2年生になった私たちと、新たな出会い?!
私たちは2年生となり、新たに学園生活が始まった。
……とは言え、そもそもが、ひとクラスしかないし、班も寮のお部屋も変わらない。教室は変わったけど、席も同じで、本格的に授業でも始まれば別なんだろーけど、特に代わり映えしない進級だった。
「なんだか……進級した感があまりないね?」
教室を見渡し、私が呟くとアーテル君が笑った。
「まあね。……でもほら、新入生も入ってきたし、僕たち先輩になったんだよね?」
「う、うーん……。それはそうだけど……。」
学園生活は割にフラットだけど、貴族には身分ってものがあるので、あまり先輩とか後輩って感じにはならない。……まして、この学年は王子様とその側近や婚約者がいるので、1年生の頃から2、3年生からは後輩って感じではなく、丁重に扱われている感があったからなぁ……。
「ルージュは新1年生に可愛い子がいるかも!って騒いで見にいったみたいだよ?」
「……ラランジャいるのに、何してんだろ、ルージュ様。」
本格的にダメ旦那じゃないですか?!
「でも、ま、新1年生とはいえ、社交界では顔見知りだから……ただ騒ぎたいんじゃないかな?リュイも一緒に見に行ってたし、もしかしたら、ジョーヌちゃんみたいな新キャラがいるかも?ってワクワクしてたのかもね。」
「新キャラ……。私みたいな子って、割といるの?」
「居ないよ!……あそこまでガン無視を決め込むアマレロ男爵が珍しいんだよ?!普通は貴族になったら喜んでコネを作りに社交界に飛び込んでくるんだ……。」
「あー……。我が家はさ、その、庶民向けのお店だから。」
「それでもさ、高位の貴族に顔に売りたいって奴は多いんだよ。色々と融通してもらえたりするしね?」
なるほど……。そういうモンなんだ???
「あー。……でもさ、新任の魔術の先生が来るらしいね?ちょっとワクワクしない?」
「へえー……。そうなんだ!……でも、魔術の先生って、みんなお爺さんばかりのイメージだよ?新任っていっても、お爺さんなんじゃないかなぁ?」
現在教えてくれている先生方を思い浮かべる。……若い先生でも、みんな60歳は超えてそうなんだよね?魔術の先生って、何故か仙人とか魔法使いって感じの方ばかりなんだよなぁ……。
「……。言われてみるとそうかも。なんかちょっとワクワクした僕が間違ってたかも?!……新任の先生が若いとは限らないよね……。……そろそろ寮に戻ろうか?今日は課題も無いし、部屋でのんびりしない?」
「いいね!そうしたら、テラスでお茶にしない?私ね、アマレロ家からアーテル君にってカップケーキを持ってきてるんだよ!」
「うわ!それは楽しみだね!」
◇◇◇
寮に戻り着替えてから、アーテル君とテラスでのんびりお茶を楽しんでいると、突然何が吹っ飛んできて、座っているアーテル君のお腹にドンと直撃した。
……え???
あまりの事に、私もアーテル君もポカンと固まる。
「アーテル!!!ジョーヌちゃん、僕、来たよ!!!」
そう叫ぶ、その何かをアーテル君は抱き上げた。
「……え???……ヒミツ???」
そう。
吹っ飛んできたのはヒミツ君だったのだ。
「今日、学園に着いてさ、アーテル達をを探してウロウロしてたんだよ、僕!そうしたら黄色い頭が見えて……あ!ジョーヌちゃんだ!って気付いて飛んできたんだ!!!」
ヒミツ君は嬉しそうにそう言いながら、アーテル君に頭を擦り付けた。
「ん?……つまりさ、新任の先生って……グライス先生なの?」
アーテル君が驚いて尋ねると、ヒミツ君は目をキラキラさせる。
「そうだよ!大正解!よく分かったね?」
分かるも何も、そもそもヒミツ君はグライスさんが先生をやるのに、魔力回復用に雇われたと言っていた。私たちはてっきり、学園ではなくて現在お勤めの魔術研究所の方で講師をするのかと思っていたけど、『先生』って単純に学園の先生だったのか……ってだけだと思うけど。
「あのさ、ヒミツ?壮行会までさせといて、ヒミツはこの事を知ってたの?今年度から僕らと一緒に、学園で暮らすってのをさ。」
「うん!……でも、言ったら壮行会してくれなかっただろ?僕さ、豪華カニ・カニ・ディナーを食べたかったし、ちょっとウルッとくるお別れとかもしてみたかったんだよね?……ね、ビックリした?」
ヒミツ君の壮行会は、ヒミツ君のリクエストでカニ三昧だった。
グルメなヒミツ君の為に、色々な所から取り寄せて用意したんだってアーテル君は言ってて、沢山の種類のカニが並び、それはそれは気合を入れたものだった。アーテル君は殆ど食べずにずっとヒミツ君のカニを剥いてあげていたし、その姿は本当に甲斐甲斐しいものだった。……私ね、タカアシガニとかマッドクラブってはじめて食べたよ……。
ヒミツ君との別れも、胸が締め付けられる様だった。
……。
なのに、……なんでしょう、これ???
アーテル君が微妙な顔で私を見つめる。……分かります、その気持ち。嬉しいような、ちゃっかりしてやられたような……ね?
「……あ!そうしたら、グライス先生にも、ご挨拶しておきたいな。……ヒミツ、グライス先生はどちらに?」
「……いるぞ?」
男の人の声がして振り返ると、グライスさんがテラスの柵に腰かけて、楽しげにこちらを見ていた。
「グライス先生!……お久しぶりです。」
「よ、アーテル、久しぶり!……あとジョーヌもな!」
グライスさん改めグライス先生はそう言うと片手を上げた。
「お久しぶりです。……今年から学園で先生をされるんですか?」
「ま、そーいう事だ。……ほら、2年からは魔術が一部選択になるんだけど、ヴァイスがいるだろ?だから例年みたく好きに選べって訳にいかねーんだよ。奴は仮にも将来の王様だから、いくら安全な学園だとはいえ、できるだけヴァイスの周囲は側近で固めときてーんだと……。」
「……そう、なんですね?」
「ああ。学園で、変な虫が付かないように周りを固めとくってのも、側近の大事な役割だからな。……で、だ。ヴァイスがいる1班と側近らがいる2班は俺が受け持つって事になったんだよ。……ま、俺は天才だから、お前らが何を選んでも、教えられちゃうし、どれが合うのか、適正も見てやれるしな。」
え…???
アーテル君も初耳だったらしく、お互いに顔を見合わせる。
「つまり……グライス先生が、選択が違っても、1班と2班は全部まとめて、教える事になると……?」
「そういう事だな。……ところでジョーヌ、お前2班なのな。すげービビったぞ。お前、魔力が多かったんだな……。」
グライス先生は感心したように私を眺める。
「どうやらそうみたいで、自分でもビックリです。……ところで、選択できる魔術って、何があるんですか?2年生になったら、治療の魔術が選択できるのは知ってたんですけど?」
私は、他に何があるのか知らなかったので、この際、聞いておこうと思って聞いてみる事にした。
「ん。……そうだね、僕、ちゃんと説明してなかったかも。……えっとね、選択できるのは治療の他に、補助っていって自分や他の人の肉体強化なんかができる魔術と、対魔物の攻撃魔術の3つになるんだ。」
アーテル君がサッと説明してくれる。
「ジョーヌ、お前は何をやりたんだ?」
「私、治療を習いたいって思ってたんですけど……。あの……適性がいるんですか?さっき『適性を見てやれる』って言ってましたよね?難しくて取得できる人は少ないって聞いてはいるのですけど……。」
「あ、ジョーヌは治療希望か!……それなら、そんな心配するな。治療に関しては、適正はみんな持ってるんだ。ただ術式が、すげー独特で癖が強いし、コントロールがモノを言うから、取得できる奴が少ないだけなんだ。ま、これに関しては、適性が無いってより頑張りが足らないってだけなんだ。」
へ???……そうなんだ???
治療とかって、絵本の世界では聖女様とか聖人様って呼ばれる特殊な人しか使えないイメージだけど?……あ、でも寄付って言ってすごい金額をぼったくる貴族が聖人様には見えないか……。
私が首を傾げて考えていると、グライス先生が教えてくれた。
「あのな。痛いときとか無意識に手でそこを押さえたりするだろ?……あれな、あんなんでも治療の魔術の仲間なんだぞ?押さえてると、ちょっと楽な気がするだろ?あの発展形が、治療の魔術になるって訳だ。だから、大概の奴は治療に適性があるんだよ。」
「へえええ……。」
「むしろ、攻撃と補助に適性がいるんだ。アーテル・ヴァイス・ルージュは俺が教えてたから適性は調べてある。……アーテルには攻撃の適性があるんだ。」
「じゃあ、アーテル君は攻撃を選択するの?」
グライス先生がそう言うのでアーテル君に尋ねると、アーテル君は興味無さげに頷いた。
「うん。適性があるって言われたし、そうするつもり。別にどれでもいいしね。」
……こういう所なんだよね。
アーテル君って、どれだって極められそうなのに、どれにも関心が薄いんだよね。
うーん……。
「あ!!!そうだ!忘れてた!ジョーヌ、騎士団の祭りに出るんだろ?……今回は打ち合わせして、更に盛り上げよーな?!」
考え込んでいると、いきなり、グライス先生に騎士団のお祭りの話を振られ、ぽかんとグライス先生を見つめた。
……えーっと……???
あ!
あれか、『キーシー君VSジョーヌのエキシビジョンマッチ』か!!!
「……え?!……ジョーヌちゃん、騎士団のお祭りに出るの?!」
アーテル君が驚いて私の顔を覗き込む。
「う、うん。キーシー君とお祭りで試合したら評価点を加算してくれるって言われてさ……。」
……評価点欲しさに、やります!!!って言ったものの、アーテル君にはまだその話はしていなかったんでした。……前回同様、言いにくくて……。
「前、ジョーヌちゃんは、やめとくっと言ってなかった?……公爵家の奥様がお笑いキャラはちょっとね……って話だったよね???」
アーテル君は少しムッとした顔でそう言った。
う、うん。……そうなんだけどさぁ。やっぱり私ね、剣術は才能はカケラも無いんだよ。どう頑張っても無理っぽいの。下手すぎて、努力とかでどうにか出来るってレベルじゃないんだって……!だからさ、成績アップの為にはさ、そうするしかないんだよ……。
「これは、苦渋の選択なんだよ?!?!……だから、そんな顔しないでよ、アーテル君!!!」
私が悲痛な声を上げると、グライス先生が笑いながら間に入ってくれた。
「まあまあ、アーテル、いーんじゃねえか?……キーシー君の中身のである俺も公爵様なんだぞ?……つまり、未来の公爵家の嫁が公爵の俺と戦うってのはアリだろ???……いわば公爵家の役割みたいなもんだな……。」
「!!!……確かに……!!!」
……え???
だけど、アーテル君は納得した様な顔で頷いている。
いや……???……それ、どっちもおかしいと思うよ???
「……グライス先生。では、僕のジョーヌちゃんを貸しますが、くれぐれも前みたいに怪我させないで下さいね?」
アーテル君は膝で丸まって寝てしまっているヒミツ君を優しく撫でながらそう言った。
……私達の会話に興味が無かったのだろうヒミツ君は、さっきから寝ている。
「ま、怪我させても、チャチャっと治してやるって!……今の俺にはヒミツもいるしな!」
「ダメです!!絶対にダメです!!!……治したらいいって問題じゃないんです!ジョーヌちゃんを、大切に扱って下さい!!!……もちろんヒミツもですが!両方とも、僕の最愛ですので、お忘れなきよう、お願いします!」
そう言って、アーテル君はグライス先生を鋭く睨んだ。
今日も今日とて、アーテル節は健在なのだ……。
ほんともう……こういうの、その気になっちゃうから止めて欲しい……。あ、アーテル君的にはその気にさせたいのか……。お嫁さん、欲しいんだもんね……。
……。
グライス先生は笑って、「はいはい、分かったよ……。アーテルの最愛ですからね、どっちも大切に扱いますよ……。」って苦笑いしながら頭を掻いた。




