦手なんだよ。可愛いのに絶対に撫でさせてくんねーし、口も悪ぃし……。はじめて書いた魔法陣とか魔力を流す時にドキドキすんだろ?間違ってたら爆発すっかも……って。」


「そう……ですね。」


はじめてじゃなくても、ビビりのジョーヌは何度も書いた魔法陣でもドキドキしてますよ。

はじめての魔法陣に関しては、ドキドキじゃすまなくて、バクバクもんですし???


「そうすると、あの猫が近づいてきて……『どっかーーーん!!!』って叫ぶんだ。……心臓に悪いよな???」


「悪いですね。……私、ショック死するかも。」


「だろ???で、驚くと、あの猫がケタケタ笑ってるんだ。『ルージュって図体デカにのに、ココロはちっちゃいんだね?』って。……アーテルの煽りキャラはあの猫のせいだって、俺は確信してる。」


……それは合ってる、かな。

アーテル君はかなりヒミツ君から影響されて、あの性格になったっぽいし……。


私たちがコソコソ話をしていると、グライス先生が教壇から咳払いをした。


「……今日から君たちの魔術の授業を担当する事になったグライスだ。……まあ、みんな顔見知りだから紹介するまでも無いが、一応な。……こっちは俺のアシスタントの猫型魔獣のヒミツだ。ま、こっちもみんな知ってるだろうが、アーテルの猫で今は俺が借りてる。実は、ヒミツには魔力を回復させる力がある事がわかったんだ。ヒミツは抱いているだけで、普通の3倍の速さで魔力を回復させる……だからヒミツは大切なアシスタントだ。ペットではないので、軽んじる事の無いように。」


グライス先生は、みんなにビシリとそう宣言した。

ヒミツ君は教壇の上に乗ると、ふんぞりかえって胸を張る。


……学園で一緒に暮らせる事になったヒミツ君なのだが、基本はグライス先生の部屋に住むそうだ。一緒に居て、先生の魔力を回復させるのが仕事だからなんだって。……ただ、土日はお休みなので、アーテル君か私の部屋に泊まりに来ると言っていた。


「マジか……。」


ルージュ様はそう呟くと机に突っ伏した。


「ど、どうしたんですか?ルージュ様???」


突っ伏したまま、顔を上げずにボソボソと呟く。


「俺のファーストキスはアーテルなんだ。……魔力切れで動けなくなって、分けてもらった。……すごい不本意だったが、動けないんじゃ困るから、甘んじて受け入れた。……あの時、アーテルはあのネコを抱いてたんだ。俺が抱かせて貰えたら、憧れのファーストキスをアーテルに捧げずに済んだんだのかも……。……あのネコが憎い……。」


……。


そ、それはお気の毒に……。


「それでだ。魔術の選択授業なんだが、シーニーとリュイは適性を見てやるんで、1人づつ前に来い。今までは好みで選ばせていたが、実は適性がある事が分かったんだ。……ジョーヌは治療希望だが、見ておいても損はないから、お前もだ。……ヴァイス、アーテル、ルージュの適性は学園に入学する前に調べていて、ヴァイスとアーテルが攻撃、ルージュは補助に適性がある。……まぁ、適性が無くても、どうしてもと希望するなら教えてやるが、それなりにしかならんというつもりで、選択するんだな。」


ヴァイス先生に言われ、私たち3人は前に出た。


……適性ってどうやって判断するんだろう???


「よし、シーニーからいこう。」


先生はそう言うとシーニー様にカードの束をを差し出す。


「好きなのを引け。」


……え。

適性判断って、そんな感じ???


シーニー様がカードを引くと、それには『攻撃・補助共に適性なし』と書かれていた。


「……シーニー。お前には残念ながら、特に適性は無いらしいな。……誰でも適性のある治療の魔術の選択をお勧めするよ。」


グライス先生にそう言われ、さすがにシーニー様もカチンと来たのか、ムッとした顔でグライス先生に反論した。


「先生、申し訳ないのですか、こんなカードゲームみたいな方法では、納得できかねます!ヴァイス達を判定した時は、色々な魔術を使い時間をかけて判定したと聞きましたが!!!」


「あー。あれさ、大変なんだわ。すげー手間かかるしな。……だから研究所に入って、このカードを開発したんだぞ?これには凄い魔術がいっぱい使われてて、自分の適性が書かれたカードを選びたくなるんだ。的中率はほぼ100%。だだし妊婦には使えない。腹の中の子供の適性とゴチャゴチャになるらしくってな……。そのへんまだ研究の余地があるんだよなぁ……。魔力消費量も多いから、俺ぐらいしか使えねーし。クラスの他の奴らは適性を知らないまま勉強するんだから、ありがたく思え。」


……へえええ。

ただのカードって思ったけど、すごいんだ、それ!!!


シーニー様は渋い顔をして「……なら治療を極めます。」と無愛想に応えた。


「次はリュイだ。」


「……ドキドキします。僕も『適性なし』かも……。」


リュイ様は気弱そうにそう言って沢山悩んで1枚のカードを選んだ。……そこには『補助に適性あり。攻撃は適性なし。』と書かれていた。


「……じゃあ、僕は補助にします。」


「ああ、それが良いだろーな。最後にジョーヌだ。」


私もドキドキしながら1枚カードを選ぶ……。


カードには『攻撃、補助、どちらも少し適性あり。』と書かれていた。


「ジョーヌ、お前はどっちもあるが、すごく適性があるって訳じゃ無いみたいだな。……ま、希望どおり治療で良いんじゃねーか?……おい、せっかくだからヴァイスたちもカード式判定もやってみるか?」


先生はそう言うと、王子様、アーテル君、ルージュ様にもカードを引かせた。


ヴァイス様は『攻撃に適性あり。補助は少し適性あり。』と書かれていて、アーテル君は『攻撃・補助どちらも適性あり。』ルージュ様は『補助に適性あり。攻撃は少し適性あり。』と書かれていた。


その結果……。


攻撃・・・アーテル君と王子様

補助・・・ルージュ様とリュイ様

治療・・・私とシーニー様


……って感じに分かれる事になったのだ。




◇◇◇




「じゃあ、それぞれテキストを渡すから、まずは最初の奴を家で学習してこい。今日は以上だ。」


グライス先生がそう言って退出すると、散々、癖が強い、難しいと言われいる治療の教本をおそるおそる開いてみた。


……あ、あれ???


私は教本を開くと首を傾げた。


「どうしましたか、ジョーヌさん?」


同じ選択をした同士が隣の方が教え易いとの事で、私の隣の席になったシーニー様が不思議そうに私に聞いてきた。


……シーニー様とお話しするのって、はじめてかも。


「あ、あの。……散々、『治療の魔術は癖がすごい。』って聞いていたんですが、どこが……?って感じだったので。」


私がそう答えるとシーニー様は教本をペラペラとめくった。


「えっと……。癖がすごいのですが……?」


「え……?」


「これなんて、頭が混乱しますよね……?」


シーニー様はそう言うと、数ページ先に書かれた魔法陣を見つめて渋い顔をする。


……そ、そうなの???

私はシーニー様が混乱すると言う魔法陣を眺めてみたが……やっぱり良く分からない。


「どうしたの、ジョーヌちゃん、シーニー。」


帰り支度を終えたアーテル君が、私たちの元にやって来て尋ねた。後ろにはシーニー様と帰る気らしい王子様が顰めっ面で立っている。


「あ、あのね。シーニー様がこの魔法陣は混乱するって言うの。」


私がそのページをアーテル君に見せると、王子様も興味があるのか覗き込んだ。


「……う、うわぁ。……ひどいね、これ。」

「ああ。やはり治療の魔術は癖があるな。」


2人はそう言って、同情するように私たちを見つめた。


「……あ、あの。そんなにソレって、変なの?複雑さは1年生の最後にやったのの方が格段上な気がするんだけど……?癖って何???」


私はアーテル君の袖口を掴んで聞いてみる。

……そう。イマイチ魔術が分かっていない私には、この教本を見ても、そうなんだ……?って感想しか持てなかったんだけど???


アーテル君は驚いた顔で私を見つめた後に、少し考えると言った。


「そっか!ジョーヌちゃんは変な予備知識が無いから、変だと思わないんだ?!……これはね、古代語の使い方がかなり変だし、陣も普通はこんな書き方はしないんだ。……治療の魔法は成り立ちが古いから、さらに古い古代語を使ってるみたいだし、陣形に関しては、物凄くヘンテコな魔法陣になってるんだ。……◯と×が逆って言えばいいのかな?肯定と否定が普通とは逆の使い方をされてるんだ。×が決定……みたいなね?……とにかく、慣れた奴らから見ると変だし戸惑う感じなんだよ。」


「……シーニー、苦労しそうだな。」


王子様は困った顔をしているシーニー様にそう声をかけた。


「ええ。……でもやるしかありませんよね。私には攻撃にも補助にも適性がありませんし。仕方ないです。……お待たせしました。ヴァイス、寮へ戻りましょう。」


シーニー様は嫌そうにそう言うと、立ち上がる。


……。


「あ、あの!シーニー様!」


私はどうしてもシーニー様に一言いいたくて、思い切って声をかけた。


「どうしました?ジョーヌさん。」


「あの!……大変かもですけど、治療の魔術はすごく役に立つと思います!そ、その。攻撃とか補助なんて、日々の生活ではそう使いませんし……。治療の魔術は王子様が怪我したり、ヴィオレッタ様が痛がっている時に治してあげたり、癒やしてさしあげたりもできますよ?……た、大変ですけど、大切な人の為にもなるんだって思って、一緒に頑張りませんか?!……私はそのつもりで、これを習うつもりでした!」


言うだけいうと、余計な事を言ってしまったかも……って内心焦ってきてしまった。


……でも、すごく嫌そうにしてるシーニー様が少し気になって。……だって、庶民はみんな高価だけど、サッと治る治療の魔術に憧れているから……。お金があれば、お薬より魔術の方が良いのは本当だし、魔力のある庶民もいるけど、特殊すぎる治療の魔術はさすがに出来ない。……つまり、治療の魔術が学べるって、ありがたい事なんだよ!!!


「……そうですね。ジョーヌさん、ありがとうございます。そのお話しを聞いて、私も頑張る気持ちが湧いてきました。……それにしても、貴女は本当にアーテルが大好きなのですね。……アーテルの為に治療の魔術を学ぶなど……。私もヴィオレッタやヴァイスの為に頑張ろうと思わされました。」


シーニー様はそう言うとニッコリと微笑んだ。


は……い……???


「ああ。ルージュ達からは聞いていたが、本当にジョーヌはアーテルが大好きなのだな。……なんだか、やってられん。息をする様にノロケるな……。『大切な人の為』って、つまりアーテルの為って事だろう?……まあ、アーテルは何度も暗殺されかけているから、もしもに備えたいって気持ちも分かるが……。バカバカしい、戻ろうシーニー。」


王子様は呆れた顔でそう言って、シーニー様と一緒に教室から出て行ってしまった。


え……。

な、なんで???……なんで、そうなっちゃうの???


私は今ね、一般論をさ……?!


「ジョーヌちゃん……ありがとう……。僕の為にも頑張ってくれるつもりだったんだ。……この気持ち……なんて表現したらいいか分からない。すごく……嬉しい……!!!」


アーテル君は嬉しそうにそう言うと、私をヒシッと抱きしめた。


……もはや、違いますなんて言えないですよね?


てかさ、周りの人たちも無意識に外堀を埋めてくるって、なんなの、これ?!?!







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